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1984年8月4日の「SUPER ROCK '84」から、31年。 遂に、この日がやってきた。 あの暑い夏の日から、もう30年以上経過した事がまるで嘘みたいだが、マイケル・シェンカーは今年、60歳。 高校生だったあの頃から、自分も今やただの中年である。 時間はいやが応でも、意識せずにいられない。 だが、今回はその高校生の頃でさえも見られなかった"神"マイケル・シェンカーとグラハム・ボネットという稀代のボーカリストの合体が為ろうとしているのだ。 マイケル・シェンカー・グループ(以下、MSG)の3枚目のスタジオ・アルバム「ASSAULT ATACK(黙示録)」(1982年)。 元レインボーのグラハム・ボネットが参加した事で、大きな注目を浴び質の高い楽曲は賞賛された。 だが、当時の主な情報媒体であった音楽雑誌(「BURRN!」創刊前だったので「MUSIC LIFE」ぐらいしかなかった)から遅れて入ってきた情報は「グラハム・ボネット、MSG脱退」であった。 後々(インターネット時代になってから)知った事だが、イギリスで一度か二度くらいライヴをやったもののそのライヴ途中(シェフィールド工業大学公演)でグラハムが勝手にステージを降りた(逃亡)事でバンドは空中分解。 残りのツアーは、前メンバーのゲイリー・バーデンを呼び戻し続行したと聞いた。 そんな状況ゆえ、マイケル・シェンカーとグラハム・ボネットが再び、相まみえるなんて事は夢のまた夢。ステージで共演なんて事は天地がひっくり返っても...であったのだ。 だが、再合体の萌芽は2006年に発表されたMSGの25周年記念アルバム「TALES OF ROCK'N'ROLL-TWENTY-FIVE YEARS CELEBRATION」で既にあった。 このアルバムでグラハムは「ROCK'N'ROLL」という曲を歌っていたのである。 要するに、本人達の間に最早、わだかまりなどなかったのかもしれない。 それから、9年。− 再び、時計が動き出した。という事だろうか。 緊張と期待の中、来日公演初日 ― 名古屋公演の前日 ― ZEPP NAMBA OSAKA公演で遂に奇蹟の饗宴は実現した。 33年ぶりである。 公演直後、いち早く、グラハム・ボネットのFacebookにて、ステージ袖から二人の共演の様子を撮影された映像がアップされ私はその光景に心震わされた。 あの80年代の日々、世界中のHR/HMファンの願った夢が、ここ日本で叶えられたという事実が嬉しかったのである。 しかしである(笑) 昨夜、実現したから本日の名古屋もそうである?と絶対に云えないのがマイケル・シェンカーである(苦笑) かって、この日本で何度も途中でステージを放棄した事があるという”前科”を覚えている人は少なくないだろう。 今回の共演も、当日、その場にならないと判らない ― 実現するのかどうなのかと懐疑的であったのは決して大げさな事ではない。 依然として、期待と不安が入り混じった気持ちのまま私も含め、多くのファンは会場であるダイヤモンドホールへ向かった。 ところで、今回、私は奇跡的に10番代の整理番号のチケットを入手出来ていた。 ゆえに最前列も夢ではなかったのである。 だが、オールスタンディング、かつ ほぼ満員と考えられる状況。マイケル側はかなり後ろから圧迫されるのは必至。と思われるだけに、会場入りするまで「何処で観るか?」という贅沢な問題に私は悩まされていた。 会場が入居する雲竜FLEXビル前に到着すると、新旧MSG Tシャツを中心としたブラックTシャツの一団が既にいっぱいであった。 5階のダイヤモンドホールへと繋がる階段を上がっていくと、ここも既にトンデモナイことになっていた。 階段にぎっしりと人が.....。整理番号順に並んでいるのだが、私の番号の処(つまり5階あたり)へたどり着けるのか?どうかさえ怪しいぐらい混み合っていた。人の波を掻き分け掻き分け、階段を上り、なんとか所定の番号位置に立つ事ができた。 やれやれである。その時、開場15分前ぐらいだっただろうか。 だが、そこから開場までの15分間に"灼熱地獄"という地獄が待っていた。 