このデータは私ことしまぷ(う)がBLADE氏に提出したキャラクターのデータに基づき作成されている
 

 よって このデータが本編である「黙示録 エヴァンゲリオン」に合致しなくとも
 当方は一切の責任を負わないものとする
 それによって受けるショックなどにも当方は一切の責任を負わないものとする
 

 今回もしまぷ(う)が深淵を語るべく…
 

 ま こまかいことはこの辺りにして…
 

 行ってみよぉーっ!



 
 

  二人の非日常 或いは平穏な日々
   夏向きの 話し…
 
 

 前日 迎え盆…

夜 出石の山の中
「うん 側にいて手伝ってあげるから クラム」
 朝霧の姉は胸の中にしっかりと年老いたシャム猫をそっと抱きしめ そう言った 深い決意と共に
 センサーが開く
 

同刻 朝霧の部屋
「お休みぃ」
 寝ぼけるような声で ハイベッドにしかれた布団の中に潜り込む朝霧
 昼間から 誰かに見られているような気配を感じ続けたせいか 疲れ切っているようだ
 程なく彼の寝息が広がる
 

同刻 模型店隣の屋根の上
「始まる か… まぁ 少しくらいは良いかな?」
 
 
 

 一日目

早朝 某ショッピングモール内
「どんな服にしようかな」
 呟きだけが照明の落ちた店内に広がっていた
 

昼過ぎ 芦ノ湖湖畔の公園 例のベンチ
 朝霧はそのベンチに深くもたれかかり 波の音に聞き入っていた
「来ちゃった」
 背後から声がする どこかで聞いたような声が
「… この声 まさかな」
 ぼぅっと視線を湖に向けたままに呟く
「ねえ たけ君ってばぁ」
 意識に展開していた記憶に残る声 それと同じ声が彼の後ろから投げかけられた 彼の記憶上この声でこの呼び方 該当する人物は一人しかいなかった しかもそれが故人である事に 彼の身体は硬直を余儀なくされた
「な… (振り向くべきか 振り向かざるべきか そこが問題だな)」
 内心 滝のように汗を流す朝霧だった

「やっぱり ここにいたんですね」
 硬直している朝霧を見つけ走り出すジェノア よく見ると朝霧の背後に同年代らしき女の子が立っている
(タケオの知り合いでしようか)
 そんな事を考えながらかけ出した足を止め 再び歩き出した

 そうしてほんの数歩まで近づいたとき 朝霧の丁度背後に立っている女の子はジェノアに振り返った
(どこかで 見たような…)
「あら 初めましてジェノアさん あたし宗谷 裕美です」
 そう言って彼女はジェノアに握手を求める
「は 初めまして 裕美さ…」
 求められるままに握手をしようと 手をさしのべようとしたジェノアの手も 相手が故人であることに気付き 止まってしまった
「どうしたの 二人とも」
 裕美と名乗った女の子は 硬直している二人にそう返す
「二つ 聞いて良いか」
 タスク切り替えにより持ち直した朝霧が背中に二人分の気配を感じつつ問いかける
「二つと言わずに 何でも答えるけど? たけ君」
「本当に あの 宗谷 裕美なのか?」
「もちろん 家族と一緒に城崎の海や温泉に行った事とか たけ君が小学2年生までおねしょしていたこととか それからそれから…」
 さすがにおねしょの話題に触れられて朝霧は振り返り
「分かった 分かった …何でそこまで言うかな」
 朝霧はため息を一つ付き ジェノアは朝霧の幼少の話しに微笑みを隠せない
「では もう一つ なんでここにいるんだ?」
「それはもちろん」
 二人の注意が裕美に向けられる
「ん?」
「お盆だからよ」
 ウインクをしながらそう言った裕美を見て がくっ とうなだれる朝霧と思わず突っ伏すジェノアだった
 が…
「ところで お盆ってなんですか?」
 そんなジェノアの質問に 朝霧と裕美二人掛かりでお盆の説明をする
 のどかな夏の昼下がりだった

「でも 私は良いとして ジェノア どうして裕美の姿が見えるんだ?」
「… そう言えばそうですねぇ…」
 考え込む二人 程なくジェノアは ぽんっ と手を打ち
「この前 裕美さんがわ もごもごごぐっ…」
 慌ててジェノアの口を押さえる裕美は彼女に耳打ちをする
「それは内緒にしないと 末代まで祟るわよ いい?…」
 無言で首を縦に振るジェノア
「何をしているんだ? 二人とも」
 やれやれしょうがないなぁ とでも言い出しそうな口調の朝霧だった もちろん朝霧は裕美がジェノアに物理的接触をしていることには気付いてはいたが あえて深く考えることはやめた 頭痛がしそうだったから…
 

夕刻 地上 大通公園
 市役所近くのオフィス街にある大通公園 その緑の中の散歩道を三人は歩く
「しかし 幽霊でも足が在るんだな 他の人には見えていないようだが」
「ちょっとね クラムの力を借りてるんだ」
「クラムって ひーちゃん所の猫の名前じゃなかった?」
「うん あのクラムだよ」
「そうか(あの猫も もうずいぶんな年だったはず 主想いの猫 か …クラム お前も好きなのだな)」
 ふと 朝霧が立ち止まり
「しかし ジオフロントに入れるかな?」
「あ そうですね」
 言いながらジェノアが裕美を見下ろす
「大丈夫よ 幽霊に物理法則は無意味だから」
 との裕美の言葉に
「そ そうなのか」
 そう答えるしかない朝霧だった
「じゃあ たけ君の部屋にレッツゴー」
 異様に元気な裕美の姿に 朝霧は瞳の色を深くするが誰もそれに気付くことはなかった

 しばらく他愛もない会話を交わしながら 一行はジオフロント行きの地下鉄駅にたどり着き ゲート前で立ち止まる
「見てて」
 そう言った裕美は閉まったままのゲートへとてくてくと歩いて行き 何事もなくすり抜けていった
「おお 神よ」
 呟き出されたジェノアの言葉に 朝霧は心の中で「アーメン」と呟くのだった

