至れり尽くせりの
Bundesrepublik Deutschland

きっかけ
 英語講師のA氏は専門のWalesを中心に英語圏を歩き走ってきたが、昨年はイタリアへと英語圏以外にも脚を伸ばしはじめた。ドイツ語講師のB氏は毎夏、ドイツを訪れる。国際法のC氏は4月からHeidelbergで在外研究をしている。前の二人はHeidelbergでC氏と合流することを考えた。旅行先で落ちあい、何日かを一緒に過ごし、また別れる。B氏は「考えただけでもワクワクする」と言った。そんな彼らが周囲を見回して、海外に出たことのないわたしに気づき、巻き込もうとしたのだ。

 「海外へ出かけるとしたら、夫婦でだろうな。ただ、同居の父が夫婦で家を空けることを嫌うので、出かけられるのはしばらく先であろう」と、わたしは考えていた。そこへこの話が降って湧いた。幸いなことに8月後半には仕事が入らなかった。妻は二度ほど中国へ行っているので、ダメとは言うまい。誘われたことを話すと、「せっかくだから、一週間くらい行ってくればよい」とあっさりと認めた。ただし、ひと言付け加えることを忘れなかった。「ヨーロッパでは先を越されたか」と。競争することではないだろうに。

 友人たちは「ロマンティック街道」を周遊したいのだ。わたしの関心と彼らの行動許容範囲を考えるとNurembergで国際軍事裁判所跡を見学することは可能だろう。最初だからそれで良いと考えた。しかし裁判所は現在修復中で、見学できないことが判明した。事情が変わって欲が出た。やっぱり首都Berlinだろうと。壁崩壊から二十年だし、日本の戦後を決めたポツダムはすぐそばだ。

 当初はA氏と一緒に8月20日出発を予定していたが、出発を早めれば、彼らとの合流前にBerlinに行くことは可能だ。誰か同行者はいないか。C氏に打診したが返事が来ない。そんなときである。「せっかくドイツへ行くのだから、列車に乗りたい。アドバイスを」と伝えておいたD氏から「その時期にヨーロッパへ行きます。Berlinへ行く用事もあるので、ご一緒しましょう」との返事が来た。さらに「MunichでもFrankfurtでも、空港で出迎えることができるように予定を組んでみましょう。まずは飛行機を決めてください」とまで言ってくれた。まさに神様、仏様、D様である。
 これで、旅の前半はD氏との鉄道乗り歩き。D氏はドイツの鉄道事情に詳しく、高校の英語教師であり、ドイツ語も話す。後半はロマンティック街道を車で周遊する。同行はドイツ語講師と英語講師、わたしにとってはガイド・通訳付きだ。黙ってついて行けばよいという骨格が決まった。


■第一の楽しみ 準備
 さて、航空券の手配だ。
 A氏は、「Lufthansaで席番指定でMunich往復を予約した。これでもう行くしかない」と知らせてきた。2ヶ月も先のことなのに、予約変更もキャンセルも出来ないからだ。格安券を購入することは、このようなリスクを背負うことでもあるらしい。確認したら、本人の分だけだという。航空券の手配は自身で行うようだ。

 わたしもMunich着発にすれば、D氏が空港で出迎えてくれることが出来る。しかしD氏に突発的な事情が発生した場合、Munichではほかに頼る人もいない。Frankfurtなら、C氏がHeidelbergにいる、車で1時間の距離だ。Frankfurtに決めた。

 つぎはエアラインだ。一番安いのは、Amsterdam乗り継ぎのKLMオランダ航空で13万円。しかしD氏によれば、同社は預けた荷物が届かないトラブルが頻発するから直行便がよいという。A氏と同じ Lufthansa だと14万円。JALだと15万円で、キャンセルも出来る。1万円の差ならナショナル・フラッグ・キャリアにしようと決めた。

 さらに出発日。8月17日に立って、D氏と合流する前にC氏と会っておくのも悪くないと考えた。「初の海外で不安も大きいでしょうから、出来るだけ付き合いますよ」と言ってくれてもいたし…。ところが、ところがである。C氏から「来客があるので、付き合えない」との知らせが来る。ガ〜ンである。出発は8月18日と決めた。

 さあ、いよいよ予約である。ところがである。航空運賃は日々変動するという。あわてて購入してその後に値下がりしても差額は返ってこない。あとで値上がりしても差額は支払わなくてよい。数日値動きをみたが、変動はない。その間にも残席は減って行く。夏休みだからだ。「エ〜イ、ままよ」とついにリターンキーをたたいた。座席は往復とも51-Kを指定した。「イチロー君の三振」、滅多にない、つまり事故の確率はきわめて低いという縁起担ぎだ。運賃は、結局変動しなかった。やがて、往復ともに満席となった。

 予約が完了してホッとはしたが、A氏に事前に通告しなかったのはまずかったかなとの思いはあった。しかしA氏からも事前の知らせはなかったわけだし、深刻には考えなかった。
 「8月18日発で予約した」と結果を報告すると、B氏、そして今度のツアーには参加しないドイツ語講師E氏からも、きついお叱りを受けた。「Aさんは、海外初めてのあなたを一人にしないようにと、いろいろやりくりして、あなたが最初に言った20日に出発日を合わせたのですよ。それを何ですか、勝手に予定を変えて、D氏に乗り換えて」というのだ。そうか、A氏はそこまで考えていてくれたのかぁ。もう、謝るしかなかった。


