写真偽造裁判・東京地裁判決文


※名誉毀損は親告罪であるところ、原告に日顕上人本人が加わっていないことを理由に高裁・最高裁では日蓮正宗・大石寺の請求を棄却しましたが、創価学会による写真偽造が社会通念を逸脱した違法行為である点については高裁・最高裁も判決文で認定しています。



平成一一年一二月
六日判決言渡
同日原本領収
裁判所書記官





平成五年(ワ)第七九七七号謝罪広告塔請求事件
(口頭弁論集結日) 平成一一年七月一九日

          判    決

静岡県富士宮市上条二〇五七番地
          原告      日蓮正宗
          右代表役員   阿部日顕
右同所
          原        告     大  石  寺
          右 代 表 役 員      阿 部 日 顕
          原告ら訴訟代理人弁護士    小長井 良 浩
          同              樺 島 正 法
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          同              菅   充 行
          同              有 賀 信 勇
          同              田 村 公 一
          同              西 村 文 茂
          同              大 室 俊 三
          同              荘 司   昊
          同              川 下   清
東京都新宿区信濃町二三番地
          被        告     池 田 大 作
東京都新宿区信濃町三二番地
          被        告     創 価 学 会
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          右 代 表 役 員      森 田 一 哉
          被告ら訴訟代理人弁護士    倉 田 卓 次
          同              宮 原 守 男
          同              倉 科 直 文
          同              佐 藤 博 史
            主     文
一 被告創価学会は、原告ら各自に対し、一人につき二〇〇万円及びこれに対
 する平成四年一一月一八から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員
 を、本判決二項の支払と連帯して支払え。
二 被告池田大作は、原告ら各自に対し、一人につき一〇〇万円及びこれに対
 する平成四年一一月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員
 を、本判決一項の支払と連帯して支払え。
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三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、全体を二五〇分しその一を被告らの、その余を原告らの負担
 とする。
五 本判決一、二項は、仮に執行することができる。

          事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
 一 原告ら(請求の趣旨)
  1 被告らは、原告らに対し、聖教新聞社の発行する聖教新聞及び創価新報の
   各第一面最上段並びに大白蓮華及びグラフSGIの各表紙裏全頁を使用して、
   全四段で、左記により、別紙五記載の謝罪広告を各三回掲載せよ。
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         記
   @ 見出し「謝罪広告」は六六級活字
   A 本文は二〇級活字
   B 氏名は二八級活字
 2 被告らは、別紙A並びにB1及びB2の偽造写真を使用し、又は、株式会
  社中外日報社その他の第三者をして使用せしめてはならない。
 3 被告らは、原告らに対し、連帯して、各五億円及びこれらに対する平成四
  年一一月一八日(請求原因たる不法行為の日以降の日)から支払済みに至る
  まで年五分の割合による金員を支払え。
 4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
 5 仮執行宣言
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 二 被告ら
 (本案前の答弁)
  1 本件訴えをいずれも却下する。
  2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
 (請求の趣旨に対する答弁)
  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
  2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 事案の概要
 一 本件は、宗教法人である原告らが、同じく宗教法人である被告創価学会に対
  しては、同被告の機関誌である創価新報に掲載された後記本件記事中における
  後記本件写真の掲載及び後記本件問題部分の記載により原告らの名誉、信用が
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  毀損されあるいは業務が妨害されたとして、被告創価学会の名誉会長である被
  告池田大作に対しては、被告創価学会のなした本件記事掲載の違法行為を容認、
  指導する後記本件発言により、また、被告創価学会の本件記事掲載の違法行為
  を制止すべき義務に違反したことにより、原告らの名誉、信用が毀損されある
  いは業務が妨害されたとして、それぞれに対し不法行為に基づき損害賠償金と
  これに対する遅延損害金の支払及び謝罪広告の掲載並びに本件写真の使用禁止
  を求めた事案である。
   これに対して、被告らは、まず、原告らが求める判決主文(請求の趣旨)に
  つきこれが不適法であるなどとして本件訴えの却下を求め、次に、被告創価学
  会に対する請求について、本件記事は阿部日顕を対象とした報道であって原告
  ら法人の名誉を毀損するものではないこと、本件記事の内容は真実であること
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  (いわゆる真実性の抗弁)、本件記事の掲載は宗教教義上の論争として違法性
  を欠くことなどを主張し、被告池田大作に対する請求について、本件発言自体
  原告らの名誉等を毀損する内容のものではないこと、原告らの主張する被告池
  田大作の制止義務の根拠はどこにもないことなどを主張して、いずれの被告と
  の関係においても、原告らに対する名誉毀損等の成立を否定し、原告らの請求
  の棄却を求めたものである。
 二 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  1 当事者
  (一)原告日蓮正宗
     原告日蓮正宗は、宗祖日蓮立教開宗の本義たる弘安二年の戒壇の本尊を
    信仰の主体とし、法華経及び宗祖遺文を所依の教典として、宗祖より付法
