内部空間の構成について

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

これまで主に外部廻りの意匠の検討内容や、使用されている材料・工法について御紹介させていただきました。今回は、内部空間について御説明させていただきたいと思います。現場のほうも外部の仕上げにかかわる工事が完了に近づき、建物を覆っていた足場はすべて外されました。そして現在は竣工に向けて、内部の仕上げ工事が着々と進められています。



内部空間の構成

奉安堂の内部空間は、手前から奥に向かって、ホワイエ(前室)、本堂(内陣・外陣)、御僧侶控室の順に配されています。そして内部空間の意匠は、白壁と本瓦葺きによる伝統的なイメージの外観に対して、明るく現代的なものとなっています。



ホワイエについて

正面入口の大扉を入りますと、本堂の前室に当たるホワイエがございます。ここは間口55.6メートル×奥行16.2メートルの広さを持ち、約2000人の方が待機されることを想定した空間です。天井の高さは、基壇回廊とほぼ同じで約14メートルあり、通常の事務所ビルの4階建てぐらいの高さになります。

ホワイエ正面の壁は、大理石と金属製の縦格子で構成されています。高さ7.4メートルまでが、ホワイトタソスという主にギリシャで産出される、清楚な表情を持つ白い大理石貼りの壁面です。そしてその上部は、白く塗装されたアルミ材による縦格子で、見る角度によって陰影に微妙な変化が起こり、繊細な表情を持つ壁面を構成しています。

また、基壇とホワイエの間の扉は、高さ約5メートルもある立派なもので、前回、御報告させていただいたように、伝統的日本建築で用いられている板戸をイメージした、アルミの鋳物(いもの)で仕上げられています。



本堂について

本堂は、間口55.6メートル×奥行84.5メートルと非常に大きい空間ですが、御信徒席から御本尊が拝しやすいように、柱のない空間とし、御僧侶と御信徒が一つの空間のなかで御本尊に向かう形となっております。

本堂の天井は、中央部の高さが約20メートルあり、両サイドの壁面に向かって緩やかな曲面を描いて徐々に低くなり、一番低い部分で約15メートルとなります。この両サイドは、上部の窓からの柔らかな自然光が壁を照らし、全体として白く明るい空間となります。この天井は、基壇軒天井の仕上げと同じで、小組格天井(こぐみごうてんじょう)という形式で造られています。これは伝統的寺院建築で古くから用いられている格天井の一種で、大きい格子(こうし)で組んだ内側に、小さな格子を組み入れることで、繊細な表情を作り上げるものです。

本堂を囲む四面の壁面は、腰壁(こしかべ)その上部の二段構成となっています。腰壁上部の壁面には、天井に使われている白色よりも暖かみを持たせた色調の白色に塗装された、直径80ミリの丸パイプが160ミリ間隔で並んでいます。ホワイエの縦格子と同様に、丸パイプ表面に出来る陰影が、見る角度によって変化し、大きな壁面を単調なものにすることのないように選ばれた表現です。腰壁は、濃い茶色のフレームと光沢のある薄墨色の六角格子で構成され、白を基調とした天井や腰壁上部の壁面に対し、伝統的な連子(れんじ)格子のデザインと、落ち着いた色調が、空間全体を重厚で格調高いものに仕上げています。

これは以前にも申し上げたことですが、古くから大切なものを納めるために作られた木箱には、玉手箱のように、ふたの上が曲面になったものがあります。ふたを曲面に張ることによってふたの強度が増すことと、曲面になっていることで、この箱の上に物を置くことができないため、大切なものを納める木箱に用いられたと考えられております。そして緩やかな曲面の天井を持つ本堂の内部空間は、この木箱をイメージし、大切な御本尊を納める場所であることを象徴する形でもあるのです。



ホワイエと本堂の床仕上げについて

ホワイエと本堂の床の仕上げは、奉安堂のために特別に選定された色の絨毯(じゅうたん)としました。絨毯は、濃紺に近い青と明るい青、それに明るいグレーの三色で構成された、現代的な図柄となっており、またホワイエと本堂で、同一の色の組み合わせを用いることで一体感を持たせています。ホワイエ、本堂共に白を基調としたなかに、落ち着きのある絨毯の色が加わり、現代的で、かつ格調高い空間の創出を目指しました。



本堂の椅子について

本堂で御信徒の皆様が座られる椅子(いす)は、デンマークの家具メーカーに特別注文して製作したものです。椅子は木製で、白樺(しらかば)という白木が使われています。シンプルな白木のフレームに、座面と背の部分に青い布地のクッションが付けられています。これはデンマークの著名な家具デザイナーのバーント・ピーターセン氏と打ち合わせを行い、国際的にも通用するデザインを、日本の気侯風土において、長く使用しても傷みにくく、また、のちのちメンテナンスを行いやすいようにするための配慮を加えて完成したものです。またクッションの青い布地は、本堂の壁や天井、それに床の絨毯の色と調和することを考え選択されました。

製作状況と品質の確認のため、私どもの事務所のスタッフが、デンマークの工場に直接足を運び、打ち合わせを行いました。工場では、丁寧に一品一品、製作している様子が見られました。

写真は塗装前の最後の工程として、ヤスリがけを行っている様子です。塗装は、白木の木目を生かした透明な保護材を吹き付けて仕上げるため、この工程が丁寧に行われていないと、きれいには仕上がりません。この写真に写っている女性ともう1人の2人で、5000脚のすべての椅子をチェックしたそうです。この工程に限らず、各工程を担当する人数を非常に少なくし、時間をかけて丁寧に製作しているという印象でした。

現在、工場での製作は完了し、大半は既に清水港に到着しています。残りの便も7月初めには日本に到着し、現場へ搬入される予定です。



結び

デンマークの家具工場の印象として、一品一品を丁寧に製作している様子を報告させていただきましたが、これはデンマークに限らず、奉安堂の工事を通じて常に感じていたことです。屋根や建築金物その他、色々な工場で実際に製作されている様子を見せていただき、打ち合わせを重ねてまいりましたが、そのたびに、この工事にかかわっている人々の、奉安堂建設にかける非常に強い熱意を感じました。

奉安堂工事も終盤に差し掛かり、完成も間近に見えてまいりましたが、残りの工事に関しても細心の注意を払い、奉安堂を質の高い建築として完成させるために、最後まで精進したいと思います。





建設工事進捗レポート

高橋雅彦(奥村組・泉建設共同企業体)

昨年末の第二次リフトアップ完了後、庇(ひさし)・屋根・唐破風・隅棟(すみむね)等、外部の仕上げ工事を行ってきましたが、内装工事も順調に進んでいます。格子(こうし)天井はリフトアップ前に施工し、大屋根と一緒に持ち上げましたので、リフトアップ後は内壁の仕上げ工事が主体となりました。

奉安堂の内壁は音響効果に配慮しながらデザインされており、大きく二層に分かれています。下層は六角状の縦格子、上層は丸パイプ状の縦格子を並べ、いずれも格子裏に吸音材を張っています。内壁部分は防火上の区画壁にもなっているため、区画壁・吸音材・縦格子を、それぞれの下地材を介して重ね合わせながら取り付けていきます。

内壁と並行して進めていました須弥壇(しゅみだん)部分も外形はほぼ出来上がり、床・椅子(いす)を残して内部も完成に近づいてきました。




※この原稿は修徳院支部の川人さんの御協力で転載いたしました。