060201学習会
自民党の「新憲法草案」を斬る
弁護士 守川幸男(千葉中央法律事務所)
2006年2月1日(水) 18:30〜20:30
市原市民会館 会議室
● レジュメ
第1 改憲案作りに向けた自民党の動き
○2004.06.10 憲法調査会プロジェクトチーム
論点整理(案)
○2004.11.17 憲法調査会
憲法改正草案大綱(12.07撤回)
○2005.03.14 新憲法起案委員会テーマ別小委員会
中間報告
○2005.04.04 同委員会
新憲法起草委員会要綱
○2005.07.07 同委員会
要綱第一次素案
○2005.08.01 自民党
新憲法第一次案
○2005.10 新憲法第二次案
○2005.10.28 新憲法草案確定
○2005.11.22 自民党立党50年大会
新憲法草案採択
第2 新憲法草案の内容と問題点
1 前文の特徴
@ 憲法「改正」ではなく「新憲法を制定する」ことの意味
A 象徴天皇制の明記
B 国民主権と民主主義の関係
基本的人権の尊重と自由主義の関係
平和主義と国際協調主義の関係
C 愛情と責任感と気概を持ってみずからを守る「責務」
愛国心
国防の義務
立憲主義の後退
D 「圧政や人権侵害を根絶させるため不断の努力」とは
E 戦争の反省と平和的生存権の削除
2 第2章 戦争の放棄から安全保障へ
@ 戦力の不保持と交戦権の否認(9条2項)の削除
1項だけなら、不戦条約や各国憲法にも同趣旨の規定あり
A 自衛軍の新設(9条の2)
自衛軍の目的(平和と独立、安全保障)と国会の承認その他の統制
(1項、2項)
国際活動及び緊急事態における活動と国会承認の不要化(3項)
組織及び統制に関する事項(4項)
B 軍事裁判所の設置(第6章司法 76条3項)
3 人権関係
(1) 基本的人権と国民の責務(第3章)
@ 「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」へ
国民の責務(12条)
個人の尊重(13条)
財産権(29条)
A 「居住、移転及び職業選択の自由」(22条)から
「公共の福祉に反しない限り」が削除された意味
(2) 両性の平等(24条)や生存権(25条)についての変化はないか?
(3) 新しい人権(第3章など)
@ 障害者の権利(14条、44条)
A 個人情報の保護など(19条の2)
B 国政上の行為に関する国民への説明義務(21条の2)
C 国の環境保全の責務(25条の2)
D 犯罪被害者の権利(25条の3)
E 知的財産権(29条2項)
(4) 信教の自由と「社会的儀礼または習俗的行事」(20条3項)
cf.政教分離原則の緩和(89条)
4 統治機構関係
(1) 内閣総理大臣の権限強化
@ 自衛軍の最高指揮者(9条の2 1項)
A 衆議院の解散(54条1項)
B 行政各部の総合調整(72条)
(2) 政党規定の新設(64条の2)
(3) 国会の機能の低下
@ 常会の会期は法律で定める(52条2項)
A 国会の議事開会要件の削除(56条1項)
B 閣僚の国会出席義務の緩和(63条1項、2項)
(4) 司法(第6章)
@ 軍事裁判所の設置(76条3項)
A 弁護士の最高裁判所規則に従う義務(77条2項)
B 国民審査の要件を法律に委ねる(79条2項)
C 裁判官の報酬減額(79条5項、80条2項)
(5) 財政(第8章)
@ 健全財政規定(83条2項)
A 予算案未承認の場合の処置(86条2項、3項)
B 政教分離原則の緩和(89条)
5 地方自治の変容(第7章)
@ 地方自治の本旨(91条の2)
住民の参画(1項)
住民の負担分任義務(2項)
A 基礎地方自治体及びこれを包括し保管する広域地方自治体
(91条の3)
B 国及び地方自治体の適切な役割分担と相互協力(92条)
C 地方自治体の財務及び国の財政措置(94条の2)
D 特別法の住民投票(95条)の削除
6 改正(第9章)
○ 国民への提案を、各議院の総議員の3分の2から2分の1へ
(96条)
第3 民主党の「憲法提言」(2005.10.31)の特徴と問題点
第4 国民投票法案の内容と問題点
1 提案の方法
改正点が複数の時、各項目ごとに提案するのか、
全体を不可分のものとして一括提案するのか
2 運動期間
国会の発議から国民投票まで、わずか30日以上90日以内
3 国民の意見の反映方法
(1) 最低投票率についての規定がない
(2) 国民の過半数の賛成とは
有効投票の過半数----最も緩やか
有権者の過半数
投票総数の過半数
4 国民投票運動について、広範な禁止項目と罰則
(1) 公選法の選挙運動と国民投票運動の違いの無視
(2) 運動主体の規制
公務員、教育者、外国人は運動禁止
(3) メディア規制
@ 予想投票、出口調査、アンケート、世論調査の結果公表も禁止か
A 意見広告の禁止
B 論説委員や解説委員の評論や社説も禁止か
C 新聞雑誌と放送事業者の虚偽報道の禁止
「虚偽」とは何か
第5 憲法改悪はこの国と世界に何をもたらすのか
@ この国のあり方全体に関わる
A 平和憲法は国際公約
B 軍事同盟から平和の共同体への前進
C 平和を求める世論に依拠して
D 国民に痛みを押しつける構造改革に反対する戦いとの結合
● 配付資料
・自由民主党『新憲法草案』(現行憲法対照)
・自民・公明両党合意の『憲法改正国民投票法案骨子』
■ レポート
悪天候が予想されていたものの、よりによって夕刻に雨脚が強くなりました。そんな中、30名を超える方々が集まりました。車を使う方は、天候にはあまり左右されないようです。学習会終了時、雨はあがっていました。
さて、報告は、現行憲法と自民党草案とを比較し、変更が施されている条項にコメントを付けるというやり方でした。コメントは、各種論考や弁護士の学習会の内容も紹介されており、示唆に富むものでした。
今回の改憲は、第9条と第96条改正手続の改定が主眼であり、賛成を得やすくするために「新しい人権」条項を付け加えているといわれています。しかしその人権条項も、人権保障の基盤が崩されています。
草案は、「公益および公の秩序」によって人権を制限しようとしています。現行の「公共の福祉」による人権制約は、だれの人権とだれの人権が衝突するのかをハッキリさせ、その上で人権主体同士が譲り合うための調整原理と理解されてきました。社会全体の利益による人権制限を防ぐために築き上げられたものです。その文言・原理が削除され、「公益および公の秩序」という文言に置き換わっています。社会全体の利益を容易に連想できる文言です。
このように、言論統制をしやすい仕組みをつくりやすくした上に新人権を乗せても、人権保障の強化とはなりません。そのことがよく分かりました。
分量からいって、90分で全条項を扱うのは苦しいことはわかっていました。しかし2回シリーズの学習会も開きにくいので、今回のような形にしましたが、やはり消化不良の感は否めませんでした。これからの学習会で補充して行くことが必要でしょう。