はじめに判決文を掲載するに当たり、併せて本サイトの見解を発表する。
第一項 情報レベルの四段階分類クロウ事件が実在したものと仮定すると、本事件に関する情報のレベルは以下の四段階に分類することができる。
- 第一段階 : 日顕上人・売春婦 (事件の当事者)
- 第二段階 : シアトル警察 (パトロール隊員およびその上司)
- 第三段階 : クロウ夫人
- 第四段階 : 聖教新聞の記者および読者
次に、各段階に対する説明を行う。第一段階とは、事件が実在したと仮定した場合に、事件の当事者とする阿部信雄教学部長(※当時、現御法主日顕上人)と売春婦がこれに相当する。創価学会は、アベと売春婦が行為の料金を巡ってトラブルになったと主張するが、行為の具体的な内容およびトラブルの経緯の詳細については、当事者のみが知るところである。
なお、今回の裁判において、宗門側の当事者である日顕上人は裁判所に出廷して主尋問・反対尋問が行われたが、一連のトラブルについてはその存在を否定しており、したがって、日顕上人による売春婦との行為の内容およびトラブルの経緯に関する説明はない。
また、シアトル事件の存在を主張する創価学会側の証人たるべき売春婦については、その存在が確認されておらず、したがって、一方の当事者である売春婦によって、行為の内容およびトラブルの経緯に関して証言された事実はない。
したがって、被告・創価学会の主張は、売買春の当事者以外からの間接的な伝聞に依存していることが明らかである。本裁判においては、その伝聞の経緯と情報の信頼性について十分な検討がなされるべきである。
次に、第二段階とは、シアトル警察のパトロール隊員(※創価学会によれば、パトロール隊員とはスプリンクルおよびメイリーの二名である)と、パトロール隊員から事件の報告を受けた、警察の上司に相当する。事件の発表者であるクロウ夫人が第二段階たりえないことは、本人による以下の発言(の趣旨を採用した創価学会の主張)から明らかである。
すなわち、当事者の一人とされるアベはクロウに対して、トラブルに対する説明として、売春婦云々という発言を行っていない。また、クロウが警察からアベの身柄をあずかってホテルに送る場面でも、クロウはアベに対して同様の質問を行っているが、同様の回答(散歩云々)であったことが述べられている。したがって、クロウがアベから行為の内容およびトラブルの経緯に関する説明を受けたという事実は、いづれの主張を採用した場合にも存在しない。
- クロウは、阿部に対し何事があったのか尋ねると、同人は、夜景が美しいので表に出て道に迷っているうちに警察の人が来てしまったと答えた。しかし、警察官がクロウにした説明によると、パト口ール中、阿部が背後の建物から飛び出して来て、それを追いかけるように売春婦が二人大声で叫びながら出て来て、阿部は手に持っていたカメラを振り回して女たちを遠い払おうとしていたとのことであった。さらに警察官によれば、阿部が売春婦に金を払うからヌード写真を撮らせてくれと頼み、案内された部屋に行ったが、その後、金銭のことでトラブルになったらしいといのことであった。
- クロウが警察署に出頭すると、現場にいた警察官が待っており、その二人よりも年配の上司らしい私服の警察官の下に案内された。そこで、現場にいた警察官から上司に対して事情が説明された。その中で、売春婦とのトラブルであるとの話に対して、クロウは現場でしたのと同様の抗議をしたが、現場にいた警察官から、売春婦は阿部と既に行為をしたと証言しており、それについての金銭のトラブルであるとの話がされた。クロウは、これを聞いて大変な衝撃を受け、それ以上の抗議はできなくなった。
また、クロウが現場とされる地点に駆けつけた際には、アベは身柄を警察によって保護されており、現場には既に売春婦の姿が無かったことも示されている。したがって、一方の当事者である売春婦とクロウが直接会話を交わしたという事実もない。以上の事実により、クロウは情報の第二段階には相当しない。
次に、第三段階とは、今回のシアトル事件なるものを発表したクロウ夫人(故人)である。クロウの事件に関する発言は、主に第二段階であるシアトル警察より伝聞したものである。クロウが事件に関与するのは、アベの所有していたメモに記載されていた連絡先として警察に呼び出されて以降であり、厳密な意味では本事件の核心部分(売春婦云々)の当事者ではない。クロウは、シアトル警察に対するアベの身元保証人として、アベをホテルに送り届けた後で警察に出頭し、その場で事件の概要について警察から説明を受け、その事件に関して、アベの代理人として四枚の書類に、ノブオ・アベと代筆でサインを行ったとされる。
