パラサイト関の翻訳ミステリ・アワー



■このコーナーは、ページ制作者(ストラングル・成田)の後輩にして、
ヤキのまわったミステリ・ファン、関氏(米国サンノゼ在住)のメールを基に
構成したものです。苦情等は、本人に転送いたします。
色違いは、成田氏のチャチャ入れ。


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2001/2/26 今年度最高の本格
 『騙し絵の檻』 ジル・マゴーン(創元推理文庫)2000.12
 87年作の第四長編。ノン・シリーズ。「世界ミステリ作家辞典」で「戦後の本格ミステリのベストスリーに入るほどの傑作」と言わしめ、巻末の法月綸太郎の懇切丁寧な解説でも「過去四半世紀のベストスリーに入ることは間違い無い」とお墨付きを得ている。過去の二作ですっかりマゴーン中毒に陥っている当方としては、期待するなと言うほうが無理と言うもの。
 幼馴染のアリソンと私立探偵オールソップ殺害の冤罪で16年服役したビル・ホイトが仮釈放され、故郷に戻りかつての仲間「グレイストーン社」の役員たち、別れた妻、いとこらから事情聴取し、再度16年前の事件当時の個人的再捜査を開始する−復讐の為に。
 元女性新聞記者のジャン・ウェントワースの強力を得て、再構築されていく忌まわしい過去・・・。巧みなカットバックと供に今日の視点で徐々に明らかになる16年前の真実。だが、依然肝心の真犯人は判らず、壁にぶち当たり苦悩するビル。起死回生の逆転を賭けて、再度役員会に乗り込み、五人の容疑者全ての犯行が否定される時、カットバックで描かれた事件の冒頭から目の前に堂々と示されていた「本当の真実」に一瞬にしてひっくり返る世界・・・。
 マゴーンのお家芸がまた爆発だ。あくまで「トリックの教科書」からの巧みな引用なのに、この衝撃は何とした事か。単に古い皮袋に新しい酒を注いだのではなく、例えて言えば往年の名車を復刻する際にエンジンはターボを積み、最新のコンピュータ制御でオリジナル以上の性能を負荷したとか。解説にあるように今回のネタはクリスティーが中期以降繰り返し用いたお気に入りのテーマであるが、しかし本作の出来は本家クリスティーの同テーマの代表作(解説には明記)を遥かに凌ぐ水準と言える。それは正にコンピュータ制御されたかのような巧緻なプロット、計算され尽くされた伏線の効果に依るものだ。
  80年代の本格ミステリの行き方としての、冤罪者を主人公に据えた手法もディヴァインを彷彿とさせる玄人好みで唸らせる。衣装に工夫は凝らしてあっても、その核を成すミステリ・マインドは堂々たる「黄金時代」の正嫡であり、繰り返すが女王の冠が最も相応しいと言う思いは今回で確信から信念に変わった。だって、クリスティーをある意味凌駕したのだもの。一見無関係なエピソードが整然と説明される快感、「猿来たりなば」以上の堂々たる挑戦状、原題「隠れ馬」に込められた何たる自信!翻訳(中村有希)の何たる素晴らしさ。近年のフェラーズと言い、素晴らしい作品に素晴らしい翻訳が組み合わされたものである。トリッキーなだけの作品では断じて無い。シリーズ物のロイド&ヒル・シリーズにも研著だが、男女を語らせて、大人の読み物としてここまで成熟した「本格」も他に例が無いのでは?全てのミステリ好きは黙って読むべし。★★★★1/2 
 −でも、ベストスリーはちと誉め過ぎ?

 昨日、サンノゼの紀伊国屋に行ったら、「今月のオススメ本」のコーナーに霞流一「スティームタイガーの死走」が二冊立てかけて置かれていた。サンノゼでもベストセラーか?しかし、年明け早々この二冊はおれを完膚なきまでにノックアウトしてくれました。



2001/2/24  「化けた本」
『泥棒は図書室で推理する』 ローレンス・ブロック(HPB1692)2000.8
 お馴染みバーニイ・ローデンバー・シリーズの第八弾(全巻読破中)。恋人に振られ、親友のキャサリン(レズ)と傷心旅行で英国風カントリー・ハウス・ホテルに赴いたバーニイには、そこの図書室にあると思われる幻のチャンドラー「大いなる眠り」のハメットへの寄贈本を失敬すると言う思惑もあった。新婚旅行で訪れた当の元恋人レティスと鉢合わせ、如何にも英国ミステリの登場人物然とした滞在客たちと折りからの大雪でホテルに閉じ込められるバーニイ。お約束の殺人が一件、また一件・・・と計4人もが次々と犠牲に。
 前作(「泥棒はボガードを夢見る」)同様、最後に図書室で関係者を集めての謎解きなど、あくまで英国ミステリの伝統に則ったパロディ風に構成されており、大いにその出来に期待していたのだけど・・・。舞台の設定とらしい雰囲気作りで手一杯だったのか、肝心のミステリ的部分がおざなりで。キャサリンとの掛け合い、癖の在る滞在客たちとの応酬などで炸裂する上質のユーモアやギャグは流石手慣れたものだが(何度も笑いを誘われたあるよ)、欲を言えばミステリとしての仕上がりにも配慮が欲しかったな。

