愛知県岡崎市

                               '04.03.28
今回は、特別寄稿!! 

美女繚乱「奥山田のしだれ桜」

                        管理人妻 陽花(ひろか)

 昔話にはよく、名高き美女に一目会いまみえんと、千里の道を旅する若者が登
場する。現代では、そのような苛烈なロマンチシズムは存在しないが、山間にひ
っそりと咲き乱れる一本桜の大樹を追い求めてやまない人々の心に、その思いは
似通っているのではないか。
 愛知県岡崎市北部、村積山の麓に、その美女はいた。時は3月の28日。未だ
息白き早朝の痛いほど澄んだ陽射しが、彼女の豊穣な身体をひんやりと包んでい
た。
 満開の、ほんの一瞬手前。流麗な眉も影の濃いまつげもそよと動かず、瞑想し
ているのか浅い眠りを漂っているのか、つややかな瞼をうっすらと閉じ、馥郁
(ふくいく)とした唇は、かぐわしい息を吐くためにほんの少し開かれている。
夜討ち朝駆けでたどり着いた男達(こんな朝早く、休日に妻子を捨てて来るのは、
たいがいアマチュアカメラマンという蛮族である)は、彼女を目にすると、人間
には決して向けたことのないとろけるような笑みを浮かべる。そうして、いそい
そと機材を出すと、まずは遠目で、赤子のように無防備な裸身でまどろむ彼女の
姿を、じっくりと堪能する。
 やがて、女を驚かせまいとするように、そろりそろりと近づいて行く。やがて
その香る皮膚のぬくもりが頬に感じられるほどの距離に来ると、もう情熱をせき
とめるものは何もない。そのかぐわしい姿を永遠にこの身に刻まんとするかのご
とく、男達は、レンズを通してあらゆる角度から彼女と交歓しようとする。
 女は、釣書の曰く、エドヒガンのしだれ桜、齢一説千三百歳。「胸高囲二.四b、
根囲二.二五b、樹高十七b、枝張り東西十五b、南北十七b、樹形極めて優美
也。花は先駆け淡紅白色、満開時には白くなる・・・」
 これは、しかし桜ではない。ろうたけた美女、しかも齢重ねてますます恐ろし
いほど艶やか、近づく者の生気を吸い心を狂わせる、それでいてその魂は少しも
穢れなく見える、妖魔の類である。
 夫にそう教えてやらねばならない。そう思ってあたりを見渡すと、その姿はす
でにない。見上げれば、いつのまにか、山の斜面に張り付いて必死に上から女を
見下ろしてシャッターを押しまくっている。これは、もうだめだ、すでに取り憑
かれてしまった。
 古女房が、こうした妖魔と張り合うことは無駄である。男が、ぼろぼろにされ、
自分で我に返って戻るのを待つしかない。
 腰を据え、前夜作っておいた朝飯用の握り飯をさっさと出して、勝手に食べ始
めることにする。腹がくちくなると、朝早かったこともあって眠気を覚える。日
もそろそろ高くなって陽射しがあたたかくなってくる。少しうとうとしたのだろ
うか。
 なにか近くに、動くものの気配がさかんにあって、目が覚めた。顔を上げると、
眼前に大柄の美女がすっくと起き上がっていた。その皮膚の下におびただしく蠢
(うごめ)くものがあり、むくむくと表皮を破って出てこようとしている。女は
大地に腰を沈めると、幾筋もある脚できつくしめつけ、大地の精をしぼりとる
ようにゆさゆさと体を揺らしている。のけぞる喉元から胸にかけて静脈が切れた
ような紅斑が散ったかと思うと、ふっと力が抜けて、乱れていた髪が、光り輝く
滝のようにまっすぐ地に向かって降り注がれる。それとともに皮膚から朱がひい
て、磁器のように蒼白になった。「花は先駆け淡紅白色、満開時には白くなる・・・」
 そう、今が頂点である。満開は一瞬の間である。これより前にもなく後にもな
い。花は、白を極めて、その魂には微塵も穢れがない。自分が何ものか問うこと
を知らない命が、ただこの春を一心に生きている。


以上、陽花さんでした。

F-70D 70-300mm/F4-5.6
F8 Auto AGFA VISTA 100
F70D 70-300mm/F4-5.6
F8 Auto AGFA VISTA 100
F-501 28-105mm/F3.5-4.5
F8 Auto AGFA VISTA 100
F70D 28-105mm/F3.5-4.5
F8 Auto AGFA VISTA 100

F-501 15mm/F2.8
F8 Auto AGFA VISTA 100
F-501 28-105mm/F3.5-4.5
F8 Auto AGFA VISTA 100

行き方

国道1号線を名古屋方面へ行き248号線にぶつかったら右折し北上。岩津於御
所の交差点より右斜め方向へ入る県道39号線へ、東名高速の下をくぐりひたす
ら道なりに進む。途中より狭い道になるが、気にせずどんどん行く。住宅街を通
り抜けると急に里山の雰囲気になる。川の手前を右折(看板があり)し川沿いに
上っていくと右手上方に目指すしだれ桜が見える。少々狭いが道沿いが駐車場代
わりになっている。道路の右側に斜めに止めるように線が引いてある。車を止め
ると残りは1車線しかないので基本的に一方通行となる。

デジカメギャラリー
駐車場は無いので路駐
右手は出店、ビールもあり
全体はこんな感じ

全体的には、 7から8分咲と行ったところでしょうか。満開だともっとすごいの
だろうか。

今回の撮影機材
 カメラ:Nikon F70D F-501
 レンズ:Nikkor 28-105mm/F3.5-4.5
     SIGMA 70-300mm/F4-5.6 15mm/F2.8(F/E)
 デジカメ:MINOLTA DIMAGE G400