「すごーい 本当に地下深くに下っているんだねぇ」
「もう少ししたら 見えますよ」
 がらがらな車内でジェノアははしゃいでいる裕美の世話を焼いている
 その様子を朝霧は寂しそうな視線のままに頬杖をつき外に視線を走らせていた
(何故今になって アレがここに在るというのだ? 仮に本人の幽霊だとして その目的は? 通常そのての物は何か要求を満たすために現れると聞くが… ふむ)
 考えている朝霧の視界には 現れたジオフロントに子供のように驚いている裕美と その相手をしているジェノアの姿が映っている
(そう言えば あの時のジェノアの夢の話 あれはひーちゃんにしか知り得なかった情報がかなりあったな…)
「むぅ」
 自分の心に 意識に相対する二つの感情の存在に気付いた朝霧は そう低く唸り 再び思考を進める
(少なくともアレの感情の表し方や知識はひーちゃんその物だ だがアレはひーちゃんじゃない ひーちゃんは逝ってしまったのだから…)

 電車が止まる ジオフロントの駅に着いたのだ
「タケオ 大丈夫ですか?」
「え? なに?」
 朝霧が顔を上げる 裕美とジェノアの二人が心配そうに朝霧をのぞき込んでいる以外には この電車にはだれも乗っていない
「たけ君 ぼぉーっとして 何を考えていたの?」
「いやまぁ なんだったんだろう」
 そんな事を言いながらごまかすように朝霧は立ち上がり電車から降りた
 改札を通り 寮へと照葉樹の並木道を朝霧を挟んで三人で歩く
 

保安部二課奥モニタールーム
 その中にいた秋山が並木道を進む坊主とその主の姿を見つけ 視線を走らせる
「? 誰かいるのか?」
 彼らを映しているカメラのモードを変えてみるが 彼らが話している誰かはどのモードにも映っていなかった
 しかし明らかにそこに映っている坊主とジェノアは坊主を挟んでジェノアの反対側にいる誰かと話しているのだ 芝居でここまで上手くは出来ない そう考えた秋山だったが 程なくカメラが追いきれなくなると
「疲れているのか? 最近予定外の事件多かったからな…」
 そう言って 懐から胃薬を取り出して部屋から出ていった

 寮の玄関ホールに入ったところで朝霧は立ち止まり 裕美の方へと向き直り
「ひとつ 試させてくれないか?」
 それはとてもフラットな声だった
「タケオ?」
 真意を測りかねたジェノアはそう言って 朝霧から裕美に視線を移した
 視線の先の彼女は
「いいよ それでたけ君の安心が得られるなら」
 その声から一分の哀しみも感じられなかった だがそれはかえって朝霧の気を沈める
「すまんな」
 そうくぐもった言葉を残して 彼は先に階段を上がってゆく

 行ってしまったタケオの姿が見えなくなるとジェノアは
「いいのですか?」
「だって 普通なら信じないでしょ? だから …それより 行きましょジェノアさんの部屋」
「えっ? でもタケオは」
「内線で連絡すればいいわ」
「あ はい」
「それに 端から見たらジェノアさん一人で喋っていること忘れないで」
 ボン と音がしそうな勢いでジェノアは真っ赤になり逃げるように階段を駆け上がって行った
「あ まってよぉ!」

「元気な物だな」
 管理人室から声だけを聞いていた枝黒はそう感想を述べると 再び万年筆を走らせ始めるのだった
 

寮 朝霧の部屋
 一人部屋に戻り 奥の自分の部屋に入る
 壁を見上げ そこにある神無月の姿を視認するままに手を延ばした
 ふと 指先が触れる前に手が止まる
「私は…(愚かだ
 それに分かっているはずだ
 だが確かめねばらならない
 私は疑うというのか
 だが確証が欲しい)どうしたら良いんだ 私は…」
 戸惑っている それを自覚しつつ手を止めていた朝霧
 だが気付くと彼の手は既に 神無月を棚から下ろしていた
「どう言う 事か…」
 

ジェノアの部屋玄関先
「もう たけ君たら」
「裕美さん?」
「えっ? こっちのことだから 気にしないで」
「…どうぞ」
「じゃ お邪魔します」

 部屋を出た朝霧はゆっくりとその足をエレベーターホールに向ける
「迷いを断つ それからにしよう 全ては… って 部屋の方か」
 寮の玄関ホールの見える位置から 振り返って階段を上がる朝霧だった

 ピンポーン
 そんな呼び鈴の音を聞いてジェノアは玄関の方へと急ぎ ドアを開く
「タケオ それは…」
「祭器神無月 裕美は奥だな」
「ええ」
 ジェノアの目にも 朝霧が戸惑っているのが分かった 瞳の色が 息づかいが いつもと違う
 彼女は 先を行く朝霧の背中だけを見るようにしてついて行き 奥の部屋に入る
(タケオさん 何を戸惑うの? …でもワタシはなんで そんな事が分かるのかな)
 そう思った直後
「たけ君のこと好きなんでしょ? ジェノアさん」
 一瞬 返答に戸惑ったジェノアは 何とか首を縦に振る
 神無月を持ったまま その二人の行動に呆気にとられたままの朝霧に 裕美は向き直り
「さぁ たけ君 初めて良いよ」
 今までになく 真剣な目つきで彼女は朝霧にそう伝えた そして小声で
「消えたら ごめんなさい」
 そう呟くが その響きは朝霧には認識でなかった
「そうか では始めよう」
 二人にも朝霧が迷っている そうはっきりと分かる声で彼は言い 二人の前で神無月を抜く
 その逆反りの姿が全てあらわになる そしてその峰となる部分をそっと裕美の肩に触れさせた
 朝霧の瞳から色が消えて行く
 ジェノアは動けなかった 裕美は朝霧に全幅の信頼をおいているのが傍目にもよく分かる
 沈黙のままに朝霧は 逆反りの刀神無月を鞘に戻した
 瞳の色が戻る 直後彼は目を大きく見開くとそのまま崩れ落ちるように片膝をついた とっさに二人が朝霧に声をかけ側による
「悪い 少し消耗した」
 吐息と共に言葉は吐き出され さらに崩れるように床に伏してしまった

