『リアル』 井上雄彦(集英社)
『リアル』が出ると、年の終りの近さを知る。毎年一冊秋に発行されて現在5巻目。 車椅子バスケットに打ち込む青年たちを描いたこの作品、年一冊しか出ないのも納得できる濃密さ。日本が世界に誇るマンガ芸術の最高峰の一作。読んで驚け。そして泣け。
『死ぬのは、こわい?』 徳永 進(理論社)
理論社の「よりみちパンセ」シリーズ最新刊。ホスピス医・徳永氏と中学二年の夢二との対話。 「いのちの尊さ」を教えようという声が高まっているけど、それは死を教えることとイコールだという認識はまだ少ない。 そして、死を、いのちを教えることとは特別なことじゃない、生活を営んでいる人とちゃんと向き合うことなんだと徳永氏は考えている。 「にんげんは なにかをしなくてはいけないのか はなは ただ さいているだけなのに それだけで いきているのに」
『おぼうさん、はじめました』 松本圭介(ダイヤモンド社)
神谷町光明寺の執事、松本圭介さんのウェブ掲載の文章が本になりました。 飛び込みで僧侶になってからこの業界にとまどいながらも続く伝道の日々。 松本氏のことを「テンション低くて絶対盛り上がんないよ」(by光明寺のお嬢さん方)とお感じの諸兄、クールな外観と裏腹の熱い思いに驚いてください。 仏教、というより、寺環境の可能性のひとつがここにあります。
『儀礼奉還』 佐々木正典(永田文昌堂)
今の30代以下の僧侶は『伝道院紀要29号』の衝撃を知らないんですね。 「ボストモダンの教学」を掲げ、現場と教学の乖離を厳しく挑発的に指摘して、教団内に波紋を呼んだ同号の書き手の一人が佐々木氏でした。 当時それなりに論争はありながらも結局それが発展的に進まなかったのは、どうも双方の感情的対立に流れてしまったからに見えますが、今日の一般の顕著な儀式離れを見た時に、今こそ冷静にしかも緊急に、教学における儀式の位置付けを進めるべきと思えます。佐々木氏の新著はその議論の端緒を開いてくれます。
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