奉安堂の規模とそれを支える技術・工法

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

奉安堂は延床面積15,760,83平方メートル(4,767・64坪)、御信徒席5,004席、最高高さ55メートルを誇る、日本でも最大級の寺院建築です。前回のレポートでは、その大空間に伝統的な日本建築のイメージを重ねた上で、耐震性に優れた構造を確保するための技術を紹介させていただきました。

今回はその大きさを実感していただくために、皆様もよく御存じの奈良の東大寺大仏殿(金堂)との比較を行いながら、御説明をさせていただきたいと思います。



規模の比較

東大寺大仏殿は、木造建築としては世界最大の建造物として知られています。皆様のなかにも実際に目にされて、その大きさに驚かれた方も多いと思います。東大寺大仏殿は、奈良時代に聖武天皇の勅願により創建されたのち、二度にわたる戦火で焼失し、建久6年(1190年)と宝永6年(1709年)に復興再建を繰り返しています。

現在の大仏殿は、江戸時代に復興されたもので、その当時、大量の巨材を調達することが困難であり、また経済的な理由も伴い、奈良、鎌倉時代の大仏殿よリも縮小して再建されています。

現在の大仏殿は、基壇の下からの高さが約50メートル、広さは間口約57メートル×奥行約50メートル=2,850平方メートル(約862坪)です。それに対し、奈良、鎌倉時代の大仏殿は、高さは約50メートルと同じですが、広さは間口約86メートル×奥行約50メートル=4,300平方メートル(約1,300坪)はあったと言われています。つまり、奈良、鎌倉時代の大仏殿は、現在の大仏殿の、約1.5倍の広さを誇っていたことになります。

これらに対して、奉安堂はさらに大きく、高さ55メートル、広さは間口75.1メートル×奥行116メートル=8,711.6平方メートル(約2,635坪)の大建築となります。これは図にありますように、そのなかに現在の大仏殿がすっぽりと納まってしまう大きさであり、奈良、鎌倉時代の大仏殿と比較しても2倍以上の大きさとなります。


奉安堂と大仏殿の規模の比較


内部空間の大きさ

大仏殿は外周部に28本、内部に32本の柱を持ち、これによってその巨大な木造建築を支えています。そして中央部に大仏像を設置するため、26メートル×23メートル=598平方メートル(約180坪)の柱のない空間を構成しています。

これに対して奉安堂のホール(外陣・内陣)は、内部に一切柱が立たない無柱空間となっており、その大きさは、間口55.6メートル×奥行84.5メートル=4,698.2平方メートル(約1,421坪)と大仏殿の無柱空間の約7.8倍になります。この大きな空間の天井は、ゆるやかな曲面として設計し、その天井の高さは、一番高いところで約20メートルになります。また奉安堂は、ホール(※本堂、妙音註)をホワイエ(前室)、御僧侶控室、さらに基壇回廊によって囲むような形で計画しております。ホワイエ(前室)は間口55.6メートル×奥行16.2メートルの広さを持ち、約2,000人の方が待機できることを想定しています。また回廊は7.75メートルの幅を持つ屋外空間ですが、深い軒の下にあるため、雨天時にも傘をささずに歩くことが可能です。



屋根・本瓦葺きの再現

奉安堂も大仏殿も非常に大きな屋根が特徴的です。大仏殿に限らず、歴史的建築物では本瓦葺きという伝統的な瓦屋根が多く見られます。そこで奉安堂では、本瓦葺きの重厚をイメージを現代の材料と枝術で再現することにいたしました。と言いますのは、奉安堂の大きな屋根を大スパン構造(※注)で支えるには、土で造った瓦では、その重量が構造体に大きな負担となるため、より軽い材料が求められるからです。

そして様々な検討の結果、軽さと耐久性を兼ね備えた材料として、ステンレスを選択しました。その上で、伝統的な日本建築の重厚さを再現するために、ステンレスで丸瓦と平瓦の形状を作り、それを組み合わせることで、陰影の深い重厚な屋根を形成することにいたしました。丸瓦の大きさは、直径250ミリ、丸瓦と丸瓦の間隔は500ミリとし、ステンレスの上にフッ素樹脂を焼き付けて瓦のいぶし銀色の色調、つやを再現いたします。

