正統四法学派の考え方

 イスラムの中に正統四法学派というものがあります。これは正統派が採用している4つの主な法学派のことです。こう書きますと、正統派には4つの宗派があるようにおもわれがちですが、実は、法学派の違いとは、教義・信仰に関する根本的な問題ではなく、ただ単にどの法学を採用して宗教儀礼や行動を行いますかという程度だと思ってください。日本流に言えば、4つの冠婚葬祭と生活の手引き書があります。どれでも選んでくださいという程度です。イスラム流に言えば、イバーダート(礼拝、断食、巡礼などの宗教儀礼)とムアーマラート(生活一般の規範)の手引き書です。
 その四法学派とは:

法学派名 元となった法学者名 特徴 主な地域
マーリキ派 Ma:lik ibnu Anas 預言者のスンナが生きている当時のマディーナを重要視 北アフリカとアラビア半島東部
ハナフィー派 Abu Hani:fah 類推(キヤ−ス)の門戸が広い。 トルコ、中央アジア、南アジア、東アジア、イラクなど
シャーフィイー派 al-Sha:fi'i: 理詰めの法解釈 マレーインドネシア、シリア、エジプト、東アフリカ
ハンバリー派 Ahmad ibnu Hanbal コーラン・ハディースの文字通りの忠実な解釈 サウジアラビア

(法学派に優劣は無い)
 巷でよく、どの法学派が一番正しいかとか、自分の属する法学派がいかに他の法学派より優れているかと議論をしている場合がありますが、それは全く無意味なことです。上記4つの法学派は、それぞれの法解釈の基準のようなものがあり、また、その法の裏づけとなるコーランやハディースもはっきりとしているからです。慣行のマーリキ、類推のハナフィー、理詰めのシャーフィー、厳格なハンバリー、それぞれ基準が違うために法が違ってくるだけでどれが優れているというものではないのです。

(社会との協調が重要)
 4つも法学派がありどれも正しい手引書のようなものであるといえば、何を採用してもいいのかということになります。ところが、そういうわけにはいきません。イスラムは社会を重要視します。一人のものが社会に協調して生きていくことは大切なことなのです。自分が属する社会が採用している法学派を自分も採用するようにしていってください。
 例えば:宗教儀礼イバーダートにおいて、シャーフィイー法学が支配的な社会の中で、自分だけマーリキ法学を採用した場合、そして自分がイマームをして、礼拝の冒頭を「アルハムドリッラー・・・」とはじめれば、後ろで礼拝しているマッモームたちから苦情が殺到するでしょう。また、イマームをしなくとも、礼拝の列に他の人と違う作法の者がいれば余計な詮索をさせることになります。社会との協調性を重要視するイスラムにとって、こういうことはあまり望ましくはありませんね。
 さらにムアーマラートに至っては、刑法、商法なども扱っていますから違った法学派を主張することにより社会に混乱が生じることは簡単に想像できることと思います。

(日本の場合)
 日本はどの法学派を採用したらよいのでしょうか。日本にはさまざまな国を経由してイスラムが入ってきています。主なものとしては、戦前から移住してきたトルコ系の人たちのハナフィー派、中国系のハナフィー派、また、婚姻による入信や、海外で入信した日本人のかなりの数は、インドネシア・マレーシアにおけるもので、それはシャーフィイー派です。それ以外に、サウジアラビアの影響を受けてハンバリー派、アフリカ人の影響を受けてマーリキ派と様々です。これほど様々な法学派が一つの国に存在するのも珍しい状況です。だれがどの法学派を採用しているのか、統計を取ることもできないのが日本の状況です。ただ、私の独断と偏見でものを言わせてもらえば、60パーセントのハナフィー派、30パーセントのシャーフィイー派、他10パーセントでしょうか。ですから、このホームページでは、ハナフィー派とシャーフィイー派のみを対象に話を進めていきます。