080426 学習会

自衛隊は今 どうなっているの?

半田 滋(東京新聞 編集委員)
2008年2月26日(土)
 14:00〜16:30
サンプラザ市原  8階コミュニティルーム
参加費 800円



講師 プロフィール


 はんだ しげる サン 1955年栃木生まれ。
 東京新聞編集局社会部勤務。1992年より現在にいたるまで防衛省取材を担当(防衛記者会所属)。
 業界においても異例なほどの長期にわたり、自衛隊の「表」も「裏」も見続けてきた。
 米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど海外における自衛隊の活動も、現地にて豊富に取材。
 著書に『自衛隊VS北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊』(講談社+α新書)がある。

 <レジュメ>自衛隊は今どうなっているの?
          〜憲法9条と日本の安全保障政策〜
                半田 滋(東京新聞・編集委員)
はじめに
   日本の安全保障政策は憲法9条に従い、専守防衛
   実力は国防費だけでは語れない
   冷戦後、海外活動が本格化
   9条のしばりの中で対米支援はますます傾斜

1 国連平和維持活動(PKO)
 ・ 大きく変わった武器使用基準
 ・ テロ特措法、イラク特措法では軍隊並み

2 テロ特措法の問題点
 ・ アフガニスタン攻撃は米国の戦争
 ・ 変化したインド洋の活動

3 イラク特措法はテロ特措法の子ども
 ・ 学習した陸上自衛隊
 ・ 違憲とされた航空自衛隊の空輸活動

4 イージス艦「あたご」の衝突事故
 ・ 石破イニシアティブで混乱に拍車
 ・ 拡大する任務と事故の因果関係

5 ミサイル防衛の問題点
 ・ 政治を誘導した前事務次官・守屋被告人
 ・ 防御的兵器の説明では済まない

6 米軍再編のねらいとは
 ・ 米軍の目標は第5空軍と第1軍団の出入り
 ・ はじまる自衛隊と米軍の連携

7 行き着くところは憲法改悪
 ・ 昨年11月の党首会談で恒久法を議論
 ・ 邪魔者になる憲法9条

当会で用意した資料



話の内容をまとめてみると…。

防衛予算
 年々減少し、一般会計歳に占める割合も6%を割り込み、4兆8千億円。このうち、当年度の支払い分は9千億円である。そのうちのかなりの割合が人件費であり、武器の修繕更新費にもこと欠いている。使えない兵器装備をたくさん抱えているという点で、北朝鮮と同じ状況、北朝鮮化が進んでいると言えなくもない。
 このままでは、憲法を変えたとしてもそのころには、自衛隊がヨタヨタになっていて、使い物にならないだろう。

自衛隊員の武器使用基準
 カンボジアPKOのころ、自衛隊は海外での武力行使はできないという第9条解釈の最後の砦が、強く意識されており、個人の武器使用と自衛隊としての武力行使とを「形式上は」区別しようとしていた。
 PKO参加五原則では、武器の使用は、隊員の生命身体の安全を守るためにだけ認められ、しかも指揮官は命令をしてはならず、隊員個人の判断にゆだねられていた。指揮官の命令に従うと自衛隊の部隊としての行動、つまり憲法で禁止される「武力の行使」に当たると考えられるため、その事態を避けるためであった。自衛隊員は、安全な国内で訓練するときには指揮官の命令に従う訓練をしているのに、「安全ではない」とされる出動先では普段の訓練とは異なり、個人の判断で行動することを強いられるという困難な状況に置かれたのである。このような、軍事組織の常識を無視した海外出動を強いる日本の政治家に、文民統制を行う能力も意欲もないと言える。
 ところが、現在の武器使用基準は、こうだ。隊員だけでなく、隊員の管理下にある者の生命身体を守るというように範囲が拡大され、さらには自衛隊の車両や持参した機関銃などを守るために武器を使用することが許されるようになった。こうなるとあと残るのは、任務の遂行を妨げる者に対する武器使用である。これが認められると他国の「正式の」軍隊と同じ活動ができるようになる。産み落とすだけで後は育てようとしない「頼りない」文民統制のもと、制服組が知恵をめぐらせて権限を拡張してきた結果である。日本の「文民」が軍事組織を統制できるかは、とても心配な状況だ。

