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「しまった」
開場時間を1時間も間違えていた私がその過ちに気づいたのは クラブクアトロへつづく階段を上っている時だった。 普段であったなら、この階段には開場を待つ人々の列が永延と 階下まで連なっているものだが今日に限って全く人が居ない。 それに壁に提示されている筈の整理番号を促す張り紙すらない。 不安になり、階段を駆け上がっていくと、クアトロは既に開場され 入り口の係員は手持ちぶささに暮れていた。 これでようやく愚鈍な私にも全ての状況が把握出来たのだった。 「開場時間、間違えていたのかよ」(苦笑) 20年以上のライヴ歴でも、全くあり得ない程の初心者的失態。 この時の気持ちを端的に表現すれば正に茫然自失と言ったところだったろう。 カメラチェックの後、しばしの暗闇を抜け会場内に入っていくと、そこは 既に喧噪に支配され、ライヴの開始を談笑しながら待っている友人同士や カップルの和やかな風景があちこちで展開されていた。 しかも今日は日曜日である。会社帰りで遅れてやってくる者など ほとんどおらず、遅刻した奴など自分ぐらいしか居ないように 思え、次第にファン失格のような自虐的な気持ちにさえなってしまった。 そんな状況だから、当初から狙っていた机と椅子が有りほぼ正面から 観戦(?)出来る処など無くなって当然であった。 こうも理想からかけ離れた現実を目の前にしたならば、もう気持ちを 括るしかない。それはすなわちフロアに出て見るしかないという事である。 会場内の僅か3段ぐらいの階段を降り多少、低くなった処がフロアとなっている。 此処がこのクアトロのメイン客席だ。 ステージ前には既に熱狂的なファンが一部の隙もなく並び、そこだけはまるで別世界。 同じフロアとは言え、流石にそんなファンに混じって見る体力、気力もない私は フロアの後ろの方(それでもステージから5、6mぐらいしか離れていないが) で見ることにした。 もちろん、ステージ向かって右側(いわゆる上手)、ポールが陣取る方でである。 開演まであと、ほんの10数分と迫った中でも私はいつものように 鞄から文庫本を取り出した。本のタイトルは奥田 英朗の「東京物語」。 80年代をテーマとした青春グラフィティ。おまけに主人公は名古屋人という 自分と共通点もあり大変興味深い本なのだが、今回は読んでいても ほとんど内容が頭に入ってこなかった。 喧噪まっただ中にあって静かに本を、それもスタンディングで読んでいる事 自体、端から見たら異様なのだが(笑)その私の本に対する集中力を SE(曲)が見事に打ち砕いてくれた−全盛期のScorpionsのアルバム「BLACK OUT」からの選曲はメタル魂を持った30代以上、大人なファンの心に火を点けるには十分なものであったのだ。 ライヴは定刻通り6:00に始まった。 客電が落ち、スピーカーからは大音量の「SummerTime Blues」。 オリジナルのThe WhoよりもHR色が強いこのRush版「SummerTime Blues」は ポール・ギルバートのライヴのイントロには的を得た選曲と言えた。 観客はただの−いわゆるプロレスでいう処の登場曲であるだけなのに(もしかして バンドが演奏しているとでも勘違いしているのか?)異様に盛り上がる。 曲が最終コーラスに入ったあたりだろうか、メンバーが暗闇の中、現れた。 そこにはもちろんポールの姿もあった。 一斉に沸き上がる大歓声。そして一瞬、それが途切れると同時にスネア・ドラムが 連打され1曲目が始まった。「Masa Ito」だ。もちろん、あのHM評論家、HM伝道師の伊藤政則氏の事を唄った曲である。2年前のインストアライヴでも1曲目は確かにこの曲であったがツアーライヴでもこの曲でスタートするとは驚きだ。 当の伊藤政則氏も自らの番組のテーマソングとしているらしいが、一度でいいから その当人を目の前にして演奏している処を見てみたいものである。なんならステージに政則氏を挙げて..というのもいいかもしれない。 初っ端から妄想が膨らんだが、曲最後は「マ、マ、マ、マサ〜イトー」と客に唄わせて盛り上がりはいきなりトップに入っていった。 意外だった選曲も結果的には大成功。その余韻を楽しむことなくメドレーのように 2曲目に繋がった。 イントロのテクニカルなシーケンスフレーズが何故か心地良くも感じる「Space Ship One」はニューアルバムからのタイトルトラック。(コットン生地で出来ているカスタムメイドの)白い宇宙服の衣装に身を包んだポールには全く相応しい曲である。また、ポールが手にするアイバニーズのヴィンテージギター、フライングVモデルが”ロケットロールU”とは、何から何まで『SPACE(宇宙)』がかっているではないか! 