またもジャズヴォーカルのセレクションを考えてみました。
以前チャーリー=チャンさん向けに通り一遍のチョイスをしましたので、
今回の趣向は「黒人ヴォーカルと白人ヴォーカルの深淵に迫る。」(笑)
深淵に迫れたかどうかは別として、新旧を取り混ぜて徒然なるがままに紹介してみます。
結果的になかなか面白い感じに仕上がったのではないかと思います。
選んでいるうちに「ジャズヴォーカルって何なんだろう?」って
色々考えさせられました。
まずは、白人ヴォーカルセレクションから。
'S WONDERFUL 〜THEY CAN'T TAKE THAT AWAY FROM ME |
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ANITA SINGS THE MOST / ANITA O'DAY (VERVE) | |
ANITA O'DAY(VO),OSCAR PETERSON(PF),HERB
ELLIS(G), RAY BROWN(B),MILT HOLLAND(DS)orJOHN POOLE(DS) ※ドラムがどちらなのか手元のレコードに記載がありませんでした。 |
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アニタオデイは、ハスキーヴォイスとスインギーな感覚を持った ジャズらしいジャズを唄うシンガーですね。 ただ出来不出来が激しい人なので、作品によっては首を捻るモノも。 スランプに陥って、アルコール中毒になったりもしたとか…。 しかし、このアルバムは間違いなく彼女の最高傑作でしょう。 オスカーピーターソントリオ+1のバッキングを得て、 この上なくスイングしまくるアニタの素晴らしさが堪能できます。 |
I FEEL PRETTY | |
SINGS A SONG WITH MULLIGAN! / ANNIE ROSS (WORLD PACIFIC) |
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ANNIE ROSS(VO),GERRY MULLIGAN(BS),ART FARMER(TP), DAVE BAILEY(DS),BILL CROW(B) |
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アニーロスがウエストコーストのスタープレイヤー達と残した 最高傑作アルバムです。 この気持ち良さと云ったらありませんね。 アニーロスの可愛いけど媚びない唄いまわしと、 マリガンのスマートなアレンジ&ソロが見事に溶け合ってます。 このアルバム、曲によってはチェットベイカーも参加しているんですね。 アニーロスと云えば、ランバート・ヘンドリックス&ロスと云う ジャズコーラスグループの看板娘としての活躍も見逃せません。 そちらでは張り切って唄いまくるロスを聴く事ができます。 |
JUST SQUEEZE ME | |
JO+JAZZ / JO STAFFORD (CBS) | |
JO STAFFORD(VO),RAY NANCE(TP),DON
FAGERQUIST(TP), CONTE CANDLI(TP),LAWRANCE BROWN(TB),JOHNNY HODGES(AS), BEN WEBSTER(TS),HARRY CARNEY(BS),JIMMY RAWLES(PF), JOE MONDRAGON(B),MEL LEWIS(DS),RUSS FREEMAN(CERESTA), BOB GIBBONS(G),JOHNNY MANDEL(ARR,COND) |
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ジョースタッフォードのこれまた最高傑作アルバムです。 最高傑作を連発してると「ほんまかぁ〜?」って云われそうですが、 間違いなく最高傑作なんです(笑)。ホント。 ジョースタッフォードには、こういったビッグバンドモノが多いです。 トミードーシー楽団で名声を得た事もあって、 ポールウエストンやネルソンリドル、そしてこのジョニーマンデルと、 一流ドコロが彼女のバックをつとめております。 しかもこのアルバム、ジョニーマンデルのアレンジと云うだけでなく デュークエリントン楽団の花形プレイヤー達が参加していると云う 素晴らしくも贅沢な仕様になっております。 |
I LOVE PARIS | |
JONATHAN & DARLENE EDWARDS IN PARIS (CORINTHIAN) | |
DARLENE EDWARDS(VO),JONATHAN EDWARDS(PF,COND) & ORCHESTRA | |
ジョナサンエドワードが残した最低傑作アルバムです(笑)。 と云うのもこのジョナサンエドワードってジョースタッフォードの偽名。 彼女と旦那がふざけて作った珍盤なのですね。 ダーリンの音程の不安定さが絶妙で可笑しいし、 ジョナサンの粒立ちの粗いたどたどしいピアノも安っぽくて最高。 ちょっとおふざけでセレクトしてみました。 ちなみにこの曲はコールポーターの名曲です。ちゃんとした曲です(笑)。 |
I'M BEGINNING TO SEE THE LIGHT | |
POSITIVELY THE MOST / JOANIE SOMMERS (WARNER BROS) | |
JOANIE SOMMERS(VO)&TONY OLIVER ORCHESTRA | |
