またもジャズヴォーカルのセレクションを考えてみました。
以前チャーリー=チャンさん向けに通り一遍のチョイスをしましたので、
今回の趣向は「黒人ヴォーカルと白人ヴォーカルの深淵に迫る。」(笑)
深淵に迫れたかどうかは別として、新旧を取り混ぜて徒然なるがままに紹介してみます。
結果的になかなか面白い感じに仕上がったのではないかと思います。
選んでいるうちに「ジャズヴォーカルって何なんだろう?」って
色々考えさせられました。
では、黒人ヴォーカルセレクションです。
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IT DON'T MEAN A THING IF IT AIN'T GOT THAT SWING |
ELLA & DUKE AT THE COTE D'SZUR (VERVE) | |
ELLA FITZGERALD(VO),DUKE ELLINGTON ORCHESTRA | |
まずは、私の最も大好きなヴォーカリスト、エラです。 そして私が彼女の最高傑作だと思うのがこのアルバムです。 エリントンオーケストラとエラの楽しさ爆発のステージの記録。 一言で云うと「ワヤクチャにスイングする」って感じです。 とにかく聴いて下さい。 |
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THEY CAN'T TAKE THAT AWAY FROM ME |
ELLA AND LOUIS / ELLA FITZGERALD & LOUIS ARMSTRONG (VERVE) ※ジャケ写は、エラの追悼特別盤です。 |
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ELLA FITZGERALD(VO),LOUIS ARMSTRONG(TP,VO), OSCAR PETERSON(PF),HERB ELLIS(G), RAY BROWN(B),LOUIE BELLSON(DS) |
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エラだけは、もう一曲選ばせていただきます(笑)。 これはエラとサッチモが残した素晴らしいデュエットアルバムです。 バックをつとめているのはオスカーピーターソンと云う豪華盤。 エラが唄いサッチモが唄い、ラストワンフレーズだけ一緒に唄うってのが 実に心憎い演出だと思います。 聴くと120%幸せになれる名盤です(当社比)。 |
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HOW HIGH THE MOON |
AT MISTER KELLY / SARAH VAUGHAN (EMARCY) | |
SARAH VAUGHAN(VO),JIMMY JONES(PF), RICHARD DAVIS(B),ROY HAYNES(DS) |
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サラヴォーンを凄いって云う人は多いですが、 案外サラヴォーンが大好きって云う人は少ないですね。 個人的には私もそうなのです。 自信たっぷりに節回しでラヴソングを唄うので、 なんだか聴いてて怒られてるみたいで…(笑)。 そんなサラも若い頃は、結構かわいい唄い方をしてました。 このミスターケリーズのライヴでも、しっとりと唄ったり、 楽しくはしゃぐ様に唄うサラの姿が残されています。 この"HOW HIGH THE MOON"は、エラの十八番の曲です。 サラは「エラは、この曲をこんな風にクレイジーに唄うのよー。」って スキャットと始めます。 スキャットの唄い始めの12小節くらいまでは、 エラの「IN BERLIN/(VERVE)」のフレーズを真似しています。 その後はサラのインスピレーションによるものなのですが、 凄く正確な音程で見事なフレーズを紡ぎ出しています。 やっぱり若い頃から凄かったんですね。 |
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DON'T MISUNDERSTAND |
AT GREAT AMERICAN MUSIC HALL (BLUE NOTE) | |
CARMEN McRAE(VO,PF),DIZZY GILESPIE(TP) | |
エラ、サラとくれば、当然カーメンですね。 これは、カーメンマクレエの隠れた傑作ライヴアルバムです。 LPの記載では、マクレエはヴォーカルのみでクレジットされてますが、 このピアノは間違いなく彼女のモノです。 もともとピアノトリオでのステージだったのですが、 ディジーガレスピーが飛び入り参加したと云うおまけ付きです。 エラやサラの様に派手な急速調の曲は巧くありませんが、 カーメンのバラッドは涙が出る程素晴らしいと思います。 |
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OUR LOVE IS HERE TO STAY |