「アリガトウ〜ナゴヤ」のポールの掛け声で始まった3曲目「SVT」は初めて聞いた時から絶対盛り上がる、ライヴ映えするだろうと思っていた曲だ。 Ampeg社のベースアンプのひとつであるSVTを曲に取り上げるポールならではの選択眼も驚かされたが、曲は純然たるジューダス・プリースト並みのヘビーメタル。 「SVT」「ヘイ ヘイ ヘイ」とコーラス部分では観客と見事にシンクロする。 4曲目「I Like Rock 」は前回のツアーに続いての演奏。もはやライヴでは定番となった感じすらある。いずれにせよ「I Like Rock 」という単純な歌詞は我々、日本人には受け入れやすく、唄い易い。そのあたりを考慮しての選曲なのかもしれない。 「I Like Rock 」が終われば、小休止。 クルーから手渡されたノート(カンニングペーパー)を持ち、いよいよ噂の”日本語による”MCタイムだ。 「バンドのメンバーを紹介します」(注:以後、ポールに敬意を表して、敢えて平仮名・漢字表記とします。) とポールが切り出せば、ベースのライナス(オブ・ハリウッド)、ドラムのジェフ(ボウダース)の名前が呼ばれる度に大きな声援が客席から贈られた。 「チューニングしないといけません」 と前半の4曲の熱演で音の狂ったギターを調整している時もポールは会場のあちこちから一方的に投げかけられる会話を楽しみ、それを聞く私達を全く飽きさせない。 チューニングが終われば、短い曲紹介の後、すぐ演奏が始まった。 「Potato Head」。ポールがかってProduceした日本のバンド「MR.ORANGE」の曲である。多分、ツアーライヴでは初披露の曲であろう。 曲が終われば、再びノートを持ってMCが開始される。 やや発音や語尾に怪しい処があるものの、それでも付け焼き刃でない日本語は十分、立派なものであった。 日本語MCで紹介された「I'm Not Afraid Of The Police」はこれも前回のツアーに続いてセットリスト入り。後半の短い高音部のギターソロはポールの手癖を発展させたようなものであったがキラリと光るものがあったように思えた。 「次の曲はレーサーXの曲です」 と紹介されれば盛り上がらない訳にはいかない。 ポールファンにとって、"Racer X”はいつまでも特別な存在である。 「Scarified!」 とポールが曲名を叫ぶのが早いか、ジェフの強烈なドラミングが始まり、 あのお馴染みの低音弦を中心としたスケール弾き単音リフが繰り出されると 「Yeah」と観客がそれを声で迎えた。リフが終われば、ストリング・スキッピングの応酬に毎度の事ながら唖然とさせられる。 それにこの曲はギターばかりでなくベースとドラムにも高度な技が要求され難易度は高い。 特にドラムのジェフは、レコーディングにも参加したマルコ・ミネマンがツアーには帯同出来ないということで急遽、選ばれた逸材。それも選ばれた理由がこの「Scarified」でのドラミングをポールが気に入ったからと言うだけに演奏は実に息の合った素晴らしいものであった。 途切れる事無く8曲目「Every Hot Girl Is A Rockstar」はニューアルバムからの曲。 ポールは当然、唄も歌っている為、バッキングなどは普通、(ギターソロに比べて)おろそかになりがちだが、この曲は地味ではあるものの結構、複雑な事をやっているのがよく判った。それでいて実にメロディアスなライン。ポールの持ち味が曲の端々に感じられる佳曲であった。 再び日本語MCタイム。やはり日本語を披露したいのだろう、今回は以前よりもMCの回数が多いような気がする。 「この曲は7645個以上の音符で出来ていますが、今日はもっと弾きます」 という奇抜な紹介で始まったRacer Xの「Viking Kong」は自分にとって(もちろんCDでは聞いているが)ライヴでは初めて聞く曲だ。先のRacer Xの来日公演に行っていない私には何か得した気分だ。 後半のイングヴェイっぽい鬼のようなソロフレーズやお得意のストリング・スキッピング、またエディ・ヴァンヘイレン直系のタッピング・ハーモニクスとポールのルーツ・オブ・ギターが判る1曲であった。 超絶インストを涼しげな顔で披露した後もMC。日本人アーティスト並みにトークの時間が増えてファンとしては楽しい事この上ない。 「新しいカバーソングもいっぱい練習しました」 と言って紹介されたのはポップソングとロックソングの2曲。これが秀逸だった。 ポップソングは言わずと知れたBeatlesの、というかGeorge Harrisonの代表曲の一つ、「Something」。 ポールはBeatlesのコピーバンドをDream Theaterのマイク・ポートノイらと結成しステージで披露しているだけに実に巧い。