 今二人はリビングで向かい合うように座っている
 朝霧はジェノアによって彼女のベッドで横になっている まだ気が付いてはいない
 二人の間で番茶が湯気を上げている
 静寂が邪魔をしているわけではない 二人とも話したいこと聞きたいことは山ほどあった だが実際に対面して何から聞くべきか何から話すべきか 何を聞いてはいけないのか何を話してはいけないのか それらを掴めないままに時間だけが過ぎて行く
「神無月って どんな物なのか知っていますか?」
「いえ ただタケオの持っている刀のようなもので 祭器だと言うことしか…」
 唐突に投げかけられた質問 戸惑うように返された答えが静寂をうち破る
「あれは たけ君のお父さんの家に伝わる物で あれは刀じゃなくて えっと イメージ的には邪悪な物をうち破る …何て言ったらいいのかな そう ホーリーシンボルの様な物なんです さっきその神無月があたしに触れたでしょ?」
 頷くジェノア
「もし あたしが悪い存在だったら そんな事をしなくても あの神無月が鞘に収まったままで 私は存在できない そのぐらいに強力な力を持った物なの」
「裕美さん…」
「だから たけ君はあたしを試したんだと思う あたしはもうこの世の存在じゃないから」
「裕美さん 試されたのは貴女だけではありません ワタシも… いえ ワタシよりもタケオ自身を試したのだと思うのですが」
 ジェノアの言葉に裕美は笑みを返す その一片の曇りもない笑みに見とれつつも 形容しがたい不安を感じてしまうジェノアは
「どうして? あなたはここにいるんですか?」
 そんなジェノアの質問に裕美は答え始める
 初めて朝霧を意識したときから今までの経緯を その口と その言葉に織り込まれる熱い想いで
 それは朝霧が ジェノアが想っていた以上に 裕美は朝霧のことを想っていたことを物語っていた
 

夕刻 同ジェノアの部屋
「二人とも 心配をかけた すまない」
 ジェノアのベッドの上で二人に頭を下げる朝霧がいた
「本当に大丈夫ですか? タケオ」
「ああ 動作に支障はない すまなかった」
 ジェノアの後ろから裕美が姿を現す
「たけ君安心できた?」
「ひーちゃん ごめん 僕が悪かった …不安だったんだ 僕の知っているひーちゃんにあまりにも似ていたことが… だって ひーちゃんはあの時僕に会いに来てくれたじゃないか だから… 僕は …」
 言葉を失いつつあった朝霧の 途切れ途切れなその言葉に 裕美は朝霧の視線上に立ち
「たけ君 あたしは今ここにいるの …それじゃぁ 嫌?」
「ずるいよその聴き方 …それに ひーちゃんはもう分かっているはずだよ」
「うん 長いつきあいだったもんね」
(だったか… そうだよな)
「うん ごめん」
(私は どうすべきか)
「たけ君は 今はジェノアさんの物なんでしょ?」
(…あれ? なんだこの違和感は?)
「どうしたの たけ君」
(いや だから…)
「だから なに?」
「どうして 喋っていないのに会話が通じるの?」
「え? たけ君さっきからずっと喋っているけど?」
「いや だから… 口を動かしていないのにどうして?」
「え?」
(いや だから 今は口が動いていないだろう?)
「あ 本当だ でもたけ君の声は聞こえるよぉ」
「うーん」
 唸りつつ考えている朝霧には悪いと思いつつもジェノアは
「タケオ 私に向かって喋らずに話しかけてもらえますか?」
「はぁ? ああ いいけど(いったい何事だい?)」
 若干の間をおいてジェノアは
「裕美さん 今の聞こえました?」
「あんまり良く聞こえなかったよ」
「ではタケオ 今度は同じようにして裕美さんに」
「ああ(ええと さっき言ったのは いったい何事だい? だったな)」
「今度は良く聞こえたよ いったい何事だい? でしょ?」
「その通りだ」
「たぶん 裕美さんに対して話しかけようとする意志があれば 声に出さなくても通じるんだと思います」
「そう言われてみれば 確かに ならジェノアの声も聞こえるのかな」
「試してみますね (聞こえますか? この声が 裕美さん)」
「たけ君の声より はっきり聞こえる…」
 無言で自らの全てを漂白されるようなショックを受ける朝霧
「あ た たけ君?」
「何も言うな 今は〜」
 かなり脱力した答えが二人に返ってきた
「あの タケオ 気を落とさないで下さい」
「そう 言われてもねぇ」
 脱力しきった声で 彼は答えるしかなかった…
 

夜半 ジェノアの部屋
 パジャマを着ているジェノアはふと気付いて問いかける
「あの タケオの所には行かないんですか?」
「うん」
「… ? どうやって 眠るんですか?」
「さぁ よく分からない」
「はぁ…」
「それよりさぁ ジェノアの知るたけ君のこと知りたいな」
「ワタシの知っているタケオのことですか」
「うん」
「初めは ちょっと強引な人だなって 思っていました」
「そうなの? あたしの前じゃたけ君 いつもあたしの抑え役なのに」
「それは 裕美さんがあの人よりも 積極的に行動するからではないのですか?」
「…そうかも」
「でもあの人って たとえ全てを失っても 独りそこに佇んでいそうな そんな儚さを感じるときがあるんです」
「…ジェノアも そう思ったんだ」
「え?」
「たけ君て 全部自分の中に蓄えて閉じこめてしまう所があるのよ」
「全部 ですか?」
「うん全部 でもそんな事したらいつかパンクしちゃう だから上手くたまった物を発散させないといけないと思うの」
「あの人が パンク」
 ジェノアの脳裏には タケオのことをよく知っているだけに ある意味想像を絶する情景が浮かぶ
「それに そうなったときのたけ君って 手当たり次第に壊しても支障のない物を物を壊したりするのよね」
「壊しても支障のない物ですか?」
「うん ちゃんとその辺りをより分けるのが またたけ君らしいんだけど」
「はぁ…」
 懐かしそうに そしてどことなくうれしそうに話す裕美に ジェノアはそう返すしかなかった 自分にはない朝霧の過去を知っているのだから
「ま そう言う意味では たけ君を甘えさせて上げてね ジェノアさん」
「はい」
 返事を返すジェノアはどことなく幸せそうな表情になっていた
 この後も二人の会話は続き 二人が床についたころにはすでに日は変わっていた
 
 
 

 二日目

闘技場
 朝霧の視線の先ではキョウヤとトウジが戦っている
「たけ君 たけ君」
(ん?)
「あの教官が さっきからたけ君のこと見ているけど?」
(ああ 月山という人だ 非常識な強さを持っている 人間ではだが…)
「ふうん あっ こっちに来るよ」
(なにか たくらんでいなければいいが)
「そうなの?」
(まぁ な)

 月山教官は真っ直ぐ朝霧の前まで来ると 朝霧を見るでもなく
「どうした 朝霧 そんなに暇なら相手をしてやるぞ」
「… お願いします」
 教官は ついてこいと手を振り朝霧に背を向けて空いているスペースへと歩いて行った
(行って来る すまないが最中は話しかけても 反応できない)
「じゃ ここから見てるね」
「ああ 行って来るよ」
「いっらっしゃい」
 裕美にそう言われて 仄かに顔がほころぶ朝霧だった