狭い場所に許容量以上の人間がびっしり、かつ風通しが非常に悪い。ほとんど無風状態である。 私は小さな団扇を持っていたのでなんとかその場をしのいだが、ここで30分、1時間と並んでいる人達は堪らなかった事だろう。 開場時間近くになって、入り口近くに業務用扇風機がセットされたが、時既に遅しという感じだった。 「今頃?」という感じである。それにこんな風も下の階には全く届かないに違いない。全く焼け石に水である。 とにかく、開場を待つには環境が悪すぎた。 開場時間 ― 18:00。 私はすぐに入場出来たが、列の最後尾が入場を完了するまで20分ぐらいは掛かったのではないだろうか。 入場後、私はすぐ物販コーナーへ向かった。早い整理番号ゆえ、其処にはまだ誰も客は居なかった。こんな事も初体験である。 そして、気に掛けていたMSGロゴのTシャツの提示を見ると、既に「Sサイズ SOLD OUT」と書いてあった。 開場前に先行発売の時間が設けられていたが、そこで売り切れてしまったのだろう。 私はMサイズを選び、MSGに出会って以来、30数年間で初の「マイケル・シェンカーTシャツ」を手に入れる事が出来たのだった。 だが、この物販コーナーでのわずかな時間によって、最前列で観るという機会を失ってしまった。 案の定、マイケル側は其処だけ人の密集度が異常に高かった。その後の展開を考えると、自分が其処に加わる勇気は持てなかった。 結局、反対側のやや中央寄りの2列目に自分のポジションを確保した。ここならかなり見易そうだと確信したからである。 開演までの1時間。これが長かった(苦笑) ハート、ガンズ、バドカン、ブラック・サバス等のオールドロックがSEとしてステージ左右のPAスピーカーから流れる中、私は例によって、ずっと文庫本(「銀河英雄伝説 黎明編」)を読み続けた。 時計の針が19:00を指すと同時にステージが暗転した。 すると同時に始まった大きな手拍子が会場の隅々まで拡がっていった。 スピーカーからは、ライヴ開始を知らせるSEが響いていた。 やがて、バンドメンバーのConrado Pesinato(ギター)、Chase Manhattan(ドラム)がステージに現われた。 我々は彼らを拍手と声援で迎えた。所定のポジションについたメンバー達。ギターのConradoが手に取った年季の入ったストラトを奏でる。 ロングトーンとディレイで装飾された音がどこまでも響き渡った。またギターにはKORGのKAOSSILATORまで装着され、それを触る事によって摩訶不思議な音色が流れ出てきた。 それがディストーションで彩られた音に変わると、今度はバンドの紅一点、Beth-Ami Heavenstone(ベース)が現れた。 胸の谷間が目に眩しいミニスカート姿で、それだけで大歓声である(笑) ドラムのカウントにより、軽快な、聞き慣れたリフをギターが刻み始めると会場の誰もが何の曲が始まったのかすぐに気づいた。それだけで大歓声である。ギターリフに乗って、遂にあの男がステージに登場した。グラハム・ボネットである。 「All Night Long」は、もうそれだけで高校生の頃を思い出して、不覚にも泣きそうになってしまった。 この曲を収録するアルバム「DOWN TO EARTH」はリアルタイムではなく後追いで聞いたが、RAINBOWでいえば「Rising」に続いてあの頃、最も聞いたアルバムであった。それだけではない。アルカトラスとして、ライヴ・アルバム(ビデオ)「Live Sentence」で熱唱していた事でも思い出深い。 その頃の事が蘇って感極まりそうになったのだ。 だが、もちろんそんなしんみりした曲ではない。その証拠にサビの部分で「All night long」と他の客と共にコール&レスポンスで大合唱。 1曲目から凄い盛り上がりにグラハムも笑顔であった。 2曲目も「DOWN TO EARTH」アルバムから「Love's No Friend」であった。またまた懐かしい。 これもサビの部分でグラハムがマイクを客席に向けるので「Love's No Friend」と大合唱となった。 しかし、御年67歳にしてこの声量。血管もブチ切れるのではないかというぐらい青筋を立てて 歌う姿は正に壮絶という言葉が相応しい。 