ノエル ギャラガー Noel Gallagher

作曲の天才 〜メロディの宝箱〜

 東京で暮らし始めて3年半も経つと、日常生活の中でバッタリと芸能人に会うこともあるもんだ。新鮮なうちに書いておこう。昨日、僕は自由が丘の山野楽器に足を運んだ。駅の改札を出て何も考えずに、店の階段を降りて行った。そこで擦れ違った人が、雅楽奏者の東儀秀樹さんだった。
 一瞬、確かに目が合った。なぜか互いを睨むような格好になった。いや、東儀さんはたまたま目を細めただけだろう。逆に僕は瞳孔が大きく開き、目を丸くしていたのではないだろうか。おそらくその反動で目を細めたから睨むような形になってしまったのだ。
 それにしても雰囲気を持っている人だ。「あぁ、やはりこの人は芸術家だ」そんな感想だけが僕の心に残った。 しかし振り返る余裕はなかった。僕には欲しいCDがあったからだ。OASISのアルバム。

 そう彼らのデビュー当時のブームやblurとのいがみ合いはとっくの昔に終わっている。僕の情報キャッチ能力は時代錯誤級といえる。でも良いのだ。もし、彼らが「現在(いま)」を唄うバンドであれば、その時、その場所で聴き、感じることこそ大いに意味があるが、OASISは違うのだ。その対極にある普遍性。ノエルが生み出すメロディにはそれがある。
 だから、僕のような時代遅れが聴いても「何て良い曲なんだ!」と思えるし、それが許される。

 きっかけは、最近までvaioのCMで流れていたあの曲だった。「アムフリ〜〜ィ〜トゥビウァエヴァラ〜イ」なんともねちっこく唄うハガネのようなヴォーカル、そしてやたらと印象に残るキャッチーなメロディ。知らず知らずのうちにこの曲が頭の中をエンドレスで廻り続けるようになった。
 今は便利な時代だ。ネットのキーワード検索で「CMソング」「vaio」と入力すれば、瞬時に「その曲は、OASISの“Whatever”に決まってんじゃん。常識だぜ」と満点の解答を示してくれる。あとはCD店に向かうだけ。……僕は興味を持つと急激にはまっていくタイプのようだ。OASISのソングライターは兄のノエル。メインヴォーカルが弟のリアム。そして2人は暴れん坊という知識が、曲以外の外壁を泉のように埋めていく。

 まずは名前が気に入った。OASISが誇るメロディメーカーNoel Gallagher。“ノエル”というやわらかな響きのあとに、“ギャラガー”というかったい響き。……姓と名のギャップが果てしない。そしてカッコイイ。繊細で誰もが素晴らしいと感じる珠玉のメロディと、毒舌で粗暴な振る舞い。まるで彼の生き方を地で行っている。まさに名は体を表す。

 ギャップといえば、リアムの金属音のような声と、ノエルの甘く優しい声。ヴォーカリストとして2人を見た時、そこにも完全なる違いがある。そして聴けば聴くほど、リアムはジョン・レノンの、ノエルはポール・マッカートニーの声に聴こえてしょうがない。そう、OASISはBEATLESを敬愛してやまないのだ。尊敬することって凄い。しみじみそう思った。

 なんといっても彼らの強みは、「これバリバリA-sideじゃん」という曲を平気でB-sideにポンッと入れてくるところだ。その代表が“Rockin' chair”だろう。この曲も、ノエルの詞の醍醐味、rhyme(韻)を踏み放題である。リアムのシャウトが最高潮に達する「Rockin' in your rockin' chair」なんか、メロディ、ビート、サウンドがここしかないワンポイントにドンピシャだ。心に残るなんてもんじゃない。心に突き刺さった。
 日本では、バンド名のOASISを “オアシス”と読む。「砂漠の中の泉、癒しの場所」という意味のごとく澄んだきれいな発音だ。しかし、原音に忠実に発音するならば“オゥエイシス”となる。まるでリアムのヴォーカルのようだ。読み方によって、こうも変わるのか。やっぱり、こっちの読みのほうがRock'n'Rollしている。
 そうだ、新宿のロック・バー“ROLLING STONE”に連れて行ってくれたI先輩と、またカラオケでハモりに行こう。

2002.11.16


Live Forever