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    所伝の教義をひろめ、儀式行事を行い、広宣流布のため信者を教化育成し、
    寺院及び教会を包括し、その他この宗の目的を達成するための業務及び事
    業を行うことを目的とする宗教法人である。現在、原告日蓮正宗の代表者
    代表役員は阿部日顕である(弁論の全趣旨)。
 (二) 原告大石寺
     原告大石寺は、日蓮正宗宗制に定める宗祖日蓮所顕十界互具の大曼陀羅
    を本尊として、日蓮正宗の教義をひろめ儀式行事を行い、広宣流布の為め
    信者を教化育成しその他正法興隆、衆生済度の浄業に精進するための業務
    及び事業を行うことなどを目的とする宗教法人である。現在、 原告大石寺
    の代表者代表役員は阿部日顕である(弁論の全趣旨)。
 (三) 被告創価学会
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     被告創価学会は、日蓮大聖人御建立の本門戒壇の大御本尊を本尊とし、
    日蓮正宗の教義に基づき、弘教および儀式行事を行い、会員の信心の深化、
    確立をはかり、もってこれを基調とする世界平和の実現と人類文化の向上
    に貢献することを目的とし、これに必要な公益事業、出版事業および教育
    文化活動等を行うことを目的とする宗教法人である。現在、被告創価学会
    の代表者代表役員は森田一哉である(弁論の全趣旨)
 (四) 被告池田大作
     被告池田大作は、昭和三五年五月三日に被告創価学会第三代会長に就任
    し、昭和五四年四月二四日に被告創価学会名誉会長に就任して、現在に至
    っている者である(争いがない)。
  2 創価新報の本件記事(本件写真及び本件問題部分)
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 (一) 被告創価学会は、平成四年一一月四日付創価新報を右同日ころ発行し、
    同紙四面に別紙三記載のとおりの記事(以下「本件記事一」という。)を
    掲載した
     本件記事一には、「得意のポーズでご満悦―。また出た、日顕の”芸者
    遊び”写真」との説明のもとに、和室の部屋の中で阿部日顕と二人の女性
    が写っている写真(以下「本件写真一」という。)が掲載されており、右
    説明部分の他に、「日顕が欲すは『カネ、酒、色』の堕落道」「まだ信伏
    随従するのか」「芸者の世界は日顕の”心の故郷”!?」「政子がとめて
    も“酒はやめられない”と本音」との見出し及び「『私たちはだまされて
    いた』『やはり、日顕は大嘘(ウソ)つきだった!』―。とどまるところ
    を知らない日顕と日顕宗中枢の悪行の数々に、宗内のみならず全国の法華
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    講も激怒。各地で脱講者が相次いでいる。このように次から次へと悪事が
    露見していることこそ、大聖人が、日顕の悪に対して厳しく裁かれている
    何よりの証(あかし)でもあろう。もはや日顕に信伏随従することは、“
    地獄への特急券”を手にしているのと同じだ。ここでは新たに明らかにな
    った“新事実”を交え、日顕と日顕宗僧侶たちの醜(みにく)い“正体”
    を改めてお知らせする。全国の法華講員、檀徒の皆さん、これでもあなた
    たちはまだ、日顕に“信伏随従”するのか。」とのリード部分の記載があ
    り、そして本文において「お待たせしました!またまた出ました、日顕の
    “芸者写真”!! 今度は日本髪の芸者さんを前に、一本指を立ててお得
    意のポーズ。何とも楽しそうな顔だ。怒ってばかりいる“瞬間湯沸かし器
    ”からは想像もできない。」「『日顕の遊び癖だけはどうにもならない。
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    でも、あの性格だから、周りからは何も言えないんだ』『芸者の世界にい
    ると、彼の心は生まれ故郷に帰ったように安らぐのかもしれない。なにせ、
    彼の母親や政子の母は、その関係者だったのだから』と、ある老僧や宗門
    関係者。」「日顕の酒好き、遊び好きには、夫人の“イメルダ政子”も呆
    (あき)れているようだ。しかし、この夜も、周囲に勧められるままに、
    五合以上の酒を飲んでいたというのだから、とんだ“お調子者”ならぬ“
    お銚子者”がいたものだ。開いた口が塞(ふさ)がらない。」「法主がこ
    んな下劣な男であるから、取り巻きの役僧も末寺の僧侶も放蕩(ほうとう)
    ・好色爺(じじい)ばかり。」「ああ、希代の遊蕩坊主・日顕。そして、
    好色教団・日顕宗。」との記載がある(以上の説明部分、見出し、リード
    部分及び本文の記載をまとめて、以下「本件問題部分一」という。)。
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     なお、本件記事一の「日顕が欲すは『カネ、酒、色』の堕落道」「まだ
    信伏随従するのか」の各見出しは、いずれも本件記事一の左側の紙面から
    続く「哀れな法華講よ!日顕は欲すは『カネ、酒、色』の堕落道」「こん
    な法主にまだ信伏随従するのか」との各見出しの一部分である。
   (以上、甲一、乙一、五)
 (二) 被告創価学会は、平成四年一一月一八日付創価新報を右同日ころ発行し、
    同紙三面に別紙四記載のとおりの記事(以下「本件記事二」という。)を
    掲載した。
     本件記事二には、阿部日顕と七人の女性が正面を向いて写っている写真
    (以下「本件写真二」という。)が掲載されており、「えっ、これじゃ
    『日顕堕落宗』?」「退座の後はここにキマリ、猊座がなくても“芸座”
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    があるサ」「これぞ極めつけ『ワシ、もう“成仏”しそう』」との見出し、
    「なんとこれは『日顕堕落宗』の総会か? いやいや、とある超高級料亭
    での一場面です。相も変わらぬ大尽風を吹かせた日顕クン、この日は特に
    興に乗ったのか、一座と写真に納まる大サービスぶり。ぶ厚い座布団に鎮
    座して、脂下がった顔での“記念撮影”と相成った次第です。 どうです
    か居心地との良さそうなこの“顔”。周りをズラリと芸者衆に囲まれて、
    いかにもうれしそう。“きみたち、もっと近う寄れい。中啓で殴るのは僧
    侶だけだよ。おじさん怖くないからね。できればシアトルのスチュワーデ
    スのように頭を撫で撫でしてくれるとワシ、もう成仏なんだけどナー”。
    半ば口を開いて、今にも話し出しそう。これが日顕クンの“半眼半口”の
    成仏の相とは、イヤハヤ恐れ入りました。 それにしても、このノーテン
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    キな尊顔をジーッと拝していると、このオジンの脳ミソの中には果たして
    『広宣流布』という文字はあるんだろうかと、“信伏随従”している法華
    講ならずとも心配になります。京の軟風にかぶれた三位房を弾かされた日
    蓮大聖人がこの写真を御覧になったら・・・なんて考えるだけで、ソラ恐
    ろしい気がします。 でも、当の御本人はそんな心配はどこ吹く風。シア
