辻清治さんの <関東修行日誌−2> 2000.12

 

1)しばしの休養

・12/2(土) 体調が悪く一日部屋のコタツの中で休養。
 1週間のブランクを補わなければ、まぐろ大会に行っても将棋
 にならないのでは…との脅迫観念が生じ(自信の無さの現れ)、
 近くの本屋に出向いて、将棋世界1月号を買う。
 寝ては起き、起きては寝の繰り返しで一日が過ぎる。
 こんなに部屋でゆっくりしたのは単身赴任後初めて。
 (今迄の休日は将棋クラブに行っているか、休出しているかの
  ほぼ2者択一パターンのみ)


2)まぐろ大会(1回戦) ・12/3(日) やっと体調も少し戻って来てまぐろ大会に出掛ける。  住まいのある南林間〜横浜〜三浦海岸の1時間半の車中、将棋  世界を熟読。頭が疲れ眠くなった頃、会場のある三浦海岸に到  着。関西にいた頃から特徴ある(楽しそうな)この大会には一  度出たいと思っていた。  野山さんの冷凍マグロ、新幹線運搬顛末談も記憶に残っている  が、私の場合は近いし大型のブロックを持ち帰ることにはなり  そうにないから、運搬上の心配は全く無し。  短時間制と聞いていたので(実際には20分/30秒)将棋の  出来に不安があったが、5局指しと聞いて一安心。  1局負けて慰安戦という最悪パターンはなくなった。   メンバーを見て、2〜4勝のどれかに落ち着くと予想。当然、  全勝を狙っているが、一方の冷静な心ではこの辺りが妥当とさ  さやいている。  (ただの弱気とは違って、その様に考える客観的な自分がいる  反面、対局が始まると闘志を掻き立てることが出来るのが私の  良いところと思っている)   1回戦、まずは快勝!
2)2回戦   2回戦は馬上さん(「もうえ」さん。誌上でお名前の認識有。  後で明治大の方、と長岡さんに教えて貰った。私は元奨励会の方  と誤解していた)  変形立石流から小刻みに動かなければならない難しい戦いに…。  相手の棋風が判らなかったが、優劣はなくともどちらかと言え  ば私好みの将棋と思っていた。  馬上さんの一瞬の判断誤り(棋譜を添付していないので説明が  難しいが、桂損を避けようとしたのが悪手。龍で桂を取らせて  その後当て返せば、その後も細かく難しい戦いがずっと続いて  いたはず)を捉えて一気の寄せが決まった。  (金銀の左右分裂型は中盤は長いが寄せになると粘りが効かな   い場合があるのが恐いところ)
3)3回戦   3回戦はリコーの牧野さん。私の先手で▲7六歩△3四歩▲  2六歩△4四歩▲2五歩△3三角の出だし。相手の棋風を考え、  振飛車穴熊の決め打ちで駒組しようかと思ったが、なんとなく  牧野さんの一手毎の間合いがいつもと違う。そこで慎重に駒組  を進めた。   △4三銀△5三銀型にされた時も雁木模様はモーションだけ  だと予想し、向い飛車か中飛車に変化してくるものと思ってい  た。ところが雁木に…。   私は△4五歩と伸ばした相手に居玉のまま▲4六歩△同歩▲  同角と動き、△4五歩に▲2四歩と欲張る。序盤の勝負手だ。  △4六歩と角を取られるのが恐かった(それでも一局)が、△  2四同歩と妥協してもらい一安心。角と2歩が持ち駒に…。  持ち駒の2歩対0歩の差で後手に△2二金型にさせた分だけ作  戦勝ち。そのまま中盤に。   相居飛車で持ち時間が少ない場合、指し易いから優勢に持っ  て行くのは私には難しく、仕掛け前後ではもう形勢混沌。  流れ上こちらには選択の余地なく飛車交換になったが、ここで  はたまたまこちらが良かった様だ。入玉狙いの後手を上手く寄  せ切れた。
4)4回戦   4回戦は村井逹彦さん。名前をどこかで見たことは思い出し  たがそれがどんな内容かは思い出せなかった。  3連勝同士の対決故、油断はなかったが、4回戦でもアマトッ  プ(例.参加者では遠藤・瀬川・菊田・小泉・長岡・吉沢・細  川等々の各氏。沢山いたので数え忘れている人が何人も居ると  思うが、ご容赦!)に当らず、優勝を意識し出したところで落  し穴。私の完全な作戦勝ちから、仕方無しの相手の無理な仕掛  けから優勢な中盤に…。   私の勝ちパターンに入っていたが、得意の受けに甘い手が出  て奈落の底に。優勢になってから村井さんは緩まず、一気に押  し出された。  悔いの残る将棋。どこかでリベンジしたいものだ。
