本の評・紹介ページ


0042 本紹介



『 非 戦 』

坂本龍一 + sustainability for peace 監修
幻冬舎 発行


 昨年末、『非戦』という本が出版されました。この本は、昨年9月に起きた同時多発テロ以降、ミュージシャンの坂本龍一さんがメーリングリストを通じて知り合った仲間と共にまとめたものです。
 ロックバンド・グレイのTAKUROや作家の村上龍、アメリカ議会でたった一人武力行使決議に反対したバーバラ・リー 、そしてニューヨークの世界貿易センタービルで行方不明になった方の家族の手紙まで、人種も国籍も立場も違う様々な人々の論考や意見がこの本には収められています。それぞれの主張や信条は様々ですが、共通しているのは、「人を殺すな」「生き物を自分の利益のために殺すな」「子供達の生きる権利を奪うな」という思いです。

 私はこの思いに、「すべての者は暴力におびえる。すべての生きものにとって生命は愛しい。己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ」との『法句経』のお釈迦様のお言葉を思いだし、大変共感を覚えました。
 そして、もう一つ共感を覚えた点があります。それは、この本が出版された経緯です。

 坂本さんは出版の動機を「あとがきに」こう述べています。「事件以降、大手のメディアの流す報道は、一部質の高い論評などもあったが、多くはアメリカ寄りの一方的なものが多いと感じられ、残念ながらそこからはテロと戦争の真実が見えてこなかった」。そこで「友人達と、お互いに重要だと思われる論考や記事を発見しては、メールで送り合う」ことを始め、いつしか「一般のメディアではあまり目にすることのない、こうした声を少しでもたくさんの人に読んでもらいたいとの思いから」この本を出版したと。 

 このことは、非常に意味のあることではないでしょうか。多様な意見・主張を発表し、またそれを知ることができるというのは、とても大事なことです。テロ事件以降、アメリカでは「報復」という言葉を口にするブッシュ大統領が驚異的な支持率を集め、「武力行使」を批判することができないような状態さえありました。
 その顕著な例が、この本にも収められれている反戦を訴えた女子高生が停学処分を受け、裁判所もその処分を支持した事件です。いくら「戦争状態 」とはいえ、「自由」の国アメリカがこのようになるとは思いもよりませんでした。

 50数年前の日本もそうだったのでしょうが、ひとたび「戦争状態」になってしまえば、言論の自由が制限され、多様な意見を主張できなくなる怖さを改めて見せつけられた思いでした。と同時に、だからこそ多様な意見や考えを主張し、またそれを知ることができることを日頃から大切にしたいと思います。多様性を認め合える社会を目指すことが、「平和」にとって重要だと思うからです。
 皆さんもぜひ一度この本をお読みいただき、一連のテロとそれへの報復攻撃とはなんだったのか、そして「平和」とは何なのかを改めて考えていただきたいと思います。そして、「非戦」の思いが一人でも多くの人に広がることを願っています。

柘植 芳秀
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