Angie
Stone
アンジー・ストーンは、シークウェンスやヴァーティカル・ホールドといったグループ活動を通じて、メアリ・J・ブライジやローリン・ヒルが登場するずっと以前、そのコトバができる前から<ヒップホップ・ソウル>を吹き込んできたシンガー/ライター/プロデューサーであり、お馴染みのサウンド・バイトから構成された心地よいモザイクを作る才に長けている。このソロ・デビュー・アルバムでは、ラムジー・ルイスのキーボード、MGズのベースライン、グラディス・ナイトのメロディと、60〜70年代の装飾フレーズやリフを恥じらいもなく借用し、まるで黄金時代のソウル・ディーヴァのように自分のリード・ヴォーカルを誇らしくミックスの高音域にディスプレイしているのみならず、カヴァ・アートでは70年代ブラックスプロイテーションのイコノグラフィと戯れている。
これまでむしろ裏方として知られてきたわりには、ヴォーカリストとしてのストーンは、なんとも力強く、情感豊かで、魅力的だ。スピリチュアルな粘っこさを備えた声の濃密なトーン、熱で溶けだしたような肉感的な響きが、ひとつひとつの音符にフィーリングをもたらし、ひとつひとつのフレーズを得難い体験に変え、ひとつひとつの曲をセンセーショナルなものにする。そう、ストーンの声は、アリサ・フランクリンやシャカ・カーンといった一流のソウル・ディーヴァと共通する質感をたたえているのだ。こういう厚みのある声にくるまれると、まるで冷え込んだ冬の寒空に暖かいオーヴァコートをはおって繰り出したような気分になる。
逆に、ヴァーティカル・ホールド時代もそうだったが、裏方として名をあげたわりには、このアルバムのソングライティングは大いに改善の余地がある。収録曲のほとんどがストーン自らのペンによるものだが、大半が何のひねりもないフックや単調に繰り返されるリズムの犠牲になっている。それでも、アリ・シャヒード・ムハメッドがプロデュースした“Bone 2 Pic(Wit U)"は、繊細なハーモニーをつきしたがえてグルーヴし、ジャズっぽい精緻なブリッジも鮮やかだし、ディアンジェロと共作した”Everyday"は、さしずめ“Brown Sugar”に対するいらついた女性からのリスポンスといったところだろう。さらに、ファースト・シングルの“No More Rain(In This Cloud)"は、グラディス・ナイト&ザ・ピップス“Neither One Of Us"をサムプリングした、なんとも麗しくみずみずしいバラッドで、マイナー・キーでおのれのみじめさを嘆くR&Bバラッドに対する聡明な解答であり、いつか太陽は輝くものだと忠告している。
A MINUS BUY
Rahsaan
Patterson
デビュー作の≪Rahsaan Patterson≫は、まぎれもなく97年のベストR&Bアルバムのひとつだったにもかかわらず、ディアンジェロからエリカ・バドゥまで好敵手たっぷりのネオ・ソウルの樹海に埋もれて、カルト・クラシックになってしまった。この2年ぶりのアルバムが辿る運命はまだわからないが、1作目のはにかんだ感じの初々しさは、誇らしいクールな態度に取って代わられ、ラサーンのヴォーカリストおよびソングライターとしての多彩な才能をこれでもかと見せつける12曲が収められた、自信たっぷりのグルーヴ・ソウル・アルバムに仕上がっている。
アルバム前半のR&Bメイントリームを吸収した展開は、全く予想できないものではなかった。何と言っても、彼はブランディのトリプルプラティナム・セラー“Baby"、テヴィン・キャムベルの名曲“Back To The World"のソングライターなのだ。それでも、スライ・ストーンばりにリズム・ボックスを用いた“Sure Boy"は、ひょうきんなベース・イントロがドニー・ハサウェイ“The Ghetto"を思わせるし、ハヤリのティムバランドを意識したサウンドを取り込んだ曲(“Do You Feel The Way I Do"、家庭内暴力を問題にした“Treat You Like A Queen")でさえ、申し分のないキーボード・リフ、威風堂々のストリングス、突飛なヴォーカル・アレンジメント、手のこんだリズム・チェンジといった、お得意の巧みなディテイルで彩られている。