オリジナルを忠実に再現しているのも好感が持てた。いや、この完成された曲にアレンジを施すというのは既に無理があるのだろう。 早弾きを封印したポップソングの後はロックソング「Heat In The Street」。 PAT TRAVERSのカバーだ。 古くからのファンなら知っているだろうがポールはフェーバリット・ギタリストにPAT TRAVERSを挙げるほど影響を受けているという話である。私はこの曲のオリジナルを残念ながら聞いた事はないが、先ほどの封印を解くが如く激しく弾く様子にポールならではのアレンジが施されているように感じた。 「ジェフさん ワイルドなゴリラみたいにドラムをぶっ壊して!」 とドラムのジェフへの応援を強制(笑)されて始まった「Jackhammer」はCDで聞いた時からかなり気に入っていた。この曲の主役は(応援強制にもあるように)明らかにジェフ・ボウダーズである。 CDではマルコ・ミネマンが叩き、途中の変拍子的なオカズのフレーズが偉大なるジョン・ボーナムを彷彿とさせ非常に興味深く聞こえたのだが、これに対し、ジェフもボンゾ直系を感じさせるパワフルなドラミングが十分に私の五感を刺激したのだった。 ポール 「みんなの頭は何で出来ていますか?」 観客 「トマト〜」 ポール 「みんなのハートは何で出来ていますか?」 観客 「イチゴ〜」 ポール 「僕も」 こんなやり取りで始まった「Boku No Atama」という曲はニューアルバム収録曲中、一、二を争うほど注目されたトラックであった。それはタイトルからも判るように日本語歌詞が付いた曲であったからなのだ。 文法的にはやや変な部分もあるが、それ以上に歌詞のユニークさにまずは耳を奪われる筈だ。 僕の頭はトマトで出来ている 僕の頭はトマトで出来ている でも トマトの方がナスより好きだよ 僕のハートはイチゴで出来ている 僕のハートはイチゴで出来ている でも イチゴの方がナシより好きだよ あなたの頭は何で出来ているか? あなたのハートは何で出来ているか? 歌詞の字面だけ見ていると「なんのこっちゃ?」であるが これがポールの弾くメロウなメロディにのると実にイイのだ。 ライヴでもその良さは失われず、日本語詩であるにも関わらず、観客は一緒に歌うというより純粋にポールの唄を楽しむという感じであったのも印象的だった。 メロウな演奏から一転、14曲目は「Terrible Man」。これもニューアルバムからの曲だ。 単純な歌詞の分、テクニカルなギターフレーズが耳に残った。 次に「ヘビーメタル・スタイル」と宣言して始まったRacer Xの「Technical Difficulties」は個人的には今回のライヴで一番、盛り上がった曲であったと言えるだろう。 思わぬ選曲であったことも確かだが、単純に言って曲自体がカッコイイのである。 お得意のストリング・スキッピングにタッピングを組み合わせる複合技も見事に決まっていた。 それにしてもRacer Xだけで3曲も披露するとは。ファンとして喜んでいいのかどうなのか....。(ただ3曲ともインストというあたりは、ポールの喉を休ませるという体調的な理由もあったようだ。) 激しい演奏で酷使されたギターをチェンジするポール。 用意されたギターも同じアイバニーズのロケットロールU。よほどお気に入りなのだろう。 ギターテク総掛かりでギターチェンジを行う間も、今度はベースのライナスがおどけた表情を見せたり、観客にしゃべりかけたりと一瞬たりとも我々を退屈させないのは流石であった。 「次に何の曲を聴きたいか、言って下さい」 と流暢な日本語で我々にリクエストを請えば、待ってましたとばかり客席の方々から色々な曲名がコールされる。『Daddy , Brother , Lover , Little Boy』 『Down to Mexico』 『Alligator Farm』とMr.Bigやソロ曲が連呼される中、ABBAの『Dancing Queen』まで挙がれば場内は笑いに包まれた。 (ちなみにポールは『Dancing Queen』を「Acoustic・Samurai」アルバムでカバーしている。) そんな手前勝手なリクエストから選ばれたのはニューアルバムからの曲、「On The Way To Hell」であった。 だが、この時間はもともとバンドで正式に演奏をするという予定ではなかったのかもしれない。 ボリュームを絞ってクリーントーンで一人で弾き語る「On The Way To Hell」はアルバムで聞いた時とは全く違うハートウォーミングな雰囲気で会場を包み込んだ。(ここでのライナスとの2声のハーモニーは特筆すべきものであったことも付け加えておこう) 「5歳の時、一番好きなバンドはオズモンド・ブラザーズ......