 目の前に朝霧が来る いつもよりにこやか とでも言うような表情に つい口が出る
「どうした朝霧 嬉しそうじゃないか」
「あなたと戦うことはその原因ではない」
 即座に言い返した朝霧
「やれやれ はっきりと言う どうだ一つ本気でかかってこないか?」
「断る」
 やはり間髪入れずに返答した朝霧
 変わっていないな と月山は思いつつ
「はじめよう」
 そう言って 構えを取る

 朝霧は その月山の動作には呼応せずに構える
 視界内に捉えている月山は 相変わらず無駄に殺気が大きい 無論威嚇という意味では有効なのだが はっきり言って威嚇する相手を間違っている…

(目の前の坊主 秋山が言うにはだが…
 こいつは初めから俺の殺気を受け流した数少ない人間だ まるで柳に風 そう言う表現がぴったりだろう もしかしたらただ鈍いだけなのかもしれないが… おまけにこいつ自身殺気は殆ど放つことはないときている 本気になればなるほどだ しかしあまり強い方ではないから おっと…)
「かかってこないのか?」
「いや 何か別なことを考えていたようですから…」
(表情に出たか)

「おっ 朝霧の奴 月山教官とやるみたいだぜ」
 丁度 試合を終えたキョウヤがそう言うと 相対していた鈴原は言われた方に振り返り
「ほんまや 朝霧は月山教官とやるんは久しぶりやなかったか?」
「… 言われてみれば そんな気がするな」
 二人の視線の先では すでにそれは始まっていた

 それは月山にしてみれば 軽くあしらうつもりなのだろうか 楽しんでいるようにも見える 一方の朝霧は いつもと何も変わらぬかのように 彼を相手にしている

(あ 裕美さん)
「たけ君って あんな戦い方するんだ」
(ええ 見た目はとても危ないですけど 側にいると心強いです)
「うん …あたしの時も こうだったのかな」
(…)

 月山は違和感を覚えずにいられなかった 仮にも教官として そして一人の戦う者として 違和感を覚える
 その違和感は言葉にしてみれば簡単だ まるで先読みをされている そう表現されるだろう
 明らかにそうであるわけではない ただ「ここだ」と思った攻撃はことごとく有効打にならないのである
 だが 強くなった そう言う感じではない
(そう言えば 秋山が何か言っていたな 思考にノイズが混じる とか…)
 とは言え それだけの事を戦闘とはまったく別に 冷静に思考しながら朝霧の相手をしている彼は やはり 化け物の類だろう

 一方朝霧の方は 苛烈 そう表現するのが最もふさわしい月山の攻撃をしのいでいた
 とは言え 防戦一方ではない 月山が手加減しているのだろう 彼が本気を出せば防戦一方どころか 最短KO記録を更新する事になるだろうから もちろん朝霧はKOされる方である
(なぜ 分かるのだろうな)
 試合が始まってから 何かがはじけるような音が月山から聞こえてくる はっきり言えば聞こえてくるわけではない 音として認識するのが最も手っ取り早いだけであって それ自体は直接脳に届く感覚なのだ

「なあ キョウヤ」
「どした?」
「朝霧やけど 時たま妙に勘が鋭いゆうか 見てへん攻撃を初めから分かっているような事って無かったか?」
 トウジにそう言われて 今までの事で思い当たることが無かったか考えるキョウヤ
「そう言われても アイツと俺って攻め方が似ているからな 思い当たる節ばかりで…」
「ほうか」

(そろそろ 終わらせるか)
 そんな思考をしている 月山の目の前で 朝霧はいきなり攻勢に転じてきた
(なるほど あの二人ぐらいとしかしないのでは 少しは強くはなるか だが!)
 一瞬の朝霧の隙を突いて 右足で撓うような回し蹴りを繰り出す
(!にぃ)
 朝霧の動作は単純な物だった 重力に任せるように姿勢を落としつつ 前に吸い込まれるように間合いを詰め 月山の足が伸びきる瞬間 膝を肘で叩き付ける それだけの動作だった
 明らかに いや まるで来るのが分かっているかのようなその動きに 月山は膝のダメージを覚悟した
 が
(? 当たった だけか)
 膝が伸びきる瞬間に 確かに膝に何か当たった感触はあったのだが 肘を叩き付けられたわけではなかった
 目の前の朝霧は 膝を突き息を切らせたまま 突き込むはずだった左腕を右手で鷲掴みにし 苦悶の表情を浮かべている だが左腕が痛む様には見えない
 ふと 月山は自分が楽しんでいることを自覚してしまう
 確かに彼は デスクワークよりこの方が性に合っている だがそれだけではない これは後日秋山にこぼしていた物だが 朝霧が持つ違和感の正体と対峙すること自体を楽しんでいた そう言うことらしい
「まだ いけるな?」
「無論」
 返事をし 間合いを遠目にとる朝霧
「遠慮するな 全力でかかってこい」
「よろしいので?」
「迷うなよ」
「そう言うことで… 了解した」

 その言葉と共に目の前で構えている朝霧の存在感が希薄になる
(いや 違うな 殺気や気配が希薄なった そう言うことか)
 目の焦点もまるで合っていないようで そして枝垂れ柳のように ゆらり そう構えている
(こうでなくては 面白くない)

「おい 朝霧の奴…」
「まだいつもの朝霧だ」
 トウジの言葉にキョウヤは短く答えた
「ほんまか?」
「まだ 気配があるからな」

「たけ君 あの時に近い」
(あの時 ! ですか)
「うん あの人強いんだね」
(はい クラスの皆さんの誰もまだ勝っていませんから)
「そうなんだ」

 闘技場のほぼ全員が見守る中 二人は 再び動きを見せる

「まだお昼まで時間もあるし」
 そんな事を呟いて彼女は闘技場へと近づいていた

(ふむ 確かに以前よりは物にはなっている)
 朝霧に 機械を相手にしているような そんな錯覚に近い物を覚えながら 月山は彼の攻撃をあしらっていた
(随分動きが 鈍くなってきたな 息もかなり上がってきた そろそろ限界か)
 先ほどの事も合わせて 既に5分が経過している その間朝霧は緩急がある物の 殆ど全力で体を動かしている
 確かに月山が相手ではそうなるを得ないのだが
(ここまでだな)
 そう月山が考えたのとほぼ同時に

「やっほー みんな元気ー」
 脳天気なミサトの声が 闘技場に響いた そしてほぼその場にいた全員がそのミサトの脳天気な声に意識が行っていた

 ゲシッ!!