複数のプロデューサー陣を起用しているが、やはり相棒のジェイミー・ジャズと組んだときが最も輝いているし、アルバムが進むにつれ、次第に70年代R&B色濃厚なバンド感覚のファンクに収斂していくと、いよいよ本領発揮という感じになるのは否めない。ゴスペル・スタイリングを施した“The Day"、曲がりくねったワーワー・ギターが導くグルーヴにホーンズが合いの手を入れる“Humor"、欲望の限界に思いをめぐらし、官能的な熱にほだされて弾ける"The Moment"、EW&Fばりのホーンズにのぼせた“So Right"と、純粋に気分を高揚させる歓喜に満ちた音楽、という今のR&Bに見事に欠如した情緒を鮮やかに切り取ってみせる。
なんと言っても、ラサーンの甲高いトーンを駆使した巧みなリズム解釈には、きょうび類い希なものがある。その好ましい中音域(スティーヴィ・ワンダーの領分)は、決して息切れすることなくファルセットの高みにまでうなりながらのぼりつめるし、オーヴァダビングされたバックアップ・ヴォーカルは女性によるものかと勘違いするほどだ。失恋(“It's Alright Now")や背徳(“Friend Of Mine")を歌うときさえ、パタースンは芝居がかった大げさな嘆きっぷりに淫する脇道に逸れることはなく、注意深く抑制されたメランコリーを披露する。 A MINUS BUY
Kelis
ODBのスマッシュ・ヒット"Got Your Money"のフックの歌い手として、チャド・ヒューゴとファレル・ウィリアムズのプロダクション・チーム、ネプチューンズと契約を結んだ、ハーレム生まれの20歳のファンク・ゴッデスのデビュー作。ヒット・シングル"Caught Out There"でまず耳をひくのは、愛の悲劇に呼応するようにヴィデオ・ゲームとサイレンの中間のようなピーン、ピーンと急降下する効果音を生かした独創的なアレンジメントだろう。曲のフックで男に向かって「あんたなんか大嫌いよ」と吐き捨て、ライオット・ガール・パンクスたちよりも強烈なアティテュードを示すカリース(と読む。ケリスではない)だが、このアルバムのなかでそんなひとつの態度のみを身にまとうにはあまりにも野心的な音楽とアムビヴァレントな感情表現を追求しているのは見事と言うしかない。
レトロな要素をまぶすことに救いを求めるのは、スピーチのようなヒップホップ折衷派の安易な手口だが、ジャズ・ピアノのコード進行を用いた現代の愛の寓話"Game Show"や、70年代ソウルっぽい感覚の"No Turning Back"と、ファンク、ジャズ、ゴスペルといったカリースのバックグラウンドはこのデビュー・アルバムにディープな未来派とでも言うべき感覚をもたらしている。フレーズの最後を噛み砕くように歌うカリースのはすっぱな語り口や、不思議にロボットじみた声の肌理は、まぎれもない生粋のファンク・ヴォーカリストの証明だし、"Suspended"では無重力状態でけだるく遊泳する宇宙の歌姫を演じているかのようだ。
ネプチューンズのプロダクションも、シムバル、ドラム・キック、ベースに、バレル・オルガンのようなキーボードと、シムプルこのうえないスペイシーなもので、サイケデリックなオルゴールでも耳にしているようだし、そんな鉄筋コンクリートむきだしの荒涼とした空間を漂うアラビア模様のように曲がりくねったメロディを、カリースのムチのようにしなるクールなアルト・ヴォイスがしなやかになぞっていく。最初は地味な印象だが、リピートすればするほどハマることうけあいの銀河系ファンク・アルバム。 A MINUS BUY
Jazzyfatnastees
もともと4人組だったLA出身のジャジーズは、ザ・ルーツ、アウトキャスト、スティーヴィ・ワンダー、デ・ラ・ソウル、エリック・ベネイといったアーティストたちのバックグラウンド・ヴォーカルを務めてきた。メルセデス・マルティネスとトレイシー・ムーアの2人は、自立、愛、人生の葛藤をめぐる曲を作り、ジャズ、ブルーズ、ゴスペルから70年代ソウルまでさまざまな形式を取り入れた優雅なサウンドスケープを組み立てる。CHOICE CUTS:"The Wound","Hear Me","The Lie".
