A SEX PISTOLS FILM

No Future

(原題:THE FILTH AND THE FURY)

pic





 監督:ジュリアン・テンプル

 出演:ジョン・ライドン、スティーヴ・ジョーンズ、シド・ヴィシャス、ポール・クック、グレン・マトロック、マルコム・マクラーレン 




 ”クソったれ もういい これが真実だ



 SEX PISTOLS を聞くようになって 一体、何年が経ったのだろうか?
 高校の頃からだから 既に16〜17年ぐらいだろうか。
 そもそもSEX PISTOLSを聞くようになったのは、ありがちだが当時、親しくなった友人の影響である。
 その友人は知り合った時、既にかなりのPISTOLSマニアでレアなレコードや Goods 、ジョンライドンがPISTOLS脱退後作ったP.I.L(Public Image Limited)の45回転レコード3枚をフィルム缶にパッケージしたメタルボックスなどを所有しているほどだった。そんな彼から初めて聞かされたのがあの「Never Mind The Bollocks(勝手にしやがれ)」であり、これが自分にとってのSEX PISTOLS初体験であった。
 その頃の自分と言えば 洋楽を聞き始めたばかりの言わば”洋楽一年生”
 また他の友人から Hevy Metal & Hard Rockの洗礼を受けている真っ最中というなんとも特殊な状況の中でのPunkな体験は結構衝撃的であった。
 しかし、Hevy Metal & Hard Rockに比べてヒステリックに叫んでいるだけ(に聞こえた)曲調に もうひとつ好きになれなかった当時の自分はそのままテープをあっさりと返してしまう。
 ところが 返した途端に今度は、あのジョン・ライドン(当時はジョニー・ロットン)の声が頭から離れなくなり PISTOLSの曲が聞きたくて仕方がなくなっていた。
 結局、今度は別の友人から借りたりもしたのだが 今考えてもどうしてあれだけPISTOLSに惹かれたのだろうか?


 そんな感じの私のSEX PISTOLS原体験であったのだが このSEX PISTOLSのドキュメント映画が昨年から話題になっていることで 自分の中で再びPISTOLS熱が盛り上がりつつあった。
 実はSEX PISTOLSを扱った映画は今までにも何本か作成されており 有名なところではこの「No Future」と同じくジュリアン・テンプル監督作品「ロックンロール スゥインドル」や「D.O.A」、アレックス・コックス監督作品「シド&ナンシー」などがあるのだが今回の「No Future」はいずれの作品をも凌駕する凄い映画であると雑誌等で伝えられていた。
 また個人的には これに先立つこと6年ほど前、ジョン・ライドンの自伝「STILL A PUNK」という単行本を読み、これまで伝えられていた印象とはかなり違うSEX PISTOLS像を感じていたので余計この「No Future」を期待していた。


 名古屋ではシネプラザ4という小さな劇場での公開であったのだが、キャパが40席ぐらいなので あっと言う間に満席。客席を見渡すとSEX PISTOLSをリアルタイムで体験したとは言い難い若いファンらしきものばかり。
 (もしかして再結成の時さえも知らないのかもしれない)
 多分、彼らも噂に聞くSEX PISTOLSという凄いモノを怖いもの見たさという感じで見に来たものも多いのではないだろうか。