の曲は..My Drum」 と始まったのは、以前もライヴで披露しているTHE OSMONDSの「My Drum」。 曲名どおり、後半にはドラムソロも有りなんともメタル然としている。オリジナルは知らないのだがこれも相当、ポール流にアレンジしているのだろうと思えた。 18曲目「Individually Twisted」。お馴染みの曲だ。 イントロにいきなり早弾きを持ってくるというかなり確信犯的作品である。 曲調はややパンクっぽく、私自身、かなり気に入っている曲でもある。その為であろうか、演奏の間、この曲の摩訶不思議なPVの映像が脳裏を掠めていった。 「Individually Twisted」が終われば、矢継ぎ早に低音弦をミュートした8ビートのリフが繰り出され観客の「ヘイヘイ」という掛け声を誘発した。 「Suicide Lover」は最近のポールの楽曲では最も好きな曲だ。それだけに気分は最高に盛り上がる。 そしてポールの斜め後ろに位置するアンプ類が立ち並ぶ狭い一角にこの曲をサポートする意外な人物が現れた。 先程からポールにカンペを手渡したり、ギター交換の手伝いをしていたギターテクのおじさん(ジェイさん)。その人である。 そのおじさんが「〜Lover」のコーラスの処でその狭い区画からマイクを持ってひょっこり顔を出し一緒に唄っているのだ。それもコーラスの度に何度も、何度も。そのコミカルな立ち居振る舞いに私だけでなく観客の誰もが笑顔になったのではなかろうか。それぐらいそのおじさんは目立っていたのである。 曲が終わり、ミネラルウォーターで喉を潤したポールは「Nagoya.......」と即興的に唄い始めた。 もちろん、初披露。まさか名古屋の為だけに作られた曲ではないだろうが、「ナゴヤ」という歌詞がメロディラインに見事にハマッていたのは意外だった。 その弾き語りは次第に聴いたことのある曲へと繋がっていった。 「1、2、3」のカウントで改めてリ・スタートするとそれは「Bliss」。アルバム「Burning Organ」からのファストナンバー。 これも私を奮い立たせずにはおかない曲である。(ゆえにポールとハモルようにアルバム通り「Yeah」と大きな声で叫んでしまった程である。) 汗が顔に滲み、髪の毛が額にへばりつくぐらいのポールの熱演はここでも繰り返され、我々観客にもその熱気は伝播していった。歓声は曲が終わると共に更に大きくなり、ポール、ライナス、ジェフの3人はその歓声を背にしながら一旦、ステージを降りていった。 しかし、歓声は引きも切らず、手拍子はただただ大きくなるばかり。 あの会場でアンコールを望まなかった不届き者などいやしない。 大きくなるばかりの声に圧されてわずか3分程だろうか、3人はステージに戻ってきた。 そしておもむろに始まった曲は、誰もが一度は耳にした事がある程、有名だ。 印象的なリフがいつまでも耳に残るロック・クラシックス「Jumpin' Jack Flash」。 もちろんRolling Stonesの曲である。ポールがRolling Stonesの曲をやるというのも意外だが、そこはポール、ただ忠実にオリジナルをコピーするだけには止まらない。ギターソロに入ればポールの真骨頂。 ため息が出るほどの早弾きを披露し、観客を圧倒する。特に、ギターを持ち上げ顔にまで持ってきて通称「歯弾き」という荒唐無稽テクニックでは、その凄さにもう唖然とする他無かった。 なにせ、普通に指で(ピックを使って)弾くにも相当、”鍛嵯と鍛錬”を必要とするSweep ピッキング(またはストリング・スキッピング)を歯でやってしまっていたのだから。ギターを志す者にとってこの荒行にはもう降参するしかないというものであったのだ。 「 Rock 'n' Roll !」 最後にポールが挙げた雄叫びはこの曲を正しく象徴していたと言える。 アンコール2曲目はポールの叔父さん、ジミ・キッドと競演した「Play Guitar」。 以前のライヴにジミ叔父さんも帯同していた事もいまや懐かしき思い出である。 ブルーズロックという範疇に捉えられ、いつものポールのスタイルとは趣を異にするが、この曲も終わってみればポールらしい判りやすい、楽しい曲であった。 「Play Guitar」の後も休むことなく、”ロケットロールU”は鳴り続けた。 単純なリフを刻みながら、気の向くまま何小節にも渡り様々な(オカズ)フレーズを繰り出していく。 我々、観客を翻弄するかのような演奏に苦々しくもなるも、私の大好きな”ジミヘン”ばりのリフが聞こえてきた時は興奮の余り、大絶叫してしまう程だった。 「Down To Mexico 」はポールのライヴには欠かすことの出来ない、定番曲、いや絶対曲だ。