タイラント・ソード 
        〜ネオフェリアの中で






1.はじめに
・タイラント・ソードとは?

ホビージャパン社の発行する月刊模型雑誌ホビージャパン1987年10月号より翌1988年2月号まで5回に渡って連載されたガンダムアナザーストーリー、それが「タイラント・ソード」である.
アナザーなのでオフィシャルのガンダムと互換性はなく、ネモ、メッサーラなどのZに登場したMSも藤田氏独自のオリジナルデザイン・設定になっている.
内容はストーリーに登場するメカをスクラッチしていく、いわゆる“模型誌連動企画”である.

この企画のウリは何といっても弱冠20歳でZガンダムのメカデザインを取りまとめた藤田一巳氏がメカデザインをつとめていたことだろう.藤田氏はZ本放送時の中盤あたりから藤田オリジナル的なリファインMSデザインを各誌で発表していたが「タイラント・ソード」はその集大成的なものと言える.

またこの企画において、編集サイドでは藤田氏の個性を全面的に認めた誌面作りに徹している.このことにより、タイラント・ソードは良く言えば「藤田氏の個性がフルに発揮された」、悪く言えば「アクの強い」作品となってしまったことは否めないだろう.

この連載の主役メカ「タイラント・ソード」はMS(モビルスーツ)ではない.
詳しくは後述するが、SEジェネレーターという全く新しいエネルギージェネレーターを搭載した機動兵器の総称が“ソード”なのである.


            「タイラントソード」メインスタッフ(敬称略)

   パート    
藤田一巳 メカ・キャライラスト、コンセプトワーク
藍田 豊 ストーリー、編集作業、各種アシスト
女美由寿
千葉延雄
野本憲一
原田雅彦
藤田真二
モデリング
「タイラント・ソード」
開始時の解説

当時のキャンプションには「ガンダム・ワールドをベースにオリジナル設定を付加、元連邦軍パイロットの架空の著書ネオフェリアの中で”からエピソードを抜粋して構成するフォトストーリーである」とある.

ガンダム
アナザーストーリー

オフィシャルの設定を流用しつつも独自の世界観でストーリーなどをまとめたもの.他には近藤和久氏による「Z」(バンダイ発行)などがある.


藤田オリジナル
OUT85年9月号の「アトバンスドMS」、アニメック「ZGUNDAM大辞典」などに藤田氏の解釈によるリファインMSデザインが見られる.



SEジェネレータ
オフィシャル設定としては『Z−MSV』の『ディジェSE−R』に痕跡が残るだけになっているが、藤田ガンダムワールドにおける重要なキーワード.



2.登場メカ
SX・NFR−01SE
 タイラント・ソード

アナハイムの研究機関『ネオフィリア』で開発されたSEジェネレーター搭載の機動兵器.
従来のMS、MAとは比較にならない戦闘力を有する.
後に改装されてタイラントソード改“アグレス”となる.
  SX・NFR−02SEV
 
スレイヴ・ソード

タイラントの護衛機として開発された機体であり、無人機.
なんとタイラントがコントロールするモビル・ファンネルである.
タイラントの40%程度の性能だが、SEジェネレータはタイラントよりも安定しており、数機が製作された.
シロッコとの戦いにおいては2機が投入された.
  RS-82B
 GM2

悪評の高かったRS−81ネモに変わって連邦軍の主力となった機体.性能的にはRX−78に匹敵する.
重装甲のため機動性の低下したネモと違い、機動性能重視した設計がなされた.
GM2の名称は完成した機体がGMに酷似していたため付けられた名称でRGM−79GMとの直接的な関連はない.
  RS-82B-R
 GM2改

上記のGM2の策敵能力、機動性をアップしたもの.
後のガンダムMK−2、RX−86「サム」のベースとなった.
  RS-81-STI
 ネモ


重装甲、高火力を主眼に開発されたGMの後継機.
機動性不良という難点を抱えていた初期生産型に若干の改修を加え性能向上を図ったタイプが、STI(スタンダード・インプルーブメント)と呼ばれるタイプである.
結果的に失敗作であり、主力の座はRS-82B GM2へと移行している.
  RS・NF-81-STI-SES
 ネモ・ソード改