ザ・ルーツのクウェストラヴのドラムズとハブ・ハバードのベースが、ちょっとけだるいミッドテムポのビートにさりげなくファンキーな推進感をもたらし、メランコリックなキーボードや、ラリー・ゴールド指揮のストリングスが彩りを添える。その深い青に染まった空間をジャジーズの柔和で流動的なハーモニーが、スキャットを交えながら、ゆっくりと漂う。その甘美なヴォーカル・パフォーマンスは、まるでくすぶるように抑制が効いている。あえて注文をつけるとすれば、アレンジメントのヴァリエーションが足りないために、アルバム1枚通すと、ちょっとダレてくるところかな。
A MINUS BUY
Grenique
フィリス・ハイマンやアニタ・ベイカーの流れを汲む、アーシーなジャズ・ソウル・スタイリストの鮮烈なデビュー作。ゴスペルのオーヴァトーンとジャジーなフレージングが優雅な曲線を描きながらしなやかに屈伸し、くつろいだ雰囲気を醸し出す。生楽器主体のメロウなテクスチュアは、フェンダー・ローズやハモンド・オルガンがサウンドに丸みをもたらす、実に抑制の効いたエレガントなものだが、ポストヒップホップの感覚でトリミングされているため、まるでひき締まった筋肉がきびきびと弾むように無駄がない。そんなしなやかなグルーヴのうえを、官能的なアルト・ヴォイスがけだるく漂い、刺すような鋭さでうめき、クールなスキャットをちりばめる。“Let Go”は78年頃のシャカ・カーンを連想させるし、ヒートウェイヴ“Star Of A Story"の幻想的なリメイクは、ジーン・カーンのあでやかな響きを思い出させる。
柔らかいメロディの輪郭を際立たせた選りすぐりのソングライティングは、内省的な物語志向のアプローチを採用しており、冒頭のアクースティックなタイトル・カットから、愛と内面の強さをめぐるイマジネイティヴなストーリーが繰り広げられる。やみつきになるトラムペットと深みのあるベースがたちまちアフターアワーズ・ジョイントの世界に誘い込む“Should I”は、破局を迎えた関係の行方を熟考し、彼を愛することと自分の正気を保つことの間に引き裂かれた女性の物語だし、アル・グリーンがアイズリー・ブラザーズをバックに演じたような“Trials And Tribulations"は、二人の悩める若者の生きざまをいきいきと描いている。独創性がきらめくアルバム。
A MINUS(Original grade:A) BUY
Calvin
Richardson
これが処女作となる新人ながら、ボビー・ウォマックを思わせる荒削りのグロウルと、絶頂期のピーボ・ブライスンのようになめらかなゴスペル・フロウという二つの全く対照的な特徴を併せ持つソウル・スタリストで、はじめにスムーズな語り口で巧みに優しく包み込むと、次にしゃがれ声で容赦なく打ちのめす。アルバムの幕開けを飾るカントリー風味のソウル・バラッド"I'll Take Her"では、いつもなら方向を見失いがちなケイシー・ヘイリーからこれまでで最高のヴォーカル・パフォーマンスを引き出し、まるでボビー・ブランドとデニス・エドワーズがデュエットしているかのようだし、"Lovin' You"では沸き上がるコーラスをバックにシャバダバドゥィードゥィーと熱のこもったアドリブを繰り広げる。ジャジーなギターの音型が誠実そうなヴォーカルを引き立てるバラッド"Looks Like(You've Been Crying)"もなかなか重厚な出来だし、スティーヴィ・ワンダー風のメロディをレーベルメイトのモニファと慈しみ合う"Close My Eyes"の美しさといったら…。往年のタイロン・デイヴィス調の味わい深いバラッド"Half The Time"は、毛をむしるようなギターの音と壮麗なコーラスに引き立てられている。死んだ友に対して、自分もいずれそばにいくよ、と約束する雰囲気たっぷりの"Coming Home"は、まさにボビー・ウォマックばりの歌いっぷりで、なんとも感動的。今どき珍しいほど実直で誠実な骨っぽいヴォーカル・パフォーマンスをじっくり堪能させてくれる、オールドスクール・ソウル・テイストたっぷりの、じつにシブいアルバムだ。 A MINUS BUY
Olu