グラハムのMCの後、紹介されたのがアルカトラスのスティーヴ・ヴァイ時代の名曲「God Blessed Video」であった。 目の前の、Conradoがあの有名なリフを弾き出した。 この曲の特徴は、所々に出てくるタッピングフレーズであり、特にギターソロは見所であるのだがConradoはギターに装着したKAOSSILATORを操作し、エレクトリックな効果音を出す事でギターソロの始まりを示した。 だが、その操作に必死になりすぎたのか、はたまた機材の調子が悪かったのか、ギター本体でのプレイに入るのに手間取り焦る表情が垣間見えたのも、近距離ならではだろうか。 そこからはメロディアスなレガートとタッピングフレーズが流れるように続くのだが、さすがにヴァイのような奇抜さと巧さは無かった。 その後のMCで、グラハム自ら「ガールフレンド」と宣言(?)したベースのBeth-Ami Heavenstone、今回のバンドメンバーでファンから絶賛された新参のドラマー Chase Manhattan、ギターのConradoを改めて紹介。 4曲目として始まった曲はRainbowの「Makin' Love」であった。ただ ただ懐かしいという他なかったが、次の曲がコールされると観客は熱狂に包まれた。 ラス・バラードのカバー曲「Since You Been Gone」である。ラス・バラードというより、もはやRainbowの曲と言っていいだろう。 サビの Since you been gone Since you been gone I'm out of my head can't take it Could I be wrong But since you been gone You cast your spell so break it Oh-oh, oh-oh, oh-oh, oh-oh Ever since you been gone はもちろん、場内、大合唱である。 これだけ、一緒に盛り上がれる曲ってやっぱり素晴らしい。 曲が終わった後も、場内はその興奮に浸るように大きくざわめいていた。 6曲目にグラハムから紹介されたのは「Suffer Me」。アルカトラス・ナンバーである。 ミディアムテンポのバラードであるが、それゆえ歌唱が重要視される曲でもある。 だが、さすがのグラハムも寄る年波には勝てなかったのだろう、高音を多用せざる負えない部分は明らかに声は出ていなかった。 声が出にくい部分は、今までもマイクを遠ざけて歌う事も多かったが、この曲ではそれで対応するのにも追いつかない感じであった。それだけに全盛期に聞いてみたかった。と思わざるを得なかった。 引き続くMCでは、グラハムから推され、Beth-Ami嬢がマイクを取った。 すると、いきなり日本語で喋り始めたのには驚いた。片言というレベルではなかったのも驚きを大きくした。後半は英語になったが、どうやら新曲がiTunesでリリースされているので聞いてくれとかなんとか....と言っていたようであった。 その間にグラハムはローディから手渡されたテレキャスターを肩に掛け、次の曲に備えていた。 やがて始まったのは、コードストロークから始まるロックンロールライクな曲。 これがその新曲「Mirror Lies」であった。この曲でのConradoは自分が携わった曲だけに、生き生きとして弾いていた感じがしたのも決して気のせいではないだろう。 曲後のMCでは、グラハムは再びBeth-Ami嬢にマイクを回す。 すると小声で「あたたかいね」と発して、場内は大きく盛り上がった。 熱い盛り上がりそのままに「Night Games」が始まった。 「Night Games」というと、どうしてもこの曲をカバーした西城秀樹を思い出さずにはいられない。 特に、最近、伊藤政則氏と対談した様子がTVで流れたというのもあるが、脳梗塞で倒れてリハビリ中の西城秀樹と7歳上の、今も元気に歌い続けているグラハム・ボネットの対比は余りにも残酷すぎたのである。 そんな感慨を感じながらも、ここでもサビの「Night Games」は大合唱だ。私も拳を振り上げ、大きな声で歌った。 「Night Games」のエンディングが途切れること無く、次にドラムの連打が始まった。 