    トル事件、C作戦なんて怖くない。だって猊座を追われてもワシにはちゃ
    んと別の“芸座”があるからね、とばかり日顕”芸下”は、今日も“遊行
    ”へと、いそいそ御出仕するのでアリマスル。」との本文が記載されてい
    る(以上の見出し及び本文の記載をまとめて、以下「本件問題部分二」と
    いう。)
(以上、甲三、乙五)
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 (五) 創価新報は、被告創価学会の学会員向けの旬刊(月二回発行)の機関誌
    であり、約一五〇万部の購読がある(弁論の全趣旨)。
  (本件記事一及び同二を併せて以下「本件記事」といい、本件写真一及び同二
   を併せて以下「本件写真」といい、本件問題部分一と同二を併せて以下「本
   件問題部分という。)
  3 被告池田大作の本件発言
     被告池田大作は、平成四年一一月一四日、「第一五回SGI(創価学会イ
    ンタナショナル)総会、第四回埼玉総会」(場所・創価大学記念講堂)にお
    いて、同所に集まった創価学会員に対してスピーチをし、その中で以下の発
    言をした(以下「本件発言」という。)。右スピーチの様子は、全国の主要
    な創価学会会館において衛星放送で同時放映された(検証の結果、甲二、弁
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    論の全趣旨)。
    「凡夫と仏の違いはどこにあるか。凡夫はボンクラで、仏は一人偉ぶって
    いるというのかどうか。大聖人は、その正反対に、法華経を信ずる者は仏
    なり。ねぇ、大変に有り難いお言葉です。法華経を信ずる者は仏なんだと。
    そう見るのが仏である。そう見ないのが凡夫なのである。ねぇ、この野郎
    の首を切りたい・・、そんな仏はほっとけですよ。ねぇ、あいつらは、こ
    の野郎・・、そんな大聖人の仏法にも全部反している・・。情けない男た
    ちです。男だけならいいけれども、そのうち、また、あの、あれ出ますけ
    れどね、新報に、この次かな、これちょっと見してもらったけれどね・・。
    たくさんの美女に囲まれてね。そうだろ、秋谷君、やめろつったら、秋谷
    やるっつんだもの。もう、新橋かどっかのね、柳橋でさあ。もう・・えっ
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    へへへへへへと笑ってね。まぁ、みんな・・、あー、行きたいね、一遍ね
    。・・そういう連中なんです。」
    「SGIこそが教行証を兼ね備えて進んでいる教団なのであります。宗門
    は教、すなわち御書も軽視している・・。一部分だ。行、修行は全くない
    げい座ですよ。げい座っつうのはね、本当は正法の座を猊座、芸者の方の
    芸座・・。今度は新報見たら、みんなびっくりするだろう、どうだ。私は
    『出すな出すな』ったんですよ。でも、まだいっぱいあるっつうんですよ。
    で、やめろつったんですよ。で、少しはやっぱりね、ああいう連中は、あ
    のー、どこ行っても学会人いるから、もうみんな知ってんですよ。みんな
    もう写真にも撮ってあんですよ。また坊さんがみんな送ってくんです。も
    ううちのね法主どうしようもないからっつてね。もういっぱい送ってくん
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    うちじゃなくて坊さんの方なんですよ。戒めてくれっつって。で、宗門は
    教、行もない、だから当然、成仏も証もない。ね、金儲けはうまい。成仏
    はできません。まさにこれを法滅の姿という。・・法を滅する。」
第三 当事者の主張
 一 請求原因及びその他の原告らの主張
   別紙一記載のとおり
 二 被告らの主張
   別紙二記載のとおり
第四 当裁判所の判断
 一 被告創価学会に対する請求
  1 本件記事の内容
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     本件記事一は、一般の日刊紙大の創価新報の紙面一面のほぼ全体を使って
    以下の内容を大きく報じたものである。すなわち、同紙面の左端から右端に
    かけて約四・五センチメートルの高さで「日顕が欲すは『カネ、酒、色』の
    堕落道」との横書きの大見出しを掲げ、更に、「芸者の世界は日顕の”心の
    故郷”!?」「政子がとめても、“酒はやめられない”と本音」などの見出
    しの下に和室の部屋の中で阿部日顕が食膳や徳利を前にして座り、二人の着
    物姿の女性のうちの一人と対座して写っている本件写真一を「得意のポーズ
    でご満悦―。また出た、日顕の”芸者遊び”写真」との説明を付した上で縦
    約一二・五センチメートル横約一七センチメートルの大きさで掲げているも
    のであるところ、その本文の内容は多岐にわたりやや支離滅裂気味ではある
    が、その大要は、その冒頭で「お待たせしました!またまた出ました、日顕
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    の“芸者写真”!! と述べて最初に本件写真一について言及していること
    からも明らかなように、阿部日顕の芸者同伴の酒席への出席の事実の存在を
    示唆する本件写真一を基礎として、阿部日顕を「とんだ“お調子者”ならぬ
    “お銚子者”」「下劣な男」「希代の遊蕩坊主」などと評し、結論として本
    件記事一の読者に対し「日顕に“信伏随従”するのか」などと阿部日顕や原
    告らへの信仰を捨てるように呼びかけをしたものである。
     そして、本件記事二も、創価新報の紙面一面のほぼ全体を使って以下の内
    容を大きく報じたものである。すなわち、和室の部屋の中で阿部日顕が食膳
    やビール瓶を前にして座り、日本髪で着物姿の女性七人と共に並んで写って
    いる本件写真二を記事全体の大半を占める大きさ(縦約二七センチメートル
    横約二九センチメートル)で掲げ、「えっ、これじゃ『日顕堕落宗』?」
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    「退座の後はここにキマリ 猊座がなくても“芸座”があるサ」「これぞ極
    めつけ『ワシ、もう“成仏”しそう』」との見出しを大きく掲げているもの
    であるところ、本件記事二の内容は、やはり阿部日顕の芸者同伴の酒席への
    出席の事実の存在を示唆する本件写真二を基礎として、右写真における阿部
    日顕の顔つきを「脂下がった顔」「“半眼半口”の成仏の相」などの揶揄的、
    侮辱的な表現で形容するなどして人身攻撃的に阿部日顕を評したものである。
  2 原告らの社会的評価の低下
 (一) 前記前提事実に加えて弁論の全趣旨によれば、原告ら及び阿部日顕に関
    して、以下の事実が認められる
  (1) 原告日蓮正宗は、宗祖日蓮大聖人の立教開宗の本義たる弘安二年(一
     二七九年)の戒壇の本尊を信仰の主体とし、法華経及び宗祖遺文を所依
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     の教典として、宗祖より付法所伝の教義をひろめ儀式行事を行い、広宣
     流布のため信者を教化育成し、寺院及び教会を包括し、その他この宗の