 飛行機が決まれば、つぎはドイツ国内の行程だ。
 A・B氏とは8月24日に Augsburg で合流することに決める。そのあとのロマンチック街道の行程は彼らに任せるとして、それまでの鉄道旅行の行程を決める番だ。
 D氏は言う、「旅には三度の楽しみがあります」と。第一の楽しみは準備である。D氏と会う。Frankfurt から Berlin へは、下車しなくてもよいので Koeln や Hamburg をまわりたいと希望を述べる。するとD氏は「車窓の景色は、街を出ると平原ばかりで、詰まりませんよ」という。著書にはすこぶる風光明媚なように書いてあるのだが。「詰まらない」とは書けないのだろう。結局、最短ルートで Berlin をめざすことにした。

 第1の目的地は、C氏の住むHeidelberg
 第2の目的地は Berlin。わたしの目当ては、壁の跡をみること、ポツダム会談の地を訪ねること、一流ホテルに泊まること、歴史博物館をみること、折から開催中の世界陸上をみることなどである。
 第3の目的地は、東京と同様激しい空襲を受けた街 Dresden。旧東ドイツの街の開発具合もみたい。
 大きな荷物を持っての移動をさけ、衣類の洗濯の都合を考えると、BerlinからLeipzig に移動し、そこを拠点として、Dresden と Weimar へも行くことにする。D氏の発案である。『トーマス・クック時刻表』をパラパラと繰り、拡大鏡を使って列車を探し出し、予定を立てて行く。その作業は素早く、見事だ。わたしもトーマス・クックを持参したが、取り出すまでもなかった。

 このように決めたものの、8月24日に Augsburg で昼に合流するためには、Leipzig を07:00 過ぎに経つ必要がある。それだと朝があまりに早いので、前日にもっと近い街に移動しておくことにしたい。Bamberg なども候補に挙がったが、街と駅とが離れているという。そんなこんなで、時間的にも距離的にも出来るだけ長く列車に乗っていたいために、Weimar と洗濯をあきらめ、Leipzig から一気に Munich をめざすことにした。

 第4の目的地は、Heidelberg の隣街 Karlsruhe だ。ここには連邦憲法裁判所がある。ドイツの裁判所は、刑事・民事・労働など分野別に設けられている。憲法裁判専門の裁判所もある。英米法系を勉強してきた身にとっては、これまではさしたる関心もなかったが、すぐ近くまで行く以上はみておきたかった。
 この地の訪問日によっては、レイルパスの買い方に影響するのだ。当初は帰国当日を考えたが、荷物の扱いを考えて、前日に訪問し、帰国当日は Heidelberg の市内観光のみとした。A氏の発案であり、大正解だった。

 行程が決まれば、つぎはパスの手配
 あこがれのユーレイルパスの時代は終わり、1カ国のみや2カ国にわたる多様なパスが売られている。だがわたしが乗るのはドイツ国内だけなので、ジャーマン・レイルパスだ。これだけは同好の士で旅行社に勤めるN氏の世話になる。1等の5日間用だ。
 受け取ったのは出国の前日。8月14日まで仕事をしていたので、ウェッブ上で行えない準備は遅れていた。クレジットカードの保険を補う保険に加入したのも前日で、N氏のおかげだった。


 ホテルの手配は、だいたい自身で行った。
 日本語で予約できるサイトがたくさんある。日本円で国内で決済するサイトで予約すると、バウチャー(いわゆるクーポン券)をホテルに提出することになる。支払は現地でというサイトで予約すると、チェック・アウトの際、円か現地通貨で支払うことになる。
 今回は可能な限り前者で予約したが、もっと廉価な部屋がある場合には後者を利用した。廉価な部屋には、航空券と同じように、キャンセル不可というものが多い。高齢の肉親をもつ者には、賭けという要素が強い。


 持ち物
 世界のどこででも使えるソケット、多機能の物干しなどはE氏が貸してくれた。
 パスポート入れなどは Loft で購入。ランドリーを頼めない事態を想定して紙製下着を用意した。
 悩んだのはトランク。海外用の本格派は鉄道を乗り歩くには大きくて不便だ。愛用のキャリーバッグは強度が心配。いろいろ情報を集めたが、結論を出せないでいた。そんなときD氏が「JALの直行便でFrankfurtだから大丈夫だと思うよ、たぶん」と太鼓判を押してくれた。だから、キャリーバッグで臨むことに決めた。


 最後は携帯電話の手配
 6月に妻から所持を“強要された”電話機は、海外で使用できないもの。買い換えは高価だし、次の機会はわからないので、レンタルとする。一日420円で、保険が210円。
 使うことはあるまいと考えていたが、思わぬ事態となり、重宝した。だが、請求書がこわい。

 かくして、生涯初の海外旅行の準備は一応整ったようである。(09.09.14記)