最後の曲はRainbowの「Lost in Hollywood」である。個人的に、大好きな曲だけに心躍ったが、他の多くの客もそうであった。 私はイングヴェイとの来日公演の映像が脳裏でフィードバックした。これも、もう30年以上前のものだ。 またこの曲での、ドラムは特にパワフルであったのも特筆すべき事である。コージー・パウエルを彷彿させるともネットで言っているのを見掛けたが、ある意味、納得出来る意見である。単純な3点セットのドラムキットで、それ以上のものを表現してみせた。という感じである。 こうして初めて体験したグラハム・ボネットのライヴは、予想以上の熱さと盛り上がりを持って終わった。 終わっても尚、続く手拍子はその熱さを物語っていたのだった。 |
SET LIST | |
◆ | Intro |
1 | All Night Long (Rainbow) |
2 | Love's No Friend (Rainbow) |
MC | |
3 | God Blessed Video (Alcatrazz) |
MC | |
4 | Makin' Love (Rainbow) |
5 | Since You Been Gone (Russ Ballard cover) |
MC | |
6 | Suffer Me (Alcatrazz) |
MC | |
7 | Mirror Lies (Graham on Guitar) |
MC | |
8 | Night Games |
9 | Lost in Hollywood (Rainbow) |
太文字の曲「Mirror Lies」はNEW EP『My Kingdom Come』収録の新曲で、グラハムがギターでも参加 |
Francis / Wayne / Doogie / Michael / Herman |
喧騒が続く中、ステージ上は多くのスタッフが集い、次のMICHAEL SCHENKER'S TEMPLE OF ROCK公演の為に忙しく動き周っていた。 グラハム・ボネットの公演中から気になっていたが、ステージ後方には明らかに機材と判る物が布で隠されていた。 この機材はもちろんMICHAEL SCHENKER'S TEMPLE OF ROCKのドラムセットであり、ギターアンプ、ベースアンプであったのだが、布を引っ剥がすとそれは姿を表した。機材をセッティングするのに忙しいスタッフから大きな声が飛ぶ。 だが、そんな慌ただしい時間も、わずか10分間で終了した。 私は複数のバンドが出るライヴは最近、あまり見ていないがこの機材チェンジの時間の短さは異例な事であった。 スタンディング・ライヴなだけに、このサービス?は有り難かった。LEO MUSICのスタッフに感謝である(笑)。 ニューアルバム「SPIRIT ON A MISSION」のジャケットを模した大きなフラッグが、ステージ後方を彩り、私達はバンドの登場を今か今かと待ちわびた。 SEとして流されていたRUSHの曲が途中で打ち切られ、ステージが暗転。 左右のPAスピーカーから、クラシカルな曲が流れ始めると、大きな歓声と共に手拍子が始まった。 暗闇の中、次々とステージに現れるメンバー達。拍手で迎える我々。 目前にセットされたキーボードにWayne Findlayがポジションを固めた。 Wayne Findlayはここ、10年ぐらいずっとマイケル・シェンカーに協力しているバンド最大の功労者である。 ウエインが、お馴染みのメロディをキーボードで奏で始めると、場内は熱狂した。 そして、そのメロディにかぶせるようにあの叙情的なイントロを弾きながらマイケル・シェンカーがステージに現れると、場内の体感温度はあきらかに上昇したのだった。 最後はボーカルのDoogie Whiteが勢い良く、ステージに雪崩込んできた。 ディストーションに溢れたリフが重戦車のように刻まれ始めると、途端に物凄い歓声が。それは「Hey Hey」という掛け声に変わった。それだけ1曲目「Doctor Doctor」の破壊力は物凄かったのである。 ドゥギーが歌い始めると、場内全体が歌っているような錯覚を覚えるほどの大合唱になった。これまた凄い。 「Doctor Doctor」と云えば、MSGのアンコール曲であるイメージが強い。