     目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人で
     あり、法規として日蓮正宗宗制、日蓮正宗宗規等を有している。
  (2) 原告大石寺は、多宝富士大日蓮華山大石寺と称し、正応三年(一二九
     〇年)一〇月、宗祖日蓮大聖人の法嫡第二祖日興上人によって開創され
     た全国に七百余か寺の末寺を有する日蓮正宗の総本山であり、日蓮正宗
     宗制に定める宗祖日蓮大聖人所顕十界互具の大曼陀羅(右弘安二年の戒
     壇の本尊)を本尊として、日蓮正宗の教義をひろめ、儀式行事を行い、
     広宣流布のため、信者を教化育成し、その他正法興隆、衆生済度の浄業
     に精進するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人である。
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  (3) 阿部日顕は、現在、原告日蓮正宗及び原告大石寺の代表者代表役員の
     地位にある者である。原告日蓮正宗においては、その代表者たる代表役
     員には、一宗を総理する「管長」の職にある者を充て、その管長には宗
     祖日蓮大聖人以来の唯授一人血脈を相承する「法主」の職にある者が就
     任する定めであるが、阿部日顕は、第六七世の法主である。阿部日顕は、
     原告大石寺の住職であると同時に日蓮正宗総本山法主として、また同宗
     の宗教上の最高指導者として一宗を統率する立場にあり、同宗宗祖の仏
     法の一切を一身に所持する唯一の承継者として、同宗の全ての僧俗から
     勝れて高い尊崇を受ける立場にある。
 (二) 阿部日顕の原告らにおける立場ないし地位についての右認定事実を前提
    として検討するに、本件記事における本件問題部分は、いずれも本件写真
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    を基礎として阿部日顕が宴会で酒を飲み芸者遊びをしている様子について、
    「日顕が法主は『カネ、酒、色』の堕落道」「芸者の世界は日顕の“心の
    故郷”!?」「退座の後はここにキマリ 猊座がなくても“芸座”がある
    さ」(なお、弁論の全趣旨によれば、「猊座」とは原告日蓮正宗の法主た
    る地位の日蓮正宗関係者内での呼称であることが認められる。)「これぞ
    極めつけ『ワシ、もう“成仏”しそう』」などの大きな見出しと共に、本
    文においても揶揄的、侮辱的な表現を並べて述べるに終始する内容のもの
    であるところ、一般に、団体としての宗教法人に対する世間の評価とその
    崇拝の対象ともいうべき信仰上の最高指導者に対するそれとを切り離して
    観念することはその性質上極めて困難なことというべきであるから、かか
    る団体にあっては、その信仰上の最高指導者について、その宗教者として
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    の適格性に疑義を生じさせるような内容の新聞記事は、それが私生活の行
    状等に関する事実記載ないし論評であったとしても、まさしくその宗教法
    人の団体自体の社会的評価の低下を来すものと解されること、そして、も
    とより宗教法人はその団体の性質柄、殊更に清廉かつ禁欲的な印象を大切
    にするものであることはいうまでもないことからすれば、阿部日顕を法主
    としてその宗教上の最高指導者として擁する原告らの社会的評価は、本件
    問題部分により相当程度低下したものと認めるのが相当である。また、本
    件問題部分中の「好色教団・日顕宗」「これじゃ『日顕堕落宗』?」など
    の記載は直接原告らに対して向けられたものに他ならず、すなわちそれは
    原告らの社会的評価を直接に低下させるものと評価することが出来る。
     そして、阿部日顕が芸者とおぼしき女性と同伴で酒席に臨んでいる様子
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    が見て取れる本件写真も、かかる本件問題部分の記載と一体として見た場
    合に、やはり右のような見地から阿部日顕を宗教上の最高指導者とする原
    告らの社会的評価をより一層低下させるものということができる。
 (三) ところで、本件写真がいずれも被告創価学会において原写真を加工した
    ものであることは当事者間に争いがないところ、そこで原写真に施された
    加工の具体的な内容についてみるに、(証拠甲一、三、乙五九、六〇)に
    よれば、本件写真一については、原写真には阿部日顕の他に二名の宴席出
    席者の男性が写っているのに対して、本件写真一ではそれらの人物が抹消
    ないし写真の中に収まらないように写真の両端が切り落されて加工されて
    いる点、原写真にはその正面背景に写っていた床の間の生け花、書院の障
    子窓等が本件写真一では抹消されている点、本件写真二については、原写
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    真には阿部日顕の他に二名の宴席出席者の男性が写っているのに対して、
    本件写真二ではそれらの人物が写真の中に収まらないように写真の両端が
    切り落されている点、原写真には背景として写っていた生花や額入絵画等
    が本件写真二では抹消されている点、そして、本件写真に共通するところ
    では、写真に写っている女性達にはアイマスクの加工が施されている点が、
    いずれも被告創価学会により施された加工のうち主要なものと認められる。
     そこで、本件写真が原写真を加工した写真であることが本件記事の名誉
    毀損の成否等に如何なる影響を与えるかについて検討するに、本件写真と
    その原写真とを比較すると、いずれも前者においてはそこに写っている男
    性が阿部日顕だけであることから、あるいは本件写真撮影当時酒宴にいた
    男性は阿部日顕一人きりであったとの印象をそれを見た者に対して抱かせ
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    る可能性があるところ、阿部日顕が「色」について堕落している旨示唆す
    る本件記事一の「日顕が欲すは『カネ、酒、色』の堕落道」との見出しや
    阿部日顕が芸者を好むことを示唆する本件記事一及び同二の「芸者の世界
    は日顕の“心の故郷”!?」「猊座がなくても“芸座”があるサ」との各
    見だし等の記載とそのような加工が加えられた本件写真とを併せ見れば、
    その読者は阿部日顕が芸者遊びが好きで女性関係で堕落している人物であ
    るとの印象をより強く抱きかねず、本件写真の代わりにそれぞれ原写真を
    本件記事に掲載した場合を想定してこれと比べれば明らかなように、本件
    記事においては少なくとも本件写真が阿部日顕ひいては原告らの社会的評
    価をより一層低下させる役割を果たしているものであることは否定できな
    い。したがって、本件写真は本件問題部分の記載等と一体になって原告ら
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    の社会的評価をより一層低下させるものというべきである。
 (四) 以上のとおり、本件記事は原告らの社会的評価を相当程度低下させるも