ジョースタッフォードのしっかりとした歌姫とは対極なのが、 ジョニーソマーズの様な可愛い系のシンガーでしょう。 ジャケットの写真を見ると、どことなくマリアンに似てて、 今は、ちょっと印象が良くないかもしれませんが(笑)。 唄い方もルックスの通りのキュートなイメージです。 しかしながらメロディの崩し方など、なかなか巧みで 可愛いだけではない実力を持ったシンガーなのです。 能ある鷹は小鳥のふりをすると云う諺通りです(なんじゃそりゃ)。 このアルバム、トニーオリヴァーとマーティーペイチが半分づつ アレンジ&伴奏を分け合ってて、ペイチの方にはアートペッパーも参加。 |
THE GIFT (=RECARDO BOSSA NOVA) | |
BLAME IT ON THE BOSSA NOVA / EYDIE GORME (CBS) | |
EYDIE GORME(VO),NICK PERITO ORCHESTRA | |
今から数年前、JTがたばこのCMソングとして使った事で 有名になったこの曲、原曲は「リカードボサノヴァ」と云うタイトルで 広く演奏されている曲です。 ボサノヴァブームに乗って作られたダサい米国産ボサアルバムですが、 このわかりやすい曲調にマッチして奇跡的に良い感じになってます(笑)。 ちょっとポップな60年代もセレクトしてみました。 |
SMALL DAY TOMORROW | |
KRAL SPACE / IRENE KRAL (CATALYST) | |
IRENE KRAL(VO),ALAN BROADBENT(PF), FRED ATWOOD(B),NICK CEROLI(DS),EMIL RICHARDS(VIB) |
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私がとても好きなヴォーカリストの一人。 70年代に入ってからの彼女のバラッドはホントに素晴らしいです。 ピアノのアランブロードベントとの出会いが大きな要因だったと ライナーノーツに書かれていました。 「WHERE IS LOVE? / IRENE KRAL (CHOICE)」も素晴らしいアルバムですが、 今回はこちらを取り上げてみました。 スインギーな演奏もあるのですが、やっぱり彼女はバラッドが良い。 哀愁を湛えながらも力強い光を感じさせる声質が彼女の持ち味です。 このアルバムの翌年、ガンで亡くなってしまったのが残念です。 |
BEAUTIFUL LOVE | |
DAVE FRISHBERG & KARIN KROG / (BAYBRIDGE) | |
DAVE FRISHBERG(PF),KARIN KROG(VO) | |
カーリンクロッグは、ノルウェー出身の個性派シンガーです。 活動の幅も広く、デクスターゴードン、アーチーシェップ、 ウォーンマーシュ、ジョンサーマンと云ったサックス奏者との 共演アルバムに傑作が多いのですが、 今回は、シンガーソングライター・デイヴフリッシュバーグとの デュオアルバムを挙げてみたいと思います。 拍手がまばらなのは客の入りが悪いのでなく(笑)、 ベーシストのレッドミッチェル邸でのホームコンサートだからです。 スタンダードを丁寧に唄うクロッグが良い感じです。 私が今迄聴いた彼女のアルバムの中で一番しっとりとした唄い口かな。 ジョンサーマンとのアルバム「NORDIC QUARTET/(ECM)」なんかは、 かなりアバンギャルドなので同一人物かと耳を疑いますよ〜。 |
YOU ARE MY SUNSHINE | |
POINT OF DEPARTURE / MADELINE EASTMAN (MAD-KAT) | |
MADELINE EASTMAN(VO),MIKE WOFFORD(PF), RUFUS REID(B),VINCE LATEANO(DS) |
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どらみちゃんに教えて貰った歌手です。 かなりのテクニシャンでどんな歌でも唄いこなします。 声に力があって、ハードな演奏をバックにして更に輝きを増します。 でも、ここで取り上げた様なバラッドを唄う時は、 歌詞をしっかりと噛み締めているのがわかります。 それにしてもこの"YOU ARE MY SUNSHINE"、 歌詞はそのままで、メロディが全然違う曲なんですが…(笑)。 |
IN WALKED BEAN (=IN WALKED BUD) | |
STRAIGHT UP WITH A TWIST / KITTY MARGOLIS (MAD-KAT) | |
KITTY MARGOLIS(VO),PAUL NAGLE(PF), BRAD BUETHE(G),PETER BARSHAY(B),SCOTT MORRIS(DS) |
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先ほどのマデリーンと共に自己プロデュースレーベルを作ったのが このキティマーゴリスです。 マッドカットレーベルは二人の名前をとったものなんですね。 彼女もかなりのテクニシャンでマデリーン以上に器楽的に唄います。 女性らしさを失う事も恐れずフレーズを追求してる感じ。 ここで取り上げたのはセロニアスモンクの"IN WALKED BUD"の ヴォーカリーズです。 途中のスキャットで少し女を捨ててます(笑)。 このスキャットの節回し、少しサラボーン系かな? |
GET IT STRAIGHT (=STRAIGHT NO CHASER) 〜MONKERY'S THE BLUES (=BLUE MONK) 〜YOU KNOW WHO (=I MEAN YOU) |
