[長 岡]

長岡は結構拓けた街。女子高生のスカートが短いらしい街。

 2番目の独立リーグ構想が北信越から昨年春、立ち上がった。独立リーグというものがそう順調にいかない事を先発の四国アイランドリーグが身をもって示していた最中にだ。しかし、経営面はともかく独立リーグというもの自体は大いに注目された。企業スポーツの衰退により枯渇する野球界の土台を「何とかしないと」という思いは多くの野球人(広い意味で)が抱いているからだ。
 名前を北信越BC(Baseball Challenge)リーグという。北信越とは、北陸(富山、石川、福井)と信越(長野と新潟)で構成される地域を指す。
 新しい野球リーグを興すという事が単なるビジネスではないという意識は当然、あると思う。だからアイランドリーグの動静をBCリーグがどのように見ているのかはわからないが、四国に独立リーグが「ある」という事実が当事者を駆り立てている事は確かだろう。個人的にBCリーグがアイランドリーグよりも「確か」なものに思えたのは、旗振り役がJリーグやbjリーグで実績のあるアルビレックス新潟だったからなのだが、これには04年の球界再編騒動の際「アルビレックスの野球チームを設立してNPBに新規参入したかったけど楽天の加入が認められて事態が収束したから独立リーグの設立に切り替えた」という背景があったと言われているらしい。


球場の周りに出店。こうでなくては。

 そのBCリーグの盟主的な存在である「新潟アルビレックスベースボールクラブ」だが、いきなり最下位を独走する。で、9月。
 リーグ全体の入場者数は目標に届かなかったが、アイランドリーグの1年目よりは多かった。これはアイランドリーグが四国の人達にとって「降ってわいたような」ものだったのに対し、BCリーグは地元で実績のある組織が立ち上げたものだというのが大きい気がする。あとリーグが商圏とする地域が四国よりも大きい事、「本州」である事がじんわりと効いているのかもしれない。
 最下位と言えど新潟はリーグでは最多の観客を動員したという事で、一応盟主らしい振る舞いではあった。県では「2番手」である長岡市の悠久山球場では、正面にたくさんの出店が並び、何よりどの店も良く声を出し、店が並んでいるだけの光景よりも活気があった。肉屋さんだかの店の人が唐揚げを一個くれた。
 そろそろ試合の話がしたいのだが、新潟のファンによる「後藤監督やめないで」の横断幕がいきなり目に入ってきて僕は混乱した。普通こういうのは好成績を残してファンからの信頼も厚いけど何か上とモメて...などという場合に起きるものだが、不成績の責任を取って辞めようとする監督に対しなぜこういう声が起きるのだろう、と。


やたら横長な悠久山球場のスコアボード。

 あるいは単にこういう事をして「プロ野球」のファンみたいな気持ちに浸りたいのか...などと意地悪な考えも浮かんだが、当時のファンの意見には「チームは生まれたばかり。監督も経験がない人なのだから最初から上手くいかなくて当たり前。最下位だからと言って辞める事はない」というものがあり、なるほどそれが一番説得力がある、と納得すると同時に、やる方も観る方もその振る舞いを模索しているような様子に、独立リーグというものの不確かさを見る思いがした。
 いい加減に試合の話がしたいのだが、対戦相手である信濃グランセローズのスタメンに「背番号78」の選手がいて一瞬混乱した。選手が24人のチームでなぜ78なのだろう。78番を付けた選手というとオリックスブレーブス時代の門田博光を思い出すが、その門田に心酔でもしているんだろうか。その反面コーチが19番を付けていたりして、この辺はインディーズ野球のアバウトさかと思ってみたりする。19番のコーチとは元ファイターズの島田直也。そして監督は同じくファイターズで「アメージングルーキー」と呼ばれ一世を風靡した木田勇。更に球団社長が長くファイターズのフロントにいた三沢今朝治氏。その縁で木田氏が監督に就任したらしい。