(あ! いかん…)
 思わず それも刹那の間だけだが月山の意識がそれた その間に無意識に放った蹴りが 朝霧の顔面を捉えていたのだ 放ったことに気付いて手加減はした物の 焦点を合わせた月山の視界には 高く吹っ飛ぶ朝霧と その朝霧を受け止めようと駆けだした一人の少女の姿があった

(受け身が取れない このままでは 痛いだろうな)
 そんなことを考えつつ 全身の力を抜く朝霧の身体は永遠とも思える時間 宙を放物線を描いて落下していた

(間に合わないの?)
 全力で駆け出していた そう 思わず全力で駆け出していたジェノアだか 全力であるにもかかわらず 朝霧の姿がとても遠く感じた
「大丈夫 自分を信じてジェノアさん」
 それが裕美の声だと はっきり分かったとき 彼女は滑り込むようにして朝霧を抱き留めていた
「ありがとう 裕美さん」
 思わずこぼすと 抱き留めている朝霧に視線を向ける
「…」
 裕美からの返事はない
「あらぁ?」
 それは かなり照れ笑いに近い表情だった 確かに彼女は朝霧を抱き留めてはいたが 彼の頭には大きなたんこぶが自己主張しており… つまり頭を受け止め損ねたのである
「あ あははは     タケオさぁーん!!」
「やれやれ」
 端で思わず呟く裕美だった

「あ あたしのせいじゃないわよ」
 そう主張するミサト だが一部始終を見る事になった秋山と たまたま居合わせた大野は 保安部二課のモニタールームで苦笑いを浮かべるのだった
 同刻 某博士が鼻をくすぐられるような感覚に陥ったのは別の話ではなかろう

 午前の訓練も終わり ジェノアは軽い脳震盪で倒れた朝霧の病室に来ていた
「あ ジェノア さっきはありがとう 受け止めてくれたんだって?」
「えっ? あ は はい…」
 もちろん朝霧は頭を打った事は自覚している だがそれはそれとして考えている なぜならば受けと止めた事実よりも 受け止めようとした事自体が嬉しかったのだから
 戸惑っているジェノアに朝霧は疑問を持ちながら
「そんな入り口近くに立っていないで こっちにおいで」
 そう言われて 朝霧のベッドの側に椅子を用意して 腰掛ける
「あれ ひーちゃんは?」
「さっき 浴衣を探して来るって 地上に」
 朝霧の脳裏に疑問符が浮かぶ
「今日と明日は夏祭りでしょう」
「ああそうか そうだな」
 朝霧が裕美の浴衣姿を思い浮かべようと思ったその時
(あれ なんか ジェノアの顔が近づいて来るんですけどってぇ!)
「んー …」
 不意に二人の唇が離れ
「タケオ 血の味がします」
「あ いや 起きたときに足の裏の味がしたから 何回も歯を磨いて口を濯いだから…」
 思い出したくない そう全身で言い放っている朝霧にジェノアは再び 顔を近づけキスをする

 にゅる

(?!&%#&%$#!!!!!  はぁう! 舌が 舌舌 舌が 入って 口の中をぉををを)
 目を見開いて驚きつつも抵抗しない朝霧には理由があった
 初めての経験に驚いている朝霧とは別のタスクの朝霧が 冷静に彼女の舌と触れている口の中を観察していたのだ その冷静な朝霧によれば傷口に優しく舌をはわせている そんなふうに感じられるのだ 他にも かえって暴れると危ないとか 機嫌を損ねるのが嫌だという理由もあるにはあるのだが…

 彼女は一通り朝霧の口の中に舌をはわせると最後に唇をそっと触れ合わせるようなキスをして顔を上げた
 視線の先の朝霧は真っ赤になって すこしとろけたようにも見える
「タケオ かわいぃーー」
 そう言って 結局彼が窒息寸前になるまで彼女のキスは続けられた …合掌

十数分後…
「ごめんなさぁい」
「だから 気にするなと言ったろう」
「でも…」
「どうして… どうして私があのキスを受け入れたか分かるか?」
「いえ」
「お前の優しさを感じたからさ」
「タケオ…」
 ジェノアは朝霧に抱き付き 朝霧はそのままに抱き返す
(やれやれ しょうがない奴だなぁ)
 そう思いつつ彼も抱きしめ返す そっと慈しむように
 ちなみにこの時のジェノアの顔は夕焼けよりも紅かったらしい

「あらあら お邪魔だったかしら…」
 いつの間に入ってきたのか 所在なさそうに看護婦はそう言った
「ノックは?」
「あ…」
 未だにジェノアと抱き合ったままの朝霧は これ以上咎めもせずに
「それで なんでしょうか」
 その あまりにも平然とした朝霧の様子に看護婦は楽しそうに答える
「もう退院しても良いわよ浅葱君」
「分かりました」
「それにしても 仲がいいのね」
「ええ」
 当然 とばかりに返す朝霧にその看護婦は
「あそうだ 二人ともする時はちゃんと避妊するのよ よかったら 教えてあげるわ」
 それだけ言ってその看護婦は部屋から出ていった どことなく看護婦の言葉にいつものおちゃらけたミサト的な物を感じた彼は
(からかわれたのかな?)
 そう思いながら 視線をジェノアに向ける
 見上げている朝霧と うつむいているジェノアの視線が合う
 ボン と音でもするかのごとくジェノアの顔がさらに赤くなり抱きしめる力が抜ける
 内心苦笑しつつも
「Genoua Nilvana」
 そう本来の言語で彼女の名を囁きながら 頭を髪をそっと撫でる朝霧だった
 

 カラオケ そう今朝霧の視線の先では 裕美がマイク片手に熱唱していた あれから部屋に戻った二人は浴衣姿の裕美に連れ出され お祭りが始まるまで時間があると言うことから現在に至っていた
 朝霧は濃い藍の地に熊笹をあしらった物で ジェノアのは数日前に出来上がったあの朝顔をあしらった物 そして裕美の着ている浴衣は出石で裕美がお祭りの時に着ていた 紅い朝顔の花と葉をあしらった物だった
 なんでマイクを握れるんだ との謎をキャンセルした朝霧は 彼女が歌い終えこちらに視線を向けたのに気がつくと 一言
「裕美にその歌を歌われると ダメージあるなぁ」
 裕美の視線の朝霧は こちらに来てからのいつもと変わらない だがほんの少し そう ほんの少しの朝霧の心の疲れを 裕美は視覚以外で感じていたが
「ごめん でもあたしの好きな歌だから」
「ああ お気に入りのね」
 次の曲のイントロが流れ始める
「あ この曲は私です」
 そう言って もう一つのマイクを取り立ち上がるジェノア
 そのまますぐに歌い出しに入る その歌は朝霧も宗谷も知らない 英語の歌 静かなカントリーソングだと思われる
 決して下手ではないその歌に 声に 二人は静かに聞き惚れていた