  実は今回はダラスへの出張で余裕で直ぐに読み終えると踏んで、他の本共々持って行ったのだが、いつものブロックらしからぬ感じで(?)中々読み進まなかった。ポケミスで330ページは、まあやや厚めの部類かも知れないが、そこで共感したのが冒頭に掲げた都筑道夫の「化けた本」(HMM00年12月号「読ホリディ」)である。「そこまでに、かなり時間がかかって、ひどく疲れた。いままでのローレンス・ブロックとは、まるで違っている」とあるのは、実際には途中で読了したと勘違いした筆者が、オチが判らなくて苦悩すると言う意味なのだけど、何か同じような狐に抓まれた感覚があるのだ。連続殺人の犯人の動機が伏線に乏しく推理不能な点、三人目の犠牲者に関してのそれこそ都筑道夫が引合に出したシムノン「ベルの死」同様曖昧な点と、かなり釈然としないのである。
 最もラストで語られる吊り橋が落とされた真相はちょいとユニーク(でも栗本薫の乱歩賞作品ネタと似てる)だったし、肝心のチャンドラー本を巡るオチもブロックらしいシニカルなもので、スパイスに関しては合格なのだけれどもな。★★1/2
  都筑道夫と言えば、HMM長期連載のエッセイ「推理作家が出来るまで」が単行本になっているけど(読みたいなあ)、今連載中の「読ホリディ」も連載144回で既に十二年も続いている!前の連載「辛味亭事苑」(おれは「しんみてい・じえん」と読み、成田さんに笑われた事がある)もそうだけど、続けてどこかで単行本にして、誰か送ってくれないかなあ。

 この本もツン読中だあ。全巻読破中とは、知らなんだ。「つづき」は、「都筑」なんで直しておきました。
 「推理作家が出来るまで」、特に下巻は、まとめて読むと相当に面白いっす。この本が推理作家協会賞をとって、「読ホリデイ」もフリースタイルから本になることでしょう。(根拠なし)しかし、出来上がった分厚い本を送ってくれる人はいないでしょうなあ。





2001/2/23 読書報告会
『箱の中の書類』ドロシー・L・セイヤーズ&ロバート・ユースタス(HMM2001.1~3)
 1930年の作品で共著者は医学博士の由。#4「ベローナ・クラブの不愉快な事件」('28)と#5「毒を食らわば」('30)の間に位置する第五長編。ベイズウォーターに住む経理部長ジョージ・ハリソン(56)が毒キノコの中毒による事故死?を遂げる。物語はハリソン氏の女中アギー・ミルサムと下宿人の詩人兼作家・ジョン・マンティングの書簡が交互に挿入される形で、エキセントリックな人々の行状が静かに露わにされて行く。妻マーガレットの書簡がこれに加わり、もう一人の下宿人、画家のハーウッド・レイザムとの不倫の進行も詳らかになる。だいたい、ハリソンの草庵での事故死?が起きるのが分載三回目の10ページを過ぎてからで(何故、それなのにこのハリソンの中毒死を「前回までのあらすじ」で繰り返し二回も記述するのか意味不明)、それまでは書簡と供述書に依ってたっぷりとこのひとつ屋根の下に暮らした五人の葛藤が微を入り細を穿って描かれる。これが堪らない。独身中年女アギーの独り善がり、作家ジョンの虚栄と慢心に満ちた辛辣な毒舌ぶり(相反する婚約者への遠慮)、そして恋焦がれる人妻マーガレットの迸る熱愛。「ペトラ、愛するひと、あなたとわたし、あなたとわ たし−」何だか俺の好きな(封印した筈の)「花のサンフランシスコ」を嫌でも想起するじゃないっすか。お話しはここからハリソンの息子、ポールが事故死に疑いを抱き、ここまで紹介された書簡や供述書を集め、さらに関係者から事情を聴取して、真相に辿り着いていくもの。題名はポールが公訴局に再捜査を求めて送りつけたこれらの書類入りの箱を指す。
 ・・・・実はその真相は分載初回の「解説」の中で早々に記述されており、それ以外の驚きは無い。本作を鑑賞する主題は、この事件の真相そのものではなく、あくまで書簡体で構成された人間関係の描写にあるとでも言わんばかり。共著者が医学博士と言う事からも伺えるが、真相解明のネタはおそらく当時最先端の「化学ちょっと面白い話」から来ており、キノコ中毒による事故死と診断した分析医が再検査を試みて「何と言う事だ!」と、あっさり自分の診断を翻し、これは殺人だったと納得する事で必然的に犯人も断定されてしまうもの。ただ、この一発ネタ(残念ながら70年後の現代では風化している)を巧みに森の中に隠す意味で、恐らくセイヤーズの筆で新鋭芸術家ジョンや陽気な科学者、進歩派の司祭らの口から、哲学・神学・物理・化学・バイオ・宇宙論を奔放に語らせる。驚く事にこれらの衒学的な部分は70年後の今日の目で見ても少しも古くないのだ。むしろ、ヒトゲノムやクローンを予言するかのような鋭い洞察に満ちていて、前述の書簡による内情描写共々最も活き活きしている。
 しかし、ミステリとしての出来は「化学ネタ」に頼りすぎて、消化不良。訳者松下祥子氏の同号所載のエッセイでも「セイヤーズ本人は結果にあまり満足できなかったようだが」とあるが、それはそうでしょう。最もエッセイではその後「最初の混乱状態が、実はいろいろな伏線を隠していて、後半に見事にまとまっていくところが痛快だ」とあるのだが、最低の儀礼の伏線がひとつ印象にあるだけで、そう言う爽快感は無かったな。ただ、セイヤーズの描写の巧さにのみ少し癒されたと言った所か。★★★