最後に、第四段階とは、本クロウ裁判等に関連してはじめて該当する事件なるものを知った、全てのメディアおよび個人を指す。クロウは、事件を発表した動機として、と述べていることからも明らかなように、事件当時(第三段階)と発表当時(第四段階)の間には約30年の空白が存在する。裁判官、双方の弁護士、僧侶、信徒もしくは会員等の情報レベルは総じて第四段階に相当する。
- 私としては、このことを人に相談すれば必ず事が公になってしまい、大切な広宣流布の歴史に取り返しのつかない疵をつけることになってしまうのではないかと思い悩みました。そして、阿部の将来も案し、自分一人の胸にしまい込めば済むことだと決めて、今日まで沈黙を通してきました。しかし、法主としての権威を振りかざし、創価学会を破門した阿部の現在の姿を思うにつけ、本件事件について沈黙していることは誤りではないかと思い悩むようになりました。そして、阿部の真実の姿を明らかにすることこそ、信仰者としての自分の使命ではないかと考えるようになっていたところ、横田さんからの取材があったことを機会に29年間の沈黙を破ることにしました。
第二項 各段階間における情報伝達の検証最初に、第二段階から第三段階への情報の伝達、つまりシアトル警察からクロウへされたとされる事件に関する事情説明等について検証を行う。
まず、クロウによれば(創価新報のインタビューに答えて)、警察による事情説明は以下のようなものであった。
- (※現場にて)警官の前でふるえて泣き崩れているのは、まぎれもなく日顕その人でした。二人の警官のうちの一人が説明するには、パトロール中に、あるビルから日顕が出てきて、その後ろを二人の女性が追いかけてきた、と。女性は大きな声をあげているし、日本人男性は二人の女性に向けてカメラを振り回している。そこでパトカーを現場に停(と)めたのだ、と言うのです。女性はいろんなことを言うのだけれど、日顕は英語も分からないし、どうにもらちがあかないようでした。更に警官が説明するには、日顕はお金を見せて一人の女性に、ヌードの写真を撮らせてくれと、身ぶり手ぶりで頼んで、その建物に入ったと言うのです。
- (※警察署にて)それは、日顕の代わりに私が警察に出頭してから、分かったのです。警官の一人は二十五、六歳の若い人、もう一人は四十歳代の中年でした。若い方の警官が事件を説明してくれたのですが、私は額に青筋を立てて、あの日本人男性はそんなことをする人でない、英語が分からなくて何か誤解されたのだ、等々、必死で弁護したのです。ところが、その間ずっと黙って聞いていた中年の警官が、ぽつんと最後に言ったのです。「もう一人の女性がもう行為を終えていると証言しているんだよ」と。私は、ショックで手も足もふるえて、どうしていいか分かりませんでした。警官によると、もう一人の女性は、性行為後に金銭にかかわるトラブルが起きたと証言している、とのことでした。
すなわち、事件の核心部分について、アベは売春婦二名と関係をもち、そのうちの一名に対して携帯していたカメラによるヌード撮影を行い、もう一名に対して性行為を行ったとの説明を警察官より受けたとする。
これに対して、宗門側弁護団は、@売春が違法であったのに売春婦が逮捕(あるいは取り調べ)されていない点、Aしかも、アベのみが警察に身柄を拘束された点、B書類にクロウがノブオ・アベと代理署名することにアベが法的に開放された点、Cアベの名前が実際はシンノウ・アベ(阿部信雄、パスポートより)である点、D当時のフィルム・カメラでは夜間室内で撮影する能力が無い点などについて反論を行った。
しかるに、判決文によるとスプリンクルとメイリーの供述は以下の通りである。
- スプジンクルは、証人尋問及びアメリカにおけるデポジション(乙五四の一ないし五六の二)において、阿部が売春婦らに対しヌード写真を撮影させてくれるように頼んだことについて特に明確な供述をせず、また、クロウに警察署に出頭するように言ったこと、書類等を作成したことについても記憶がない旨供述しており、この点、クロウの証言と合致しないようにも思える。