SEシステムの検証のため製作された改造実験機.
失敗作ではあったが、堅牢な設計の機体であったネモにSEジェネレーターとSEドライブスラスターを搭載したもの.
3機が改造され、3号機はスレイヴ・ソードのベースとなった.
ABFS−RR 01S
 メッサーラ・ディノファウスト・ジュピター

地球侵攻作戦を目的に木星師団のパプティマスシロッコが開発した機動兵器.
一撃離脱戦法に主眼を於いた設計で、巨大なエンジンポッドとそれに直結したメガ・ビーム・ランチャーが特徴.
01Sはシロッコ用にカスタムチューンされた指揮官機で、ロングレンジセンサークラスター、両サイドのウェポンベイに装備された接近専用マニュピュレーターが量産機の01Mと異なる部分である.
  ABFS−RR 01M
 メッサーラ・ディノファウスト・アルファ

量産型
左右のウェポンベイにはミサイルポッドを装備している.
木星コロニーで86機(01S含まず)が生産された.



「タイラントソード」世界におけるUC0087のMS配備状況

 エ ゥ ー ゴ
反地球連邦組織
リックディアス
エプシィガンダム(プロトタイプ)
ZETA(開発中)
メタス(開発中)
  
ティターンズ
ジム2−R
ネモ
サム(主力)
ガンダムMK−2(開発中)
ギャプラン(実験機)
ジュピトリス
木星師団
メッサーラ・ジュピター(アルファ)
メッサーラ・ジュピター
パラス・アテナ
  
アクシズ
ドム
ゲルググ
マラサイ
ザク3(ザク2改)
ガザ
キュベレイ
『タイラント』のMS
“配備状況”によればガンダムMK−2など連載には登場しなかったMS、MAが見られる.
これらのデザインは時期から見て文庫サイズの小説版「Z」の挿し絵デザインに近い物だったと思われる.
エプシィ(モデルグラフィクス)のように他誌のオリジナルMSもあるのが興味深い.
当初、藤田氏はオリジナルの『Z計画』展開も構想していたようである.

メッサーラの型番『ABFS』の意
Aggressive Beasted Formed Suit”.
アグレッシブビーステッドフォームドスーツの略であるらしい.
要はこの兵器も従来のMS・MAのカテゴリーではないということだ.



3.キャラクター

キース・マクレガー
階級:中尉  年齢:26才 

連邦軍辺境守備艦隊に所属していたMS搭乗員.
その技量を見込まれ、テストパイロットとしてアナハイムに出向となる.
ネクスト・ワン能力の潜在保有者で、アナハイムに引き抜かれたのも偶然ではなく、その能力を見込まれたため.







ネイナ・ラフィット・ファルム
年齢:3?才 

ミノフスキー物理学の権威で、SE計画の提唱者.
SE計画の実効性を示すためタイラントの開発を推進する.
旧ジオン出身の技師であり、元はフラナガン機関に属していたのかもしれない.
独身.

キャラクターデザイン
模型の企画であるタイラントにはキャラクターの設定は少ない.姿が描かれているのはこの二人のみである.敵としてパプティマス・シロッコも登場するのだが、セリフもキャラクター描写もない.

ネイナ女史
唯一の女性キャラが30代と比較的高齢なのはなのは藤田氏が年上好みであるためらしい.


4.ダイジェスト・ストーリー
タイラントソードのストーリーは主人公の回想録の抜粋という形を取っているため、非常に断片的なエピソードの連なりになっています(少なくとも小説とは呼べない).ここではその主旨をまとめてみました.

SCENE.1

主人公キース・マクレガーは連邦軍辺境守備隊のパイロット.
GMIIを駆るキースは、サラミス型巡洋艦「ビルケニア」を母艦として、ネオジオンの侵入部隊と交戦する日々を続けていた.そんな彼にアナハイム・エレクトロニクスへの出向命令が下った.