IN THE LAND OF HI-FI / DINAH WASHINGTON (EMARCY) | |
DINAH WASHINGTON(VO),HAL MOONEY ORCHESTRA | |
「ブルースの女王」と云われたダイナワシントンです。 この癖のある唱法は、好き嫌いが分れると思いますけど、 私は文句無しに全ての彼女のアルバムを愛します。 とにかくビッグバンドがこれほど似合う人もいません。 派手に鳴り捲るオーケストラをバックに従えて、 ここまで存在感を持つ歌手って他にいますか?いやいない(反語)。 ちなみに間奏部分のピアノはジュニアマンスです。 |
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CASUALLY |
LULLABIES FOR LOSERS / ETHEL ENNIS (ROULETTE) | |
ETHEL ENNIS(VO),HANK JONES(PF),EDDIE BIGGS(G), ABIE BAKER(B),KENNY CLARKE(DS) |
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濃いテイストのダイナワシントンの後に作為的にエセルエニスを(笑)。 黒人らしくないサラリとした歌唱が持ち味の人です。 このジャケットの写真を見ると「白人かな?」と思いますが、 おそらく別人でしょう。モデルさんか何かじゃないでしょうか。 だって他のアルバムのジャケットを見ると、購買意欲を削がれるくらい 暑苦しい笑顔を浮かべた黒人さんが写っていますから…(笑)。 |
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CAN'T WE BE FRIENDS? |
TONI /TONI HARPER (VERVE) | |
TONI HARPER(VO),OSCAR PETERSON(PF,CELESTA), HERB ELLIS(G),RAY BROWN(B),ALVIN STOLLER(DS) |
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黒人っぽくない黒人をもう一枚。 天才少女トニのデビューアルバムです。この時彼女はまだ18歳。 しかしこの表現力としっとりとした女性らしさは驚異的です。 オスカーピーターソンのサポートがいつもより優しく感じます。 |
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YOU AND ME LOVE |
PEOPLE IN ME / ABBEY LINCOLN (PHILIPS) | |
ABBIE LINCOLN(VO),鈴木宏昌(PF),稲葉国光(B), AL FOSTER(DS),DAVE LIEBMAN(SS) |
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アビーリンカーンと云えば、旦那のマックスローチと共に 黒人問題に立ち向かった闘士としてのイメージが大きいです。 ただ、その頃の重厚なテーマをかかげた音楽は、 時代の流れの中であまり聴かれなくなっていきました。 その時代をリアルタイムに知らない私なんかが、 「WE INSIST/MAX ROACH(CANDID)」を聴いたとしても 絶叫しまくる彼女の姿に共感できると云えば嘘になるでしょう。 でもその後、彼女の音楽は、ヒューマニズム溢れる豊かな音楽に 変容して来ています。 沢山の痛みを感じて来た彼女だからこそ、 淡々とした唄い口の中に深い愛を表現できるのだなぁと思いました。 |
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SOUL DADDY |
MAIDEN VOYAGE / KELLEE PATTERSON (BLACK JAZZ) | |
KELLEE PATTERSON(VO),GEORGE HARPER(FL), ERNEST VAN TREASE(PF),JOHN W.HEARD(B), HENRY DAVIS(B),EVERETT TRUNER(TP), BILLY OSBORNE(TRIANGLE),JOHN LASALLE(TAMBOURINE), SAJIH(CONGAS,TRIANGLE),???(DS) |
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思いっきり70年代なサウンドを一発。 これをジャズだとは云えない気もしますが、 とにかくケリーパターソンが可愛いのでセレクトしました(笑)。 このアルバムでは、他にハービーハンコックの処女航海なんかも 唄っていますが、これまた70年代的テケテケサウンドで笑えます。 |
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PERMIT ME TO INTRODUCE YOU TO YOURSELF |