--構成においてはコリンズの「月長石」に挑んだ由だが、マクドナルドの「迷路」('32)同様、パッとしなかった。おっと、「迷路」もかつてのHMM長編分載!タルボットの「魔の淵」がポケミスで出るようだけど、これも初読の印象はイマイチだった。再読を約す次第。

 
 丁寧で勘所を押さえたなレヴューで、すっかり読んだ気になれる。衒学部分が面白そうなので、これは近いうちに読んでみようかと思う。解説を先に読むのはいけないのは、わかったし。
 注釈  中で出てくる「花のサンフランシスコ」は、フローレンス・メイベリの作品でHMM81.1に掲載。なぜか、関のお気に入りの一つ。別に封印しなくてもいいのでは。





2001/2/16 キス・オブ・ファイア
「火の接吻」戸川昌子(扶桑社文庫)2000.12 初出は84年(講談社ノベルス)。
 二十六年前の出火事故で死亡した洋画家。五歳だった三人の子供の火遊びが原因と目されていたが、夫々31歳になった彼らは刑事、消防士、放火魔となって、連続放火事件を契機に再び邂逅する・・・。焼死したライオンの胃袋から出てきた消防士の身分証明書、現場で目撃された謎の火吹き男、新劇女優の死、ライオンの石仏消失と次々に提示される謎に幻惑され、事件の真相は常に藪の中。次第にどいつもこいつも一癖あるように見えてくるのも道理で、壮大な騙し会いが明かになるにつれ、全てがオペラの登場人物に擬せられた巧緻な演出であった事が判る。
 但し、作者は最後の一人に至るまで勝利者を許さず、徹底的に打撃を加える(エピローグで示される「2.慶事・消息欄」の318ページの伏線の効いたオチを見よ)。全ての登場人物が二十六年前の事件に縛られ、二重三重の陥穽に落ちていく無常。「火」がテーマでありながら、どこまでも冷たい人間不信の眼差し。一発大技の決まった「大いなる幻影」再びを期待したが、苦吟した「捻り」の効き過ぎで、所々破綻もあるのではないかな。晩年のクイーンが好んだテーマに共通だけど、意外性の衝撃がそれだけでは弱いのだ。ここでも「伏線」スパイスの効用が鍵となる訳で、同様の犯人の隠し方でも、ディーヴァーのそれを指示するのはそこに至る伏線の在り方なのです。 84年の発表当時が作品の舞台でもあるのに、どうしても60年代か70年代のようにしか感じられないズレも気になりました。★★★
 そう言えば、本作初出当時は物凄い映画小僧で、翌年にはにっかつの最後の映画脚本募集に投じて(「団地ワイフ」)二次予選で落ちたものです。その頃に高橋供明監督で企画され、映画化されなかった「火の蛾」というのがあり、多分前年出版の本作のタイトルと両方から、放火魔を主人公にした脚本を構想していた事を思い出しました。確かヒッチコックの「マーニー」の要素も取り入れたやはり消防士が主人公で、「消防士が実は放火魔と言うのはイージーかなあ」とか悩んでいた記憶があります。イージーでした。さすが、戸川昌子はそんなものの遥かに上を行く発想で、お話しを構築されておりました(俺のアイデアなど捨て駒的扱い)。当時のミステリ好きの集いで、
「いつも本の話しばかりで、たまには他の大学生のように女とか車の話しをしようぜ」
「そう言えば、最近戸川昌子が新車を買ったそうですよ」
「はい、おしまい」
と言うのがありました。

