東京地裁は判決で、事件の告発者であるクロウ夫人の証言内容について、「第一回海外出 張御授戒の様子、阿部にカワダ宅の電話番号が書かれたメモを渡した状況、御授戒終了後 に阿部をオリンピックホテルに送りカワダ宅に戻って懇談をしたときの状況、警察官から 電話がかかってきた状況、本件事件の現場に行くまでの状況、現場での警察官らや阿部の 様子、警察官らとのやり取り、阿部を解放してもらいオリンピックホテルに送っていると きの状況、警察署へ出頭したときの状況、その際の警察官らとのやり取りなどを詳細かつ 具体的に証言しているものであり、その内容は迫真性に富んでおり、実際に経験した者で なければ語ることのできないものであるということができるし、供述内容は終始一貫して おり、特段の矛盾や変遷等はない」とその信用性を高く評価。  また事件に立ち会った二人の警察官や、出張御授戒の会場となったカワダ宅のケイコ・ カワダ氏の証言などにより、その信用性は裏付けられていると判断した。  一方、宗門側がクロウ夫人の反対尋問の際、不鮮明極まりない写真などを根拠に“当時 は高速道路の工事中でクロウ夫人の使用した経路は通れない”などという虚偽の主張をし たことについて、判決は、学会側が提出した証拠に照らし、宗門側の主張は「信用できな い」と退けた。  また、当時、事件現場付近は売春婦がたむろするような場所ではないとの宗門側主張も 「証拠に照らして信用できない」と断じたのである。 判決は、事件に立ち会った元警察官スプリンクルの証言についても、「証人スプリンクル は、男性の特徴として、背の高さは相対的に背の高くなく、ダークスーツ及び黒又は濃い 灰色のコートを着て、ダークの帽子をかぶり、眼鏡を着用し、頭は剃っているか短く切っ ていたと証言しているところ、証拠によれば、スプリンクルが証言する男性の特徴は、第 一回海外出張御授戒当時の阿部の特徴とほぽ一政すると認めることができる」「セプンス アベニューとパイク通りの交差点である本件事件の現場で、昭和38年3月の午前2時ご ろ、クロウと会ったと証言し、証人クロウは、同月20日午前2時ころ、警察官から電話 があり、その後、10分後くらいに右交差点にある本件事件の現場に到着した旨証言して おり、証人スプリンクルの証言する場所及び午前2時ごろという時刻は、クロウの供述と ほぼ一致している」「平成7年3月上旬ころ、本件事件後初めてクロウと再会したとき、 ク口ウが本件事件の際に会った女性であるとすぐに認識することができたと認められる」 「スプリンクルが証言しているのは本件事件についてで あり、また、売春婦らとトラブ ルを起こしたとされる男性は阿部を指している」と結論づけた。  さらにスプリンクル氏の証言の細部がクロウ婦人の証言と必ずしも一致していない点に ついても、「逆に、自然なこととして、その信用性を高めるものである」「むしろ本件事 件の起こった時刻、場所、電話をかけたときの状況、売春婦らが二名又は三名という複数 であったこと、提供されたサービスに対する料金に関するトラブルであったこと等、主要 な部分については、スプリンクルの証言は、クロウの証言と一致しており、信用性が高い」  もう一人の警察官バーナード・メイリー氏の供述についても「主要な部分において、ク ロウ及び、スプリンクルの証言と一致しており、信用性は高い」と判断した。  日顕の供述については、当初の「ホテルから一歩も出ていない」という主張を平成7年 9月に突如、撤回し、“一人で酒を飲みに出てホテルに戻った”としたことについての“ 手帳を発見して外出していたことを思い出した”という供述を、「不自然かつ不合理であ り、信用することができない」  また、“シカゴでの外出の印象が強く、シアトルのことは忘れていた”との言い分につ いても、「シカゴでの外出については手帳に記載がなく、逆に、シアトルでの外出につい ては手帳に記載があり、しかも、カルーセルルームの店の名前まで記載されていること、 第一回海外主張御授戒において初めて飲酒のために外出したのはシカゴではなくシアトル であったことが認められ」と認定。  「阿部が、シアトルではホテルから一歩も出ていないとの供述 を、シアトルで飲酒の ため外出したとの供述に変更したことについては、何ら合理的な理由がなく、不自然であ る」と日顕の供述を裁断した。  さらに判決は、日顕が自らの出廷時になって、事件当夜の宿舎はオリンピックホテルで はないなどと言いだしたことについても、法廷での日顕が、「曖昧かつ不合理な供述に終 始」「曖昧な供述をするのみ」と認定。  また、事件当夜、酒を飲んだというカルーセルルームについても、「阿部は主尋問にお いて、シアトルで飲酒した店の中の様子について、『明るく白いような感じで全体があっ たように思いますが、入ってすぐカウンターがあって、手前にもちろん腰掛けがあって、 そこへ腰掛けて』などと供述していたが、肩や太ももを露出した女性が写っている写真が 掲載されているカルーセルルームのパンフレットを示されながらの反対尋問においては、 突如、『私の飲んだところはこういうふうに中に入らなかったんです』と中に入ったこと を否定する供述を始め、さらに、右写真を拡大したものを示されながらの反対尋問におい ては、『店に入らなかったとさっきから言っております。』