奉安堂の竣工を迎えて

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

去る10月8日に奉安堂の竣工式を無事に迎えることができました。平成12年4月に着工して以来、約2年間、設計に着手してから2年9カ月が過ぎてのことです。竣工式には設計・工事関係者もお呼びいただき、改めて完成した奉安堂を体験することができました。

工事中は、ホワイエ(前室)と呼んでいた空間には「円心閣」、また正面前は「広開門」、前庭は「照心庭」とそれぞれお名前を頂き、奉安堂の建設に関わった人間にとっては、改めて、現場が終わり、御僧侶・御信徒の皆様の望まれた「奉安堂」が完成したのだなと感じております。

平成13年6月号より隔月に連載してまいりました「奉安堂建設レポート」も今回で最終回となります。今回は、設計監修の立場から今一度、奉安堂についてできるだけ簡潔にまとめさせていただき、この号のみでも奉安堂の建築概要についてお判りいただけるようにしたいと考えました。

奉安堂は延べ床面積15,760.83m(4,767.64坪)、最高高さ55mを誇る日本でも最大規模の寺院建築です。私どもはこの建物において、伝統的な日本建築のイメージを現代的な材料と技術で表現したいと考えました。また耐震性と防犯性に優れた構造とし、御本尊様を大切にお護りする蔵(くら)と、お参りする堂宇の2つの機能を持つ建物として、充分にその役割を果たせるように検討を重ねてまいりました。完成した奉安堂は、これらの設計のイメージと機能を実現した建物として、風景に尊厳を与えるような凛(りん)とした姿を現していると思います。



建築概要


構造・規模鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造
地上1階・地下1階建
建築面積12,987.68m
(3,928.77坪)
延床面積15,760.83m
(4,767.64坪)
最高高さ55.0m
基壇高2.0m(正面部分の高さ)
天井高14mから20m
僧侶席236畳
信徒席5,004席




配置計画

外界と縁を切った境内の中に在って、奉安堂は白塀(短辺130m×長辺230m)でその周りを囲み、結界を設けることによりその重要性を表現しています。さらに白壁と広開門、参道、そして奉安堂を左右対称に配置し、その対称軸を、総門から総坊を経て三門、さらに塔中(たっちゅう)を経て御影堂に至る大石寺の伽藍配置の背骨とも言える軸線と重ねることにより、境内全体の象徴的な軸線を完成させることを意図しています。



平面計画

奉安堂は、間口75.1m×奥行116mの平面を持ち、正面入口から円心閣、外陣・内陣、僧侶控室を手前から奥に向かって配し、その周りを列柱が囲う左右対称の平面計画です。また御信徒席から御本尊様を拝しやすいように、堂内は無柱の大空間とし、御僧侶と御信徒が一つの空間の中で御本尊様に向かうと同時に、須弥壇を外陣・内陣と僧侶控室で囲い、さらに二重の扉を設け、皆で御本尊様をお護りするような平面計画としました。



外観について

奉安堂の外観は石積みの基壇の上に白壁と列柱が配され、二重のいぶし銀色の屋根を載せた、簡素で力強いデザインで構成されています。



屋根

奉安堂の屋根は、大棟の長さ64.54m、高さは最高部で3.25m、降り棟(くだりむね)の長さ45mに及ぶ、壮大なスケールを誇っています。この大屋根の大鬼には輪宝紋(直径2.325m)が付き、大棟の両側面には阿吽(あうん)の鶴丸紋(直径1.515m)と輪宝紋(直径1.490m)が取り付けられています。これらはすべて銅板を手仕事で叩き出し、金箔を貼って仕上げる錺金物(かざりかなもの)の伝統的な技術をもって生み出されたものです。

二重の屋根のうち、上層の屋根形式は寄棟造(よせむねづくり)と呼ばれ、下層のものは裳階(もこし)と呼ばれていますが、この伝統的な形式の屋根を本瓦葺(ぶ)きの重厚な質感をもって仕上げたいと考え、ステンレスにフッ素樹脂を焼き付けた材料を用いました。これは、構造計画上の合理性から重量が軽く、かつ耐久性に優れ、瓦の持ついぶし銀色の質感を持つ材料として選ばれたものです。

奉安堂の正面入口の上部には曲面を持つ屋根が付いています。これは唐破風と呼ばれるもので、これには「招き入れる」「結び付ける」という意味が託されていることから、奉安堂の正面にはまことにふさわしい意匠だと考えています。唐破風の上部には獅子口が乗り、唐破風内部の地板には一対の鳳凰(ほうおう)が表されており、獅子口の輪宝紋と鳳凰は共に金箔貼りで仕上げられています。