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DAY DREAM / KARRIN ALLYSON (CONCORD) | |
KARRIN ALLISON(VO),LAURA CAVIANI(PF), BOB BOWMAN(B),RANDY BRECKER(TP) |
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引き続きモンクの曲を取り上げたアルバムをご紹介します。 このカーリンアリソンって人は、これしか聴いた事ないので どんな活動をしてるのか全然知らないのですが、 オーソドックスなスタイルながらかなりの実力を持ってますね。 ここで彼女は、モンクの曲を三曲メドレーで唄っています。 もともと唄う為に作られた曲じゃないので、 "STRAIGHT NO CHASER"は半音だらけですし、 "I MEAN YOU"は、音程が飛び捲くるしで、 唄いにくい事この上ない筈なのですが、それを正確な音程で スリリングに唄い上げているのは凄いですね。 "BLUE MONK"でのレイジーな感じのスキャットにも味があります。 また、ランディブレッカーの参加が演奏に良い刺激を与えています。 |
IT'S YOUR DANCE (=ISRAEL) | |
HAVEN'T WE MET? / DIANE HUBKA (A RECORDS) | |
DIANE HUBKA(VO),FRANK KIMBROUGH(PF),JOHN HART(G), HERVIE SWARTZ(B),RON VINCENT(DS),LEE KONITZ(AS) |
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先ほどの演奏もそうでしたが、インストロメンタルの曲に 歌詞をつけてヴォーカリーズすると云うのには、 「私も楽器の様に唄いたい。」って気持ちがあるのでしょうね。 このダイアンハブカ(って読むのかな?)って人については、 どんな活動をしてるのか全然知らないのですが(こればっかしや)、 女性らしい丁寧さで唄うのが好印象ですね。 これまた音程の飛び捲くる"ISRAEL"ってインストの曲を さらりと唄ってしまうあたりに能ある鷹は燕の様にすっと唄うって 諺の…もーえーっちゅーねん。 ここで出てくるたどたどしい素人の様なアルトですが、 リーコニッツです。有名な人です。 下手なのではなくてこう云うスタイルの人なのです(笑)。 |
HA GENTE AQUI | |
COR / MARIA JOAO & MARIO LAGINHA | |
MARIA JOAO(VO),MARIO LAGINHA(PF), WOLGANG MUTHSPIEL(G),TRILOK GURTU(PERC) |
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ヴォーカリーズやスキャットと云った器楽的な手法も ジャズヴォーカルの特徴の一つだと思いますが、 それでは飽足りずに声を楽器として使おうとした人がいます。 男性では有名なボビーマクファーリンがその第一人者ですが、 女性ではこのマリアジョアンを挙げてみたいと思います。 この人、かなりいっちゃってます(笑)。キ印系かも…。 とにかく聴いてみて下さい。 |
I CAN'T GIVE YOU ANYTHING BUT LOVE | |
WHEN I LOOK IN YOUR EYES / DIANA KRALL (IMPULSE!) | |
DIANA KRALL(P,VO),RUSSELL MALONE(G) | |
今、最も注目されている女性ヴォーカルに一人が このダイアナクラールです。 白人らしくないやや太目の声質と歌を大切にする唄いこなしが 彼女の魅力だと思うのですが、インパルスのイメージ戦略は、 若干彼女の本質からずれてる様な気がしてなりません。 ま、アルバムの中身は充実しているので文句はないのですけど(笑)。 ここでは永年、演奏を共にしてきているラッセルマローンとの コラボレーションを聴かせてくれます。 彼女がアイリーンクラールの大ファンだと云う話が書いてありましたが とっても興味深い事ですね。(※親子でも親戚でもありません。) スキャットやヴォーカリーズってインストロメンタルな部分と 対極にある歌心がジャズヴォーカルの本質だと感じさせてくれます。 |
MY HEART BELONG TO DADDY | |
WHEN DIDI YOU LEAVE HEAVEN / LISA EKDAHL (RCA) | |
LISA EKDAHL(VO),PETER NORDAHL(PF), PATRIK BOMAN(B),RONNIE GARDINER(DS) |
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先程、インパルスのイメージ戦略について文句を云いましたが、 こちらは、正にイメージ通りのジャズアイドル大作戦となってます(笑)。 幼さの残るかわいいリサにおじさん好みの昔のスタンダードを ピアノトリオバックで唄わせて売り上げを狙おうと云うRCAのあざとさ! それを聴いて「うーん、かわいい。」と思ってしまう自分の情けなさ(爆)。 特にこのコールポーターの曲の場合「ダディ」の発音が"狙って"ますね。 ジャズヴォーカルの専門用語でこの手のスタイルを 「かまととシンガー」と云います(笑)。 リサは、この路線で1998年に「BACK TO EARTH」を出す前に、 フォーク系のサウンドでアルバムを出していた事をつきとめました(笑)。 売れなくなったアイドルが演歌路線に転向して成功を収めたのと同じで、 いわば、ジャズ界の長山洋子と云う訳です。…って、そーか? |
