(読売新聞 「医療ルネサンス」通算3242回 03/11/21より)
肺の血管が細くなって、呼吸不全などを起こす致死性の難病・原発性肺高血圧症は、肺移植しか治療法がないとされてきた。しかし、治療薬が少しづつ開発され、希望が見えてきた。
布団を畳むだけで息が切れ、五十メートル歩くことも難しくなった大阪市の小林直樹さん(31)。病気判明から二年後の一九九七年九月のことだ。主治医の判断は「余命半年」。小林さんは日本では未承認の治療薬を求めて、命がけで渡米した。
この薬は、細くなった肺動脈を拡張する「プロスタサイクリン」。鎖骨の下の静脈から差し込んだ細い管(カテーテル)を通して、患部へ二十四時間送り込む。薬液が入った弁当箱より一回り小さい医療機器を常に持ち歩く。
渡米には主治医で国立循環器病センター(大阪府吹田市)心臓血管内科医長の京谷晋吾さんが付き添った。シカゴの病院でカテーテルの差し込みなどの治療を受けて二週間後に帰国したが、効果は劇的だった。
現地空港に息絶え絶えで到着したのに、帰路はスタスタ歩けた。治療半年後に職場復帰。一時間の電車通勤もできるようになった。ただし、治療をいつまで続けるべきかは、明らかでない。
治療開始から六年が過ぎ、来年四月には初めての子供が生まれる。「今、命があるのは、この薬のおかげ。家族のためにも一日でも長く生きたい」
日本でも二〇〇〇年、在宅での治療ができるようになった。京谷さんは「肺移植医療が進んでいない現状では、"最後のとりで"とも言える治療法」と話す。
(朝日新聞 日曜版 「ともに歩む」01/04/29 P2より)
大阪市に住む小林直樹さんは、車販売会社に勤める29歳。身長176センチ、体重68キロ。「だれも病人と思ってくれません」と笑う。肩から下げたバッグには、血管拡張剤プロスタサイクリンを24時間連続で注入する携帯用ポンプが入っている。薬は毎晩、自分で調合する。原発性肺高血圧症(PPH)と診断されたのは95年夏。野球をしていて突然倒れ、救急車で運ばれた。病気の経過や現在の生活ぶりをホームページで紹介している。アクセスはこれまでに4万件以上。「不幸なのは僕だけだと思っていたけど、同じ不安や悩みをかかえる人がたくさんいて驚きました」適切な治療が受けられる医療機関、ふだんの生活での注意・・・・・。全国の患者とメールを交換していて、情報不足を痛感している。心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高くなる。原因はわかっていない。疲れやすく、軽い動作でも息切れする。100万人に1、2人とされ、20〜30代に多く、女性に目立つ。発病から2、3年で死亡することも多く、移植でしか助からないとされた。だが最近、プロスタサイクリン治療が効果をあげ、海外では10年以上続ける人もいる。国内では99年に承認され、去年から在宅での治療も可能になった。小林さんは97年、国立循環器病センター(大阪府吹田市)の京谷晋吾医師と渡米し、シカゴの病院で治療を始めた。50メートル歩くのも苦しかったが、毎日1時間かけて電車通勤できるようになった。月2回、診察に通い、薬の量などきめ細かい指導を受けている。同じような患者が30人余り、センターに通院しているが、そうした医療機関はまだ限られている。もう一つの課題が薬価。1本2万円と米国の10倍もする。必要とする数が医療保険で認められないこともある。患者や家族でつくる「PPHの会」は昨年9月、上限の撤廃と薬価引き下げを厚相に要望した。原因解明や治療法の開発はもちろん、「患者が安心して希望を持って治療を受けられるような環境づくりが重要だ」と、京谷さんは指摘している。
(朝日新聞 夕刊 00/07/31 P17より)
肺の血管が細くなって血液が通りにくくなり、呼吸困難や心不全を引き起こす難病「原発性肺高血圧症」のうち、家族性のものを引き起こす遺伝子を見つけたとする報告が相次いで出される。英レスター大学などのグループが科学誌ネイチャー・ジェネスティックに、米コロンビア大学などのグループが米人類遺伝学会誌にそれぞれ九月に発表する。研究によると、この遺伝子は、骨形成たんぱく受容体を作る遺伝情報を担っている。家族性の原発性肺高血圧症患者で、これに変異があることなどがわかったという。
(情報提供者:小宮氏)
(北海道新聞00/08/16 P16より)
米国などの二つの研究チームが原因不明の難病「原発性肺高血圧症」に関係する遺伝子を特定したと、米科学誌ネイチャージェネティクス8月号と米人類遺伝学会誌に発表した。特定されたのは、骨形成タンパク受容体を作る遺伝子。この遺伝子は肺の発達を調整しており、異変があると、原発性肺高血圧症を引き起こす可能性があると報告している。原発性肺高血圧症は、肺の血管内の細胞が増殖して血管が細くなり、肺動脈の血圧が上昇する病気。肺移植や継続的な薬物治療を受けなければ、通常、診断から3年以内に心不全を起こして死亡する。
(情報提供者:もんちゃん)
(朝日新聞 日曜版 99/05/16より)
厚生省は、難病「原発性肺高血圧症」の治療薬プロスタサイクリン注射液に対する医療保険適用を決めた。国内でも本格的に使われるきっかけになりそうだ。この病気は、肺の血管が細くなって血液が通りにくくなり、呼吸困難や心不全を引き起こす。原因不明で、肺移植がほとんど唯一の有効な治療法と考えられていた。一九九〇年代、人間の体内で作られる情報伝達物質プロスタサイクリンを、体につけた小さなポンプから二十四時間点滴し続ける治療で症状が大幅に改善することがわかった。米食品医薬品局(FDA)は九五年に治療薬として承認している。国内では、国立循環器病センター(大阪府吹田市)などが試験的にこの治療を実施。同センターでは、治療を受けて退院した患者が十人に上る。現在、在宅で点滴を続けており、職場復帰した人や、高校に入学した人もいる。同センターの宮武邦夫・内科心臓部門部長は「この薬の効果は大きい。原発性肺高血圧症は重い病気だが、希望を持って治療を受けてほしい」と話している。
(日本経済新聞 97/11/29朝刊より)
厚生省は28日、難病の医療費を公費で負担する特定疾患治療研究事業の対象疾患として、新たに「原発性肺高血圧症」を指定した。原発性肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送り出す肺動脈の血圧が高くなり、血液が流れにくくなって疲労や呼吸困難を起こす病気。悪化すると心不全で死亡することがあり、心肺移植の対象でもある。日本に約300人の患者がいる。同事業は、患者が少なく治療法が確立していない難病の治療を研究の一環と位置づけ、医療費を公費で負担する制度。ただし現在、患者の一部負担の導入が検討されている。