あまり注目されていないようだが、24歳になるハーレム出身のシンガー・ソングライターのデビュー作は、聴き応えのある充実した内容の秀作だ。さりげなくメロウなインストゥルメンテイション、瑞々しいメロディ、深い知性を感じさせるリリック、わざとらしい芝居がかった歌いっぷりのまるでないアルバム。ヴォーカルとソングライティングの両方にドニー・ハサウェイの影響を強く感じさせる。セルフ・プロデュースは、彼のミュージシャンとしての技量のほどを示している。エグゼクティヴ・プロデュースはシャーデーやマクスウェルでお馴染みのスチュワート・マシューマンだが、“A Change”の催眠的なパーカッションから、タイトル・トラックのドラマティックなキーボードまで、それがオル本人の追求しているノリとヴィジョンであることは明らか。そのサウンドは、内省的なヴォーカル・スタイルと同じく、音を押し殺したように控えめなものだ。
そのしなやかな声は、アクースティックなバラッド“Don't Cry"のような曲では、あたかもこの世で最も自然なことであるかのようにコトバの角を削り取り、はっきりと発音する。多くのゴスペル出身のシンガーとちがって、打ち明けるような感じが実に鋭い。ときおり、リリックをまるでお祈りの言葉のように唱え、バラッドから早いテムポのトラックへと力まずなめらかに移る。甘く切ないメロディの曲も粒揃いで、なかでも、自分と別れるという彼女に考え直してくれ、と悩ましく嘆願するヴォーカルをもがくようなサックスで補い、ジーンとさせるバラッド“Sista Why"、痛々しいくらい美しい、献身的な愛の告白“Long Way"、生まれつき麻薬中毒で足が不自由な少女の物語“Baby Can't Leave It Alone"の3曲では、悲しみを湛えた声がちょっぴり身震いし、高みに舞い上がる。 A MINUS BUY
Carl
Hancock Rux
これまでにも詩集を出版し、ニューヨークのポエトリー・スラム・シーンでながらく活動してきたカール・ハンコック・ラックスの処女作は、ヘッドフォンで聴くのに適したスポークン・ワード・アルバム。その深みのある低音が、頭蓋骨のなかで脈打ち、その窪みの隅々まで浸みわたるようだからだ。ラックスの声質には、どこかジミ・ヘンドリックスのギターからディストーションを外したような色合いがあり、冷静さを失っているようだが陽気で、狂暴だが神々しく、つまるところ、これまで聴いたことがないような質感を湛えている。だからと言って、ラックスに先駆者がいないというわけではない。社会問題に関わる鋭いストリート・ポエトリーをファンキーなビートにしたたらせる、というアプローチは、まさに20年前にギル・スコット=ヘロンが、また、ディスポーザブル・ヒーローズ・オブ・ヒップホップリシー時代にマイクル・フランティがやっていたことにほかならない。しかし、ラックスにはヘロンを凌ぐ非凡な技量がそなわっている。その抑揚、非のうちどころのないリズム感覚、並はずれたコトバ使いのセンスには驚かされる。
サウンドに対するアプローチも、その詩を支え、引き立たせるのにふさわしいミニマリストの立場を選択。クセになる反復グルーヴが、ウォー“Low Rider"のパルスを借用した“Miguel”のようにファンクの歴史に敬意を表しながら、詩にアクセントをつけ、加速させる。そのため、ラックスのひどく個人的なワードプレイは、しっかりと中心に位置し、だらけることはない。 B PLUS BUY
Me'shell
Ndegeocello
ミシェル・ンデゲオチェロは、エレクトリック・ベース・プレイの剛腕ぶりと、ときどき息切れはするが、リズムに乗ると十分力強いコントラルトで身を固めた知的なファンカティアーであるはずだった。ところが、驚いたことに、彼女の名を知らしめた≪Plantation Lullabies≫や≪Peace Beyond Passion≫のまなじりを決したアート・ファンク・スタイルは、この3作目で徹底的に無視されている。プロデュースも、デイヴィド・ギャムスンから、カサンドラ・ウィルスンの一連のアルバムで一躍名をあげたクレイグ・ストリートにかわっている。そればかりでなく、これまでの抜け目ないポストフェミニストのポーズや、迫害された同性愛者、麻薬中毒、売春婦、白人女性と付き合って「混乱した」黒人男性についてのリリックも姿を消した。プリンスばりに長ったらしかった曲のタイトルさえも、シムプルなワンワードになっている。
