構造計画と耐震性

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

前回の建設レポートでは、奉安堂の「設計主旨と設計過程」について、主に意匠上の考えを中心に御奉告させていただきました。そこで今回は構造計画に要点を絞り御説明させていただきたいと思います。

前回も述べさせていただきましたように、奉安堂は延床面積15、760.83平方メートル(4、767.64坪)、御信徒席5、004席、最高の高さ55メートルを誇る、日本でも最大級の寺院建築でございます。私どもはこの建物に伝統的な日本建築のイメージを重ねるとともに、大切な御本尊様をお守りする蔵として、また御僧侶、御信徒の皆様がお参りする寺院として、耐震性に優れた強固で安全な構造を確保できるように検討を重ねてまいりました。



構造概要

地上部鉄筋造のラーメン構造(一部CFT柱)
地下部鉄筋鉄骨コンクリート造(一部鉄骨造)の耐震壁付きラーメン構造
基礎部直接基礎
耐震部材難燃性のシリコン系充填材を用いた耐震ダンバー



構造計画の条件と目標

先にも述べさせていただきましたとおり、奉安堂の特徴は「伝統的なイメージの外観」と「高い耐震性」にありますが、もう一つ構造計画を進める上で考慮すべき重要な点がございます。それは55.6メートル×84.5メートルの大空間のホール(外陣・内陣)を、内部に柱を建てずに構成するということです。これら3つの特徴は、構造計画を進める上での重要な条件であり、また目標でもあります。そして構造計画上は、3つの条件を関連した1つの問題としてとらえなければなりません。

それは、例えば「無柱の大空間」を造り出すことのみが目標であれば、その目標に最も合理的な方法(空気膜構造や吊り構造)がありますし、他の2つの点にしても、それぞれの条件のみを目標とする場合と3つの条件を同時に実現するのとでは、設計方法自体が異なるからです。

奉安堂の構造計画では「伝統的なイメージの外観」と「高い耐震性」と「無柱の大空間」の3つの目標を同時に、そして調和の取れた形で実現するために、様々な検討の末、いくつかの特徴ある構造的な解決がなされています。


構造計画の概要と特徴

 一、構造形式・構造種別の選択

奉安堂の構造は、地上部は一部にCFT柱(後述参考)を用いた鉄骨造のラーメン構造(※1)で、地下部(基壇部)の外周廻りは鉄骨鉄筋コンクリート造、地下部の内側は鉄骨造で計画しています。

これは大空間を形成する架構としては軽量であることと、剛性と靱性(粘り強さ)を備えた鉄骨造がふさわしく、また、地下部の外周廻りには、地上部の荷重を支持地盤に直接伝達するために、上部の鉄骨を鉄筋コンクリートで一体化した鉄骨鉄筋コンクリート造が適しているからです。

さらに調査の結果、敷地の地中深さ4.5メートル付近に密実な玉石混じりの砂礫層(安定した強い支持力が得られる地層)があることが判明しました。そこで建物の主要構造部の基礎を地中4.5メートル付近に根入れし、直接基礎(杭を使用せず支持層に直接基礎底を置いて構築する基礎構造形式)で計画いたしました。

※1【ラーメン構造】(剛接架構) 柱と梁(はり)の接点が剛に接合されている骨組みを言う。剛に接合された接点は、骨組みが変形しても接合点の角度は変わらない特徴がある。


 二、軸組架構

奉安堂の建物形状は、大屋根を支える主要構造に当たる外周部を、下屋根を支える柱(前面と両側面の3面は回廊に、後面は御僧侶控室を構成している)が取り巻くように配した、間口75.1メートル、奥行116メートルの長方形の平面形となっています。

大屋根を支持する外周部のうち、長辺方向(側面部)の柱は、2メートル離して配した2本の柱を何段にも連結し、一体の組立柱としています。この組立柱には、高さ約4メートル間隔に大梁が取り付き、二重格子のような軸組みの、剛性の高い構造体を造っています。さらに、のちほど述べさせていただきます組立柱へのCFT構造の採用や制震ダンパーの設置により、構造体の性能をより向上させています。