    のと認められる。
 3  本件記事内容の真実性(真実の抗弁)
    被告らは、本件記事はその主要部分が真実であるから、名誉毀損は成立し
    ないと主張するので、以下この点について検討する。
 (一) 一般に、新聞記事による名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、
    人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観
    的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、
    又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立しうるもので
    ある。
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     そして、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損
    にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的
    が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としてい
    る事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、
    人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、
    右行為は違法性を欠くものというべきである。
 (二) これを本件についてみるに、本件問題部分はいずれもそのほとんどが本
    件写真を基礎としての意見ないし論評の表明というべきものであるところ、
    そもそも本件記事では意見ないし論評の前提としている具体的事実が何で
    あるかをその紙面から了解することはできない。すなわち、本件写真はそ
    れを見た者に対して阿部日顕が芸者同伴の酒席に出席していたとの印象を
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    与えるものであるが、その撮影における具体的な状況が写真自体から直ち
    に理解できるようなものでないにもかかわらず、本件記事中の記載におい
    ては本件写真の撮影者、撮影日時、撮影場所等がほとんど触れられていな
    いのであって、本件記事自体からは意見ないし論評の前提となる具体的事
    実を窺い知ることができないのである(しかも、前述したように、本件写
    真はいずれも原写真に一定の加工を施したものである。)。
     そうであれば、本件問題部分の記載は、いわば明確な根拠を示すことな
    く他人の悪口を書き立てているのと同じであり、先に見た違法性判断の利
    益衡量の背景にある表現の自由の観点からも、これを享受すべき具体的事
    実を前提とした公正な論評とは到底いい難いものであって、それは阿部日
    顕ないし同人を宗教上の最高指導者として擁する原告らに対して単に揶揄、
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    侮蔑、誹謗、中傷を並べたに過ぎないものという他ない。写真を基礎とす
    る論評記事の執筆・掲載に際しては、写真が余程明確にそれ自体で具体的
    事実を物語るようなものである場合は格別、そうでない限りはその写真が
    如何なる具体的事実を示すものかについて本文の記事中で補充して説明す
    ることにより、その写真が指し示す具体的事実、更にはその写真と論評部
    分との関連性を積極的に明らかにしておくべきであり、これが明らかにさ
    れていない意見ないし論評で他人の名誉を毀損するものについては、もは
    や一定の事実を基礎とした意見ないし論評足り得ず、その違法性を欠く余
    地はないというべきである。
     もっとも、本件写真を見た者においては本件写真から阿部日顕が芸者同
    伴の酒席に出席したとの漠然とした印象を受けることができるものと思わ
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    れるから、本件問題部分について、宴席の具体的な日時・場所、宴席の趣
    旨や他の出席者の面々等が不明の宴席に阿部日顕が出席していたという程
    度の抽象的な事実を基礎としてなされた意見ないし論評とみることが全く
    できないわけではない。しかしながら、仮にそのように理解したとしても、
    右事実についての意見ないし論評としては、「日顕が欲すは『カネ、酒、
    色』の堕落道」などの本件問題部分の表現は余りにも飛躍した激烈なもの
    であり、まさに論評としての域を逸脱したものという他なく、やはりその
    違法性を免れないというべきである。
     また、本件写真は前述したように被告創価学会による加工が施された後
    のものであるが、証拠(証人高木、甲八五)によれば、加工前の写真は昭
    和六一年一一月二二日に原告日蓮正宗の二名の僧侶の古稀記念祝賀会とし
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    て催された宴席の様子を写したものであること、右宴席は高級料亭におい
    て芸者同伴で催されたものではあるが、右宴席には阿部日顕の他に原告日
    蓮正宗の僧侶一一名と阿部日顕夫人も含めて右僧侶の夫人ら八名が出席し
    ていたことがそれぞれ認められるところ、そのような宴席が存在した事実
    を前提とした意見ないし論評と理解したところで、本件問題部分における
    記載は論評の域をはるかに逸脱したものであることは明らかである。
     確かに、阿部日顕は多数の信徒を抱える原告日蓮正宗の宗教上の最高指
    導者であり、宗の内外を問わず公的な立場にあるものと解されるから、そ
    の行状がある程度厳しい批判に晒されることは覚悟すべきであって、その
    限りにおいては、阿部日顕ないし原告らに対する名誉毀損の成否において
    本件では相応の配慮がなされるべきものとしても、本件問題部分の表現内
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    容と本件写真撮影時の事実関係を照らし併せてみれば、その違法性は社会
    通念上決して容認できない程度に至っていることは明らかであり、本件に
    おいて未だ名誉毀損の成立は妨げられないというべきである。
 (三) 被告らは、本件記事の主要部分は、阿部日顕が日蓮正宗の聖職者の頂点
    である法主の座にありながら、信徒の供養を湯水のように使って、たびた
    び豪華な宴席を開くなどして酒を飲み続け、しかもしばしば色香豊かな芸
    者衆と共に遊興していた堕落法主であることを指摘するものであり、右主
    要部分は真実であるから、本件記事の掲載は違法ではないなどと主張し、
    本訴の真理において、本件記事中に全く顕れてはいないような阿部日顕が
    酒を飲み芸者と遊興している諸事実の存在についても、その立証のために
    様々な立証活動を展開した。
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     しかしながら、如何に不道徳な行いを繰り返しているような人物であっ