などと中に入ったことをこと さらに強く否定する供述をするに至っており、供述内容が変遷しており、右変遷には何ら 合理的な理由があるとは認められない」と厳しく断じた。  そして判決は、「重要な点において、その内容が変遷しており、その変遷には何ら合理 的な理由が認められず、また、供述内容も曖昧で不自然かつ不合理な点が多いというべき であり、前記クロウ、スプリンクル及びメイリーの供述(特に、クロウの供述)に比べて、 阿部の右供述の信用性は著しく低いことは明らかである。よって、阿部の供述は信用する ことができない」と結論。  日顕が事件否定の“切り札”として出してきた「手帳」についても、判決は厳しく言及。 日顕は手帳に、「さあねよう 午后1時」(午前一時の誤記という)とあることを根拠に 事件を否定したが、この手帳について判決は、「阿部の供述は不自然かつ曖昧であり、信 用することができず、したがって、手帳の右記載の正確性についても疑問がある」と結論。 日顕のウソの数々は木っ端微塵に吹き飛んだのである。  また、手帳の記載自体の信用性についても、「証拠によれば、手帳の『午后1時』の記 載は、裏面の翌20日についての記載の後に書かれたものであること、『午后1時』を記 載する際使用されたインクは、その下の『Mrs クロウ・ヒロエの例』を記載する際使 用されたインクとは異なる蓋然性が高いことが認められ、したがって、この点でも、『午 后一時』(午前一時)の記載の正確性には疑問がある」「手帳の『午后一時』(午前一時) の記載は信用することができず、同記載が存在することをもって、阿部が本件事件の現場 にいなかったということはできない」なお、判決は宗門側がこの手帳に関し、提出した鑑 定書についても、「信用することができない」と認定した。  こうして東京地裁は、「阿部は、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、ア メリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、 シアトルにおいて、売春婦に対し、ヌード写真を撮らせてくれるように頼んだこと、売春 婦と性行為を行ったこと、その後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警 察沙汰になったことが認められる」  シアトル事件に関する報道に違法性がない理由として、判決はその真実性とともに公共 の利害にあたり、もっばら公益を図る目的でなされたものであることを認定した。  まず公共の利害については、「本件事件は、阿部が原告日蓮正宗の教学部長として原告 日蓮正宗の第一回海外出張御授戒の際に起こった事件であり、しかも、阿部は、原告日蓮 正宗の信仰の中心であって、その最高指導者であるところ、本件事件の有無は、その最高 指導者としての適性の有無に密接に関連するということができるし、さらに、証拠によれ ば、阿部自身、本件事件が真実であれば直ちに法主を辞めると述べていること、原告日蓮 正宗の僧侶の中にも、本件事件が真実であれば僧侶を辞めると述べている者もあることが 認められること等の事情からすれば、本件事件は約20年前の事件であっても、公共の利 害に関する事実にあたる」また、公益目的についても、「創価学会は、阿部が売春婦とト ラブルを起こしたという本件事件は、阿部の宗教者としての適格性及び法主としての資格 などを判断する上で、極めて重要なものである」と考え、阿部が法主、聖職者及び信仰者 として失格であることを明らかにするために」この事件を報道したとて、この報道が、「 専ら公益を図る目的に出たもの」と認めたのである。  さらに記事掲載にあたっての取材についても「事件についてクロウから供述を得た上、 その供述について裏付け取材等を行った」  痛烈な表現は「信徒の側から行われた阿部が法主、聖職者及び信仰者として失格である 旨の信仰上の批判でありこのような批判において厳しい表現方法を用いることは、そもそ も、僧侶の堕落を痛烈に批判した日蓮正宗の宗祖日蓮大聖人、開祖日興上人の教え及び精 神に適うものと判断して、本件第一記事(=平成4年6月17日付「創価新報」など)に おいて「大破廉恥行為』等の表現を用いたことが認められる」との判断を下したのである。  この日は、“シアトル事件に関する記録がアメリカ連邦政府内にある”と、本紙などが 報道したことに対し、宗門側が訴えていた裁判についても、学会側全面勝訴の判決が下さ れた。  判決は、本紙記事が公共の利害に関するものであって、かつ公益目的を図るものである ことを認めたうえ、本件の立証の対象はシアトル事件と同一であり、そのシアトル事件自 体が「真実である」ことが認められた以上、違法性がないとして、宗門側の訴えをことご とく退けた。  こうして、250nにも及ぶ判決文は、日顕のウソと欺瞞だらけの供述について、「 不自然かつ不合理」「極めて曖昧」「信用することができない」などと、合計17個所に わたって、その虚構性、反社会性を厳しく裁断したのである。