ミシェルはソファにどっかりと腰を下ろし、ベースを大人しく膝に抱え、マイクロフォンを近くによせて歌っている。ワーワー・ギター、筋肉質のドラム・パタン、剃刀のように鋭いベースライン、GO−GOアクセントのリズミカルなライミングは姿を消し、アンプラグドになった音楽はゆっくりした深夜の告白っぽい雰囲気を湛えており、リサ・コールマン(ウェンディ&リサ)のピアノがミシェルのベースを圧倒している。収録曲はどれもラヴ・ソング、それも多くの場合、心理的な障害に挫かれた愛についてのものだが、飾らずにありのままを観察した内容。というわけで、トンガっていたこれまでのアルバムと違って、とっつきにくそうな空気は霧散し、親しみやすいことは間違いないのだが、しかし、どこかじれったさの残る出来映えなのだ。
サウンドは悪くない。はじめのうちはメロディに魅力が乏しいように感じられるけれども、ブラシがけのドラムス、アクースティック、エレクトリック、ラップスティール・ギター、ストリングスが液状に流れ出し、コールマンの味わい深い爪弾きとミシェルの脱臼したフレージングが鮮やかにアクセントをつけながら、なめらかに滑るアレンジメントがジャズっぽい共鳴を花開かせるにつれて、着実に豊かな響きを獲得していく。
愛の醜い側面をみすえたタイトル・トラック、ウェンディ・メルヴォインのあやすようなギターの上をミシェルの声が漂うあたり、思わずハッと息を呑んでしまった。このように高音域の表現を掘り下げると、彼女の声は実に表情豊かで、このうえないカタルシスをもたらしてくれる。しかしながら、“Wasted Time”やジミ・ヘンドリックス“May This Be Love"では、彼女の声の限界をイヤと言うほど思い知らされる。ヴォーカリストとしてのミシェルは、カサンドラ・ウィルスンではないのだ。これまでのアルバムでは、それは問題ではなかった。しかし、このようにペースを落とした設定になると、彼女のヴォーカルはよろめいてしまう。結果として、多くの曲はブツブツ言う単調な低音のつぶやきに色あせていく。まあ、よく言えば、内面の葛藤と個人的な平穏を反映した大人の作品、といったところだろうが、なんだか、ジョーン・アーマトレイディングの亜流に成り下がってしまったみたいで、ファンとしては少し悲しい気分。 B PLUS BUY
Ginuwine
ビリー・ディー・ウィリアムズ風のきっちり刈り込まれた口髭にふちどられた、スケベそうなニヤケ笑い。まさにレイディーズ・チョイス、「セックス中毒」であることを公認するR&Bラヴマンにふさわしいスリーヴ・ショットだ。内容のほうも、まさにソープ・オペラ・ソウルのひどく愉快な悲喜劇で、ジェニュワインのベッドルームの演技は、“Do You Remember"の中盤、音楽が途切れ、彼と自分の娘がソファでいたしていることに激怒した母親が取り乱すところでクライマックスを迎える。
プロデューサーのティムバランドは、ゆっくりと燃え上がるフック、しなやかにシンコペイトするドラム・プログラミング、遠くから轟く雷鳴のようなベースライン、映画的な効果音、優雅でスペイシーなアレンジメントをもって、ひとつひとつのトラックを生々しいスムーヴ・ドラマに変貌させる。特に、スロウジャムのリズム・アレンジメントは、前例のないほど凝りに凝ったもの。ジェニュワインが、どの曲でも、懇願し、嘆き、泣き叫び、うめくのは、女性たちがソウルマンの芝居がかった態度を求めていることを心得ているからだ。そのクリーミーなテナーにははっきりとした限界はあるが、それだけに歌えることをこれみよがしにひけらかしてリフをがなりたてるような振る舞いはなく、語り口は率直で、メロディを優しく慈しむように愛撫し、きっちりと物語を組み立てる。
もっとも、ラヴマンらしくあくまでスロウジャム中心なので、アクースティック・ギターが官能的に泡立つ“Same Ol'G"や、ちかちかとギターがきらめく“So Anxious”、仄暗いシンセとストリングスがきしるように破裂するボレロ“I'm Crying Out”と、鋭く曲がりくねったリズムがヴォーカルを巧みに補足し、ゆったりと波打つように徐々にテンションを築き上げることに成功したトラックもあれば、シムプルで控えめなアレンジメントがかえって声の限界をむきだしにしてしまい、だらけてしまったトラックもある。