5)5回戦   1敗したので、5回戦は3勝1敗同士で相手は蒲田の滝源太  さん。  親しくして頂いている。公式戦では昔々(たぶん20年以上前)  の電波名人戦の東西決戦での1局以来。その時は、四間飛車の  滝さんに5筋位取りで挑み私の負け(実力通り)。   今回も同じ戦型を目指した。(私にも意地有り。今回は負け  ないぞの気持ち。1敗後は何か別に闘志を燃やすものを持たな  いといい加減な指し手に流れるので闘志の対象を無理に作った  という意味もある)  棋譜はこちら  私の先手で▲5五歩・5六銀・5七銀型(5八に金は上がって  いない)から▲6六歩と6筋の歩交換を目指す。後手は△4三  銀・6三金型(美濃の銀はまだ7一のまま。又、玉側の端歩は  突き合っている)から(△7二銀ではなく)△7四歩と待つ。   ▲6五歩に(△6二飛ではなく)△同歩▲同銀△7三桂!と  思い切った勝負手。▲6四歩から▲6三歩成の大きなと金が見  えているが後手も△6五桂から△5七桂成の大跳躍がある。  滝さんが殆ど考えずに△7三桂と跳ねたので「この形の実戦経  験が相手にはあるのだ」と思った。しかし私の感覚は「▲5六  銀引の妥協などあり得ない。▲6四歩の一手だ!」とささやく。  読みきれそうな局面だけに思わず長考になる。   ▲6四歩と打てば、〜▲6三歩成・△5七桂成の次の一手が  勝敗を決めると思った。又、7三金と打つタイミングが難しい  とも思った(場合により、▲9七角が▲6四角を見て決め手に  なる可能性がある為)   最終的には何とかなりそうという読みとこの局面の優劣が判る  時に逃げられないという気持ちから長考の末、当然の▲6四歩  を選ぶ。   △5七桂成後の次の一手は私らしく▲7九角。「△5六成桂  なら、そこで▲9七角とすれば将来の△6八歩が消えているだ  け、単に▲9七角より勝る」との判断。後手は当然(?)反発し、  △6七銀▲8八玉として△6八歩と進んだ。  たぶん最終の△6八歩が敗着と思う。  ▲同角△同成桂▲同金に△76銀成▲7三金△9二玉と進むが、  ここで▲9五歩△同歩に▲8五桂が当然とは言え好手。  △8四銀の受けに(6八で手にした一歩で)▲9三歩△8一玉  ▲9五香△8五銀▲6二歩(大きな手)△5一金▲8三金△9  四歩とギリギリの受け(攻めもギリギリだが…)に、△7七桂  と銀取りに跳ねたのが決め手。受けがない。   時間の少なくなった滝さんが△6六角と誤った為、▲2六飛  と角まで質駒にして勝ちが確定した。あと幾ばくもなく後手投  了。   終了後、△7三桂の実戦経験について尋ねると「思いついた  ので深く考えずに指した」とのこと。1敗同士の(もう優勝の  見込みのない同士の)対戦だっただけに、1局とは言え、過去  の対戦成績がこの将棋の勝敗に逆に結び付いた気がした。
6)エピロ−グ   これでとりあえず、何キロかは知らねどまぐろブロックは確  保。4勝同士(4人のいた)の決戦である菊田×吉崎戦を見る。  吉崎さんの勝ち筋。菊田さんも粘ろうとするが、粘らせない寄  せはさすが4勝者…。もう粘れないというギリギリのところで  菊田さんは際どい手を連発(詰めろか、詰めろでないのか30  秒では判らない)。  しかし、それらの落とし穴をかいくぐって、はたから見るもの  には明確な一手勝ちの局面に…。  そこからのルートは2通りあったが、吉崎さんは安全側(相手  は一手すきに、自玉に詰めろはかからない)を選ばず(詰め将  棋の名手である菊田さんの名に押されて?)、自玉にも詰めろ  が掛かるが、その瞬間、相手玉が即詰みに…のルートを選ぶ。   この順でも時間があれば勝ち(即詰み)があったと思うが、  菊田さんの30秒の読みはすごかった。相手玉を縛る銀打ち、  途中の応接での玉の逃げ方(一見、危険な方へ逃げて桂の合駒  を打ち、その桂と縛った銀で、まさに際どく自玉の詰みを逃れ  ている。素晴らしい逆転の妙技に酔った。   決勝は、その菊田さんと私を4局目に負かした村井さんの対  戦。私は体調が完全に戻ってなかったので、結果を見ずに帰宅。  (どっちが勝ったのでしょうね…。私は、前々局の菊田×遠藤  戦の内容や上記終盤の気持ちの乗りから考えて、菊田さんだろ  うと思いますが…。村井さん、すみません。)   誘って頂いた蒲田の大嘉での慣例(だそうですね…)の打ち  上げにも参加せず、帰宅。(単身赴任先の住居に帰ることを何  と言うのが正しい日本語だろう?)  まぐろブロックはマンションの目の前の行きつけの店でさばい  てもらう。   そう言えば今思い出した。ブロックの半分はお店に貰って頂  いたが、残りの半分近くはまだ冷蔵庫の中にあるんだった。こ  の日誌を早く終わりにして、おいしいまぐろを食べに帰ろう…。   朝日アマに泣いた後、先週・今週と楽しい日曜日を過ごせた  ことを報告して…。  次回(たぶん12/23の蒲田チャンピオン戦)をお楽しみに…。