 三、屋根架構造

組立柱頂部には、屋根面に合わせて傾斜した屋根トラス(※2)と天井受けトラスが取り付きます。この屋根トラスと天井受けトラスは地上で組み立てられ、屋根仕上げと天井仕上げが行われたあと、リフトアップ工法(※3)により吊り上げられ、柱と連結されます。

また、天井受けトラスは天井材の荷重を受けるだけでなく、屋根トラスや軸組が外へ倒れるのを防ぐ、引っ張り材としての役割も担っています。表紙を上に向けた本を開いてへの宇に立てようとしても、滑ってへの字がつぶれてしまうことを思い浮かべてください。この本が開ききらないようにする役割を、天井受けトラスが受け持っているのです。

※2【トラス】 部材が三角形を単位として組み立てられた構造骨組みの一種である。柱と柱の距離が長い大きな空間にかかる梁の場合、梁自体の重さによるたわみの影響を軽減できるトラス梁は有効な方法である。

※3【リフトアップ工法】 本来上部で行う工事を地上で行い、その後に吊り上げて取り付ける工法を言う。足場等の仮設工事の軽減、工期短縮、高所での作業を減らすことによる安全性の確保等の利点がある。


 四、CFT構造

大屋根を支える組立柱は、本来中空である鋼管の内部にコンクリートを充損したCFT(Concrete Filled Steel Tube)構造の柱を採用しています。CFT構造は、従来から使われてきた鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)に続く、第4の構造形式として近年登場したものです。

鋼管の変形をコンクリートが拘束し、コンクリートのひび割れによる脱落を鋼管が防ぐというように互いに補強し合い、高い剛性と粘り強さを重ね備えた構造体です。また、コンクリートの蓄熱量により、鉄骨造より耐火性能が高いことや、RC造やSRC造に比べて鉄筋・型枠工事が不要になり工期短縮につながるという利点もあります。

奉安堂では、主要構造部の柱にCFT柱を使用することにより、より強度の高い構造体を造り出しています。


 五、制振ダンパー

大屋根を支える主要構造部には、制震ダンパーが配されています。制震ダンパーは、図のように柱と梁に筋違(すじかい)のように配され、地震力のエネルギーをダンパー内で粘性抵抗により発生する熱エネルギーに変換し、揺れを吸収します。このことにより、地震時に建物の柱梁の損傷を極力防ぐことができます。

今回使用する制震ダンパーは難燃性のシリコン粘性体を充填材として使用したもので、地震などにより変形が起こると鋼管ブレースがピストンを動かし、シリンダーとピストンのすき間を充填材が移動する際に粘性抵抗が起こる仕組みとなっています。

充填材が難燃性であることと、ピストン内の形状が単純なことで、のちのちのメンテナンスが最小限で済むと思われます。



耐震性能の向上

奉安堂の耐震設計におきましては、超高層建築物と同様の設計手法により、一般の鉄骨造のビルの約2倍の強度を確保しております。これは超高層建築物の検討地震レベルとして規定されています「レベル2」の地震の1.5倍の地震に対しましても、建物の安全性を確保した結果です。

その解析に際しましては、「レベル2」の地震として、「東海地震」と「寓士川河口断層地震(マグニチュード7級)」を模擬波として作成し、検討いたしました。レベル2地震(400〜500ガル ※4)とは、400年から500年に一度の確率で発生すると言われる、きわめてまれな地震のことを示し、レベル2の1.5倍の地震(700ガル以上)とは1000年に一度の確率で発生する地震を示します。

奉安堂は、レベル2の1.5倍の地震でも崩壊しないよう計画されています。

※4【ガル】 地震の揺れの尺度として用いられる加速度の単位。



少々専門的な御説明になってしまいましたが、奉安堂を格調高い、そして安全な建物とするよう構造計画を進めてまいりました。これを実堤するため、現在、建設現場では着々と工事が進められております。