二井原実ソロプロジェクトライヴ
at 横田基地 日米友好祭 2008







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 「中止もやむなし」

 と思われた雨模様の天気も開始時間が近ずくに つれて小降りとなってきた。
 しかし、直前のバンド演奏が終わり、ステージ上でセッティングに 勤しむローディの姿が目立つようになるとそれは霧雨のようにも なり傘を差す必要もなくなった。シャワーと言えば聞こえが良いが いかんせん、外気は低く寒い。


 甲斐甲斐しく働くローディ達の中にはバンドメンバーのファンキー 末吉氏の姿も見える。セッティングに出演者自らが参加するとい うのも普段のライヴではあまり見られない光景だけに驚いた。
 それだけ時間に余裕がないと言ったらそれまでだが、全員参加の手作りライヴと思えば、微笑ましくも思えてくる。


 ステージは屋外での利便性、移動性を考えてトレーラーを改造した ものが宛われていた。よくプロモーションビデオなどで町中で唐突 にライヴが始まる時に出てくるアレである。だからステージはそれ ほど広くない。まるでライヴハウスなみである。
 その広くないステージを10人ぐらいのローディが忙しく走り回る のである。或る者はサウンドチェックを、或る者はアンプとギター 、ベースのセッティングを、そして或る者はステージ上に溢れた 雨水を取るためにモップを忙しく動かしている。
 そんな混沌とした中をローディに手を引かれ、ステージに田川さん が現れた。担当するキーボードの前に連れていかれると目敏く それを見つけた観客からすぐに名前を呼ぶ声が挙がった。
 それに手をあげ応える田川さん。次第に歓声は大きくなっていった。
 田川さんに続き、今度はジェットフィンガー横関氏(横関敦)も 登場。同じように歓声が挙がった。ステージでは依然としてセッ ティング作業が続行中であった。
 そしてベースの小畑さんも愛機を持って登場するとステージ上の カオスぶりに拍車が掛かった。
 チューニングやら、サウンドチェックやらでベースの重低音や、 ギターの歪んだ音が交互に瞬間的に鳴り響く状況の中、今や 遅しとライヴ開始を見守る我々、オーディエンスもその状況 を楽しそうに見守った。その間隙をぬって本日の主人公、二井原 さんが現れると歓声はより大きなものとなった。


「いきましょか」


 いつもの(と言っても私がこれを聞くのは昨年以来、二回目だが) セリフを、いつものように二井原さんが叫ぶと派手にドラム、ベース、 ギターx2の渾然一体となった轟音が轟いた。
 しかし、急ぎすぎたのか『急いては事を仕損じる』という諺にも あるようにまだキーボードのセッティングが不完全のままだったようだ。
 一旦、仕切直しを経て二井原さんからコールされた1曲目。それは 「Crazy Doctor」− 観客が盛り上がらない訳がない。
 お馴染みのイントロのリフを背に二井原さんが『Hey Hey』と 観客を煽る。それに応える我々も拳を高く突き上げた。
 有名なクラシカルなフレーズで始まる、ポール・ギルバートもMr.Big の初期、披露していたギターソロも横関氏〜田川さんの順で連奏する という豪華さである。夢の競演というのはこういう事を言うのだろう。
 私は田川さんの立ち位置の延長線上で見ていたので、どうしても 田川さんを注視しがちであったが、「Crazy Doctor」の冒頭から ヘッドバンギングをしながらリフを刻んでいたのが非常に印象的だった。
 2曲目の「Solder of Fortune」も「Crazy Doctor」の勢いそのまま にイントロから怒濤の盛り上がり。当然ながら『Solder of Fortune〜』 のサビ部分は観客が大合唱だ。この曲でソロを(オブリガードも)田川さん が取り、複雑なフレーズを逆手奏法で見事に披露。観客の度肝を抜いた。
 しかし、私の胸を最も熱くさせたのは3曲目に登場した「Like Hell」
−世界進出を為したアルバム「THUNDER IN THE EAST」、2曲目に収録 された曲−なぜなら私にとってこの曲はソロ以外は(苦笑)コピーした 思い出があるからだった。(一体、この曲を何年ぶりに聞くのだろう?)
 見せ場はもちろん、ギターソロである。
 田川さんと横関氏のユニゾンタッピングは、一分のズレもなく気持ち良く 決まった。
 次に披露された「Heavy Chains」も同じく「THUNDER IN THE EAST」 からの選曲。横関氏の奏でるアルペイジオに乗せて、田川さんの鋭い フレーズがどっぷり暮れた雨空を切り裂くと観客からも大きな反応が 現れた。観客もやがて始まった二井原さんの歌に重ね合わせるように唄い、 この情景に私もグッときてしまったぐらいだった。
 次に田川さんのソロコーナーが始まった。
 タッピングやSweepを絡ませたインプロビゼーションが、耳馴染みのある 曲に繋がるとそれは「Exploder」であった。
 ラウドネス、高崎晃ファンにはお馴染みのアルバム「DISILLUSION」収録 のインストナンバーであるこの曲を取り上げるとはなんと素晴らしいことか。
 これは田川さんの趣味か、それとも二井原さんの要請か、気になる処ではある。
 この後は田川さんのソロでは定番の「シースケープ」のシンセサイザー メロディが流れスペイシーな残響効果のあるフレーズが場内を満たした。
 これでもか!とばかりの早弾きには観客からは溜息まじりの歓声もあがった。
余韻を伴ってソロコーナーを終えると、反対側に位置する横関氏から 聞き慣れた速いフレーズが放たれた。しかし、それはラウドネスでも、 X.Y.Z.→Aでも、ましてやデッドチャップリンでもなかった。
 なんとRainbowだったのだ。それも「Kill The King」だ。
この思わぬ選曲に私も熱くなったのは言うまでもないが、比較的、 年齢層が高いファンには殊の外、反応が良かったのは興味深いこと でもあった。だが、なぜRainbowなのか?と問われれば、それはひとえに 二井原さんの稀代のボーカリスト、ロニー・ジェイムス・ディオに対する リスペクトに他ならないだろう。そして、米軍基地というまがりなりにも ”英語圏の国”に居ることを考慮しての選曲とも思える。いずれにしても 二井原さんはロニーにひけを取らない迫力ある唄声で我々を楽しませてく れたのだった。そしてこの曲のギターソロでは田川さん、横関氏がユニゾン で有名なフレーズを再現するなどしてそれはもう本家を凌駕するほどの 素晴らしさであったことも付け加えておかねばならない。