 − ということで ここからがやっと映画本編の感想である。
 映画は冒頭から1970年代中期のインフレと暴動とIRA(アイルランド共和国軍)による爆弾テロで荒廃したイギリス、ロンドンがニュースフィルムを織り込みながら延々と映し出される。多分、このように不平と不満が溜まりまくった中で怒りを音楽に託した(?)SEX PISTOLSが誕生したと言いたいらしい。
 そしてSEX PISTOLSが誕生したいきさつ ― 悪名高きマネージャー マルコム・マクラーレンとその愛人 有名なヴィヴィアン・ウェストウッドが営むブティック”SEX”に出入りするようになったメンバーがマルコムの薦めによってバンドを組みPISTOLSが生まれた ― が語られ全く未公開と思われるデヴューライヴの映像が花を添える。
 その後は ライヴ(ギグ)を重ね、徐々に人気を獲得し 昇り調子なPISTOLSがこれまた未公開のライヴ映像と共に語られていく。
 しかし 結成当時からジョンと他のメンバー(特にギターのスティーヴ・ジョーンズ)との確執で緊張状態にあったバンドには当然のことながら火種が絶えず、当時のバンド内の様子が 現在のバンドメンバーによって(それも 顔を全く映さずシルエットで)語られるという凝った趣向になっている。
 やがて オリジナルメンバーであるベースのグレン・マトロックがバンドを追い出されジョンの幼馴染みである あのシド・ヴィシャスがバンドに加入したあたりからPISTOLSは大きく変わり始める。
 シドはもともとジョンと同じグループ(みな本名が同じジョンだったので”ジョンズ”と名乗っていたらしい)の出身で PISTOLSの熱心なファン、いわゆる親衛隊 ― 追っかけのような存在であった。(シドのPISTOLS加入前の追っかけ時代の映像もありかなり貴重)それから あの誰でも知っている「Anarcy in The UK」が発表され、すぐそれが放送禁止となり有名な”ビル・グランディ事件”― ビル・グランディという有名なホストの番組(日本で言えば久米宏のニュースステーションあたりか?)にPISTOLSが出演し、酒に酔ったビル・グランディの挑発的な発言に 放送禁止用語である”Fuck"や”Shit”を連発し 翌日の新聞等を騒がせた事件(ちなみにその時の新聞の見出しが原題の”The Filth And The Fury”である)―によってせっかく得たレコード会社(EMI,A&M)との契約も破棄、しかし発表したばかりの「God save The Queen」はチャートでNo.1になってしまう。(だが 発売禁止の為、そのNo.1になった週のチャートはなんと空白になるという前代未聞の珍事に)
 世間の好奇な評価とはうらはらに 反社会的なバンドというレッテルをはられてしまったPISTOLSはその後、ライヴさえもままならず 女王在位25周年記念日にテムズ川の船上で「God save The Queen」を演奏し逮捕されるという事件を起こしたことで どんどん窮地に追い込まれていく様子が克明に時系列に正しくスクリーンに映し出さされていく。
 映画はこの後も 悪名高きアメリカ公演の様子〜解散〜シドの死までをフォローしてかなり深くSEX PISTOLSの真実に迫っていくのだが、その中で興味深いのはなんと言っても、前述もしたが現在のバンドメンバーが当時を振り返って語るシーンである。
 「Anarcy in The UK」に関してスティーヴ・ジョーンズは「政治の事なんか知らない。あの頃はただ誰とヤレるかそればかり考えた」とある意味Sex ,Drug & Rock'n Roll的で勝手なことを言っているのだが 当事者にとっては傍から見るほど毎日が破綻していた訳ではないことが伺いしれて面白い。
 特に幼馴染みでもあったシドのことを語るジョンが「シドは友達だからジャンキーにしたくはなかった。アイツはクソの為に死んだ。奴らはそれを金に替えた。オレは奴らを永遠に憎む」と言って言葉につまり泣いている姿は衝撃的だ。またそれに前後するかのようにシドの生前最後のロングインタビューも初公開らしく貴重であると言える。シド・ヴィシャスと言えばヘロイン等で普段も相当イッちゃっている印象が強く Punkの中のPunkと神格化されているがこのインタビューを聞くとこの印象は改めなくてはいけなくなる感じがする。結局、彼が後年あのような事件(愛人のナンシースパンゲンを刺殺したという事件....真相は不明)の後、死亡というのも全て麻薬の為であったということに尽き改めて麻薬の怖さを感じた。結果的にシドは死んで伝説にはなったが、果たしてこれが彼の本意であったのかどうか今となっては誰にも判らない。それゆえ悲しい。
 今回の映画はSEX PISTOLSのドキュメントと言うことで 悲劇的な結末を当然、知ってはいたのだが意外にも イギリスでの最後のライヴとなった地元の消防士、失業者、母子家庭、父子家庭の子供を招待したクリスマスパーティでは メンバー全てが笑顔に包まれ うれしそうに演奏している姿は緊張ばかりのシーンの連続にあってなんとも不思議な感じがした。
 あのSEX PISTOLSがチャリティーコンサートを行っていたという事実も驚くべきで事であったが いつも不機嫌な顔ばかりのジョン・ライドンがこの時ばかりは笑顔というのも(映画で唯一のシーン)結構、凄いことだ。
 この後の悲劇を考えるとこのライヴでもし、解散していればSEX PISTOLSはもっと違ったものとしてRockの歴史に残ったような気がしてならなかった。 


 でも「Anarcy in The UK」「God save The Queen」が聞こえてきた時は 久しぶりに鳥肌が立ちました。



 PS: 本作には元ポリスのスティングの映画初出演映像(お蔵入りとなったSEX PISTOLSの映画「Who Killed Bambi」時)もあり、スティングファンにとってもかなりのお宝映画しれません。





pic 85点






button