ライヴの総まとめをする曲である。 だから、盛り上がって当然なのである。いきなりトップを持ってくるバンドの目算は大成功であった。 2曲目はニューアルバム「SPIRIT ON A MISSION」から「Live and Let Live」。 場内の温度を冷ます事なく、疾走感に溢れたリフが心地良い。マイケルが中央に寄ってきた事でようやく生マイケルを近くで堪能できたのも嬉しかった。 だが、お馴染みのリフが「Lights Out」の始まりを伝えると、2曲目を超える熱狂が場内を包んだ。 思えばこの曲を生で聞くのは初めてである。感激が身体を貫いていく。 「Lights out, lights out in london」 で再び、大合唱。この曲を歌う時が来るなんて、去年の自分ならあり得なかったかもしれない。 流麗なマイケルのギターソロが心に響く。アウトロなんて最高だった。 4曲目「Where the Wild Winds Blow」はアルバム「BRIDGE THE GAP」からである。 イントロこそ、地味目だが、サビのメロディラインは悪くない。ただ「Lights Out」に比べると観客もバンドの演奏を冷静に見ている感じであった。 曲終わりと共に、ドゥギーが目の前にやってきた。一斉に周りからは声援が飛ぶ。 それを確認するようにマイケルがお馴染みのリフを弾き始めた。 「Natural Thing」は言うまでもなく、UFOの代表曲の一つである。それだけに客席も大いに盛り上がる。 「Natural Thing」からブレイクなしに次のMSGの「Victim of Illusion」へと続いた。 ドゥギーが率先して、客を煽り、盛り上げていく。 結果的にMSGからの選曲は少なくなってしまっただけに、この曲のセット入りは貴重でもあった。 後半のギターソロのフレージングも、実にマイケル・シェンカーらしい判りやすいメロディアスなものであったのも素晴らしかった。 熱演の後、マイケルはDEEN製のフライングVに装着された金属チップ"ハウラー"を使い摩訶不思議な音を出した。いわゆるボトルネック的な使い方をして音を出しているようだが、これをマイケル曰く「ハウラー奏法」と言うらしい。 (何の曲だったか忘れたが、今回の公演でボトルネックを使う場面があった事も付け加えておく。) そんな「ハウラー奏法」で摩訶不思議な音を我々に誇示するよう放射する。 マイケルらしいイントロを終えて、8ビートの低音源リフが次なる曲の始まりを伝える。 スコーピオンズの「Lovedrive」であった。これは同名タイトルのタイトルトラックであり、マイケルがゲスト参加した曲でもある。 またこの曲では、遂に目の前にマイケルがやってきてくれた。そして― ソロをこれでもかと弾き倒してくれたのが感激をより大きくした。 まさに至極の瞬間。「SUPER ROCK '84」ではあんなにステージが遠く、指先ぐらいの大きさにしか見えなかったのに、そんなマイケルが目の前、わずか2mぐらいの位置でフライングVを弾きまくっている。 感激は一入であった。 1曲目から、まるでメドレーのように休みなく続いた演奏もここでひとまず小休止。 ドゥギーがマイクを取り、喋り始めた。 勢い良く元スコーピオンズのFrancis Buchholz、Herman Rarebellを紹介し終わると、次はその流れでスコーピオンズの「Coast to Coast」を演奏し始めた。 これも「Lovedrive」アルバムで、マイケル・シェンカーが参加した3曲のうちの1曲である。 しかも、マイケル・シェンカーがメインのインストである。 マイケルとウェイン、フランツの3人がステージに横並びし、ユニゾンでフレーズを弾く。気持よく音に身を委ねる事が出来る "神"マイケル・シェンカーを堪能できる至高の時間である。 マイケルはステージを移動しながら客を煽り、当然、目の前にもやってきてくれた。 9曲目はニューアルバムから「Vigilante Man」。曲名を力強く宣言したドゥギーによって勢いが増していく。 ニューアルバムを代表する曲であるだけに、客の反応は思いの外、良い。ドゥギーの煽りによって拳を振り上げる客も大勢だ。 