LOVE AND PEACE / DEE DEE BRIDGEWATER (VERVE) | |
DEE DEE BRIDGEWATER(VO),STEPHANE
BELMONDO(TP), LIONEL BELOMONDO(TS),THIERRY ELIEZ(PF), HEIN VAN DE GEYN(B),ANDRE CECCARELLI(DS) |
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ディーディーブリッジウォーターは、今、注目のシンガーです。 活動歴は古く、クロスオーヴァー(懐かしい?)なんて云ってた時代、 その手のアルバムを何枚か残しています。 しかし近年ヴァーヴに移籍してからと云うもの オーソドックスなジャズヴォーカルに方向転換し、 充実した活動を続けています。 これは、ファンキージャズの大御所ホレスシルヴァーに捧げたアルバム。 この強烈なスイング感はどうですか! これだけパワフルにアーシーに唄ってくれると気持ち良い事この上なし! バックをつとめるアンドレチェッカレリのドラムと、 ティエリエリエのピアノも聴き逃せません。 |
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EVERYTHING'S GONNA BE ALL RIGHT |
TEARS OF JOY / TUCK AND PATTI (WINDAM HILL JAZZ) | |
PATTI CATHCART(VO),TUCK ANDRESS(G) | |
新しいジャズの形を感じ取れる演奏です。 タック&パティは、白人ギタリストと黒人ヴォーカルの夫婦ユニット。 このアルバムは鮮烈なインパクトを与えたデビューアルバムです。 躍動感溢れるタックのギターに気持ち良く乗って、 自由なイマジネーションで飛び回るパティのヴォーカル。 ピアノトリオ演奏でスタンダードを唄うのとは全然違うアプローチ。 音楽のスタイルって、それを表現するのに適した形で進化したんだろうけど、 それに慢心してしまう事は、何かを見失わせているのかもしれません。 |
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AUTUMN LEAVES |
RACHELLE FERRELL / (SOMETHIN'ELSE) | |
RACHELLE FERRELL(VO),WAYNE SHORTER(TS), MICHEL PETRUCCIANI(PF),STANLEY CLARKE(B), LENNY WHITE(DS),PETE LEVIN(SYNTH), GIL GOLDSTEIN(SYNTH) |
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ゆきをさんに教えて貰った口のでかいねえちゃんです。 このジャケットでは美しい黒人女性の様に見えますので 小粋なコンテンポラリー系サウンドを想像してしまいますが、 とんでもないです。 まず、彼女の唄い方なのですが、のどちんこむき出しな程 大きく口を開けます。あんこう並みです。 しかも指で上下に唇をめくりあげたかの如く歯をむき出しにします。 顎と唇の動きはこの世のものとは思えない程グネグネしてます。 大袈裟な桜田淳子と云えば良いのでしょうか? んでもってその声域が凄い。高音域は殆ど超音波状態です。 時々声が聴こえなくなったなぁと思ったら犬が集まってます(嘘)。 それにしてもこのデビューアルバムの参加ミュージシャンは凄い。 ウェインショーターとミシェルペトルチアーニですよ…。 マイルスの枯葉をモチーフに強烈な演奏を展開しています。 鳴り物入りのデビューではありましたが、 その後の活動については今一つぱっとしません。 やはりこう云ったテクニシャンは歌心との折り合いがつきにくいのかな。 |
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INTERLUDE (=A NIGHT IN TUNISIA) |
I WAS BORN IN LOVE WITH YOU / DENISE JANNAH (BLUE NOTE) |
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DANISE JONNAH(VO),BOB BEIDEN ORCHESTRA | |
ジャズヴォーカルの王道を行くのは大変だなぁと思います。 ちょっと実力のあるシンガーが出てきたら、 ポスト誰々みたいに云われてしまう訳ですから。 そう云った意味でこのデニスジャンナは、 偉大な先輩達のスタイルを立派に後継しながらも 自らの魅力を良い形で加味できた人だと思うのです。 ここで取り上げたのはご存知"チュニジアの夜"。 この曲は案外ベタな演奏に陥ってしまう場合が多いのですが、 ジャンナのヴォーカルヴァージョンは、実に洗練された好演。 自然にスイングしているので気がつきにくいですが、 五拍子でのアレンジが施されているのですね。 ジャンナのスキャットが戸惑う事なくリズムに乗っていくのが驚異的。 |
