邦題から受けるイメージとは違い、本書はファストフード業界に代表される“民間企業”の本音と実体を丹念な取材をもとに浮き彫りとしたドキュメンタリーです。この度、原題のまま映画化もされました。
折しも日本は「官から民へ」の掛け声のもと、郵政民営化、社会保険庁も民営化が決定しています。果たして民間企業が全てにおいて素晴らしいものなのでしょうか?
民間企業は営利企業です。つまり「利益が出ないものは意味がない=お金儲けして何が悪い」ということです。それが悪いとは言えません。そういう仕組みで資本主義社会は成り立ち、我々はそれを選択し、豊かさを享受しているのですから。しかしその儲け主義が行き着く先には恐怖を覚えます。
マクドナルド操業から始まった“極端な効率化”の流れ。その徹底したコスト管理は人件費と材料費の削減に辿り着きます。そして徹底したロビー活動による政界への影響力を駆使して、自らに不利となる法律を作らせないということまでするのです。
人件費削減のためには、技能を持つが賃金の高くなる熟練工を排除するためのシステムを作り上げました。それは分業化とマニュアル化です。流入する英語すら分からない外国人労働者たちやアルバイトのティーンエイジャーを基準以下の安い賃金で使い捨てる。そして労働組合を絶対に作らせない戦略の数々。
材料費削減のためには、一括仕入れにより納入業者へ圧力をかけ。業者はコストカットのために、低所得労働者を使い捨てる。そして品質確保のためのコストはかけない体質。当たり前の食品偽装の数々。
「牛に与えられる飼料、飼育場の過密状態、食肉処理場の非衛生的環境、生産ラインの過度に速いスピード、訓練をあまり受けていない労働者たち、きびしい政府監督の欠如」(本書より)。問題点だらけです。詳しい実体は本書をご覧下さい。きっとアメリカ産牛肉を口に出来なくなります。
結局市民は高い代償を払わされます。低所得層による治安の悪化、個人農家の崩壊、成長ホルモンの使用等による食品安全性への不安、O157や狂牛病に代表される健康被害等。
日本政府と企業は、明らかにアメリカ型の企業形態を目指しています。派遣という雇用形態への変化、それによる所得の二極分化、外国人労働者の低賃金での酷使、コストカットによる下請け業者の倒産、食品安全性の偽装など。
仏教と資本主義は馴染まないということを痛感しますし、「アメリカ型」資本主義はもう限界なのではないかと唸らせる本です。
<目次>
はじめに
第1章 創始者たち
スピーディーサービス/模倣者たち/成功のしるし
第2章 信頼に足る友
マクドナルドとディスニー/よりよい生活という幻想/子どもの 顧客をねらえ /完璧な相乗効果/ブランドの精神/マック先生 とコカコーラ人
第3章 効率優先の代償
スペースマウンテン/生産量第一主義/おだて−安上がりの秘訣 /嘘発見器/無気力な若者が増えていく/内部犯罪/楽しくやろ う
第4章 フランチャイズという名の甘い誘惑
新たな信仰への献身/政府融資による自由企業/プエブロの外の 世界
第5章 フライドポテトはなぜうまい
孤立農家の過ち/記憶に刻まれる風味/100万本のフライドポ テト
第6章 専属契約が破壊したもの
専属契約の圧力/ミスター・マクドナルドの胸/市場の支配
/裕福な隣人という脅威/断ち切られた絆
第7章 巨大な機械の歯車
IBP革命/札束の袋/離職率100パーセント/芳しき匂い
第8章 最も危険な職業
よく切れるナイフ/最もむごい仕事/見つかるな/腕一本の値段
/ケニーの場合
紹介者:菅原 智之
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