イチロー

 野球の天才 〜Baseballへの飛躍〜

 私事ですが、イチローは僕と同い歳です。しかも出身地も非常に近いのです。彼が近年の野球界におけるスーパースターであるという大きな違いを除けば、愛知県出身の彼と岐阜県出身の僕は、中日ドラゴンズの速球王・小松辰雄投手の大ファンという共通項を見い出し、野球をプレーするのも見るのも大好きな少年として、同じカテゴリーに属していたことになります。もちろん生まれながらの運動能力の差には、歴然としたものがありますが……。

 野球選手といっても、バッティングだけ、守備だけ、走塁だけが上手なプレーヤーはいますが、何といってもイチローの最大の特徴は走攻守全てに秀でていることでしょう。僕の幼なじみの子が、小学生の頃に実際に鈴木一朗君(イチロー)と試合で対戦したことがあるのですが、イチローの運動能力はこの頃からズバ抜けていたそうです。僕はといえば、野球は大好きでしたが、実力のほうは全く大したことはありませんでした。

 1994年、イチローが彗星のようにプロ野球界に現れ、旋風を起こし始めた時から、僕はイチローに急激に惹かれていきました。特に、総合的な能力を最大の特徴としてプロ野球界で輝いているところにです。
 ホームランを他の選手より多く放つことができる打者、守備だけで観客を魅了する野手、盗塁王を何年も連続して獲り続ける選手というように、ある一分野で素晴らしい個性と能力を発揮する選手に対し、抜群のミート力で常に高打率をキープし、ホームランを打つ力も備え、守備範囲が広く強肩でことごとくランナーを刺し、俊足を活かし盗塁も楽々と成功させる選手の代表がイチローであったわけです。

 イチローがなぜ野球の天才と成り得たのか。……まず第一に浮かび上がるのは、彼は誰よりも野球が好きだったということです。イチローは父と一緒に、子供の頃から毎日野球をして楽しんでいたそうですが、そこには無理やり練習させられるといった苦しさ、辛さはひとかけらもありません。
 もちろん、上手になるための努力、それに伴う苦しさは当然あったはずです。でも「野球をしたい」という動機づけにおいては“楽しさ”のみがイチローを包み込んでいたことが確信できます。イチローの気持ちを心底から理解し、息子から「お父さん、キャッチボールがしたい」と言われた時、ただの一度もいやな顔をせず、「今は忙しい」と理由をつけることもなく、息子の気の済むまでつき合ったチチローの姿勢こそが、イチローというスターを育てたのだと思います。

 そして何より、イチローの打法はデビュー当時「振り子打法」と名付けられたように、独創性を感じさせます。868本のホームランを放った王選手が一本足打法であったように、偉大な記録を残す選手には、独創的な打法という共通点があるように思います。
 日本のプロ野球界で入団3年目から7年連続で首位打者を獲得した実績を引っ提げ、メジャーリーグ1年目での首位打者とともに日米通じて8年連続の首位打者を獲得したイチロー。彼の求めている野球の道は、僕らが見ることなどできない遠く彼方まで続いているのでしょう。

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