須弥壇について

広谷純弘(建築研究所アーキヴィジョン)


はじめに

前回は奉安堂の内部空間として、ホワイエ(前室)と本堂(外陣・内陣)について御紹介をさせていただきました。今回は、この建物のなかで一番大切な御本尊様を安置する須弥壇(しゅみだん)について、意匠の特徴と、御本尊様をお護りする機能の御説明をさせていただきたいと思います。



須弥壇の仕上げ

本堂内部の空間が非常に大きいため、扉の写真からは須弥壇の大きさが伝わりにくいかも知れませんが、須弥壇の外形寸法は、高さ約15m×幅約28.5m×奥行約6.5mあり、通常のマンションの4階建てぐらいの高さがあります。

白を基調とした本堂の内部空間のなかで、須弥壇はひときわ存在感を示す黒い花崗岩(かこうがん)で仕上げられています。これはアフリカのジンバブエ共和国で産出される石で、ジェット・アンド・ウォーター(J&W)処理で仕上げています。J&W処理というのは、石の仕上げ方法の一つで、ジェットバーナーで焼いた石に、水を掛けて急冷し、表面を剥離(はくり)させたものです。この処理をした石は、自然な風合の凹凸になり、しっとりと濡れたような落ち着いた表情の仕上がりとなります。

須弥壇の正面は、石貼りの壁面が門型に立ち、中央の開口部には二重の扉が取り付けられています。表側の一次扉は、奉安堂の外周扉に使用されているものと同じアルミの鋳物(いもの)製で、重厚な表情に仕上げられています。

一次扉が開かれますと、今度は金色に輝く二次扉が現れます。これは光輝アルミ合金という金属を金色に染色したものです。名前にあるように、もともと強い光沢を持つ金属を塗装ではなく染色で仕上げることで、素材の持つ光沢を生かしながら色を付けることを可能にしています。すべての扉が開かれると、金色に光り輝く須弥壇の内部空間が現れます。その中心には御本尊様をお納めするお厨子(ずし)が置かれ、左右にはそれぞれ宝塔と客殿が置かれます。

須弥壇の開口上部には、扉で使用されているのと同じ、光輝アルミ合金製の金色のまぐさが取り付けられ、須弥壇の重厚な表情にアクセントを与えています。さらにそのまぐさには、中央に輪宝紋、それを挟んで阿吽(あうん)の鶴丸紋が取り付けられています。この3つの紋は前々回の錺金物(かざりかなもの)の御説明の際に御紹介させていただきました。京都の名工・森本安之助氏に製作していただいたもので、外部のものと同様に銅板打ち出しの上に金箔の二重張りという伝統的手法に則った仕上げとなっています。



須弥壇扉の機構について

須弥壇の一次扉は、高さ約5.9m×幅約14.9mという大きさで、引戸形式の6枚の扉で構成されています。すべてを開ききると、両袖の壁の中に完全に収納され、扉が見えなくなります。二次扉は、高さ約5.2m×幅約12.6mの大きさで、上下に二分割されています。この扉は垂直にせり上り、扉上部の壁の中に完全に収納され、一次扉と同様に全開時には扉が全く見えなくなるようになっています。

また、御本尊様を収納するお厨子の設置されている位置は、信徒席の床面より約7mの高さで、信徒席最後列の席からも御本尊様を拝することができるように考えました。

扉の開閉については、非常に大きい扉なので電動で開閉するように設計されています。扉の開閉スピードについては繰り返し検討が重ねられ、法要の流れに即した形で調整が進められました。現在、床の絨毯(じゅうたん)や信徒席椅子(いす)の設置もほぼ終了するなど、本堂内の仕上げが出来上がってきたなかで、一次扉の色調について最終的な検討が行われているところです。



御本尊様を護る機能について

そもそも奉安堂そのものが御本尊様をお護りする蔵をイメージして設計され、二重三重の扉によって護られた本堂の中に須弥壇が設置されているわけですが、須弥壇自体にも御本尊様をお護り機能が備えられています。

須弥壇の外部は、前述のように黒い花崗岩で仕上げられていますが、その内側は、扉部分を含めて特殊合金で覆われています。この特殊合金は、大手銀行本店の金庫室にも使用されているもので、耐火性能はもちろんのこと、耐破壊性能についても非常に優れた材料です。実際に視察の際に実験してみましたが、ドリルで穴を明けようとしても、鋼鉄製のドリル刃のほうが削れてしまいました(写真)。

このように須弥壇は、御本尊様をお護りする金庫としての機能を果たしておりますが、それに加えて御本尊様を傷めずに保存する収蔵庫としての機能も合わせ持っています。そのため須弥壇は、内部の湿度をコントロールするなど、常に適切な環境を保持できるように設計されています。

また万が一、須弥壇内部で火災が起こった場合でも、窒素ガスが噴出され、消火されるようになっています。通常、自動消火設備としては、天井から水を放出するスプリンクラーが一般的ですが、それでは大切な御本尊様を水で濡らしてしまう恐れがあります。そこで美術館などの消火設備として使われる窒素ガス消火設備を採用しています。

また、須弥壇の電動で開閉する扉についても、停電した場合や開閉のためのモーターが故障した場合には、手動にて開閉することも可能となっており、非常時の対応についても万全の対策が取られています。




 ※この原稿は寿照寺支部の土井信子さんの御協力で転載させていただきました。