hide

 Rockの天才 〜pink spider〜

 hideという人を、恥ずかしながら僕はあの時まで知りませんでした。というより曲を耳にしたことはあっても「これがhideの曲なのか」という感覚で聴いたことがなかったのです。
 こんなに凄い人がいることを知りませんでした。そしてhideさんは、自分のことを、これっぽっちも凄いと思っていないほど、やはりスゴイ人だったのです。

 “pink spider”との出逢い……これがなければ、1998という年は語れません。hideがこの世から姿を消した年……そんなふうに捉えているわけではありません。何より凄い曲を耳にしたのです。しかし“pink spider”を聴くきっかけになったのは、やはり彼の死だったのです。追悼番組の中でバックに聴き慣れない曲が流れてきました。その時点で、僕はそれが“pink spider”だということを知りません。そして、できあがったばかりの新曲だということも……それで良かったのだと思います。何の先入観もなしに、ただ「曲」として“pink spider”を聴くことができたからです。純粋に良い曲だと思いました。ジャンルを超えて良い曲だと思いました。ロックの凄さを教えてくれた曲でした。この時代、今、その瞬間にしかリリースすることを許されない曲とまで思いました。その一点に、hideは見事なまでの答えを出したのです。

 正直言って、僕はそれまでハードロックを好んで聴くタイプではありませんでした。どちらかというとメロディアスな曲が好きだったのです。僕の好みを、根底から覆すのに、この曲は充分すぎるほどのパワーを持っていました。
 歌詞、メロディ、ギターサウンド、ヴォーカル、その全てが震えがくるくらいマッチしています。こんなにピタッとはまる曲はそう簡単には見つかりません。衝撃を受けました。
 その衝撃を説明させて下さい。ふつう、どんなに気に入った曲でも、一日中、連続して何十回、何百回と聴き続けていたら、さすがに最後の方には「飽き」が襲って来ますよね。BEATLES好きの僕が“Let It Be”を聴いたときの感激でさえ、何百、何千回の連続聴きには、最後に「飽き」が登場する結果となりました。
 ……なかったのです。“pink spider”にはそれがなかったのです。生まれて初めての体験でした。この曲の凄さがここに詰まっています。

 そして、hideの曲だから僕がどうこうは言えないことですが、ひとつだけ、これは間違っていないと思えることがあります。“pink spider”は決して絶望の曲なんかではありません。驚くほど、前向きで、真上の空を眺めていて、聴いた人に勇気を与えてくれる曲だと思います。

  「傷つけたのは憎いからじゃない
   僕には羽根が無く
   あの空が高すぎたから……」

 この短い詞を書いただけで、その生みの親は偉大です。
 hideは、普段着のまま、特別な意識も見せない……というより、ないまま、実にあっさりとこの詞を載せています。天才です。

 しかし、秀人という本名が語るように、彼は自らを“天才”ではなく、強いて言うなら“秀才”だと感じていたのではないでしょうか。“天才”と“秀才”の違いを分ける明確な線は存在するのかどうかわかりませんが、少なくともhideは、努力の大切さを訴えたかったのだと思います。生まれながらに他の人には誰もできない技を持っているわけでなく、例え格好悪くても一生懸命やることによって、ギターも上手くなる、何だってやればできる、ということをリスナーに教えていたのだと思います。そうでなければ、hideの最期に、あれだけたくさんの若者が集まるはずはありません。みんな共感していたからこそ、hideを慕い、hideのそばに行きたい、お別れの言葉は目の前で言うと決めていたんだと思います。

 そう、hideは遠い存在ではなく、身近な存在としてファンに親しまれていたのだと思います。彼の優しさに触れていたのでしょう。“Rocket Dive”、”ever free”、“HURRY GO ROUND”、そして“pink spider”の全てに共通する言葉がひとつだけあります。それは「優しさ」です。ハードロック魂でもなく、破壊でもなく、絶望でもなく、優しさ……希望だったのですね。

 そして“Good-bye”……この曲も本当に好きな曲のひとつです。
 この曲には“Good-bye”というタイトル以外、ふさわしいものは見あたりません。hideの遺言だったのかも知れません。いえ、天使の言葉だったのでしょう。

Good-bye