MCを挟んで10曲目「Saviour Machine」もニューアルバムの曲であった。 ミディアムテンポな曲だけに客の盛り上がりは薄かったが、マイケルの叙情的なギターソロからの速弾きなどは聞き所も多かった。 だが、次にドゥギーが高らかに曲紹介したUFOの「Shoot Shoot」では客の反応も大きく、盛り上がった。 サビの部分の大合唱はもちろん、ドゥギーの煽りによる「Hey」の掛け声と拳突き上げは曲の盛り上げに相乗効果以上のものを与えたのだった。 (UFOやスコーピオンズの名曲を惜しげも無く披露し、マイケル・シェンカーの演奏で聞くことが出来る"多幸感"は何者にも代え難いものである。) 曲終わりのMCで唐突に「ロニー・ジェイムス・ディオ、ジョン・ロード、コージー・パウエル」の名を出すドゥギー。 ロック・レジェンド達の名前に、当然ながら我々ファンは盛り上がらない訳がない。特にMSGのバンドメイトであったコージー・パウエルの名前には大きく歓声が上がっていた。 彼らロック・レジェンドに捧げる曲として始まった12曲目「Before the Devil Knows You're Dead」。 「Temple of Rock」アルバムからの曲である。ドゥギーは、ロニーのシンボルマークでもある"メロイックサイン"を掲げて熱唱したのだった。 13曲目は、ドゥギーの次曲のメインメロのアカペラから始まった。「BRIDGE THE GAP」アルバムからの選曲で「Lord of the Lost and Lonely」である。 マイケルの極上なトーンに我々は酔いしれたのだった。 そして ― 時は熟した。 歌い終えたドゥギーが、マイクを取り「1979年 〜...レジェンド ミスター グラハム・ボネット」と紹介するやいなや場内は熱狂のるつぼと化した。グラハムの姿が見えるとそれは頂点に達し、マイケルと肩を組むとそれは悲鳴にすら変わった。 その姿を記録に収めようと一斉にスマフォのカメラがステージに向けられた。 そんなグラハムが曲名を告げた「Desert Song」。 遂に夢が叶った瞬間であった。 33年の時間を超え、マイケル・シェンカーのギターで、グラハム・ボネットが歌う。有り得ないと思われていた奇跡が叶うのだ。 マイケルがあのミュートしたリフを弾き始めだけで、「Hey Hey」と掛け声が物凄い。間違いなく、今宵一番の盛り上がりであった。 マイケルとグラハムのこの上もない笑顔も素敵である。かってこの二人に、わだかまりがあったなんて事が信じられないくらいだった。 演奏が終われば、歓声はより大きくなり、マイケルとグラハムが抱き合った瞬間、私は涙がこぼれそうになった。(前夜の大阪公演でもここまでしなかった!) 客席に手を振り、笑顔を残しステージを降りていったグラハムに我々は声援を贈った。 ステージに復帰したドゥギーが再び、グラハム・ボネットの名前を高らかに告げ、労をねぎらうと、最後のバンドメンバー、Wayne Findlayを改めて紹介した。 するとマイケルがあの有名な曲のリフを弾き始めるのだった。スコーピオンズの「Rock You Like a Hurricane」である。 ウェインはキーボードを離れ、ステージ中央に移動した。マイケルのバッキング・リフに乗せ、イントロのメロディを弾く。 そう、ウェインはスコーピオンズのマティアス・ヤプス役なのだ。あくまでもマイケルはバッキング。つまり、兄であるルドルフ・シェンカーと同じ役回りなのが心憎い。しかも、マイケルの横にいるのは、そのスコーピオンズだったフランツである。 ウェイン、フランツ、マイケルが、スコーピオンズをコピーするようにお馴染みのアクションを行う。 私にとっては、マイケルと同様、31年ぶりにスコーピオンズが目の前に降臨した気分であった。 「Rock You Like a Hurricane」の大合唱も感動的で、それは私に「SUPER ROCK '84」での光景を思い起こさせたのだった。 本編最後となったのはこの曲 ― 「Rock Bottom」。言うまでもなくUFOの曲である。個人的にもリフだけはコピーした大好きな曲であった。 この曲の魅力はなんと言っても後半のアドリブ感満載のマイケルのギターソロである。 メロディアスでありながら、フラッシー。