KMZ Zorki-1

  with INDUSTAR-22 50mm/F3.5


 いわゆるコピーライカで有名なロシアンカメラである。これを元にフェイクラ
イカも作られているほど良く似ている。ただし、メカの精度としてはライカの足
下にも及ばないであろうが、写真を撮る道具としては決して負けてないのではな
いだろうか。時代的にはオリジナルのライカDU(戦前)よりも後の1950年
代の前半の生産であるから、ロシア製というよりソ連製というべきかもしれない。
はっきりいって、この時代のカメラの方が、ソ連崩壊後のカメラより出来がいい
というのがもっぱらの噂である。たしかにキエフ19Mという現行のウクライナ
製一眼レフは24枚撮りのフィルムすら最後まできちんと巻き上げられなかった
から、あながち嘘ではないと思う。
 やっぱりライカが欲しいと思っていても、中古でも1桁金額が違うと、とても
世の一般的サラリーマンのお小遣いでは、手が出ないのが本音だろう。かといっ
て、新進気鋭の”らいか”ことコシナ製BESSAシリーズにするのも安直な感
じがする。そして、ライカといえばやっぱりM型よりバルナックタイプの方が味
があっておもしろそうだなんて考えている人間は、流れ流れてここへたどり漂着
するのではないだろうか。希に、ここから本家ライカへはい上っていく人もいる
が、多くの人が、このままバチモン世界をさまよい続け、天国を知らずに地獄も
悪くないなあなんて思うようになるのである。
 元々バルナックライカというと、オリンパスのOMシリーズと寸法が似ている
のは有名な話。事実、OMシリーズの生みの親、米谷喜久氏が持っていたのがV
fである。やや横長で背の低いこのカメラは非常にコンパクトだ。しかも小さす
ぎない。シャッターボタンが手前側にあるのは使いにくそうな印象だが、実際に
は全然問題にならないくらいすぐ慣れる。やや重たいシャッターボタンを押し切
るとバシャンという大きな音とともにシャッター膜が移動するのが判る。本家ラ
イカがこんな感じかどうかは、持っていないので比較できないが、ここまで大き
くはないのではなかろうか。とはいっても写真を撮るには全然問題ないレベル。
あくまでもロシアンカメラは実用を楽しむもので、カメラの感触を楽しむもので
はい。これを間違えなければロシアンカメラはとっても楽しいとなるのである。
 付属のレンズは、INDUSTAR-22という50mm/F3.5である。これもライカのエルマー
をコピーしたらしいが絞りの位置が異なるためツァイスのテッサーコピーともい
われている。元々エルマー自体テッサーのコピーであるから、どちらにしても同
じようなレンズであることに違いない。そしてこのレンズもコピー元と同様に良
く写るらしい。おまけに、本家ライカのエルマーより鏡胴のメッキが美しく、50
年をたった今でもその輝きを失っていない。しかし再メッキされた可能性も否定
できない。もちろん沈胴時の動きもスムースで絞りの動きも大変よい。
 クラシックカメラ固有の儀式というものがこのカメラにも存在し、フィルムの
入替については、ライカ特有の底から装填するタイプで、慣れれば時間はかかる
が、失敗は少ない。ダイヤル式巻き上げも、スナップ中心に使うなら問題ない。
第一こんなカメラで高速巻き上げを必要とする被写体を撮ろうなんて考える方が
無謀だ。シャッタースピードの変更もフィルム巻き上げ後に、ダイヤルを持ち上
げながら回すなんてことも自然に慣れる。むしろ、フィルム巻き上げに連動して、
シャッターダイヤルや、レリースボタンが回転することにちょっとびっくりして
しまう。これが噂に聞く一軸回転式シャッターか。よくカメラのスペック表に一
軸不回転なんて言葉を目にしたことがあるが、やっと意味が分かった。昔のフォ
ーカルプレーンシャッターのカメラは、シャッターを切るとダイヤルが回転する
のだ。さらに、ピント合わせとフレーミング用にファインダーが二つ存在するこ
と。これも新鮮な感じ。どれ一つとっても、素早く操作することは考えられてい
ない。正確には、当時はこれでも素早い操作系で通るほど、カメラの操作は煩雑
であった。時代の流れとともにより速いテンポでの操作性が要求されて今のよう
なカメラに変化していった。そんな時代だからこそこの当時のカメラは、はやり
の言葉で言うスローライフなカメラといえるのではなかろうか。。
 試写の結果も全く問題なし。特にこのレンズ、噂通りのすばらしい写りをする。
もちろんショップにてピント調整や、距離計調整、シャッタースピードもチェッ
ク済みのものだからおかしいはずはないのだが、当時のソ連のコピー技術(民間)
が如何に高かったかうかがい知れるようだ。いまだに日本製品をコピーしても二
流品しか作れない某大国とは大違いである。
 レンズにコーティングがされているのでカラーフィルムを使ったが、全く問題
なし。発色も悪くない。フィルム上では露出のバラツキが見られるが、これは私
のカンが悪いだけ。露出計が無いので小型のメーターを使ったが、シャッタース
ピードが現代の倍数系列になっていないのも影響しているのだろう。ボケもチリ
チリにならず、割と素直な感じだ。
 しょせんコピーだろと言われればその通りだが、ライカをコピーするというこ
とはそれ相当の苦労があるはずである。当時のフィルムの性能から考えて如何に
当時のソ連の技術力が優れていたか、うかがい知れる一品であった。

                                          2003年8月入手