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108 坊守等に関する改正法規について


 
  
第273回定期宗会において議決された「宗法中一部変更」に関連して、この度の第274回定期宗会において「寺族規定宗則」「坊守式規定宗則」「寺院規定の一部を変更する宗則」が改定されました 。
 先の宗法改定の要旨は「法規上、住職は男女ともに就任できることに鑑み、坊守も各寺院の実態にあわせて、男女いずれもが就任できるようにする」ということであり、その坊守の就任範囲、その他の寺族の選任に関する規定については、施行細則として宗則又は宗達に委ねるというものでありました。この度の宗則改定はこのことに基づくものであります。


<寺族規程宗則>
(坊守)
第4条 坊守とは、前条の規定による寺族のうち、住職の配偶者及び住職であった者の配 偶者又は住職が適当と認めた20歳以上の寺族で、寺院備付の坊守名簿に登録された者をいう。
2 坊守は、住職を補佐し、教化の任にあたる。
3 坊守は、別に定めるところにより、坊守式を受けなければならない。この場合において、所定の研修を経なければ、坊守式を受けることができない。
(寺族代表者)
第5条 寺院に、寺族代表者1人を置き、前条の坊守又は20歳以上の寺族のうちから、責任役員の過半数の同意を得て選定する。
1 前項の規定により、寺族代表者を選定したときは、住職又は住職代務は総局に届け出なければならない
(以下省略)



委員会の基本姿勢とは 
 上記のように改定されたのが坊守及び寺族代表者の条項である。これら坊守等に関する一連の宗法、宗規、宗則の見直しを議論してきた「法制審議会」並びに「坊守に関する専門委員会」において、議論の根底に終始一貫していたものは「女性の権利獲得を主旨とするものでなく‥‥坊守の資質が向上することによって、それに見合う職務をになっていくべきもの」という考えであり、「坊守は男女いずれもが就任」と言いながらも、大勢は坊守は女性、それも住職の妻であるという暗黙の了解がなされていたということである。すなわち、ここで言う「坊守の資質」とは、あくまでも女性であり、住職の妻の資質を指しているのである。更に言い換えれば、今までの坊守、即ち住職の妻、又は住職であった者の妻たち・女性には、「坊守」としての資質が備わっていないという視点であり、資質向上を目標の第一にあげ、坊守式研修と坊守式の整備強化が急務とあくまでも女性の教化が主眼であったと読みとれる。
 宗法の改定要旨「男女いずれもが就任」との文言は、男女共同参画が内実ともに実践の如く聞こえるが、委員の意識から察すると、それは教化者意識の男性側からの一方的措置にすぎないと言われても仕方がないことではないだろうか。確かに、女性自身も大いに反省すべきではあるが、女性が自省し、努力してエンパワメントを目指すのと、男性が女性にそれをまず求めることは同一であってはならない。


坊守の資質は住職の資質
 この度の改定に伴い、先ず第一に、坊守の資質を問題に上げたと言うことの問題点はどこにあるのだろうか。問題にした諸氏のほとんどは男性住職であると聞こえている。宗法第16条(住職の任務)には「住職は、事務を主宰し、教義の宣布、法要儀式の執行および門徒の教化育成につとめ、所属する僧侶および寺族の教導に当たらなければならない」とある。改めて言うまでもなく、坊守は寺族であり、坊守の教導の責務は住職が担っている。坊守の資質を問うたならば、住職自らの教導、資質が問われなければならない。即ち、坊守の資質は住職の資質とも言えよう。にも拘わらず、過去の責任を一方的に女性のみに押しつけ、その位置づけを後退させたことは、今後に問題を残すのではないだろうか。女性の資質を一方的に言及する前に、今一度、男性住職は自らの責務を問い直す必要があるのではなかろうか。


坊守≠寺族代表者 
 更に、寺族代表者の選任と登録も改定され、宗則に、寺族代表者の職務を明確に規定するとともに、「寺族代表者の責務にも照らし、これを選任したときは、総局へ届け出なければならない」旨が規定された。このことは寺族代表者の責務が、恒常的なものでないにしても、如何に重要な職責であるかを認めたからであろう。従前の規程では、寺族代表者には、坊守が就任し、この任を担っていたのであり(坊守が複数の時はその者により協議し、また坊守が欠けたとき、又は特別の事由があるときは成年以上の寺族の互選)、職制として認められる唯一の権限でもあった。しかし、改定宗則では、寺族代表者は「坊守又は20歳以上の寺族のうちから、責任役員の過半数の同意を得て選定する」に変更となり、その決定権は責任役員に委ねられることになったのである。と言うことは、寺族並びに坊守名簿への登録、抹消は住職又は住職代務が行うと規定されている(寺族規程第6条)ことも絡めて考えるに、住職の判断に大きく左右されるのであって、権限の一者集中という問題を残すことにならないだろうか。
 従前の法規では、住職に権限に左右されることなく、坊守が寺族代表者に就任した。このことは、おそらく「寺族保護」(住職であった者の家族)としての役割も果たしていたと言えるであろう。たとえ、寺族代表者は、臨時的な任であり、その権限は限られていたとしても、臨時的なときだからこそ、その権限が大きな役割を果たし、寺院や寺族を支えてきたと言えよう。住職の配偶者である坊守が優先的に就任し、その任を担うことにより、教化活動も寺院運営もスムーズになり、より効果的にその力が発揮されるのではなかろうか。 


危惧されるものは
 我が宗門において、従前より坊守は「教化の任」が規定されていながらも、男性は教化者、女性は被教化者として位置づけられてきた。しかし、今日の社会状況をも鑑み、更に男女共同参画に根ざした御同朋の教団を目指すのであれば、坊守、寺族女性が求めてきた「当然そうあるべきものとして権利」を認め、法的に位置づけるべきであろう。
 この度の一連の法規改定が、住職の権限強化であり、男性主権の従来の延長でしかなく、男女が共同に参画する基盤としての女性の立場を現実のもとすることが出来なかったとの批判は否めない。職制として議論し、改定したと言われるが、どこに「坊守」の位置づけがあるのであろうか。このような坊守や寺族女性たちから歓迎されない法規改定は、落胆と失望を生み、たとえ義務化されたとはいえ、坊守式研修(一部免除規定あり)、坊守式受式への参加意欲をこれまで以上に欠くことになりはしないだろうか。
 なお、宗則の施行に必要な事項は、宗達で定めるとあるが、今後、宗達ではどのように整備されるのであろうか。法規は長期的展望にたつべきものであると考えるが、その意味で、この度の改定法規は果たしていかがなものかと憂慮しているのは私一人であろうか。

 今回は、坊守等に関する法規の一々の問題点と矛盾点に関しては省略したが、機会があれば、改めて掲載したいと思う。

        2004年11月16日
無 住 庵