イラク派遣違憲判決
 ブッシュのイラク先制攻撃を積極的に支持した小泉政権は、イラク復興支援特別措置法を制定し、自衛隊をイラクへ派遣することにした。海外で武力行使することが許されない自衛隊は、武力行使に巻き込まれる危険をできるだけ排除しなければならない。だから、全土が戦場となっているイラクにおいても戦闘が行われることがない「非戦闘地域」を設定し、陸上自衛隊はその地域において飲料水の供給や公共施設などの復興を行い、航空自衛隊はクウェートを拠点に非戦闘地域との間で輸送活動を行うことにした。
 国会審議では、どこが非戦闘地域かとの問いに、小泉首相は「そんなことをわたしに聞かれたって、わかるわけがない」とか「自衛隊のいるところが非戦闘地域だ」との無責任答弁をしたことは記憶に新しい。
 2006年7月に陸上自衛隊はサマワから撤収したが、航空自衛隊はいまもクウェート・バグダット間で輸送業務に従事している。陸自がいたときには陸自用物資を運んでいたが、撤収後は武装アメリカ兵を輸送し、米軍の後方支援活動に従事している。
 4月18日の名古屋高裁違憲判決は、バグダットはいまでも自爆テロが繰り返される戦闘地域であるのに、空港と空路だけが非戦闘地域といういい方は成り立たないでしょう。前線の活動と一体化しない後方支援活動といいながら、武装した米兵を輸送しているのであれば、それは前線と一体化した活動といえるでしょう。空自の活動は、イラク特措法で政府自らが課した基準に違反する活動をしており、ひいては憲法9条に違反しているでしょうと判示した。
 自衛隊やイラク特措法が憲法違反といったのではなく、空自の活動がイラク特措法に適合していないといっている、政府みずからが設定した条件に違反していないといっている。政府はこの判決を尊重し、三権分立を守るべきだ。

任務拡大による悪循環
 専守防衛をモットーとしていた自衛隊が、海外出動を重ねる中で任務を拡大してきた。任務が増えると、そのための訓練をしなければならない。訓練参加者が出ると、部隊の通常勤務者が減り、他の隊員へしわ寄せが生じる。その負担を減らすために、訓練期間を短くし、そのために練度が落ちる。
 いまの自衛隊は、このような悪循環に陥っており、イージス艦「あたご」の事故もそういう流れの中で生じたといえる。今後、もっと大きな事故や不祥事が起こるのではないかと心配だ。

ミサイル防衛システム
 開発途上である。スパイラル開発といい、微修正しながら開発を続ける。これを導入すると初期投資で1兆円。その後改良されるたびに新しい機器をアメリカから買い入れたり、ライセンス生産をすることになり、膨大な財政負担が予想される。ただでさえ予算がなくて困っているのだから、発射訓練はやらないと言っている。役に立つかわからない兵器をどうして導入するのだろう?



リポート
 時々、目を覚ましたときに考えるのは、「せっかくの黒字を取り崩してしまった」ということばかり。
 そう、この学習会。テーマは自衛隊。「あたご」事故があったことだし、絶好のテーマだと自賛し、事前に新聞にも記事が載り、会場にはいりきらない人が集まることを期待し、資料も多めに印刷したのだった。
 ところが、ふたを開けてみたら…。開場して10分程度で、不入りを覚悟する。定員の7割だった。こんなことが以前にもあった。そう、水島学習会で、でもあのときは8割だった。JR五井駅とはペデストリアンデッキでつながる会場。立地はよいように思えるが、駐車場が不備なのだ。料金が高価なうえに、軽自動車でも「車高が高くて」駐められない車種があるのだ。市内の参加者は車利用が多いので、影響を懸念してはいた。そして参加費。講師の希望に応えるために、通常の6割増にせざるを得なかった。これらが不入りの原因だろうか。土曜日はイベントがとくに多いともいわれる。
 それもあろうが、9条や憲法などをテーマにする限り、大入りはない気がする。



 明るい面もあった。学習会をはじめて土曜の昼に開催した。そのためか、女性の参加が多かった。男性には睡眠不足を補いに来たような方も散見された。来ると確約しながら来なかったり、きっと来ると期待した人が来ないのは、寂しいものだ。日曜の昼にやったら、どんな顔ぶれになるのだろう。


5月の事務局会議
 参加者の感想は、自衛隊についてはほとんど知らない状態なので、話の内容はとても興味深かったなど、好意的なものが多かった。
 赤字の解消については、学習会講師はできるだけ自前でまかなうという原点に立ち返って、テーマを選び講師を依頼することになった。当然、わたしにおはちが回ってきた。著名ジャーナリストの招聘は延期となった。
(08.06.01 記、08.07 訂正)