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I COULD HAVE DANCED ALL NIGHT |
LUTTLE SUNFLOWER / KAREN FRANCIS (STEEPLE CHASE) | |
KAREN FRANCIS(VO),MARK TURNER(TS),GERRY EASTMAN(G), GEORGE CABLES(PF),LONNIE PLAXICO(B),AARON WALKER(DS) |
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私の中で気になっているシンガーです。 'bout JAZZのコーナーでも他のアルバムを取り上げましたが、 これは1998年に発売された彼女のサードアルバムです。 前作がバラッド中心のアルバムだったのに対して こちらはスインギーな魅力が溢れる仕上がりになっています。 少し癖のある発声が独特のコクを生み出していて あっさり目のダイナワシントンと云った趣きが気持ち良いです。 音程が甘いところもありますが、気に入ってしまうと そんなところも許せてしまったりします(笑)。 ここでは有名な映画音楽をセレクトしてみました。 |
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DANCING IN THE WINGS |
MAY I FEEL / MELISSA WALKER (ENJA) | |
MELISSA WALKER(VO),TERELL STAFFORD(FLH), GEORGE COLLIGAN(PF),PAUL BOLLENBACK(G), JAMES KING(B),CLARENCE PENN(DS), STEVE KROON(PERC) |
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今、エンヤレーベルが注力しているメリッサウォーカーです。 どちらかと云うとサウンドはコンテンポラリー寄りですが、 彼女の豊潤な香りを放つ様なヴォイスは、その方が際立つのかも。 このアルバムの選曲は古いスタンダードが中心だけど、 私はこの曲が気に入りました。 この魅力は本物だと思うのですが、如何でしょう? |
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NO MOON AT ALL |
MIRAGE / JERI BROWN (JUSTIN TIME) | |
JERI BROWN(VO),FRED HERSCH(PF) | |
私の好みでセレクトする事が許されているので(笑)、 こんな人を挙げてみました。 ジャスティンタイムレーベルのジェリブラウン。 はっきり云って巧くありません(爆)。 音程が悪いのを雰囲気で誤魔化している人なんですね。 しかもスタイルが全然確立できてなくて、 アルバム毎であっちふらふら〜、こっちふらふら〜、って感じ(笑)。 でも、それら全てをひっくるめて好きな歌手なのです。 へそ曲がりな聴き方だと思いますが、 巧い歌手が「どう私の唄は?素敵でしょ。巧いでしょ。」って 自信たっぷりに唄ってるのは、どうも好きじゃないんですよね。 その点彼女は、迷える褐色の子羊みたいで 思わず見守って(聴き守って?)あげたくなります。 そんな彼女がピアノ一本をバックに唄ったのがこのアルバム。 これこれ、こういうのは実力がむき出しになっちゃうんだってば〜(笑)。 案の定、音を外し捲くってます…。でも許す。 |
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BLACK AND YELLOW |
DAYS AWEIGH / CASSANDRA WILSON (JMT) | |
CASSANDRA WILSON(VO),GRAHAM HAYNES(TP), ROD WILLIAMS(PF,SYNTH),KEVIN BRUCE HARRIS(B), MARK JOHNSON(DS) |
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最後はジャズヴォーカルのイノヴェイター、 プリンセス・オヴ・ダークネスことカサンドラウィルソンです。 これは、彼女が1987年に制作したごく初期のアルバムです。 彼女のヴォーカルは、演奏と有機的に絡み合っていて、 決してヴォーカルと伴奏と云う形態ではありません。 この演奏もその辺が顕著に出ていて、彼女のヴォーカルは、 楽器の一つとして演奏に加わっているのがわかると思います。 このヴォーカルを頭の中でトランペットの音に置き換えてみれば、 マイルス的なアプローチに近いと感じませんか? JMTレーベル時代の作品にはこうした彼女の音楽のルーツを解く鍵が 沢山散りばめられています。 ブルーノートに移籍してからの作品は、更にトータル的な完成度が高まり、 彼女の求める音楽の全容がとてつもないモノである事がわかってきました。 これからも一作一作が注目されて行く事でしょう。 |