- なお、メイリーも、ヌード写真撮影について特に明確な供述をせず、書類を作成したことについても覚えていない旨供述する(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)。しかし、これは、前記(4)(エ)のとおり、スプリンクルと同様、何ら不自然なものではない。
すなわち、両警察官は四枚の書類を作成してアベの身元保証人として出頭したクロウに対して、事件の概要を説明(ヌード写真云々)してサインを求めた点には記憶がないとしている。したがって、両警察官によって、売春行為の内容がクロウに対して説明されたとする客観的な証拠はない。
また、裁判の被告である創価学会は、本事件における真実性の証明として以下のように主張している。
すなわち、創価学会は、両警察官は四枚の書類を作成してアベの身元保証人として出頭したクロウに対して事件の概要を説明してサインを求めた点、および売春行為の具体的な内容は事件の主要部分ではないので、真実性の証明を要求されないとしている。また、実際に本裁判においてクロウの証言以外に、上記の点に関して、被告・創価学会の主張を裏付ける事実は存在しない。
- ある報道が名誉毀損にあたる場合、違法性が阻却されるためには、その報道の記事内容の真実性が要求されるが、当該記事の内容の全てについて細大漏らさず真実であることを要求するのは相当ではなく、その重要な部分ないし主要な部分について真実であることの証明がされれば足りる。
- 売春宿内での出来事、すなわち、阿部が売春婦にヌード撮影を要求し、売春婦と実際に性行為に及んだ事実及び売春婦とのトラブルに関し、クロウが警察署に出頭し事情聴取を受けるなどの捜査手続がされた事実は、いずれも主要部分に含まれるものではない。
しかるに、東京地方裁判所の下田裁判長は判決文において、当裁判所の認定事実として、
- 阿部は、カルーセルルームを出た後、セブンスアベニューとパイク通りの交差点の南東角にあるマッケイ・、アパートメント又はその付近にあるホテル等において、売春婦に対し、ヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った。なお、マッケイ・アパートメントは、当時、売春婦が、売春をするために利用するホテルとして知られていた。その後、阿部は、翌二〇日午前二時ころ、セプンスアベニューとパイク通りの交差点の南東角の路上付近において、売春婦らと、右ヌード写真撮影ないし性行為の料金の支払について、トラブルになった。
- クロウは、阿部をオリンピックホテルに送り届けた後、阿部に対し、部屋から出ないように念を押して、シアトル市警察署へ向かった。クロウは、同日午前三時ころ、シアトル市警察署に到着し、スプリンクル及びメイリーと、その上司二人がいる部屋に入り、警察の要請に応じて出頭した旨書かれてある書類に署名した。また、スプリンクル又はメイリーは、クロウに対し、阿部は、売春婦との性行為を終えており、その料金について売春婦とトラブルになったことを説明した。また、クロウは、ヌード写真撮影や売春婦との金銭トラブルについて書かれてある書類にも署名した。
のように述べている。即ち、創価学会が事件の主要部分ではないとして証明を拒否した箇所についてまでも、事実であると認定する判決を行った。
また、事実認定のうち二番目の抜粋部分には、「クロウは、同日午前三時ころ、シアトル市警察署に到着し、スプリンクル及びメイリーと、その上司二人がいる部屋に入り、警察の要請に応じて出頭した旨書かれてある書類に署名した」とあるが、クロウの発言のうち、「二人の上司」とは、上司が二人いたという意味ではなくて、スプリンクルとメイリーの二警察官の上司に当たる一名の人物のことである。
この場面は、第二段階であるシアトル市警察から第三段階であるクロウに事件に関する情報が伝達されたとされる場面であり、情報伝達過程の検証において極めて重要な意義を持っている。
したがって、第一に創価学会が事件の主要部分でないとして証明を回避する主張は認められるべきではない。第二に、客観的な証拠や証人が存在しないにも関わらず、また宗門側の主張に対して何ら合理的な反論がなされていないにも関わらず、裁判所が事実として認定するべきではない。第三に、裁判長が該当する場面についてのクロウの論述を理解していない(誤解している)にも関わらず、裁判所が事実として認定するべきではない。
以上の観点から、東京地方裁判所の、第二段階から第三段階に対する情報伝達に関する検証は不十分であり、極めて杜撰な判決である。したがって、判決文はクロウ事件に対する客観的な解釈として一般に採用されるべきではない。