日によってフレーズが全く違う事も珍しくないこの演奏、今夜もマイケルの好調ぶりが伺えるものであった。 もう絶品としか言い様がなかったのである。 「Rock Bottom」で本編を終えたメンバー達。挨拶を終え、ステージを降りるかと思いきや、そうではなかった。 手拍子に推され、そのままステージに残ったメンバーを代表してドゥギーが後、何曲聞きたいか?我々、観客に指でアピールして尋ねた。1本、2本、3本.....アンコールは3曲に決まったようである。(もちろん、初めからその予定であったのだろう。だが、こういう演出も一風変わって嬉しいものである。) するとドゥギーはアカペラで、それも凄まじい声量で歌いあげ、我々とコール&レスポンスを楽しんだ。 それをイントロとして始まったのが スコーピオンズの「Holiday」であった。 これもまた「Lovedrive」アルバムからの選曲である。が、他の同アルバムからの曲と違うのはマイケルが参加した曲ではない事。よっぽど、好きな曲なんだろうか。 アルペジオを中心としたミディアムテンポのバッキングに乗せて、ドゥギーが歌いあげていく。 この曲では間違いなく、ドゥギーが主役であった。 ドゥギーの熱唱後、次にマイケルが弾き始めたリフに観客の誰もが熱狂した。「Assault Attack」である。 ― となれば、あの人の登場を期待せずにはいられない。すると、やはりステージ袖からグラハム・ボネットが勢い良く雪崩れ込んできた。大きな歓声が上がる。 しかも、今回はドゥギーも巻き込んでの、ツインボーカル体制だ。なんと贅沢な事だろうか。 ここでのグラハムは先程の「Desert Song」での緊張感あるパフォーマンスとは違い、お祭りというかかなりコミカルな楽しいものとなった。 例えば、それはドゥギーとグラハムが、間奏中などに腕を組んでスキップダンスをしたり、"カンペ"を見る事をもはや自虐ギャグにしたりと(その昔、グラハムは歌詞が覚えられず"カンペ"を見る事でなんとかしのいでいたが、アクシデントでカンペが消失、歌えなくなってしまった事がある。それがMSG脱退のきっかけの一つとも言われている。) 客席では笑いも漏れたのだった。(ただし、オフザケに気を取られすぎて、途中、何を歌っているのか判らないぐらいグダグダになったのは玉に瑕だったが 笑) ただ、それでもマイケル以下、演奏陣は息のあったパフォーマンスを披露し33年前にアルバムを初めて聞いた頃を思い出させてくれた。 演奏を終えると、颯爽とステージを去るグラハムと入れ替わりに最後の曲「Blackout」が始まった。もちろん、スコーピオンズのヒット曲である。 この曲でも本家のスコーピオンズよろしく、ウェイン、フランツ、マイケルが横に並び、あくまでもマイケルはバッキングに徹するのだ。 脇役に徹する演奏を心の底から楽しむマイケルには笑顔しかない。私には兄弟の絆が垣間見れたような気がしたのだった。 和やかに「Blackout」の演奏を終えると、充実しきった表情をみせたバンドメンバー達。ステージを周り、ピックやドラムスティックを客席に投げ入れたりする中、マイケルもステージ下手から上手を移動しながら客席へ手を伸ばし、一時の触れ合いの時間を生み出してくれた。 当然ながら、私も目の前にやってきたマイケルに対し、手を伸ばし、かろうじて手の平に触れる事が出来たのだった。 いわゆる"神の手"に触れる事が出来て、感謝感激であった。 来日まで、その実現に不安がなかった訳ではなかった今回のグラハム・ボネット・バンドを帯同したMICHAEL SCHENKER'S TEMPLE OF ROCK公演であったが、終わってみれば大成功であった。 名古屋公演以後の東京・中野サンプラザ公演も、熱狂で迎えられ絶賛を浴びた。 今までありそうで、なかったこのカップリングを提案した日本の主催者にまずは「グッド・ジョブ!」と感謝したい。 2組のビッグネームに9000円というチケット代金の安さにも感謝だ。最近稀にみるコストパフォーマンスの高い公演だったと思う。 近年、充実度の高いパフォーマンスを行うマイケル・シェンカーと、齢67にしても尚、凄みさえ感じる歌唱を行うグラハム・ボネットの共演は今だからこそ、実現したと思う。