外壁と列柱

外壁の白壁は、御本尊様をお護りする蔵をイメージした漆喰(しっくい)調の大壁造りとして表現しています。上層の外壁は、プレキャストコンクリートパネル(工場で製作されたコンクリートパネル)にアルミパネルを取り付けたもので、下層の外壁はプレキャストコンクリートパネルに漆喰調の塗装を施して仕上げています。上層の外壁には、内部に自然光を採り入れるために、アルミパネルで出来た連子(れんじ)格子が取り付いています。

また白壁を囲む列柱は、直径1.8m、高さ14.7mの36本の柱からなり、下部2mまでをアルミの鋳物(いもの)で、それより上部を硫化いぶしを施した銅板仕上げとしています。硫化いぶし仕上げとは、銅板の表面に人工的に被膜を作るもので、錆びにくく、耐候性の高い材料ですが、手仕事で行われる仕上げのため、色合いが均一でなく、見る角度や光の具合によって微妙に変化し、それが独特の風合いを感じさせてくれます。



軒天井

上層屋根の軒と、下層屋根の列柱から外の軒は、木造の伝統的な寺院建築によく見られる垂木(たるき)現しの意匠をイメージし、金属製のリブが等間隔に入ったデザインとしました。また基壇上部の軒天井も金属製(アルミ)ですが、こちらは格子状に組まれた格天井(ごうてんじょう)と呼ばれるもので、特に奉安堂で採用したような大きく組んだ格子の中にさらに繊細な格子を組み入れたものを小組(こぐみ)格天井と言い、やはり伝統的な寺院建築で非常に古くから用いられている様式です。





内観について

伝統的な様式を現代的な材料と技術で表現した外観に対して、内部空間はより自由な感覚で伝統をとらえ、表現した設計としました。それは5,004席もある大空間を柱を立てずに造ることは、現代の技術をもってすれば可能ですが、伝統的な木造建築では不可能です。それを無理をして伝統的な様式にのみに固執していては、かえって不自然な印象を与えると考えたからです。



外陣・内陣

外陣・内陣は、間口55.6m×奥行84.5mの無柱の大空間です。天井は中央部の高さが約20mあり、両側の壁に向かって柔らかな曲線を描いて徐々に低くなり、一番低い所で15mになります。

この曲面の天井は、基壇軒天井と同様、小組格天井を白いアルミパネルで構成しています。四周の壁は、腰壁と上部の二段構成になっており、共に縦格子をイメージしたものです。また外陣・内陣の空間はかまぼこ型の形状をしていますが、古くから大切なものを納めるために作られた木箱には、蓋(ふた)の上が曲面になったものがあります。蓋を曲面にすることによって蓋の強度が増すことと、曲面になっているためにこの箱の上にものを置くことができないことから、大切なものを納める木箱に用いられたと考えられています。この内部空間は、大切な御本尊様を納める場所であることを象徴する形でもあるのです。



須弥壇

白を基調とした空間のなかで、須弥壇はひときわ強い存在感を示すように黒い花崗岩(かこうがん)で仕上げられています。その大きさは、幅約28.5m×高さ約15m×奥行約6.5mで、通常の4階建てのビルと同じくらいの高さがあります。正面には、2枚の扉があり、1枚目は銀色のアルミ鋳物パネルで、2枚目は金色に輝く光輝アルミ合金という特殊な合金で仕上げられており、そしてこの2枚の扉に守られた内部も金色の光輝アルミ合金で仕上げられています。

また、この須弥壇は黒い花崗岩(かこうがん)で仕上げられていますが、その内部は扉も含めて特殊合金で覆われた金庫の構造になっており、その耐火性能はもちろん、防犯性能においても優れ、御本尊様をお納めするのにふさわしい構造と考えます。



最後に

このように奉安堂は、その姿においても機能においても、充分な検討を重ねた上で完成した建物です。設計に携わった者として、完成した奉安堂が大切な役割を充分に担い、皆様に親しまれ、大切にしていただければ何よりの幸せと考えております。これは、奉安堂の建設に関わった全員の気持ちであると思います。そして、この価値ある仕事に参加させていただいた感謝の気持ちもまた同様のことと考えます。本当に有り難うございました。



 ※この原稿は寿照寺支部の土井信子さんの御協力で転載させていただきました。