※大スパン構造:大きな距離を途中に柱を設けずに、大梁で支える構造を言う。奉安堂の大屋根は、ホール(外陣・内陣)内に柱を設けず、周囲の壁内の柱だけで支える大スパン構造である。



最新技術の採用

これまでは奉安堂と大仏殿の大きさを中心に、比較を行ってまいりましたが、次に、その時代のなかで類を見ない大きさの建物を建てるための技術的な解決について、奉安堂と東大寺大仏殿を比較してみようと思います。共通して言えるのは、その時代の最先端の枝術を用いているという点です。

現在の大仏殿は、鎌倉時代の再建時にほぼ原型が造られたと言われています。鎌倉時代の東大寺の再建を担ったのは重源(ちようげん)という人です。当時の日本にとって新技術は大陸からもたらされるものでした。大仏殿を再建するに当たり、重源も宋の建築様式を取り入れ、大仏様(だいぶつよう)という様式を生み出しました。

大仏様の大きな特徴の一つは構造的な面にあります。建物の横揺れを止めるため、柱に貫(ぬき)という横材を貫通させ、それを多用することでしっかりとした骨組みを形成しています。当時の最新技術を採用することによって、非常に強固な構造を実現しているのです。

この点では、奉安堂でも同様なことが言えます。前回のレポートで報告させていただいたとおり、私どもは奉安堂の特徴として、「伝統的なイメージの外観」「高い耐震性」「無柱の大空間」という3点を挙げさせていただきました。そして、それを調和のとれた形で実現するために、新しい技術を用いて、いくつかの特徴ある構造的解決を図っています。

これまで使われてきた構造形式に続く、第4の構造形式として近年登場してきたCFT構造や耐震ダンパー(※レポート2参照)の採用などが挙げられます。CFT構造は、従来の構造形式よりも高い剛性と粘り強さを重ね備えた構造で、耐火性能の上でも優れています。また制震ダンパーは、地震時のエネルギー吸収と変形抑制に対し、非常に有効な構造体と考えられております。このように奉安堂の建設に際しては、これらの新しい技術を用いて、耐震性に優れた強固で安全な構造を目指しているのです。



安全で合理的な工期の短縮

大仏様(だいぶつよう)のもう一つの特徴は、あらかじめ用意しておく部材の断面寸法の種類が極端に少ないことです。それは同じく大仏様の代表的建築である東大寺南大門の部材が、わずか5種類の断面寸法でほとんどそろってしまうことでも判ります。意志の疎通を欠きやすい大人数の集団で短期間に建設を行うには、非常に便利で機能的な様式であったと言えます。

奉安堂も同じように工期を短縮しながら、伝統的な日本建築のイメージを実現し、かつ安全で質の高い工事を行うことが求められました。そのため早い段階から工事担当者も実施設計に参加して、合理的に工期が短縮できる施工方法や、大規模な建築物を効卒よく施工できる技術を検討した結果、様々な枝術を取り入れることが可能になりました。

その代表的なものの一つは、屋根工事のリフトアップ工法です。その利点は高所作業の低減による安全性の確保と工期の短縮です。一般にはドーム球場や運動施設での使用が多いため、今回のような伝統的な日本建築のイメージを持った建物に使用されるのは、初めてではないかと思います。

もう一つは、外壁に使用しているプレキャストコンクリート板の採用が挙げられます。プレキャストコンクリート板は、工場で生産し現場に搬入されますので、高い品質を確保することができます。さらに現場でコンクリートを打設した場合と比較して、コンクリートが固まるまでの養生期間が不要となり、現場での作業が軽減され、工期の短縮が可能となります。また、先程述べさせていただきましたCFT構造の柱は、鉄筋・型枠工事が不要なため、これも工期の短縮につながっています。

現在、奉安堂は最新の技術と合理的な工法に支えられて、徐々にその雄大な姿を翼しつつ、着々と工事が進められています。