次に、第一段階から第二段階への情報の伝達、つまり事件核心部分の当事者からシアトル警察に対する情報の伝達について検証する。まず、第一に、アベからシアトル警察に対して、行為の内容およびトラブルの経緯に関して証言された事実はない。何故ならば、アベは英語を話すことができなかったからである。
すなわち、現場でアベを保護したとする警察官は、アベから事情を聞こうと試みたが、アベに英会話能力がなく、要領を得ないのでアベの所有するメモに記載された電話番号に連絡をとり、クロウを呼び出したのである。
- スプリンクルは、クロウに対し、「こちらはシアトル市警察の者だが、日本人の男性で英語のわからない人があなたの電話番号を書いたメモを持っていたので、電話をした。その日本人男性は、売春宿の前で売春婦とトラブルを起こしているが、英語がわからなくて要領を得ないので、セブンスアベニューの現場まで来てほしい。」旨述べた。クロウは、スプリンクルから、現湯の場所を聞き、すぐに行く旨述べて、電話を切った。クロウは、セブンスアベニューは、昼間から売春婦がたむろしているような場所であったため驚き、カワダに対しては、阿部がホテルから外に出て道に迷ったようだから行って来る旨だけ述べて、車で右現場に向けて出発した。
したがって、シアトル警察が行為の内容およびトラブルの経緯に関して情報を得たとすれば、情報源たる可能性は売春婦に限定される。
なお、売春婦から得られたとされる情報はクロウの発言によれば以下の通りである。
- 警察官によると、シアトル警察での事情聴取に対して、二人の売春婦の一人は、あなたから「金を払うから、是非ともヌード写真を撮らせてくれ」と頼まれたと供述し、もう一人は実際にあなたと性行為をし、その料金についてトラブルが起こったと供述しているとのことでした。それからしばらくして、同じ三月二十日の朝ホテルにおいて、私が警察で問題の始末をつけてきたことや、あなたのために四通の書面に署名しなければならなかったことをあなたに伝えたところ、あなたは私にお辞儀をするのみで一言もありませんでした。
- 若い方の警官が事件を説明してくれたのですが、私は額に青筋を立てて、あの日本人男性はそんなことをする人でない、英語が分からなくて何か誤解されたのだ、等々、必死で弁護したのです。ところが、その間ずっと黙って聞いていた中年の警官が、ぽつんと最後に言ったのです。「もう一人の女性がもう行為を終えていると証言しているんだよ」と。私は、ショックで手も足もふるえて、どうしていいか分かりませんでした。警官によると、もう一人の女性は、性行為後に金銭にかかわるトラブルが起きたと証言している、とのことでした。
なお、シアトル市警察が本事件に関与するのは、アベと売春婦が路上で口論していたとされる場面からである。
- シアトル市警察署のスプリンクルは、バーナード・ビクター・メイリー(以下「メイリー」という。)と共に、パトカーに乗って、パトロール中、セブンスアベ二ューとパイク通りの南東角の路上において、売春婦らが、マッケイ・アパートメントを後ろにして立つ阿部に対し、手を振り回すなどして、激しい口調で迫っているのを発見した。そこで、スプリンクルとメイリーは、パトカーから降り、阿部と話をしようとしたが、言葉が通しなかったため話すことができなかった。また、売春婦らは、阿部に対し、あなたは私に払わなければならないなどと大声で叫んでおり、スプリンクル又はメイリーは、売春婦らから、阿部とのトラブルは、ヌード写真撮影ないし性行為の料金に関するものである旨聞いた。阿部が、スプリンクルらに対し、クロウから渡されていたカワダ宅の電話番号が書かれてあるメモを差し出したので、スプリンクルは、メイリーと相談して、そこに書かれてある電話番号に電話をすることとした。スプリンクルは、阿部をパトカーに乗せ、売春婦らに対し、その場から立ち去るように言った。スプリンクルは、パトカーを八番通りとパイク通りの交差点の南西に移動し、ラリーズ・グリーンランド・カフェの前に停めた。
上記は、下田判決について裁判所の認定する事実として採用された、シアトル市警察と売春婦の接触場面である。クロウの証言によれば、シアトル市警察は現場から売春婦を追い返した後で出頭を求め、シアトル市警察で売春婦二名の取調べを行ったとしている。これに対して、スプリンクルおよびメイリーは、売春婦の取り調べを行った事実はないと証言し、裁判所は前者を採用していない。