THEM THERE EYES | |
NO ONE EVER TELLS YOU / EDEN ATWOOD (CONCORD)) | |
EDEN ATWOOD(VO),EL DEE YOUNG(B) | |
こんどは美人系です(笑)。 オーソドックスなジャズの名門コンコードと云う事もあって、 刺激の薄いホッコリ系ジャズと美人シンガーの組合わせです。 しかしながらこのエデンアトウッドって人、ちょっと唄い方に癖があって なかなか面白いです。 恐らく単なる発声練習不足だと思うのですが(笑)、 それを誤魔化す為に変な喉の使い方をしているみたい…。 この癖が個性にまで至っていないのが惜しいところです。 |
HE SAY | |
I SAW YOU / JEANETTE LINDSTROM (CAPRICE) | |
JEANETTE LINDDTROM(VO),ORJAN HULTER(SS), TARBJORN GULZ(PF),CHRISTIAN SPERING(B), ANDERS KJELLBERG(DS) |
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美しさと実力を兼ね備えた注目のシンガー、ジャネットリンドストレームです。 現在進行形のモーダルなジャズの中に彼女のヴォーカルが見事に ポジショニングされていると思います。 考えてみるに白人系のジャズシンガーの方向性として、 これが一つの結論なのかもしれません。 |
WINTERSWEET | |
HOW IT WAS THEN... /AZIMUTH (ECM) | |
JOHN TAYLOR(PF),NORMA WINSTONE(VO), KENNY WHEELER(TP) |
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ヴォーカルを含めた一つのユニットとして永年に渡って 活動を続けているのが、アジマスです。 ピアノのジョンテイラー、トランペットのケニーホイーラー、 そしてヴォイスのノーマウインストンのユニットです。 普通ヴォーカルセレクションに入れるべきじゃないのかもしれませんが、 私の趣味で良いとの事でしたのでご紹介します。 彼らでなければ表現できない美しい音楽がここにあります。 氷の下の湖の水の様な冷たさと厳しさと間接的な明るさを持っています。 |
BETTER CALL ME NOW | |
MEANT TO BE! / FLEURINE (BLUEMUSIC) | |
FLEURINE(VO),CHRISTIAN McBRIDE(B),RENEE ROSENES(PF), BILLY DRUMMOND(DS),BOBBY PORCELLI(AS) |
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フルーリンが1995年に録音したアルバムから。 マイナーレーベルからの発売されたものですが、 参加ミュージシャンは、一流どころが揃っています。 文句なしのバックを従えて実に充実した歌を聴かせてくれます。 選曲の妙もこのアルバムの魅力です。 セレクトしたこの曲もリチャードワイアンズって超渋いピアニストの作品。 他にもジョシアレッドマン、ドナルドブラウン、ボブドローetc.…、 ただのスタンダード大会になっていないのがセンスの良さでしょう。 ライナーをジョンヘンドリックスが書いてる辺り、なるほどって感じですね。 しかしこのフルーリンって人がその後どういう活動をしてるのか 全然知りません。埋もれてるのだったら勿体無い逸材だと思います。 |
OFF BEAT | |
OFF BEAT / CLAIRE MARTIN (LINN) | |
CLAIRE MARTIN(VO),GARETH WILLIAMS(PF), CLARK TRACEY(DS),ARNIE SOMOGYI(B) |
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常盤兼成さんに教えて貰った人です。 一聴して唸ってしまいました。凄いです。 クリスコナー系のハスキーヴォイスですが、 表現力は、ひょっとしたらクリス以上かもしれません。 リズムに乗せていく言葉の扱いが実に強力で、 スイング感を倍増させています。 これはライヴ盤ですが、スタジオ録音の作品も作り込みが見事。 |
ANOS DOURADOS | |
SINGS JOBIM / ELIANE ELIAS (SOMETHIN'ELSE) | |
ELIANE ELIAS(VO,PF),OSCAR CASTRO(G),CAFE(PERC) | |
最後はボサノヴァです。 ピアニストとしてヴォーカルとしてランディブレッカーの妻として 活躍中のイリアーヌイライアスです。 (別に妻としては活躍しなくてもいいか…(^-^;) 昔、ブレッカーのユニットでピアノを弾いてた頃は、 男勝りのハードなピアノスタイルってイメージが強かったですが、 最近では、こういった女性的なアルバムが多いかな。 ボサノヴァのお手本のとも云える漂う様な唄い方が気持ち良いです。 |