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001 ローマ法王の仏教理解に対する一真宗僧侶の批判

 あるジャーナリストが提出した20の質問に対するローマ法王の文書による回答の中に、仏教に対する看過できない誤解が認められ、世界の多数の仏教徒を憤慨させている事件は、一般紙でも取り上げられてきた。(たとえば、朝日新聞の1995年12月5日夕刊「こころ」欄)
 ここでは、ローマ法王の誤解に対して、他ならぬ法王の母国ポーランド出身の一真宗僧侶による反論をまとめた本が出版されたことをご報告したい。その本とは、アグネス・エンジェエスカ著『お念仏に解放された私−ポーランドの女医入信の道程』(あすか・ぶっくす4、1997。)である。
 同書には、彼女の母国ポーランドにおいては法王は戦前の日本の天皇にも匹敵するような存在であるという事情や、にもかかわらず、また、その母国においてはいかなる宗教であれ、聖職者(僧侶)たるものは自らの宗教を誠実に代表する義務が有ると考えられている事情も紹介されており、そのような中で彼女が法王の回答に対する仏教者としての意見を求められた際に、真摯に対応せざるを得ないという心情に想いを馳せると、ある種、悲壮感さえ伝わってくる。法王の誤解と彼女の反論についてはここで詳しく紹介する紙幅は与えられていない。教義についての反論は概ね妥当なものとの印象を受ける。総括的な問題として印象に残った点のみ記す。基本的には宗教は修行、瞑想などの体験を通して味わい、理解が深まってくるものであり、文字によって伝えられる教義などはその宗教の一面を表すに過ぎない。つまり、仏教の宗教的実践を伴わない法王の仏教理解には限界があることは論を待たない。宗教を外側から論じることの限界はつとに語られるところである。にもかかわらず、カトリックを代表するような立場の法王が他の宗教の教義を批判的に論じることはいささか軽率ではないか。私見であるが、法王自身も述べているように、近年顕著になっている「西欧における仏教の普及」に対する危機感が法王にそれをものさせたのかもしれない。
 尚、法王の回答は邦訳が出版されている。教皇ヨハネ・パウロU世『希望の扉を開く』(曽野綾子・三浦朱門共訳、石川康輔監修、同朋舎出版、1996。)
石上和敬

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