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雪組 1998年2月28日〜3月8日 宝塚バウホール
作・演出 植田 景子/作曲・編曲 吉田 優子/甲斐 正人

宝塚バウポエジー
ICARUS〜追憶の薔薇を求めて〜
CAST
イカロス(愛に傷ついた魂の象徴) 安蘭 けい ウォルター・キャンベル 箙 かおる
ロージィ(花屋の娘) 愛田 芽久 ニコル・フロー 五峰 亜季
作家(10年後のアーノルドのイメージ) 汐美 真帆 ルチアーノ 彩吹 真央
アーノルド・キャンベル(作家) 貴城 けい 息子を失った父親 飛鳥 裕
クレア・ボーン(アーノルドの恋人、女優) 壇 れい エレン(ロージィの母親) 灯 奈美

友の会の貸し切り公演。今回いの17番というど真ん中の前に当たった。 いゃー良く見えるけど、前に補助席があるので、ちょっとしんどかったな。これ贅沢かしら・・・

時間になると、「ローズ」の曲が流れてくる。 この曲は、うたこさんが退団の時に歌ってらして、ピアノの前奏が始まると同時に体にぶぁっと 鳥肌たちましたよ。うたこさんの退団にも、かなりいろいろな思い出がありますもんでね。 でもこの「ローズ」劇中でも流れるんですが、ものすごくよかった。 歌っているとうこちゃんの声も優しくて、最初の挨拶からずっと歌声に引っ張っていかれたって印象です。
絵でたとえるなら水彩画、穏やかで奇麗な舞台。歌の多い舞台だったように思うのだけど、 劇中、拍手をほとんどしなかった。スターさんの出、入りetc時には不必要なくらいに拍手がある宝塚の 舞台、これは珍しいんじゃないかな。それだけ、芝居の中に自然に歌が入り込んでいたって事なんで しょうか。たまたま私が見た公演がそんな雰囲気だっただけなのか…どちらにしても 私は気持ち良く舞台観てましたね。

STORY的には、かなり力がはいった作品だなぁと。どこかの新聞評に詰め込みすぎとか書いてあった 記憶があるのだけれど、ほんと盛りだくさん(^^ゞ。 どのキャラクターを中心にしても、物語かできそうで、それをひとつの話にまとめたところが、 新聞評でいう゛詰め込みすぎ゛なのだろうが私はかえってよかったと思う。 いろいろな形の「心の真実」がさらっと説教臭くならない程度に書いてあるのに好感もちました。

全て作家が書いた本の中の話でつながっているのだけれど、最後まで見ないとその全貌が見えてこなくて、 あまり考えながら観ていると、疲れてくるかもしれない。帰り際に年配の女性が、しきりに「分からん」を 連発していて、笑ってしまった。感覚的に捉えながら観ていると、楽しいけど理屈っぽくみてしまうと だめかもしれない・・・(^^ゞ。
で、バウポエジーってどういう意味なんなんだろうか・・・「バウ・ロマン」「バウ・ファンタジー」etc その差は??これもまた感覚的に捉えた方がいいかもね(^^)。

今回のキーポイントは、「薔薇の花」。客席にも薔薇の香りが漂ってまして、すごい゛こだわり゛を感じた。
自分がなにを求めているか、どこから来たのか分からないという謎の少年イカロスの心の、自分のみたされていた 子供時代の象徴なんですよね。ちがうかなぁ…
アーノルドの親子関係、クレアの葛藤、子供を亡くした父親、そして純粋なロージィなどなど 現実を生きる人達の心と触れながらイカロス自身も自分の心を見つけて行く。観ている方も、いろいろな淋しさ のパターンに自分自身を重ねてみているところがあったんじゃないかなぁ。
イカロスの心をギリシャ神話のイカロスや童話「雪の女王」のエピソードを使って表現していて、 かなりこの先生は少女趣味だなぁ〜(失礼^^;)。

この公演で初主演とうこちゃん。表紙見た時、雪組トップの轟さんに似ていると…化粧のせいなんだろうか。 歌が上手だと、人づてに聞いていたけれど…こんなに素敵な歌声とは…(^^)。 ちょっと高目の奇麗な声。ほとんどが歌で表現しているこの役、ぴったりでした。主題歌も奇麗なメロディで、 いまだに頭の中に残ってます。(悲しいけどはっきりとは覚えてられない)。
一幕を観ている時は、無機質な役だなあって思ってみていたんですよ。でも段々といろいろなことに出会っていく うちに、感情が見えてきて、子供を失った父親との会話で、イカロスの心が爆発するところとか、好きですねぇ。 怒りっていうのは、一番正直になれる感情なのでしょうか。ロージィとの出会いによって心に暖かい風が 吹き込まれて、ちょっとずつ人間らしくなっていく様子が自然で良かった。 髪の毛がミョーに多く見えたのが、ちょっと残念。

アーノルドの貴城けい、作家の汐美真帆。ごめんなさいって感じで、ほとんど知らなかった。 雪組さんの舞台をあまりにも観ていないせいなんだけど…宝塚の新陳代謝にあんまりついていけてないと つくづく感じる^^;。
ちょっと頼りなげで親との関係に悩むお坊ちゃんのアーノルド。最後は一大決心して、 クレアを迎えに行く当たり、すがすがしい。アーノルドの10年後のイメージという作家さん。 この作家さんが、最後まで謎の人物なんだなぁ。プログラム読んでなんとなぁく理解はしてたんだけどねぇ… この方、すごく無理なく男役ってしていて、素敵でした。私が風邪ひいてたのか、声がかすれていてちょっと 辛そうだったけど、低めの声はナカナカのもの。あとの2人がまだ少年という雰囲気を出している中、 どっしりと地に足がついたという感じで、個人的に気になるタイプです(^^ゞ。

ロージィは典型的なヒロインですねぇ。バウホールにはよく出てくる純粋な女の子。 愛くるしい顔立ちで、イヤミがなくてよかったです。でも最近ヒロインしている娘役さんって こういう輪郭の人が多いって思うのは、私だけかなぁ。役柄も…あんまりインパクトないし…
クレアの壇れいはゴージャスで女優って役にピッタリ、歌もうちょっとがんばって これからどんどん活躍してほしいなぁ。

アーノルドの父親のチャルさんと、その愛人のニコルのおふたり。アメリカンドリームを勝ち取った人物の 生活が象徴されている。何でも買ってやる、何でも好きなようにしてやるですから・・・ 五峰さんもゴージャスで、最後私が「欲しいのはーー」って振り切るように言う台詞が哀しかった。 贅沢な生活は、憧れだけれど心にどうしても開いてしまう穴をどうすることもできない悲劇。 私としては、素朴な生活に戻って欲しかったけど、そうならなかったところに現実味があるのだろう。

余談だけど、この舞台って私の大好きな涼風がやったら似合うだろうなって感じの舞台。 現実からちょろっと離れた感覚で…もっともっと不可思議な存在になっていただろうなぁ。
「ねえ、イカロスはどうして太陽に向かって飛んでいったの?」
「帰る場所をなくした者はね、跳び続けるしかないんだよ」
この台詞、涼風and麻乃コンビに言ってほしーい。(失礼(^^ゞ)
98/03/22