 伏線が弱い、破綻もあり、というのは、そうかもしれない。ただ、結末の眩惑感は、なかなか得難い
ものがありやす。どこまでも冷たい人間不信の眼差しというのは、同感。おお、映画小僧の過去が。
集いの話は、笑いました。純真だったすね。 



2001/2/14 私家版
 実は11/30の書き込みで、「アサヒグラフ」廃刊などと書いていましたが、あれは「太陽」廃刊の間違いでした。同様にストラングル先生の作者をとっちらかったり、アメリカにいて記事ネタ確認の不備から要らぬ混同をしてしまいました。

  と言う過去の己の不明を詫びるのも、「本の雑誌」で連載の吉野朔美(『本』の映画)にて、作者が絶版と勘違いしてJ・フィシュテル「私家版」のストーリーを紙上公開していたのを見たからです。最後のページの脚注で「元版も生きています。以上、勘違いでした。ごめんなさい。吉野」とあるけど、これって原稿を書き上げてから差し替えも間に合わなくそのまま載せてしまえ!との編集判断だと思うが、釈然としないなあ。これでいいのか?

  先日、サンフランシスコの紀伊国屋に行く。以前にも書いたが、サンノゼ店より店構えが圧倒的に大きいくせに品揃えはひどい。新刊のラインナップは明かにサンノゼ店に見劣り(サンノゼ店で先日北村薫「リセット」を入手)、アニメおたく系の雑誌やムック本が異常にある。そのくせコミックでは文庫が殆ど完備しておらず、不均衡甚だしい。ただ、文庫棚の数は多いので日本の新刊書店ではとっくに返品になっているような古い新刊まで含めてごっそり在庫されている。ひと昔前の日本の本屋(特に地方の)ってこうだったよなあ。今は文庫も雑誌並で、新刊刊行時に平積みされた後はそのまま棚置きにさえならずに消えていく本が多くてねえ。色々冷やかしていると、高木淋光(←字が出ない)の春陽文庫や光文社文庫が結構揃っていて「ほほう」とその内の一冊春陽版「妖婦の宿」を手に取ると、そのあまりと言えばあまりな表紙に腰を抜かした。今時「日刊ゲンダイ」でもお目にかからないような下司なイラスト!ネグリジェの前を肌蹴た松坂慶子似の女・・・。白とピンクで彩色されたグロテスクなまでに安っぽいその白肌。奥付を見ると初版昭和 63年とある。忘れていたなあ、こんな本。
サトウハチローの詩「だいこんの花」を思い出した。

人知れず 忘れられた茎に咲き
人知れず こぼれ散るほのかに白い
だいこんの花

航空運賃を掛けての日本への返品も適わず、ここサンフランシスコにもう数年以上も店ざらしになっている「妖婦の宿」。哀れ。誰か買ってあげて!「ほのかに白い 妖婦の肌」

 >ストラングル先生
 それは、ストラング先生。ストラングル先生は、わしじゃ。
 
 >これでいいのか。
 編集段階で絶版でないことが判明したので、窮余の一策ということかな。途中で、粗筋を打ち切って、余ったスペースは「だいこんの花」でも引用した方が良かったかも。
 「私家版」は、映画で観たけど、ちょっと人に話したくなるストーリーではある。

 >彬光
 「あきら」と打つとでますぜ。彬光カバーは、確かに凄い。

 >古い春陽文庫
 今、日本で大ブーム?園生義人とか中野実とかはないか。「だいこんの花」はなんとなく沁みる




2001/2/13 サンノゼの図書館
 ご無沙汰です。「パラサイト」の2000年8〜12月がリンクされません。すわ、またデータ消失か?ご確認下さい。
 さて、サンノゼ周辺の図書館には日本の書籍もあるらしいと聞き、過日メンバーになりがてら探索してみました。
 先ずは家の近所のサニーヴェール図書館へ。棚数にして二つほどが日本の書籍で、所謂ベストセラーものとかあまり興味を引く書物は無し。駐在員の払い下げ、見え見えの蔵書です。英会話手ほどきモノとかはトホホと言う感じで。児童モノコーナーには童話や学習モノがひと棚分ほど。何も借りないのも悔しいので、学研の学習百科を一冊借りました。
 サンノゼのダウンタウンにはもっとデカイ図書館があるとのことで、そちらにも廻ってみると、おお成る程こちらは流石の品揃え(と言って良いのか?)。本棚にして六棚ほどが日本書籍で、小説がその内四棚。ミステリで言うと、綾辻、宮部、東野と言った所から絶版の仁木悦子六冊、小泉喜美子、「ポジオリ教授の事件簿」も・・・。
 しかし、ここで一番驚いたのは、棚の脇にある「読みたい本リクエスト」の書き込みに「鮎川哲也の『白い密室』」と書いている在サンノゼの日本人がいたことです!誰だ?出て来なさい。
 翌週はこの発見に気を良くして、さらにサンノゼ図書館の分館二軒に足を運ぶ。「ぼっけえきょうてえ」とか買い控えていた本が色々あって嬉しい。ビデオも黒澤明を中心に少しあり、たけしの「HANA-BI」と鈴木光司「らせん」を借りました。
  本のレビューは来週の出張で。

