重厚な意匠を支える表現と素材について

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)



はじめに

現在、奉安堂の現場では上層の屋根工事が完了した部分について、順次、外部足場を外す作業が進められています。それにしたがい、これまで足場に隠れて見ることができなかったアルミパネル製の外壁が、外部からも伺えるようになってまいりました。また一方で、基壇廻りの高欄手摺りの取付け作業はほぼ完了し、床の石工事が進められています。

これらの一つ一つの要素が、奉安堂の重厚で格調高い意匠を形作るために重要な役割を果たしています。今回は、外壁や列柱、基壇床など外部廻りの要素の意匠と素材の検討について、御報告させていただきます。



外壁について

奉安堂の外壁は、上層と下層で異なる仕上げとなっております。現在、足場が外れ皆様にも御覧になっていただいている上層の壁は、150mmの厚さのプレキャストコンクリート板に4mmの厚さのアルミパネルを取り付けたものです。下層の壁は150mmの厚さのプレキャストコンクリート板で作られています。

上層の壁の四周には、本堂内部に間接光を取り入れるための窓などがあり、金属製の連子格子(れんじこうし)が取り付けられている関係で、外壁の仕上げも金属製となっています。アルミパネルは、後述する下層壁と色調を合わせた漆喰(しっくい)色を特注で製作し、塗装しています。

下層の壁の北側にも控室関係の窓があり、上層と同様な連子格子が付けられていますが、こちらは御本尊をお護りする蔵のイメージにより近いものを考え、プレキャストコンクリート板に漆喰調の塗装を施して仕上げています。

プレキャストコンクリート板は、あらかじめ品質管理された工場において製作し、現場に搬入されるため、高い精度と品質、強度を確保することが可能です。また、現場で型枠を建ててコンクリートを打設するのに比べて、工期を短縮することができるという利点があります。

開口部に取り付けられる連子格子については、屋根軒先の検討の際と同様に、モックアッブ(実物大の模型)で製作した格子を、実際の高さまでクレーンで吊り上げ、格子の太さや間隔などを検討しました。



列柱について

奉安堂の外壁の外側には、深い庇(ひさし)の下に回廊が設けられ、そこには合計36本の列柱が配されています。この列柱がかもし出す深い陰影は、奉安堂の外観に重厚な印象を与えています。

柱は、床から2mの高さの所まではアルミの鋳物(いもの)で、それより上は銅板で製作されています。これは意匠的に往の上下で仕上げる材料を変え、下部を少し太くすることで、安定した印象を作り出すとともに、傷の付きやすい銅板の保護を考えています。

銅板は、硫化いぶしという方法で仕上げられています。硫化いぶし仕上げとは、銅板の表面に人工的に被膜を作るもので、錆びにくく、耐久性の高い仕上げのことです。

硫化いぶし

写真は、銅板に硫化いぶし仕上げの加工を施している様子です。銅板に五硫化アンチモンの水溶液を塗布し、自然乾燥後、それを磨く工程を何回か繰り返して仕上げます。

実際に見ていただくとよく判っていただけると思いますが、硫化いぶし仕上げの色は均一ではなく、見る角度や光の当たり具合で変化する渋い銅色で、これが独特の風合いを持った仕上げとなっています。五硫化アンチモンの水溶液を塗布する量や磨き方、さらには気温や湿度によっても仕上がりの色調が左右されますので、色調をそろえるには、まさに職人の経験と勘による微調整が必要となります。

奉安堂の柱は、直径1.8m、高さが14.7mと非常に大きいため、平面方向は均等に8分割されています。縦方向は約6mの高さのものが2つと、残りの軒天井近くで梁と取り合う部分の合計3つに分かれています。

軒天井と列柱 一本の柱のなかで硫化いぶしの色調がバラバラにならないように、その柱で使われる銅板については、同じ職人が一日で仕上げることになっています。そうすることによって初めて色調のそろった、そして風合いのある銅の硫化いぶしの柱が仕上がっていくのです。



軒天井について

上層と下層の列柱より外部に張り出す部分の軒天井は、木造の伝統的寺院建築によく見られる垂木(たるき)現しの意匠をイメージし、金属製のリブが等間隔で入る意匠となっております。

墓壇上部の天井も同じく金属製ですが、こちらは天井を支える材を直行させて格子型に組んだもので、これを格天井(ごうてんじょう)と言います。また、奉安堂で取り入れられているように、大きい格子で組んだ内側に繊細な格子を組入れたものを、小組(こぐみ)格天井と言います。これも伝統的寺院建築では非常に古くから用いられている様式です。



外部の扉、窓について

正面扉 正面の大扉や奉安堂内部から外部の回廊に退場するための側面の扉は、大きさの違いはありますが、同じ意匠のイメージで考えました。あまり装飾的でなく、簡素で力強い印象のものとして、東大寺大仏殿等でも使われている板戸(板唐戸)をイメージしています。



奉安堂正面の大扉

大仏殿の扉は木製ですが、奉安堂の強固な蔵としての機能を考え、木板の代わりに6m厚のアルミ鋳物の平板を、扉の両面から留めています。それによって扉の厚みは120mという非常に厚いものとなっております。一般の住宅で使用される扉の厚みが30〜40m程度ですので、奉安堂の扉は、その3倍以上の厚みがあることになります。

表面のアルミ鋳物については、鋳物の素材感を活かしながら、重厚で格調高い仕上げとなるよう、モックアップを製作し、何種類もの仕上げ方法を検討した上で決定いたしました。



高欄手摺りについて

写真は、基壇の高欄手摺りのモックアップです。この高楓手摺りは、GRCという材料で製作されています。GRCというのは、ガラス繊維を基材にしてコンクリートで固めたものです。

一般にコンクリートというと、鉄筋コンクリートをイメージされると思いますが、その鉄筋の代わりに、20m程度に切断された紐(ひも)状のガラス繊維が入っています。

手摺り

そのため、鉄筋コンクリートに比べて自由な造形を作ることが可能です。奉安堂の高欄手摺りのように、細かい割り型(くりがた)などが多用された造形を製作するのに適した材料と言えると思います。また表面を丁寧に磨き、耐久性に優れたフッ素塗料で仕上げてありますので、美しい光沢のある格調高い仕上がりになります。



基壇の石について

奉安堂は、高さ約2mの石積みの基壇の上に建てられています。この石積みと参道および基壇床の仕上げは白御影(みかげ)石が使われています。また外壁と列柱の巾木部分には安山岩系の濃灰色の石が使われています。ともに中国原産の石で、加工も中国で行っています。検査ではモックアップの確認のほか、良質な石が安定して供給できることや、加工精度の高さが確認でき、非常に満足のできるものでした。



結び

前々回から今回までの3回にわたって、外部廻りの意匠の検討内容や、使用されている材料・工法について、御紹介させていただきました。

奉安堂は、たいへん大きな建物ですが、このような細部の意匠をきめ細やかに行うことによって、大味な印象を避け、完成度の高い建築に仕上げたいと考えております。そして境内との調和はもちろんのことですが、遠くからの眺望に対しても風景に尊厳を与えるような建築を目指しています。