アルビレックスBCのサポーター。結構来ている。

 僕がファイターズファンだった少年時代に熱狂したあの木田である。何より嬉しいのが現役を引退した途端に太りだす人が多い中、当時のスマートさとあまり変わらない姿を保っている事だった。引退後、野球から離れて一般の仕事をしている人ほど若さを保っている傾向があるのは何故だろう。という訳で当時の「ファイターズ閥」が占めている信濃に僕が傾倒するのは自然な成り行きだった。ちなみにリーグで唯一、信濃という旧国名を名乗っているのは、廃藩置県以降の味気ない名前よりもはるかに求心力のある名前だからだろう。
 ようやく試合の話だが、三回表に信濃が1点を先制する。三番ショート泰楽(たいらく)のタイムリーによるものだが、その前に捕手柳田の捕逸による進塁があった。一回にも送球が悪く二盗を許し、二回には小野が右前ヒットを放つも二塁を欲張りアウトになるなど、0-1というスコア以上に野球がアレだな、という雰囲気が付きまとい、終わってみたら大差が付いているんじゃないかという予感がした。
 信濃の先発、藤原は腕の振りがきれいで「野球教室」でも見ているような感じ。打球はライナーとゴロが多く、三振は少ない。突出した力のある選手がいない中で、基本に忠実な野球をしているという正に野球教室。実際、選手には地元の子供たちで行う野球教室に参加する等、つまり地域貢献という意識が野球の実力以上に求められ、むしろ野球の実力があってもそういう活動に積極的でない選手は要りません、というスタンスをこのリーグは前面に出している。自分の実力を上げる事を最優先にしなければならない筈の独立リーグの選手に、その方針がどう受け止められているのかはわからない。しかしすべてが「不確か」である独立リーグにおいては、どんな考えもアリだと考えるべきだろう。


暑いので日陰に退避。

 もちろん名前で客を呼べる選手などいないが、今日の観客は1,500人らしい。地域貢献を何よりも優先する考えが営業的には間違っていない事を一応示している。あえて最もネームバリューの高い選手を挙げるならアメリカの独立リーグにいた事もある新潟の根鈴雄次か。今日は五番DHで出場しているが、五回までノーヒット。五回が終わると何かやるのかな?と思っていたが、地元の少年による「送球コンテスト」というのをやっていた。
 連勝中の勢いか、そのうちボロが出て、と思われた新潟だが0-1をキープ。それどころか同点に追いついたのは七回。ヒット、バントを野選、四球、満塁から次の打者一塁ゴロで本塁フォースアウト。一死満塁でピッチャー涌島に交代(でかい)。近くで信濃のファンが携帯でしゃべっているところによると「満塁でもゲッツーで0点だよ」と余裕の弁。あ、これが当事者の新潟アルビレックスBCに対する認識かと妙に納得。


水島漫画付きで心強いパンフレット。

 代打山田。ゲッツーで0点にするなら投手か内野に速いゴロを打たせたい。初級低目ボール。高目ボール。低目ボール。安易にストライクは投げない。だけどもうストライクしか投げれない。外ストライク。バット振らない山田。見応えのある探り合い、と思いきやあっさりピッチャーゴロ。なるほど当事者はこんなシーンをいつも見ているわけか...と思いきや落球。でもこれが今日の新潟唯一の得点だった。
 「野球教室」みたいな試合が俄然盛り上がると、信濃のショート泰楽の、フライ背走キャッチからのゲッツーというインディーズ離れしているのかインディーズならではなのか良くわからないがとにかく今日一番のスーパープレーが飛び出し、俄かに雰囲気がプロ野球らしくなる。盛り上がるまま九回信濃の6得点猛攻で終了。なるほど、これが今の両者の日常か。打席の途中で投手交代し、いきなり暴投で1点。また投手交代という不可解な采配があり、この「生まれたばかりのチーム」を預かる具体的な苦労を見る思いがした。
 しかし、こういう「ゼロ」からのチームを育てていく楽しみは、他のどのチームのファンにも味わえないのではないか。新潟ファンの「監督やめないで」の声は、そういう「共に歩んで欲しい」という気持ちの表れではないかと思う。
 BCリーグがひとかどのプロリーグになった時、何かしらの新しいモチベーションが必要になってくるだろう。その時、新潟アルビレックスBCはそれを牽引できるだろうか。一番弱いチームが、最も大きな使命を持っている気がする。(2007.9)

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