SCENE.2
AE社第13開発室−ネオ・ファリア−に配属されたキースは、主任技師ネイナ女史のもとでネモソード改を使用したSEシステムのテストを続ける.凄まじいGにさらされながらの過酷な実験の中、ネモソードは暴走.強制排除によって一命を取り留めるのだった.

SCENE.3
完成したタイラントに搭乗するキース.
連邦軍最新型MAとの模擬戦が開始される.
タイラントの性能は群を抜いており、三機のMAを三分弱で全機撃破してしまう.

SCENE.4
旧式艦「スピノソア」でテストわ続けていたキースに命令が下った.
“「ジュピトリス」へ接触、タイラントにてこれを撃破せよ”
数ヶ月前に始まったティターンズとエゥーゴの内乱に乗じて勢力を広げつつある木星師団の牽制、及びタイラントの威力を見せつけることによる政治的効果をアナハイム(連邦)は狙ったのだ.
シロッコの駆るメッサーラを捕捉したキースは格闘戦を挑む.
SEキャノンは全て回避され、タイラントの背後に回り込んだメッサーラのメガ粒子砲が直撃した.
しかし、SEフィールドによる防御障壁はこれを防いだ.
反撃に出たタイラントの攻撃によりメッサーラも中破し、シロッコは撤退する.

SCENE.5
「Z計画」からの流用パーツや安定性を高めた新型SEジェネレータ(AGタイプ)によるタイラントの改装が実施される.護衛機たるスレイヴ・ソードも2機、不足を補うために試作機たるソード改も用意された.
彼らに下された命令は百機近くのメッサーラを擁するジュピトリスの殲滅だった.
ネオ・ファリアは連邦に見捨てられたのである.
ネクスト・ワンによってのみ作動しうるソードは、その内包するシステムによっては時空間の制御すら可能となる.
その存在は連邦の存亡すら脅かしかねない.
連邦はタイラントを木星師団にぶつけることにより、その抹殺を謀ったのだ.

3機のソードを従えたタイラントはジュピトリスを襲撃.
瞬時に護衛艦のロンバルディアタイプを2隻撃沈、キースのネクスト・ワン能力は確実に発現し始めていた.タイラントとSEシステムを自らの感覚器に同化させる−それがネクスト・ワン能力なのだ.
ソードから送られてくる映像はビジョンとしてキースの思考へと取り込まれてゆく.

戦闘開始5分後、二隻の戦艦と七隻の巡洋艦をキースは沈めていた.だか、ジュピトリスは沈んでいない.
木星師団のメッサーラは総数84機.その群の中に、タイラントは突入した.
メッサーラの集中砲火はSEフィールドによって弾ね返される.
退却を開始したジュピトリスを追うには、メッサーラ軍団を粉砕せねばならない.
キースは無意識のうちにタイラントのSEフィールドのベクトルを偏向、メッサーラの群へと解き放った.
集中したSEフィールドは閃光となりメッサーラを瞬時にして全滅させるとともにジュピトリスをも直撃した.
ジュピトリスは破壊したプロックを排除するとはるかな宇宙空間へと消えた.

この戦闘で持てる戦力の大半を失ったシロッコは、ティターンズへの接近をはかることになる.
ネオフィリアは解体され、全ての資料は闇へと封印された.
そしてキース・マクレガーは再び軍に戻され、最前線へと送り込まれた….
辺境守備艦隊
一年戦争後、ジオンはアステロイドに拠点を移し、戦力を蓄えていった.連邦にはアステロイドを制圧するだけの兵力はなく、輸送船の襲撃などネオ・ジオンの襲撃はは後を絶たなかった.ネオ・ジオンの領空侵犯を阻止し、その動向を監視するのが辺境守備艦隊の任務である.

ネオ・ジオン

主力MSはMS−04マラサイ.アナザーストリーなので名前も位置づけも異なっている.ちなみに性能は「ジムIIに遠く及ばない」そうである.

ネオ・フィリア

アナハイムのシンクタンク、第13開発局の俗称.
MSに関する新技術の開発、実用化を任務とするが、その実態は明らかにされていない.第5開発局による「Z計画」や各NT研究所の新技術はここで生まれたもの…という設定になっている.
UC.0088に閉鎖.


続きます