    たとしても、左様な人物において何らその根拠となる具体的事実を示され
    ることなくして、誹謗、中傷の言論による人身攻撃を甘受すべきいわれは
    ないのであるから、被告創価学会が本件記事の掲載にあたってその主題と
    して如何なることを考えていたとしても、本件記事中において具体的に触
    れられていない事実については、たとえそれが本件問題部分の表現に値す
    るような宗教者として世間から非難を浴びてしかるべき事実であったにせ
    よ、それは本件において真実性の証明の対象たる本件記事の主要部分たり
    得ない。本件記事の体裁およびその全体的な内容をみれば被告らのいう主
    要部分は、本件記事においてはいわば本件写真が物語る事実に尽きるのは
    明らかであって、すなわち被告らの右主張は理由がないというべきである。
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    (そして、前述したように、本件写真が指し示す事実が何かは本件記事全
    体から決して明らかではないから、本件記事においては被告らのいう主要
    部分の存在は無きが如しである。)。
 4   本件記事の掲載が宗教論争であること
    被告らは、本件記事の掲載は宗教教義上の論争であることから違法性がな
   い、更にはそもそも宗教論争の一環である本件記事掲載についての違法性は
   裁判所が判断すべき事項ではないなどと主張する。
    確かに、本件全証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告らと被告創価学
   会はいずれも日蓮正宗の教義に基づく宗教団体であり、かつては同盟関係と
   もいうべき協調関係にあったものの、平成二年末ころから鋭く対立する関係
   となり、以降現在に至るまで、双方ともそれぞれの機関紙上でそれぞれ相手
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   方の最高指導者である阿部日顕及び被告池田大作の行状や人格等についてお
   互いに激しい攻撃の言論を繰り返してきていることが認められる(阿部日顕
   の行状等に関連する被告側発行の記事に、本件記事の他、甲一一、一九ない
   し三一、甲三五ないし四三、四五、四七ないし四九、乙四八、五四、五五、
   五七、七二の一ないし三、乙七三の一ないし三、乙七五、七六の一、二、乙
   八八ないし九六等の「創価新報」「聖教新聞」の記事があり、被告池田大作
   の行状等に関連する原告側発行の記事に、乙一一八の一、二、乙一一九ない
   し一二四等の「妙観」「慧妙」の記事がある。)。
    しかしながら、本件記事は、どのような具体的事実が、どのような原告ら
   の教義に、どう違反しているのかについて、ほとんど触れてはおらず、かか
   る本件記事の内容をみれば、本件における名誉毀損成否の判断にあたって、
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   原告らの教義内容に立ち入る必要がないことは明らかというべきであるし、
   仮に真実阿部日顕が原告らの教義に違反する人物であったとしても、本件記
   事のように、具体的な事実を示さずにする他人に対する人身攻撃的な言論の
   違法性が、それ故に消失する理由はない。また、教義の解釈等をめぐり深遠
   な議論が展開しているというのであれば格別、本件記事のような内容そして
   態様で繰り広げられている人身攻撃の筆戦を宗教論争と呼ぶのであれば、そ
   のような宗教論争について裁判所がその違法性を判断するのは容易なことで
   あって、裁判所が判断することにより被告創価学会の信教の自由が侵される
   などということがあるはずもない。原告らの宗教上の最高指導者である阿部
   日顕が公的な地位にあることから同人に関する言論の違法性については相応
   の配慮がなされるべきであることを考慮に入れても本件問題部分が違法との
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   評価を免れないことが前述のとおりであるし、宗教関係者も世間一般の社会
   のルールを守るべきは当然のことであるから、被告らが宗教団体ないし宗教
   者であることは特に本件記事の違法性の判断に影響を与えるものではないと
   いうべきである。
    したがって、本件における宗教論争であれば違法性がなくなるなどとする
   被告らの右主張は独自の立論に過ぎないという他はない。
 5  小結
    以上のとおりであるから、本件記事は、いずれも違法・有責に原告らの社
   会的評価を相当程度低下させるものと認めるのが相当である。
二 被告池田大作に対する請求
 1 本件発言の内容
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    本件発言は、被告ら関係者以外の一般人にとっては非日常的で宗教的な単
   語が使用されている上、断片的な話し方でされたものであるため、一見する
   とその意味するところを正確に理解することは難しいが、本件発言当時の状
   況等に照らせば、次のような趣旨の内容と認められる。
    先ず、本件発言が平成四年一一月一四日になされたものであることからす
   れば、本件発言中の「そのうち、また、あの、あれ出ますけどね、新報に、
   この次かな」との発言にいう「あれ」とは、本件発言直後に発行が予定され
   ていた同月一八日付創価新報の本件記事二を指すものと理解でき、また同発
   言にいう「また」とは、「あれ」なる本件記事二が同月四日付創価新報に掲
   載された本件記事一に続く内容であることを示唆するものと考えられる。そ
   して、本件発言中の「これちょっと見してもらったけれどね・・。」との発
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   言や「げい座っつうのはね、本当は正法の座を猊座、芸者の方の芸座・・。
   今度は新報見たら、みんなびっくりするだろう」との発言、そして「みんな
   もう写真にも撮ってあんですよ。また坊さんがみんな送ってくんです」との
   発言や「たくさんの美女に囲まれてね。」との発言によれば、まだ本件記事
   二が一般に発行されていない本件発言時において被告池田大作が、本件記事
   二が「猊座が無くても“芸座”があるサ」との見出しを掲げていること、そ
   して同記事が芸者とおぼしき女性七名と阿部日顕が一緒に写っている本件写
   真二を掲げていること等の本件記事二の記載内容を悉知していたことを推認
   することができる。また、「宗門」とは原告日蓮正宗のことであるところ、
   本件発言は、「宗門は教、行もない。だから当然、成仏も証もない。ね、金
   儲けはうまい。成仏はできません。まさにこれを法滅の姿という。」などと
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   述べて、原告らを非難、攻撃したものと認められる。
    すなわち、本件発言の大要は、創価新報への本件記事一掲載の実績を受け
   て、同記事に続く発行前の次号創価新報における本件記事二の掲載を予告し、
   更に阿部日顕の芸者同伴酒宴への出席を指摘する本件記事二の内容に触れ、