 久しぶり。リンクすまぬ。直しておきました。
 しかし、何故学研の学習百科。職場レポートでも書くのかな。
 むむむ、サンノゼの鮎哲フリークだれだあ。
 では、またお待ちしております。 



2001/1/17 チョー興奮! 
「スティームタイガーの死走・大列車殺人」 霞流一(ケイブンシャノベルス 2001.1)
 山田君!楽屋にある座布団全部持って来なさい!見事見事。すごい真鯉緋鯉。脳天直撃の一作。「やられたあああああ」今、ここに畳があればその上を転げ回っています。
 現代に復元された幻の蒸気機関車C63「虎鉄号」が間然と東甲府駅を出発した後に、二人組みの男に列車ジャック。逃げ遅れて人質になる乗客の中に、本作で名探偵役を務める女鍼灸師・蜂草輝良里とダメ刑事の唐須太。駅で発見された乗車予定だった男の死体、ロケットの様に雪の上から消えた運転手になる予定だった老人、密室のコンパートメントから発見された無残な赤剥けの死体・・・。そして、六人の人質を乗せたまま消失する虎鉄号!まさに「ノンストップ本格」の名に恥じない畳み掛けるような謎のオンパレード。乗っ取り犯の奇怪な要求を含めて、これらの謎が全て『合理的』に周到な伏線をベースに(ここが肝心!)解き明かされるこの快感。「ゲロの密室」の真相にはた、と膝を打つ俺。「列車消失」の真相に活かされる数々の伏線と小道具の妙味は、正に「本陣」「ナイルに死す」を上回る満足が!そしてこのヌケヌケとした雄大なトリックに、マッキンレイ・カンターの「ピアノ盗難事件」が被さる時、既にして俺は冒頭の科白の如く、座布団運びの山田君を探していた。ところが、さらにここから怒涛のフィニッシュ・ストロークが事もあろうに二輪車でこようとは!嗚呼、世は女 か虎か。殊に最後の仕掛けは過去世界の如何なる大作家も裸足で逃げ出す出来映えでは?クックの「夏草の記憶」を読んだ時の驚きに優る計算され尽くしたこの芸の素晴らしさ!正に掴みはOK!ディーヴァーも超える大どんでん返しだ。勿論、笑いの方も二重丸。新世紀を飾るに相応しい一冊です。★★★★1/2です。あと、1/2は予告されている次回作にさらなる期待を要求しているため。はあはあ。

 この骨太の本格魂と言い、ハイセンスなお笑い魂と言い、俺には「新本格」も銀座「ささもと」のレバ刺しももう要らない。21世紀はこの人の本さえあれば、刑務所でも無人島でも生きて行けるのだ。因みに霞作品のここまでの俺流ベスト3(全七長編中)は、1.スティームタイガーの死走・大列車殺人 2.オクトパスキラー8号 3.赤き死の炎馬であります。

