アルバート アインシュタイン Albert Einstein

物理の天才 〜絶対性理論〜

He regards the theory of relativity as the absolute theory.

 アルバート・アインシュタインは、おそらく最も有名な物理学者であり、「現在、過去を含めて、天才といえば誰か?」と問われた時、真っ先に名前が浮かぶ最有力候補ともいえるでしょう。
 なぜそれほどまでに、アインシュタインは人の心に残っているのでしょうか。
 まずここで、僕が感じる「天才の条件」を挙げさせてください。

 「天才とは、若い時期にとてつもない業績をあげる人のことをいう」
 「天才とは、それまでの既成概念を、根底から覆す人のことをいう」
 「天才とは、何人分にも匹敵する業績を、たった1人で完成させる人のことをいう」
 「天才とは、見ている人に壮快感を味わわせる人のことをいう」

 アインシュタインはこの全てを持ち合わせた人物だと思えるのです。天才と呼ばれる人は、世界規模で考えれば何人も思い浮かべることができます。でも上の条件を全て兼ね備えた人物は数えるほどしかいません。そう、アインシュタインはまさに“King of Genius”なのです。

 彼の実績で最も有名なのは「相対性理論」です(厳密には等速運動を扱った「特殊相対性理論」と加速度運動を扱った「一般相対性理論」があります)。しかし僕は「相対性理論」という言葉がしっくりきません。この素晴らしい理論には、もっと相応しい名称があると思うからです。
 僕は、このアインシュタインの壮大な美しい理論を「絶対性理論」と呼びたいです。なぜ“相対性”ではなく“絶対性”なのか。これは、基準とするものが何なのかによって変わってきます。アインシュタインの理論が発表される前、自然界では「時間」と「距離」が絶対で、「速さ」=「距離」÷「時間」・・・式(1)が示すように、「速さ」は「時間」と「距離」の組み合わせによって表されるものと認識されていました。
 しかしアインシュタインは「光の速さC」こそが絶対で、「時間」と「距離」は時空の状態によって変わる――「時間」は早くも遅くもなる。「距離」は伸びたりも縮んだりもする。――と捉え、そう予言したのです。
 これは画期的な事でした。それまでは「時間」や「距離」が何かに影響されて伸び縮みするなんて、誰も考えませんでした。あなたの周りを流れている「時間」と、僕の周りを流れている「時間」の進み方が、条件によって変わってしまう。歳の取り方だって変わってしまうなんて信じられますか? ただし「時間」や「距離」が伸び縮みするのは、対象となる人や物体が「光速C=300000000m/s(1秒間に地球を7周半する、宇宙で最高の速さ)」で動いている時でないと、大きく表れてこないので、残念ながら日常生活では体験することができません。

 まさしくアインシュタインは、過去2000年にも及んだ既成概念を、たった1人で、26歳の若さで、爽快にブッとばしてしまったのです。
 さらに大きな驚きがあります。「光速C=300000000m/s」は、どんな状態で測定しても、「300000000m/s」であるという事実です。測定値が「300000000m/s」となるべく変化するのは、式(1)の中の「時間」と「距離」のほうなのです。そう、アインシュタインの結論は「地球を含めたこの宇宙は“光速C”を基準(絶対)に存在している」ということなのです。

 一般に物理学者は、このように「時間」や「距離」が相対的なものでしかないという点に注目して、アインシュタインの理論を「相対性理論」と呼んでいます。しかし、アインシュタイン本人は「光速C」が絶対だということのほうに真実を見ていたのです。もちろん「光速C」が絶対ならば、当然「時間」や「距離」が相対的なのですから、両者の言っていることは同じなのです。しかし「同じ式、同じ事実を見た時に、どちらの意味がより重要で、真実を物語っているのかを感じられる心」こそが最も大切だと僕は思います。科学者と呼ばれる人々は多いでしょうが、感じる心を持っている科学者になってはじめて、一流と呼べるのではないでしょうか。

 最後に、アインシュタインが生涯、最も大切にしていたことに触れたいと思います。彼が常に意識し、求めていたものとは「シンプル」ただそれだけなのです。「光速C」が絶対であることは、たったひとことで、この宇宙を記述しています。これ以上シンプルに宇宙を語ることはできるでしょうか?
 アインシュタインは「シンプル」=「真理」だと解かっていたのだと思います。

 天才とは、難しいものをシンプルに捉える能力であり、その真理を我々の前にわかりやすく翻訳してくれる人である。

E=MC