 歌い終えたジェノアは二人の方を見る
「どう したの ですか?」
「すごーい 歌上手いんだねぇジェノアさんて」
「好きな 祖母も好きな歌でしたから」
「想い か」
 静かに朝霧が思考を深くしようと思った矢先 朝霧の歌う曲のイントロが流れ始めたので 彼はそのまま立ち上がり
「マイクを」
 そう言って席に戻るジェノアとの交代ぎわにマイクを受け取り そのまま歌い始めた
 彼が歌い始めたのは いつも通りのインパクト前のアニソンである
「〜かけがえのない 愛をなくした♪〜」
 朝霧は ただ他意もなく 好きなアニソンを歌っているだけだった

 が 歌い上げた彼を待っていたのは
「たけ君 その歌 ダメージ大きいよぉ」
「ワタシもそう思います」
 との言葉だった
「いや そう言われても…」
 実のところ ジェノアが歌った歌も意味が分かれば朝霧にとってダメージ大の曲なのだが…

 とは言えそれは朝霧の取り持つ三人の仲なのか カラオケは続いて行く お祭りが始まる時刻まで
 

夕刻 夏祭り大通公園会場
「ダメージ大きいとか言いながら よく歌ったよねぇ」
「まったくだな」
 朝霧を挟んで浴衣姿の三人は笑顔を 若干苦しいながらも笑顔で 既に始まっているお祭りの喧噪の中へ

「おう タケオやないか」
 人混みの中 神社の前の通りを歩いていると 関西弁もどきの声が
 三人はその声の方に振り返る それぞれに浴衣を着ている洞木と鈴原だった
「こんばんは 洞木さん」
「珍しいな洞木 相田に写真 取ってもらったか?」
「いやな ケンスケの奴写真取ったらすぐどっか行ってもうてなぁ」
「ま そう言うこともあるさ じゃあな 洞木」
「うん…」
 行ってしまった朝霧とジェノアの後ろ姿を見ながら鈴原は
「しかし なんでワイには挨拶せんかったんや?」
 そうこぼしていた

「さっきの二人 仲良いの?」
「悪い訳では ないんですけどねぇ」
 そう言いながら朝霧の方を覗くジェノアに彼は
「片思いの一方的な行動ともとれん事はないな… 洞木も苦労するわぁ」
 そう返した
「と言うよりタケオ 相手が鈍すぎるんですよ」
「違いない」
 そうして 祭りの屋台の中を歩いて行く

 ふと朝霧の袖を引っ張る裕美
「ねえたけ君 花火しようよ」
 そう言って彼女は屋台で売られている花火を指さす
「花火か それもいいな ジェノアはどうする?」
「ワタシも賛成です」
「いらっしゃい あれ?」
 ふと視線が合う… 目の前にいるのは赤毛の模型点店主
「ナッキャさん」
「どうしたの浅葱君 今日は両手に花じゃない」
「どうして?」
 普通なら見えるはずのない裕美が見えることに戸惑い 思わず聞き返していた朝霧
「どうしてって 一応私の店も組合に入っているから」
 そう言う意味で聞いた訳ではなかったが こう返されては再び聞くこともできなかった それよりも彼女は
「どう? ご贔屓にしてもらっているよしみで おまけするけど」
 そう言って手元の手に持って使う花火をいくつか取り 裕美に手渡すナッキャ
「しかし…」
「こっちのセットになっているのはどう?」
「タケオ」
 ジェノアの言葉に朝霧は苦笑するように
「ま そうだな」
 そう言って 自身の負けを認めると
「じゃとりあえずそれと 他には何かある?」
「ワタシは… それを」
「こっちね」
「はい」
 吹き出し式の花火を選んだジェノア ナッキャは慣れた手つきで袋に詰めると朝霧に手渡し
「代金は良いよ …それよりも がんばってね」
 そう言って手を振る
「は はあ…」
 どちらの意味か分からなかった朝霧は生返事を返して受け取った

 それから三人は露天を通り抜け 大通りの端の交差点に設けられた 盆踊り会場の踊りの輪の側まで来ていた
「あ マリエさん」
「とキョウヤだな」
 盆踊りの輪の中で不器用に踊るキョウヤに マリエが踊りながら相手をしている
「うむうむ 珍しい物を見たな」
「そうなの?」
「ああ」
 向こうで踊っている二人は こちらには気付いていないようで それはそれで二人は楽しそうにも見えた もっとも直接聞けば否定するだろうが
「どうする? 会場の端まで来たけど」
「花火しようよ」
「ジェノアもそれで良い?」
「はい」
「じゃあ 一度たけ君の部屋に戻ろうよ」
「そうだな」
 

ジオフロント 寮の前
「ねぇジェノア」
「何ですか」
 二人は花火の入った袋を持って 朝霧がその他の用意を持って降りてくるのを待っている所だった
「どうだった? ディープキスの味は」
「血の味がしました… って何言わせるんですか!」
 そうジェノアは裕美に言うが よく見ると裕美の方が顔を赤くしている
「あの 裕美さん?」
「だって あんなに情熱的って言うのかなぁ そーゆーの見たの初めてなんだもん」
「はぁ… 見ていたのですね」
「うん その後たけ君がぐったりするまで…」
 二人ともそれぞれに赤くなっている
 向こうから足音近づいてくる
「どうした 二人とも顔が紅いようだが」
「なんでもないの それより花火始めましょうたけ君」
「ああ」
 返事をしたタケオが水の入ったバケツを足下に置き 少し離れたところに蝋燭を立て灯をともす
「いいぞ」
 二人とも袋から思い思いの花火を取り出し 蝋燭の炎にその先を入れた
 一瞬の間をおいて明るく光を放つ花火はすぐに蝋燭から離され 残像を残しながら宙を彩る
 二つの光と 闇の織りなす景色に見とれた朝霧は
「綺麗だな」
 そう言って自分も花火に火を付け 闇に光を紡ぎ出すのだった
 
 
 