 やはり、この作家を語らせたら、右に出る者はいない大興奮。とにかく、盛り込まれた趣向の多彩さは凄い。これまでの霞長編のベストなのでは、というのに一票を投ず。



2001/1/12 それ行け飯野文彦
 What's New? 12/27記載の岩井大兄及び1/5の成田さんコメントに感化されて、サンノゼ紀伊国屋書店で$9.30で購入して、飯野文彦を読む。大兄のコメントを真に受けると、何かギャグ炸裂系の小説のようだが、成田評にあるようにもっとシリアスな話しだったぞ。
 「アルコォルノヰズ」飯野文彦(ハルキ・ホラー文庫 2000.11)
 冒頭から大暴走の過剰な直喩で、一瞬落ちそうになる。これが確信犯的な手法と判った後も、何だかモゾモゾと落ち着かない気分なのだが、次第にこちらも麻痺して来るよう。フリーライター・木島克也の二日酔い明けの朝から始まる話は徐々に『過去と現実と幻想と虚構の境界線』が喪われて、迷走する主人公と妄想・回想入り乱れての思考の混乱から、一気にホラーに転換し、ラストは少ない登場人物たちで巧みな収束を演出。ホルマリン漬けならぬ全編アルコール漬けの妄想談だが、不思議とシンパシーを感じて侮れない。★★★
「それ行けスマート」ウィリアム・ジョンストン(HMM2000.11~12訳載)
  007特集の流れとは言え、何故今『それ行けスマート』なのか?しかも、65年作のノヴェライゼーション。ところが、こいつが滅法笑わせてくれる、ご機嫌なおバカ小説なのだ。コントロールのエージェント86ことマックス・スマートが受けた指令は行方不明のコンピュータ「フレッド」をそれを悪用しようとする諸外国のスパイ組合“フラッグ”のエージェント達より先に見つけ出し、無事連れ戻す事。このコンピュータを作った(2歳の甥のプレゼントに買った組み立てキットで偶然に出来た!)ブロンド美人のブロッサムと、犬のK-13号ことファングを引き連れ、いざNYに捜索に乗り出す・・・。靴が携帯電話、仕掛けだらけの愛車などのお約束のスパイ・アイテムを悉くおちょくり、敵方のスパイ、ボリス、ノエル(ブルネット美女)らとの掛け合いは全てこれ「はやゲラゲラ」のギャグ満載で、イイ線行っている。往時のカーター・ブラウンの十八番を行くスマートさで、ノヴェライズとも思えぬ出来の良さ。とにかく、全行で過剰なまでにギャグの応酬が繰り広げられ、飽きさせない。うーむ、ちょっと誉め過ぎか?★★★1/2
 さあ、次は霞流一だ。それ行け!


>不思議とシンパシーを感じて
 岩井大兄も酒浸りの日々が甦ったようである。
>「それ行けスマート」
 結構イケてるのではないかと思ったが、そうでありましたか。



2001/1/8 てい!
 大晦日に発送頂いたご本(何と、三冊も)無事1/5(金)に届きました。有難う御座いました。これは今度こそお礼に何かこちらの本を送らねば。来週にでも、物色してまいります。
 安田医師の消息にはビックリ。しかもそのHPに二度ビックリ。立派なお医者様ですねえ。
と言う訳で、ようやくHMM長編分載クラシックのレビューに。
「ロウソクのために一シリングを」ジョセフィン・テイ(HMM00.6〜10月号五回分載)
1936年作の同女史のデビュー作。アラン・グラント警部初登場作。ヒッチコックの「第三逃亡者」原作。これに続くグラント登場の第三作「フランチャイズ事件」(1948)は、宮部みゆきが「こういうものを書きたい」と、思い出のポケミスに挙げていた一作。何とも不思議な少女の誘拐監禁劇の話しで、強烈な冒頭の不可能興味が風変わりな登場人物達の供述を聞く内に、次第に麻痺して行くストーリーで、どういう位置付けにして良いか判断不能の『浮遊感覚』ミステリであった。本作も勝手に黄金時代の所謂正統パズラーかと読み始めたが、次第に後年の「フランチャイズ〜」の萌芽を感じる脇筋への脱線が横溢した一編。
 イギリスの避暑地ウェストオーバーの海岸である朝発見された水着姿の女性溺死体。実は、著名な映画女優クリスティーン・クレイである事が判り、マスコミは大騒ぎ。彼女のコテージに逗留していた破産青年のティズダルに容疑をかけるグラント警部。この挙動不審の青年に被害者クリスは多額の遺産を残す遺言状を書き換えた直後の死だった。しかも、その遺言状には他に行方不明の兄宛に「蝋燭代を一シリング」と言う謎の遺言まで。かくて、警察の前から逃亡を図ったティズダル青年、女優の夫で貴族のエドワード卿、女優の愛人との噂される作曲家ハーマー、謎の伝道師になっていた兄ハーバード、女優の取り巻き連中らをさばきながら生真面目なグラント警部の苦悩と苦闘が続く。
本筋の捜査より、脇筋のエリカ(警察署長の娘)のお転婆捜索行や、深夜の伝道師追跡のサスペンスなどが光り、これら多彩な登場人物達のウィットに富んだ性格付けこそが、本作の主眼であったかと気付く。唐突な嫌疑外からの真犯人登場や、結局は表面的な意味しか持ち合わせなかった「一シリング」の真実も含めて、ミステリ的お約束は至って小作り。この辺の拍子抜け感はデイリイ「二巻の殺人」に似ています。その後に、他の容疑者の仕掛けた別の謎が(一応)伏線と共に解明されるのだけど、これはオマケ。ただ、前述した後年の作風の萌芽が見られるユーモアとウィットは、駒田寿郎の軽妙なイラストとするどくマッチして実に「ほんわか」とした読後感がある。捜査に行き詰まり、悩めるグラントの姿(や時折聞かれるグチが愉快)は今日の目で見てもイイ線行っています。でも、前回訳載のデイリイ「予期せぬ夜」は、まあかろうじて及第としたけど、これは「単行本にする価値ありや」と問われると、うーむの★★1/2です(五つ星)。読み巧者は、こう言うパズラーの形式を拝借した「惚けた」味を深読みして評じるのかも知れぬが、俺の読みではこれが限度。
 それでも、HMMには長編分載続けて欲しい!何せ「ポップ〜」の栄光があるのだから(これ以外は過去にも無いと言う事も出来るが)。

