錺金物について

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

昨年12月初旬に行われました奉安堂大屋根の最終リフトアップ工事も無事完了し、奉安堂の全体像が外部からも伺えるようになってまいりました。大石寺の境内近くからは、屋根頂部の大棟で金色に輝く輪宝紋や鶴丸紋を御覧いただけることと思います。

このような建物や仏具などの装飾に使われている金物のことを錺金物(かざりかなもの)と申します。今回は、奉安堂の大きな屋根を飾る錺金物について、その製作方法や製作途中での検討の様子などを合わせて、御報告させていただきます。



鋳金物の取り付け位置

奉安堂の屋根に取り付けられる錺金物は、図にあるように大鬼の輪宝紋が2カ所、大棟の側面に阿吽(あうん)一対の鶴丸紋と輪宝紋が付き、これらが大棟両面で計6カ所、それに唐破風上部の獅子口に付く輪宝紋の1カ所を含め、全部で9カ所ということになります。これらの錺金物は京都の名工である森本安之助氏に製作していただきました。

森本氏は略歴(本レポート末に掲載)にもございますように、これまで数多くの国宝や重要文化財の修復に携わってこられた方です。今回の錺金物の製作におきましても、その経験に裏付けられた確かな仕事振りを発揮していただき、非常に格調高い仕上がりになったと思っております。



錫金物の大きさ

奉安堂は日本でも最大級の寺院建築ですので、それを飾る錺金物も最大級のものとなります。奉安堂の屋根に取り付けられる錺金物のうち、一番大きなものは、大鬼に付く輪宝紋で、直径2.325mあります。次いで大棟の側面の鶴丸紋が直径1.515m、輪宝紋が1.490mとなります。

皆様がよく御存じの客殿に取り付けられている錺金物のなかで一番大きなものが、大鬼に付く輪宝紋で直径0.650mですので、奉安堂に取り付けられる錺金物の大きさが御理解いただけるのではないでしようか。



意匠の検討

写真@とAは、輪宝紋と鶴丸紋の形状や彫りの深さ等を検討するため、実物の10分の1の大きさで製作した模型です。実際に製作されるものと同様に、銅板を叩き出して作られています。今回、奉安堂に取り付けられる錺金物は、通常の建物に比べて非常に高い位置に付けられます。地上からも輸宝紋や鶴丸紋の意匠をはっきりと認識していただくためには、あまり細かい表現を施してもかえって、その意匠を判りにくくしてしまいます。しかしまた、簡素化が過ぎても格調高い意匠とはならず、そのバランスを見極めることに細心の注意を払い検討を重ねました。

写真Bは、大鬼に付く輪宝紋を、実際の大きさで製作した模型です。通常このような模型には粘土が使われることが多いのですが、今回は粘土ではなく発泡スチロールで製作いたしました。発泡スチロールは加工が容易なため、形状を検討するのに適した材料です。また粘土に比べ軽量なため、膜型を外部の高い位置に固定して見え方を検討することにも対処しやすく、今回の模型の材料として選択いたしました。

その模型に金色の塗装を施したものが写真Cです(右より大棟に付く鶴丸紋、獅子口・大棟・大鬼に付く輪宝紋)。ここでは輪宝紋や鶴丸紋の形状をよりはっきりと見せるために、一部に黒漆を施すことが検討されました。写真中央の輪宝紋が試しに黒色を入れたものです。黒漆を施す方法も伝統的な手法として数多くの例がありますが、今回は繊細さが失われてしまうのではないかと心配されました。そこで御法主日顕上人猊下にも御覧 いただき、最終的には黒漆を施さずに、その部分に細かい地紋(じもん)を入れ、総金箔貼りで仕上げることになりました。これは銅板部に細かい地紋を入れることで金箔の光沢を押さえ、輪宝紋や鶴丸紋の意匠を浮き立たせるためですが、結果として繊細で格調高い仕上がりとなったと思います。



製作の様子

写真Dは大鬼に付く輪宝紋の製作途中の様子です。通常は1枚の銅板を叩き出して作られるものですが、奉安堂に使用される錺金物は非常に大きいため、複数の部材に分けて製作しています。

写真Eは大棟に付く鶴丸紋です。これも輪宝紋と同じように、複数のバーツに分けて製作しています。前述の発泡スチロールの模型での検討に加え、再度、この状態で検討を重ね、より鶴の姿が浮かび上がるように凹凸を調整いたしました。この写真の状態は銅板のままですが、この上に金箔を2回貼り、透明なウレタン樹脂でコーティングして仕上がりとなります。



錺金物の取り付け

昨年の7月ごろより、完成した錺金物が順次、森本氏の作業所のある京都から現場に搬入されてまいりました。運搬に際しましては途中で傷が付いたりしないように、美術品の運搬を専門に扱う業者に依頼し、細心の注意を払って搬入しています。搬入された錺金物は、地上で大棟や大鬼に取り付けられたあと、クレーンで吊り上げ設置されました。地上で取り付ける際に、錺金物を止め付ける金具の表面も金箔貼りにするため、森本氏に理場まで来ていただき、金箔を貼り付けていただきました。その時の様子が写真Fです。

このように優れた伝統の技術に支えられた錺金物は、現代の技術とも調和し、奉安堂にきっと格調高い輝きを与えてくれるものと考えております。最後に森本安之助氏の略歴を紹介して、今回のレレポートを終えたいと思います。



森本安之助氏 略歴

昭和59年 京都府知事賞
昭和61年 文部大臣表彰 地域文化功労賞
昭和63年 京都府知事賞 昭和63年度京都府伝統産業優秀技術者
平成 3年 財団法人京都府文化財保護基金功労賞
平成 5年 平成5年春の褒章 黄綬褒章
平成 6年 1994年度日本建築学会文化賞
平成 9年 第17回伝統文化ポーラ特賞
平成10年 選定保存技術保持者認定
平成13年 勲5等瑞宝章


森本錺金具製作所

明治10年創業以来、宮内庁・文部省・伊勢神宮・各府県重要文化財保護課御用達




建設工事進捗レポート

高橋雅彦(奥村組・泉建設共同企業体)

奉安堂の大棟の先端には大鬼瓦が付いています。昨年12月初旬、第2次リフトアップが完了し、この大鬼瓦を正面から見ることができるようになりました。

奉安堂の大鬼瓦には中央に輪宝紋が付いています。輪宝紋は径約2.3m、大鬼自体の高さは、鳥衾(とりぶすま)の上端までが約6mあります。普通の平屋の住宅が一股的に5m程度の高さですから、奉安堂の大鬼瓦は家1軒分あると考えていただければ、大きさが判ると思います。

これだけの大きさの瓦を粘土から焼き上げて作ることはできないので、奉安堂の大鬼瓦はステンレス板を成型して作っています。現在、上層・下層の軒(のき)部分の屋根葺(ぷき)工事を行いながら、内部では本堂の壁仕上げ工事や須弥壇(しゅみだん)の工事を並行して進めています。