 7曲目はバラード「Never Change Your Mind」
これも「THUNDER IN THE EAST」収録の曲である。それにしても ここまでに「THUNDER IN THE EAST」からの曲が3曲も演奏するなんて、  昔からのファンにとっては堪えられない事だったに違いない。
 おそらく本家ラウドネスでさえ現在ではこうはいかない筈だ。
「Never Change Your Mind」を田川さんのSweepピッキングのフレーズ でまとめた後、X.Y.Z.→A「Asian Typhoon」がコールされた。
横関氏のリードで曲が進む。ソロも横関氏が先導。普段、橘高氏が奏でる フレーズを軽々と弾きこなす横関氏の”ジェットフィンガー”という冠も 伊達ではなかった。しかも、その橘高氏、御本人を前にしての演奏である (橘高氏は自宅が近所ということで家族連れで参加されていた模様です) 横関氏ぐらいのレベルになると緊張などというのは無縁なのだろうか。
 「Asian Typhoon」のエンディングはそのままファンキーさんのドラムソロへと 繋がった。
 私にとってはファンキーさんの演奏を生で見るのは今回が初めてであったが、 その昔、爆風スランプが頻繁に近所に来ていたことを(もちろんブレイク前 だが)考えると20数年の空白が埋まったような感慨さえも覚えたのだった。 演奏は百戦錬磨なパワフルヒッターらしい力強いものであったが、時折、立 ち上がり大袈裟なポーズで客を煽るなどコミカルさもあって面白かった。
 10曲目の「Let it go」はイントロのギターリフが聞こえてきた瞬間から 大歓声があがった。サビの「Let it go」では場内大合唱となったのは言うま でもない。


 「どうですか、まだまだいけますか?」


 という二井原さんの煽りに続き、始まったのは「Crazy Night」
 「Crazy Doctor」に続く、”Double Crazy”である。田川さんも、 ヘッドバンギングをしながらギターを弾き、この曲を演奏している事に 心底、楽しんでいる様子が伝わってきた。
 ラウドネス米国進出時、外国人を混乱させたという歌詞「M.Z.A」でも 我々観客は、腕を突き上げ、拳を振り大合唱。
 正に『これを(「M.Z.A」の連呼)したかったんだ』という心の叫びが 聞こえてくるようでもあった。
 「Crazy Night」を終えると余韻の冷めるまもなく、スネアドラムの連打 でたちまち次の曲が始まった。「Esper」である。
 イントロの複雑なフィンガリングから田川さんは絶好調。
ソロになってもそれは変わらず、ソロ以外でもオブリガードで 連続Sweepを決めるなど見せ場も多かった。それに、とにかく曲が速い。
 それはまるで初期のメタリカやメガデスのようなスラッシュメタルの如き速さ であった。




 ライヴはこの「Esper」をもって終了した。
 時間の関係上、期待されたアンコールも無かったが、終わってみれば 「DISILLUSION」アルバムから3曲、「THUNDER IN THE EAST」アルバム から4曲、「Shadows of War」から2曲と80年代前半〜中盤のラウドネス が最も脂ののっていた時期の有名曲で固められたセットリストであった。
 まるで80年代にタイムスリップしたかのような選曲に当時をリアルタイムに 生きた者はもちろん、その時代を知らない者にとっても(はたまた生まれてい ない者にとっても)十分に楽しめたものであった事は間違いない。







 追伸:


 二井原さんのブログによれば、このライヴの評判が非常に良かった為 基地司令に面会を求められているとか。また、その際、田川さんが 表彰(または勲章授与?)されるかも?という嬉しい情報が...。





 米軍も粋なことをするものだ。






二井原実ソロプロジェクト パーソネル

Vo : 二井原実
G : ジェットフィンガー横関敦
G & Key : 田川ヒロアキ
B : 小畑秀光
Dr : ファンキー末吉






SET LIST
1Crazy Doctor
2Solder of Fortune
3Like Hell
4Heavy Chains
5Tagawa Hiroaki Guitar Solo incl. Exploder               
6Kill The King (Rainbow)
7Never Change Your Mind
8Asian Typhoon (X.Y.Z.→A)
9Funky Sueyoshi Drum Solo
10Let it go
11Crazy Night
12Esper











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