ライヴが終演に向けて加速的に盛り上がっていくのを肌で確かに感じ取った。 この曲を終え再び、ステージを後にすると「ポール」と呼ぶ声の凄まじさは先程の比では無かった。 それはステージへの帰還時間の短ささからも明らかであった。 ステージに立ったポールは、ギターテク「ジェイさん」、Mixing「ラスさん」、モニター「ニシさん」とステージスタッフを紹介していった。バンドメンバー紹介なら判るが、スタッフ紹介とは驚いたと同時にここにもポールのアットホームな面が出ていたように思え会場全体が和やかな雰囲気に包まれた。 MCが終われば、ギターのロングトーンが会場を満たす。 明らかにステージ上に用意されたエフェクター(アタッチメント)を踏み込んだと思われる音の変化が伝われば、ポールの指先がギターのフレットを鳥のように軽やかに跳ね回る。 あの有名なタッピングフレーズが響き渡れば場内は「OH〜」という大歓声に包み込まれた。 「そうだ まだこの曲が残っていたんだ」と長年のファンでありながら、超有名曲である「Green-Tinted Sixties Mind」の存在をすっかり忘れていた私はその情けなさを心の中で少し恥じたのだった。 Mr.Bigの曲はそのままEL&Pの「Karn Evil #9」に繋がった。 これも以前のライヴで披露している曲だが難易度は高い。ご存じのようにEL&Pはキーボード(キース・エマーソン)、ベース(グレッグ・レイク)、ドラム(カール・パーマー)という3ピース。どこにもギターが入り込む余地はない。 しかしポールの凄い処は、キース・エマーソンのキーボードフレーズをギターに置き換えているのである。初めて聞く時は口あんぐりな状態であったぐらいだった。流石に今回はもう慣れたものという感じで軽く弾きこなしているように見えたが凄いものは凄い。 ただ、ファンとは勝手なもので、そろそろ大胆なアレンジの他のカバー曲も聴きたいと思う今日、この頃でもある。 「Karn Evil #9」を終え、ポールはギターを置いた。 それは2時間に渡る いつもながらに『楽しい』と心底、実感出来たライヴの終わりを示していた。 (ライヴ恒例の)肩を組んで客席に一礼する3人には、今夜のライヴの充実ぶりを表すかのように笑みがこぼれ、それを満ち足りた気持ちで見る私達もみな笑顔、笑顔に溢れていたのだった。 前回のライヴの時、私はポール・ギルバートに『エンターティナー』としての成長を強く感じたと書いたが、今回も日本語屈指のMCに象徴されるような『エンターティナー』としての片鱗も伺わせたものの、3ピースというロックバンド最小単位でのパフォーマンスはロック・ミュージシャンとしての底力を見せつけられた感じがした。 もちろん、それは気心の知れたライナスやLAのMIで教鞭を執っている程の腕を持つジェフの強力なバックアップがあったからこその結果ではあるだろう。 いずれにしてもかって世界最速と言われたギタリスト、ポール・ギルバートは未だ、成長過程の段階である事は間違いない。 では次の進化型は一体、どんなものか?私の興味はまだまだ尽きそうにもない。 |
SET LIST | |
1 | Masa Ito |
2 | Space Ship One |
3 | SVT |
4 | I Like Rock |
5 | Potato Head (MR.ORANGE) |
6 | I'm Not Afraid Of The Police |
7 | Scarified (RACER X) |
8 | Every Hot Girl Is A Rockstar |
9 | Viking Kong (RACER X) |
10 | Something (BEATLES) |
11 | Heat In The Street (PAT TRAVERS) |
12 | Jackhammer |
13 | Boku No Atama |
14 | Terrible Man |
15 | Technical Difficulties (RACER X) |
16 | On The Way To Hell |
17 | My Drum (THE OSMONDS) |
18 | Individually Twisted |
19 | Suicide Lover |
20 | Nagoya |
21 | Bliss |
・・・Encore ・・・ | |
22 | Jumpin' Jack Flash (Rolling Stones) |
23 | Play Guitar |
24 | Down To Mexico |
・・・Encore 2・・・ | |
25 | Green-Tinted Sixties Mind |
26 | Karn Evil #9 (EL&P) |