   それらに関連して原告らないしその関係者を批判したものであると認められ
   る。
  2 本件発言自体による名誉毀損の成否
    本件発言による名誉毀損の成否について検討するに、本件発言には「情け
   ない男たちです。」「金儲けはうまい。成仏はできません。」等の原告らな
   いしその関係者に向けられた批判の発言があり、そこでは根拠を明示するこ
   となく原告ら関係者を非難、攻撃している様が窺えるものの、それらの表現
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   がそれほど過激なものではないこと、本件発言中、名誉毀損に係るそれだけ
   で理解可能なまとまりのある具体的事実の摘示は見あたらないこと、本件発
   言部分は約四五分間のスピーチ全体の内合計で約三分程度を占めるものに過
   ぎず(検証の結果)、その量は相対的にも絶対的にも決して多いものではな
   いこと、スピーチ全体を通して原告らについての話がなされているわけでは
   なく、スピーチの要旨は宗教的な説示を交えて述べる被告創価学会への称賛
   というべきものであって、それは原告らに対する非難に終始するような内容
   のものではないこと(甲五一)等の事情に照らせば、本件発言により未だ原
   告らの社会的評価が具体的に相当程度低下したものとは認められない。した
   がって、本件発言自体による名誉毀損はこれを認めることができない。
3 被告池田大作の本件記事掲載の制止義務違反の有無
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 (一) 被告池田大作の被告創価学会における地位
  (1) 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告池田大作の被告創価学
     会における地位に関して、以下の事実が認められる。
      被告池田大作は、昭和三五年五月三日に被告創価学会第三代会長に就
     任し、昭和五四年四月二四日に被告創価学会名誉会長に就任して現在に
     至っている。
      昭和五〇年一月、世界各国の創価学会員からなる組織である創価学会
     インタナショナル(SGI)が結成されたが、現在、被告池田大作が同
     会の会長を務めている。
      昭和五六年四月、被告池田大作は、最高裁判所の判決の理由中で、
     「同会(被告創価学会のこと)において、その教義を身をもって実践す
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     べき信仰上のほぼ絶対的な指導者であって、公私を問わずその言動が信
     徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあったばかりでなく、右宗
     教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動等を通じ、社会一般に
     対しても少なからぬ影響を及ぼしていた」と認められたことがある。
  (2) そして、被告池田大作が、現在においても被告創価学会の絶対的な最
     高指導者であることは世間一般によく知られている事実である。
      被告らは、被告池田大作が被告創価学会の信仰上の最高指導者である
     ことは認める一方で(平成五年一二月一五日付被告ら答弁書)、被告創
     価学会の組織運営上の最高指導者であることは否定するが、そもそも、
     宗教団体とは、信仰を共にする者の集団であり、その運営は当然その信
     仰の強化発展のためになされるものであるから、特に象徴的な意味での
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     指導者に過ぎないというのであれば格別、実質的な信仰上の指導者であ
     れば、宗教団体の運営はその指導者の信仰上の指導に沿ってなされるの
     が当然であり、通常の場合、信仰上の最高指導者であることはすなわち
     宗教団体の組織の運営上も最高指導者であることを意味するというべき
     である。被告池田大作が特に象徴的な意味での被告創価学会の指導者に
     過ぎないと認めることはできない。
 (二) そのような被告池田大作の被告創価学会において有する地位ないし立場
    に照らせば、被告創価学会の団体としての一般的な活動の中でなされた違
    法行為について、被告池田大作が自らそれを指導ないし容認していた場合
    に被告創価学会と連帯してその被害者に対して不法行為の責を負うことに
    なるのは勿論であるが、被告池田大作がこれを事前に了知していたに過ぎ
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    ない場合においても、同人には被告創価学会がそのような違法行為に及ぶ
    ことのないようこれを制止すべき条理上の義務があり、これに違反すれば
    やはり不法行為に基づく責任を負うというべきである。
     そこで本件についてみるに、本件発言の発言内容をみれば、本件記事二
    の掲載という被告創価学会の違法行為について被告池田大作がその予定を
    事前に知っていたことは明らかであり、そして、本件発言後、実際に本件
    記事二が創価新報に掲載されて原告らの名誉が毀損されるに至ったのであ
    るから、被告池田大作は本件記事二の掲載を制止せずにいたものと認める
    ことができる。
     確かに、被告池田大作の本件発言中には、被告創価学会の会長である秋
    谷栄之助に向かって本件記事二の掲載を制止していることを窺わせるよう
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    な「秋谷君、やめろつったら、秋谷やるっつんだもの。」「私は『出すな
    出すな』ったんですよ。」などの発言があり、当時被告池田大作が本件記
    事二の掲載に反対していたかのような発言が認められるものの、右発言の
    間に「もう、新橋のどっかのね、柳橋でさあ。もう・・えっへへへへへヘ
    と笑ってね。まあ、みんな・・、あー、行きたいね、一遍ね。・・そうい
    う連中なんです。」との阿部日顕ないし原告ら関係者に向けた発言があっ
    たり、その後に「で、少しはやっぱりね、ああいう連中は、あのー、どこ
    行っても学会人いるから、もうみんな知ってんですよ。みんなもう写真に
    も撮ってあんですよ。また坊さんがみんな送ってくんです。もううちのね
    法主どうしょうもないからっつてね。もういっぱい送ってくんです。うち
    じゃなくて坊さんの方なんですよ、戒めてくれっつって。で、宗門は教、
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    行もない、だから当然、成仏も証もない。ね、金儲けはうまい。成仏はで
    きません。」との阿部日顕ないし原告らに対する批判の発言が続くことか
    らすれば、結局のところ本件発言全体から、本件記事二の掲載に反対しこ
    れを阻止しようとする意図を汲みとるのは困難という他なく、むしろ被告
    池田大作においては本件記事二の掲載という被告創価学会の違法行為の予
    定について認知していたのみならず、被告創価学会の事実上の絶対的な最