 三日目

朝 寮近くの湖のベンチ
「あーあ 今日でおしまいかぁ」
「 そうですね…」
「どうしたの? たけ君」
「いや なんでもない…」
「ジェノアも 二人とも変よ」
「まあな 今日は訓練もない 夜の花火大会が楽しみだな」
「花火と言えばジェノアさんはどんなのが好きなの? たけ君は線香花火だったよね」
「ああ」
「ワタシは普通の 手に持って使う物の方が」
「ふーん あたしはやっぱり尺玉かな」
 そう言いきる裕美を 遠い目で見つめるタケオ そのタケオの視線に気が付いたのか 裕美はタケオに背を向けるようにしてジェノアの方に振り返る
 タケオにも ジェノアにも その行為の意味する事は薄々気付こうとしていた
「静かな所に行こうか? それとも賑やかなところに行こうか?」
 そう提案したタケオだが
「ジェノアさんの部屋で」
 静かに言いはなつ裕美 その言葉に二人は静かに従うのだった
 が…
「もう一眠り」
 ジェノアとタケオ 二人が仲良く崩れたのは言うまでもない

「寝ることもあるのだな」
 頭に抱えた莫大な疑問を棚に上げたままに タケオはジェノアのベッドの上で寝ている裕美を見つめている
「そう みたいですね…」
 特に返せる言葉もなく ただ相槌を入れるジェノア
 二人の目の前の裕美は 静かに寝息をたてて寝ている まるで生きているかのように
 思わず手を伸ばして その額に触れようとするが 願いはかなうはずもなく タケオの手はすり抜けてゆく
「タケオさん…」
「分かってる 分かっているはずだ 私は…」
 タケオは自分に深く言いきかせるようにしながら手を戻す その手をジェノアは優しく包み込むように握った
 沈黙と寝息だけが部屋に広がる
 やがてジェノアはその沈黙に耐えられなくなったのか 力無くタケオの手を離した
「すまん」
 程なく放たれたタケオの言葉にジェノアは力無く生返事を返すのだった
 

出石の山の中
「クラム、がんばって」
 ぎゅっとその胸に抱きしめる朝霧の姉 静かに目を閉じ荒く乱れた息をしているシャム猫
 空には赤い夕焼けがゆっくりと迫ろうとしていた
 

夕刻
 日も暮れ三人で芦ノ湖湖畔の公園に来ていた ちょうど今タケオは出店に買い物に行っており ここにはジェノアと裕美の二人っきりとなっていた
 二人でベンチに座っていると裕美は口を開いた
「ねぇジェノア お願いがあるんだけど」
「何でしょう」
「体を貸してくれない?」
「What!?」
 思わず英語でそう返してしまうジェノア 気が付くと反射的に裕美から一歩後ずさっていた
「あのね たけ君を抱きしめたいの」
 そう言った裕美の瞳は真剣なものだった そして言葉は続く
「あたしはたけ君にさよならを言いにきたの だってあたしはもう死んじゃったから 死んだ人を想い続けるなんてたけ君がかわいそすぎるから… だから あたしは…」
 裕美の言葉はそれ以上続かなかった ジェノアが強く抱きしめたから
「裕美さん あなたは」
 悲しいまでもに一途な彼女を胸に抱きしめる 彼女の嗚咽が心に直接響いてくるのを感じながら…

 ふとジェノアは触れないはずの幽霊である裕美を抱きしめていることに気づいていた
(ワタシは裕美さんに触れている…)
「裕美さん タケオには直接触れられないのですか?」
 止めようとしてもなかなか止まらない嗚咽の中 裕美は嗚咽混じりの言葉を絞り出す
「だめだったの 何度も抱きしめようと思ったのに 触れないの すり抜けちゃうの」
 裕美の止められなくなった感情を 包み込むように ただ力強く抱きしめるジェノア
(タケオが裕美さんを受け入れていない? そんなはずはない あの人はそんなこと絶対に出来ない…)
 裕美を抱きしめたまま 曇り始めた天を仰ぎ見るようにして 心に深く言いきかせる
(主よ ワタシに力をください 勇気という名の力を…)
 

「たこ焼きは やはりふわふわでなくてはな」
 二人分のお茶とたこ焼きを片手に 二人の待っているベンチに急ぐ
(あれ? 今…)
 何か頭の中にノイズが走るが それが何を意味するのか分からずタケオは脚を進める
「お待たせ あれ? 裕美は?」
 タケオの質問に ジェノアは今まで浮かべたことの無いようないたずらっぽい微笑みを返し 隣に座るように手で促した
 タケオは大きな違和感を感じつつもとりあえず隣に座り お茶とたこ焼きもジェノアの反対側に置き 振り返る
 焦点が合わない
 二三度瞬きをするが その間にジェノアの体重がかかった それは彼女がそっと寄り添ってきたから
「え?」
 記憶のどこかに残った懐かしい
(何か 懐かしい感覚とジェノアの…)
 その懐かしい感覚の持ち主が頭の中にはっきりと浮かぶ 同時に大きな疑問も
「えっと… その…」
 見上げたジェノアの顔には 彼女に似つかわしくない子供のようにいたずらな笑みに見えた だがよく見れば その笑みは目に涙を浮かべている
「うん… 思うままに僕を抱きしめていいよ」
 視線をそこから外し 昔の あの時より前の 優しかった口調を思い出すように言葉を紡ぐ朝霧
 ジェノアの体がしがみつくように朝霧を抱きしめる
 朝霧は心に直接響く寂しさの響きを一つ残らず受け止めるように と抱き返そうと思ったが しっかりと両腕ごと抱きしめられていたためそれはかなわなかった
 少しの間をおいて タケオの予測よりも早く抱きしめる腕の力が抜ける ふと見上げたジェノアの顔には 彼女の物ではないもう一人の寂しそうな表情が浮かんでいる
「目を閉じて」
 ゆっくりとそして優しく言った言葉に 彼女は朝霧の方を不思議そうに見つめる
「大丈夫だよ」
 同じように出来るだけ優しくゆっくりと言葉を紡ぎながら 軽く会釈をするようにして動作を促す
 戸惑いつつも瞳を閉じた彼女
 タケオはゆっくりと立ち上がり彼女の前に来ると 迷わずに彼女と唇を会わせた
「っ!」
 驚いて逃げるように唇を話す彼女はそのまま立て続けに
「びっくりしたじゃないたけ君 あっ!」
「やっぱりひーちゃんか」
 うつむいてしまう彼女 少しの間だけ静寂が広がる
 タケオはそれをクスリとでも笑うような笑みを浮かべて 腕を組み彼女に背を向け
「まったく ひーちゃんはいつもいつも僕を引っかき回して いつも僕に難題を押しつけて 夏休みの宿題だってあんまりやらなくて 最後になっていつも僕のを写して…」
 幼なじみ故の歯に衣着せぬ言葉が 次から次へと朝霧の口から溢れ出る
 はじめのうちこそ それはタケオが今まで言えなかった事だと思って黙って聞いていたが 次第にエスカレートする内容に
「たけ君!」
 飛び出すように立ち上がり目の前のタケオに飛びかかろうとする ジェノアの体を借りた裕美 彼女はそのまま無抵抗なタケオをがっちりと捕まえ
「たぁーけぇーくぅん」
 だがこれに答えたタケオの声は裕美には意外な物だった
「ひーちゃんは元気がいちばんだよ だって僕は いつもひーちゃんに笑ってほしかったから だから僕は…」
 タケオの言葉が止まる
「僕は 笑顔を見たかったから…」
「たけ 君?」
「僕には浮かべられない 僕が失った笑顔がまぶしかったから…」
 遠い目をしたまま 止められない言葉を続けるタケオに 捕まえている腕の力が抜けてゆく
「僕はただひーちゃんが側にいて ひーちゃんの普通の笑顔を見つめていたかった…」
 タケオの言葉が止まる
 後ろから再び強く 力一杯抱きしめられたタケオ 想いの全てをもって強く そして放すまいと力強く抱きしめる裕美
 何時までも続くかに見えた包容は 不意にその力が抜ける形で終わりを迎えた
「時間来ちゃった…」
「え!?」
「大丈夫 今日が終わるまではこっちにいられるから」
 目の前に現れた裕美の言葉にほっとするタケオ だがすぐに再び彼は背後から抱きしめられた
 ジェノアはタケオの感触を確かめるように何度も抱きしめなおす
「大丈夫 僕は… 私はここに在る」
「うん」
 タケオの言葉に安心したのか ジェノアはタケオにそっと体をあずけるようにもたれかかる 頭一つ分の身長差があるからか小柄なタケオは苦しそうにしている やはり重いらしい
 ジェノアの重さに耐えているタケオを 困ったような表情で見つめている裕美と ふと視線をあげたジェノアの視線が合った
「もう いい?」
「え! あ はい…」
 すっと飛び退くようにタケオから離れたジェノア だが裕美はタケオとジェノアに
「そろそろ花火じゃない? 行こうよ」
 生返事を返す二人に いたずらな笑みを浮かべたまま歩き出した裕美を二人は追いかけて行った
 だが少ししてタケオは戻ってきた 買って来たたこ焼きとジュースをそのままにしていたのを思い出したからだが
 