踊るハープシコード、クラーベのリズム、けば立つようにスケールを上下するウェス・モンゴメリー風のギターが弾むように交差し、自分を裏切った彼女を信用していいかどうか迷うジェニュワインのヴォーカルもいつになく軽快な、シングル“What's So Diffrent?"のようなグルーヴィなサイバーバウンス・ナムバーがもっとあれば、ずっとメリハリの効いたアルバムになったと思うのだが。 B PLUS Buy
Shanice
シャニース・ウィルスン、というと、どうしても91年のバブルガムR&Bヒット“I Love Your Smile"を連想してしまうけれども、顔に皺も増え、ケバケバしいスリーヴ・ショットのずいぶんな変りようにまずビックリ。もっとも、8年も経てば、当時の無邪気で溌剌とした声や、弾けたバブルガムのりが失われ、ヴォーカル・スタイルはより洗練され、曲で扱われるテーマもずっと成熟した内容になるのは、当然と言えば当然のこと。CHOICE CUTS:“When I Close My Eyes",“Wanna Here You Say",“You Need A Man",“Yesterday",“Fly Away"。
アルバム全体の印象もなんだか地味な感じがするけれども、しかし、じっくりと丁寧に歌いこんでいて、好感が持てる。とくに若手プロデューサーを起用した最初の4曲の出来がいい(なかでも、耳残りするクセのあるメロディを書くスマイリー・キャムベルは、注目に値するソングライター/プロデューサーだ)。ほんのりとゴスペル風味が漂い、テクニックは精確だし、ひとつひとつのフレーズも表情豊かで、抑制が効いており、声色やレインジの選択もそれぞれの曲の持つ情緒の展開をよくとらえている。ヴォーカルに関しては、これまでのところ今年一番のR&Bアルバムだろう。惜しむらくは、アルバム後半に進むほど曲の質が落ちていき、ズルズルとだらけていってしまうことか。 B PLUS BUY
SLEEPY'S
THEME:The Vinyl Room(Bang U)
DESTINY'S
CHILD:The Writing's On The Wall(Columbia)
アルバム全体を通じて、デビュー作ほど鮮烈な印象をあたえはしないが、ヒューストン出身のティーン・カルテットがアン・ヴォーグの正統的な後継者であることを十二分に証明。華麗な半音階の囁きでハーモニーを引き立たせ、スタイリッシュにふるまい、オールスター・プロデューサーズとのコラボレーションをこれ見よがしにひけらかしたりしない慎みもある。 B+ Buy
JAZE:Jaze(Universal)
ちょっとテイク6っぽいゴスペル・ジャズの風味も入ってはいるが、ずっとオーソドックスな本格派ネオソウル・ハーモニー・グループ。バラッドよりも、70年代ファンク・スタイルのリズム・ナムバーのほうが冴えている(クレジットを見れば、ラサーン・パタースンの相方ジェイミー・ジャズの名前が)(“It's
Alright",“I Don't Really Care",“Good
To Your Heart",“Love After Love")。 B+ BUY
LEE
FIELDS:Let's Get A Groove On(Desco)
ヴィンテージなアルバム・ジャケットとサウンドにもかかわらず、これは60年代末のJB信者によるオブスキュアなLPのリイシューではない。恐ろしいことに、まっさらな新作である。シンセサイザーやサムプラー、ドラム・マシーンが出現する以前、ファンクが荒削りで品のなかった時代に回帰することを目論むフィールズは、その言葉通り、パーカッションのようにリフをうちつけるホーンズ、チキンスクラッチ・ギター、コール&リスポンス・ヴォーカルと、“Sex
Machine"当時のファットバック・ファンクを全開、荒々しいうなりっぷりも当時のJBそのままだが、物憂げな会話調のうめき声はむしろチャールズ・ライトようにも聞こえる。反動と呼ぶなかれ。ダーティ・サウス・ヒップホップがダウンホーム・ファンクを最前線に送り込む現在、フィールズのグルーヴはそう思われているほどレトロではないのだ。 B+ BUY