本サイト(妙音)では、この裁判所の態度を支持する。何故ならば、情報の伝達過程において、シアトル市警察はクロウより上位に位置するため、双方の証言が矛盾する場合には、より上位に位置する証言を採用するべき積極的な理由が存在するからである。クロウとの書類の作成について、この原則が一貫していない点は遺憾であるが、少なくとも第一段階である売春婦と第二段階のであるシアトル市警察間の情報伝達について、第三段階であるクロウの証言の効力は介入されるべきではない。したがって、現場より一度退去させた売春婦二名を再びシアトル警察に召還して、売春行為の具体的な内容およびトラブルの経緯について取調べを行い、証言を得たという事実は存在しないとの判断することができる。
したがって、シアトル警察に伝達された売春行為の具体的な内容およびトラブルの経緯についての情報は、事件現場で売春婦が述べたとする内容に限定される。なお、筆者は口論を行っていた人物が、警察に対して冷静な事情説明を行った可能性を疑問視する。
また、アベはシアトル警察に取調べを受けていない。
- クロウは、警察官に対し、阿部は日本から来た偉い僧侶でおり、法を犯すような人でなく、言葉が通しなかったための誤解である旨抗議したが、警察官は、阿部からも事情を聞きたいので一緒に警察署まで来てもらいたい旨要求した。クロウは、阿部は法主の名代として宗教儀式のためにアメリカ合衆国へ来たのであり、その日もシアトルで儀式を行ったばかりで、翌日はシカゴに行くことになっていることなどを説明して、阿部の連行を阻止するため努力した。その結果、警察官は、クロウに対し、クロウが阿部について責任を持つならば阿部は帰ってもよいが、同人を宿泊先のホテルに送り届けてからクロウが出頭するように要求したので、クロウはこれを約束した。
つまり、クロウが保護者として出頭するという条件で、アベは事情徴収を回避したとされている。また、既にに英会話能力の無いアベが、現場で取り調べを受けた可能性は否定されている。したがって、シアトル市警察に対して、事件に関する情報は売春婦側から一方的に流入したものであり、警察において当事者両者の主張が検討され、客観的な結論が導かれたという事実は全く存在しない。
したがって、アベと売春婦の口論が存在したと仮定しても、裁判で明らかとなった各事実は、口論の原因が売春行為の対価としての金銭トラブルであるという売春婦の主張の真実性を補完するものではなく、売春婦の発言が虚言であった可能性を何ら減殺するものではない。
また、スプリンクルおよびメイリーは、アベと売春婦との口論を記憶していると証言してはいるが、その口論の原因がヌード撮影云々であるとの記憶は全く無いと証言し、かつ、第二段階から第三段階の情報伝達場面とされる書類作成についても記憶が無いと証言している。したがって、仮にアベと売春婦の口論が存在したとしても、その原因を売春行為の対価の未払いと「記憶」しているのは、クロウのみである。したがって、裁判で明らかとなった各事実は、何ら、事件の核心部分についてクロウの発言の真実性を補完するものではなく、クロウの事件の確信部分についての発言(トラブルの存在/トラブルの原因)が虚言であった可能性を何ら減殺するものではない。
(判決文は、クロウのストーリーに体験した者にしか語れない迫真性があるので、クロウの主張は事実と認定できるという趣旨の表現をしているが、クロウストーリーという命題の真実性を証明するの当たって、命題自身の迫真性を根拠とするのでは何ら命題の客観的な証明になっていない。何故ならば、仮に命題が偽であった場合にも証言の「迫真性」は、練習をすれば十分に両立する可能性が存在するからである。)
したがって、事件の核心部分について、アベと売春婦のトラブルが存在し、かつその原因がアベの買春行為に関するものであると認定した東京地方裁判所の判決では、各段階における情報伝達の検証が乏しく、その事実認定は極めて杜撰なものであった。
終わりに東京高等裁判所では、売春婦の発言の真実性および、売春婦(第一段階)からシアトル市警察(第二段階)に対する情報伝達の信頼性、またその存在が立証されていないクロウ夫人が書類にサインしたとされる場面(第二段階から第三段階への伝達)について十分な検討が行われ、議論が深まることを望む。
妙音主筆編集
本行寺青年部 渋谷憲悟