早すぎても遅すぎても、おそらくこの共演は無理だっただろう。 そのチャンスを、タイミングを、遠く離れたここ日本で実らせた事は幸運であったという他ない。 僅か2曲の共演ではあったが、多くの者に心に残るものになった筈である。 終演後、この二人の共演を鑑みて、"キャリアの総括"というものを深く考えるようになった。 80年代から聞き始めたバンド、アーティストがみな、50代後半から60代にみな、差し掛かるようになってしまった。 先日も、唯一のYESのオリジナルメンバーであるクリス・スクワイアが亡くなるニュースが世界に衝撃を与えたばかりであるが、数年前のゲイリー・ムーアしかり、突然、何の前触れもなく音楽人生が終わってしまう事も増えてきた。 それだけに若い頃、巧くいかなかった事や中途半端に終わってしまった事をもう一度。という気持ちになるのも至極、真っ当な事である。 エリック・クラプトンは先日、70歳になったが、60代はクリームを再結成したり、デレク&ドミノス的なものを再現したりと残り少ない音楽人生に対して、キャリアの総括を順調に行ってきた。 (ジャック・ブルーズが亡くなる前にクリームを実現出来たのは、今考えると、これもまた一つの奇跡であったのかもしれない。) マイケルは今年60歳になったばかりだが、今までのように自由に世界を周る事が出来る時間は、我々が考える程、残されていないのかもしれない。 これから、間違いなくキャリアの総括を意識した活動が多くのバンド、アーティストで為されるだろう。(最近のホワイトスネイクのパープル・アルバムとそれに伴うライヴもそうだ。) それだけに我々は、彼らの動向と来日公演をよりいっそう注視していかねばならない。と肝に銘じたのだった。 |
SET LIST | |
◆ | Intro |
1 | Doctor Doctor (UFO) |
2 | Live and Let Live |
3 | Lights Out (UFO) |
4 | Where the Wild Winds Blow |
5 | Natural Thing (UFO) |
6 | Victim of Illusion (Michael Schenker Group) |
7 | Lovedrive (Scorpions) |
MC | |
8 | Coast to Coast (Scorpions) |
MC | |
9 | Vigilante Man |
MC | |
10 | Saviour Machine |
11 | Shoot Shoot (UFO) |
MC | |
12 | Before the Devil Knows You're Dead (Dedicated to Ronnie,Load & Cozy) |
13 | Lord of the Lost and Lonely |
MC | |
14 | Desert Song (Michael Schenker Group) (with Graham Bonnet) |
MC | |
15 | Rock You Like a Hurricane (Scorpions) |
16 | Rock Bottom (UFO) |
MC | |
・・・Encore・・・ | |
17 | Holiday (Scorpions) |
18 | Assault Attack (Michael Schenker Group) (with Graham Bonnet) |
19 | Blackout (Scorpions) |
太文字の曲「Live and Let Live」「Vigilante Man」「Saviour Machine」はニューアルバムからの新曲 グリーン色の曲は、グラハム・ボネットが共演した曲です。 名古屋公演前に行われた、リハーサル(サウンドチェック)映像 Michael Schenker & Graham Bonnet − Desert Song 名古屋公演前に行われた、リハーサル(サウンドチェック)映像 Michael Schenker & Graham Bonnet − Assault Attack |
Beth-Ami Heavenstone Twitter より |