 1週間から10日といってたけど、航空便5日で届くのか。アマゾンに注文した本でいまだ届いてないのがあるぞ。ぷんすか。
 >これ以外にはも過去にも無い。
「魔の淵」とかあるじゃないすか。「第3逃亡者」の次は、「バルカン超特急」(ホワイト・タイガー)ということで、よろしく。



2001/1/5 しつこくディーヴァー
 「本の雑誌」の2000年度ベスト10を紐解くと、御大北上次郎のディーヴァー評(「コフィン・ダンサー」を5位にしている)で「(前略)その直前に訳された『悪魔の涙』が、おやおやっという出来だったのであやぶまれたものの」「『悪魔の涙』で、この作家はもういいやと思った読者もぜひ本書(コフィン・ダンサー)を手に取られたい」と、「悪魔の涙」にはいたく手厳しい。新刊採点員の評価では二人がベスト3に挙げており、「納得出来るどんでん返し」「絶叫マシンに乗せられたよう」と、フォローが入っているが・・・。
 消化不良に思っていたら、HMMの冒頭インタビューで倉知淳が作品を特徴付けるキーワードとして「<伏線>はとっても好きなんです」と、所謂「伏線張り師」の思いの丈を語っており、いたく同感!これ、これ、これがディーヴァーにもあるのですよ。東の倉知淳、西のディーヴァー。おれの永遠のキーワード、<伏線>を愛する二人。
 ところで、HMMで今月の森英俊「ミステリ洋書通販」に突込み(笑)。E・D・ホックの怪盗ニック・ベルベットの最新短編集についての振れ込みだけど「(前略)そのうち既訳のものもいくつかありますが、未紹介の中には、ニックがなんと長年の恋人グロリアのコートを盗む作品などもあり、ファンにとっては見逃せません」とあるが、これはズバリEQ98年11月号に「グロリアの赤いコート」として既訳があるのでは。当時の俺の採点では三ツ星で★★1/2のその号のベストでした。遠くアメリカから重箱の隅を突ついてすみません。

 やっとこディーヴァーにとりかかる。
 グロリアのコートについては、お説のとおりかと。ここ。




2001/1/3 新年(新世紀)本始め
 新世紀明けましておめでとうございます。アメリカ暮らしも1年半を超え、あとどれ位かは判りませんが、未だしばらくは不自由な読書生活を強いられそうです。昨日の元旦は男山の吟醸酒「木綿屋」(五合瓶で$34.99!)を飲み、風太郎先生を偲んで「肉トロ巻き」を頂きましたが、正直牛肉とチーズの組み合わせって、すげえ高コレステロールで重かったっす。これはとても老人食とは思えず、何と言うかとにかくヘビーでした。
 ヘビーと言えば、年末から読んでいたジェフリー・ディーヴァーの「悪魔の涙」。中々の読み応えでした。「悪魔の涙」ジェフリー・ディーヴァー(文春文庫 2000.9)
 元FBI筆跡鑑定人パーカー・キンケイドが大晦日の夜にワシントンで発生した無差別乱射事件の犯人からの脅迫状を、次の予告時間(真夜中まで都合三回!)までに鑑定して、犯人の正体を暴くべく急遽召還される。小文字のiに特異な点を打つ−尻尾が真っ直ぐ上に伸び、水滴のような形を作る−この特徴を『悪魔の涙』と呼ぶ。その脅迫状を書いたと思しき犯人からの指示を失い、機械的に予告時間通りに殺人を重ねる無機質な殺し屋「ディガー」。4時間ごとの予告時間までに、その場所を、犯人のアジトを唯一の手掛かりである脅迫状から、推理するパーカーら、FBI特捜チーム。タイムリミット・サスペンスの醍醐味爆発。俄然と推理にも緊迫感が伴って、陶酔してしまう。主人公パーカーが抱える前妻との子供達を巡る監護権争い、過去の殺人犯襲撃のトラウマに怯える長男、事故で最愛のひとを喪った過去を持つ女捜査官のマーガレット・ルーカス・・・・。抜きつ抜かれつの捜査の果てに、作者の仕掛ける今回の「どんでん返し」「意外な犯人」は、ドラマに奥行きを持たせるこれら登場人物達の過去のトラウマのエピソードまでも巧みに「仕掛けの」伏線として、利用する。パズルのピースとし ての伏線ではなく、ドラマに必然的なエピソードを「伏線」として、活用するテクニックが巧い。前妻に内緒で捜査に参加するパーカーの危機を、何度も不可能状況から救い出す「奇跡を起こす男」ハロルド・ケイジが身震いするほど恰好言い。地味な特殊技能をここまでクローズ・アップして、570ページの長丁場を一気に読ませる作者の筆力も凄い。何より、「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」と、傑作を連打するレベルの高さに脱帽。個人的にはより丁丁発止の掛け合いの多かった「コフィン・ダンサー」が一番好みだけど、本作も★★★★級の傑作です。
 エンタテインメントに徹して、「ハリウッド映画的」「どんでん返しの為のどんでん返し」とかの揶揄も聞かれるが、これだけ楽しめてどこが悪いのか。少なくとも、巷間評判の悪いベストセラー作家の諸作なんかと混同されるのは迷惑千万。もっと、素直に褒め称えられるべきひとです。俺のポイントはひとつ。「伏線」テクニックの巧さ。それを物語の中で自然に演出していること。もっと誉めてくれえ。はあはあ。