    高指導者として本件記事二の掲載を積極的に容認していたのではないかと
    推測も成り立つところである。
     したがって、被告池田大作には本件記事二の掲載を制止すべき義務の違
    反が認められる。
     そして、被告創価学会の本件記事二を掲載した行為を被告池田大作の右
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    制止義務違反行為(不作為)は社会通念上共同して原告らの社会的評価を
    低下させたものとの評価ができるから、本件記事二の掲載により原告らに
    生じた損害について、被告池田大作は被告創価学会と連帯して賠償する責
    を負うというべきである。
     なお、被告池田大作が本件記事一の内容をその掲載前に知っていたと認
    めるに足りる証拠はないから、本件記事一の掲載については被告池田大作
    の責任を認めることはできない。
三 原告らの損害等
   1 損害賠償の支払い及び謝罪広告の掲載について
    本件記事はいずれも一般の日刊紙大の紙面一面のほぼ全体を使って大きく
   報じられたものであること、そして本件記事が掲載された創価新報は約一五
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   〇万部の購読を誇るものであることなどからすれば、本件記事の掲載等によ
   る原告らの損失は決して小さいものとはいえない。
    しかしながら、本件記事の掲載された創価新報は被告創価学会の機関紙で
   あり、原告らも含めた関係者以外の人が目にすることが多い媒体ではないた
   め、その限りにおいては本件記事の世間一般に対する社会的影響がそれ程大
   きくないこと、また原告らは数百年前から続いている宗教に根ざす団体であ
   るのだから、原告らの最高指導者たる法主であるとはいえ第六七代目の一法
   主に過ぎない阿部日顕の行状が原告らの全てを体現しているわけでもないこ
   と、前述したように本件記事は名誉毀損的な具体的事実を列挙するものでは
   なく明確な具体的事実をを示すことなく誹謗、中傷を並べる類の記事に過ぎ
   ないことから、具体的事実の指摘に伴う致命的な社会的評価の低下が原告ら
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   において発生したとは認められないこと、これらの事情に照らせば、本件に
   おいて原告らは損害賠償として合計で一〇億円もの支払を求めるが、本件記
   事の掲載等による原告らの損失はとてもそのような水準に及ぶほど大きいも
   のであるとは認められない。
    その他本件に顕れた一切の事情を加えて考慮すれば、本件記事の掲載によ
   り原告らの被った一切の無形の財産的損害は、本件記事一の掲載について各
   原告一人当たり一〇〇万円、本件記事二の掲載について各原告一人当たり一
   〇〇万円と認めるのが相当である。
    また、原告らは、本件記事の掲載は原告らに対する業務妨害であるとも主
   張するが、原告らがその業務(宗教活動)において被った本件記事の掲載と
   相当因果関係の認められる具体的な実損害の存在とその額については未だそ
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   の立証がない。
    したがって、本件記事を掲載した被告創価学会は、原告らそれぞれに対し
   て、各二〇〇万円(及びこれに対する不法行為の日以降の日である平成四年
   一一月一八日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延
   損害金)を支払う義務を負い、前述のとおり本件記事二の掲載の限りで責任
   を負う被告池田大作は、原告らそれぞれに対して、各一〇〇万円(及びこれ
   に対する右同の遅延損害金)を支払う義務を負い、被告創価学会の右支払義
   務と被告池田大作の右支払義務は各一〇〇万円(及びこれに対する右同の遅
   延損害金)の限りで連帯責務となる。
    更に、謝罪広告の掲載については、その性質上、その必要性が特に高い場
   合に限って命ずるのが相当であるが、本件記事の記載内容、原告らの社会的
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   評価の低下の程度、本件で認容した損害賠償額等本件事案の内容を総合的に
   評価すると、本件においては金銭的な賠償に加えて謝罪広告の掲載の必要を
   認めることができない。
  2 本件写真の使用禁止について
    原告らは本件写真の使用禁止を請求するところ、右請求の根拠ないし右請
   求を構成する訴訟物は原告らの主張からは必ずしも明らかではない。原告ら
   において何らかの人格権(名誉権)なるものを観念し得るとしても、本件写
   真において直接の被写体となっている阿部日顕については格別、原告らにお
   いては本件写真の差止め請求の根拠となり得る実体的な権利を認めることは
   できない。
    したがって、原告らの本件写真の使用禁止の請求は理由がない。
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四 本案前の抗弁
1 被告らは概略次のように述べて、本件訴えの却下を求める。
 (一) 本件訴えにおいて名誉毀損行為とされている本件記事の掲載等は原告ら
    被告ら間の宗教論争の一環として行われたものであるため、本件請求の当
    否を裁判所が判断することになれば、裁判所が原告日蓮正宗及び被告ら創
    価学会の教義問題に立ち入ることになる。
 (二) 原告らの謝罪広告請求(請求の趣旨第一項)はその内容が単に事態の真
    相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度を越えるため、そもそも裁
    判に馴染まない請求である。
 (三) 原告らが求める写真の使用禁止請求(請求の趣旨第二項)は請求の内容
    (被告らが為すべきでない行為)が特定されていない。
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2 しかしながら、前項までの判示から明らかなように、右(一)の主張は理由が
  ない、(二)、(三)の主張については、被告らが却下を求めている原告らの
  請求がいずれも棄却できるものであることから、判断の必要がない。
五 結論
   以上の次第で、本件請求は主文一、二項の限度で理由があるからこれを認容
  し、その余の請求については理由がないからこれを棄却することとして、主文
  のとおり判決する。


    東京地方裁判所民事第六部
          裁判長裁判官   梶村太一
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          裁判官      平田直人
          裁判官      大寄 久
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                            最高裁印 一二号
右は正本である。
平成一一年一二月六日
    東京地方裁判所民事第六部
          裁判所書記官 柴崎正人(印)



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