 本年もよろしく。米国にも、チーズの肉トロが上陸。しかし、「偲ぶ」なよ。
 「スティームタイガーの死走」大晦日に航空便で送りました。しっぽの先まで、餡が入ったような快作でありました。



2000/12/28 聖者ニューヨークに現る
 「スチームタイガー」、直ぐ送って下さい!俺の分でしょ。はあはあ。

今年のクリスマス休暇はニューヨークに行ってまいりました。ミステリ者のNY観と言えば、
・マーダーズ・インクでオットー・ペンズラーに逢えるかしら?
・タイムズ・スクエアには魔女がいるかしら?・五番街のティファニー本店ではヘップバーンが「すごいわ、すごいわ」をしているかしら?
 などと言う他愛も無いものばかりですが、最高気温0℃のこの季節のNYに郷愁を味わい(22日には雪まで堪能)、久々の大都会に圧倒されっぱなしでした。往年の小林信彦ばりにブロードウェイでミュージカルを観劇。ラフな恰好の親子連れから、叶姉妹ばりのドレスアップしたモデル風から、田舎出の日本人夫婦から実に種種雑多な観客構成。道立美術館の百倍はありそうなメトロポリタン美術館(「殺しのドレス」でも有名っすね)に圧倒、グランド・セントラル駅地下の有名なオイスター・バーにちょっとがっかり、五番街の紀伊国屋書店で文庫の充実に感動(旭屋もあるのね)、連日リトル・イタリーのイタリアンを堪能し、ソーホーにある手打ち日本そば「本むら庵」の天せいろに感涙!恐怖と言われるNY地下鉄と市バスを乗り継ぎ、成る程ここはヘップバーンならずとも「すごいわ」です。しかし、寒かったっす。
 帰ってきて、サンノゼの紀伊国屋でようやく「このミス2001」を購入(泣)。泡坂妻夫が1位とは。海外の「ポップ〜」についてはもう二年前の話しなので既に記憶に遠く、個人的に最も興奮してしまったジェフリー・ディーヴァーがやたらと「ハリウッド大作映画」に例えられていて、何だかこれでは自分が安直なSFX大作に小躍りしていたシロートみたいに思えてきた。インターネット等を通じて目を通した限りの書評では総じてその映画的構成に加えての「あざとさ」ばかりが取り沙汰されていたようで、俺はまんまとその膨大な伏線マジックに狂喜した所詮悲しいジェフリー・ダンサーかい、とややいじけるのであった。トマス・H・クックの新作に対する投票も低く、ゴダード共々「旬」が過ぎたかのような軽い扱いで、不満。同じくサンノゼの紀伊国屋で飯野文彦著「アルコォルノヰズ」を見る。新刊の棚に 4冊はありました。これも買わねば。

 誰が聖者やねん。(お約束)
 「スチームタイガー」の
件、了解。航空便で即送ります。なお、送料負担願います。はあはあ。
 NYでクリスマス休暇あ?くの、くの、くのやろ。(ショージ君風)あー、俺には一生ないだろうな。「NY「本むら庵」の天せいろに感涙!」などと一度でいいから書いてみたいもの。
 
 まあ、「このミス」に人格を与えるとしたら、いっとき必要以上に熱狂的にもちあげて、飽きるのも異常に早い、節操のない書評家になってしまうかも。酔うと出てくるセリフは「あいつは俺が育てた」。2002年度版には、これまでの投票者の傾向を分析して、事前に結果を出す、人工知能「このミスくん」の登場の噂も。自分と傾向の合う書評家を信ずるのが一番っす。
 「アルコォルノヰズ」評、お待ちしています。