 花火も終わり 屋台も全て公園から消えた つもる話しにきりはなく もう日が変わろうとしている…
「ねえ たけ君 あたし… 本当はたけ君にさよならを言いに来たの」
「… そう か…」
「気付いてたんだ…」
「ああ」
「もう 大丈夫よね ジェノアさんもいるし」
「馬鹿者!!」
 突然に声を上げた朝霧に驚く裕美
「たけ君?」
「ジェノアはひーちゃんの代わり等では断じてない!!」
 強い意志を感じさせる声が 裕美に叩き付けられる
「ごめんなさい …でも! あたしがたけ君のこと頼める人はもう ジェノアさんしかいないの あなたの事も」
「そんな事は 分かっている (死者は生者のために生きるに非ず 逆もまた然り …しかし) 分かっているからといって それに従えぬ事もある」
 (だが それでは 裕美の行為が無為になってしまう 私には死者のSystemなどわかり得ない だとすれば 私は…
 私とて 裕美に不幸にはなって欲しくない
 なれば
 しかし それでは裕美は
 なればこそ
 私は やはり裕美の心を縛ることは 出来ないのだな
 裕美の不幸を私はだれよりも望まぬ
 だとすれば
 なすべき事は一つか…
 彼の者の 望みのままに)
 押し黙っていた朝霧の口が声を発する
「そうか…」
 全く完全に感情の介入の余地のない声が 裕美に向けて発せられる
「私の想い人は 死んだのだな」
 朝霧の瞳が真っ直ぐに裕美に向けられる
「うん」
「…ひーちゃん 僕の事は心配いらない そして 忘れても構わない ひーちゃんはひーちゃんのために これからを過ごしてよ」
「たけ君 どうして? そんな事を?」

 とても硬い物が軋み合い悲鳴を上げている音が 静かに耳に届く

「僕は 僕の好きな人が苦しむのを 特に 僕の為に苦しむのを見て 平気でいられるようには出来てはいないよ だからお別れをしよう ひーちゃんの為に これが今の僕に出来る すべてだから」
「たけ君 強引なところ ちっとも変わっていないんだから…」
「裕美」
「たけ君 あたしたけ君が居たから幸せを感じられたの ありがとう …さようなら」
「ああ さよなら」

 その軋む音は金属音よりも心に響き渡り

 二人の視界から空へ吸い込まれるように 淡い光の中にとけ込むように裕美の姿が消えてゆく
「さようなら 裕美」

 そして 同時に心を直接揺さぶり 傷つけて行く

 二人の目に何も見えなくなってからしばらく空を見上げていた二人
 朝霧はゆっくりと振り返り
「ありがとう 帰ろうか」
 いつもと変わらぬ口調でそう言った その彼を見たジェノアはハンカチを取りだし
「タケオ これで涙を拭いて下さい」
「え?」
 戸惑いを隠せない 朝霧の声
「本当だ 涙が…」
 自分の左手の人差し指で頬を拭うようにし 指に付いた自身の涙を見て
「私が 泣いているのか(涙は まだ在ったのだな)…」
 一度 ジェノアの方へ視線を向け 受け取ったハンカチで涙を拭うが…
「涙腺も 壊れたのかな 涙が 止まらないよ」
 無表情なまま 戸惑いを隠せない朝霧の姿
「ねえ ジェノア 涙が 止まらないんだ」
 街灯に照らされ それままるで水銀のように 朝霧の頬を流れて行く とどまることなく
「それに さっきから なにか硬い物が軋むような音が聞こえるんだ(聞いたことがある音 どこか遠くで…)」
 逃げるようにして 空を見上げる朝霧 視界には星も月さえもなく ただ雲が低くたれ込めた闇夜が広がっている
「そうか… これは私の音か…(あの時 聞いた音だったんだな…)」
 視線を下げ 視界にジェノアが入らぬように 彼女に背を向け
「私の心が軋み 悲鳴を上げているのか…」

 彼から発せたれたのは なんの感情も交じらない フラットな声
 手を延ばせば届きそうな距離が とても遠く感じて でも身体は動かなくて…

 軋む音が一瞬途切れ 今度は何かが欠け はじけるような音が 二度三度心を突き抜けて行く

「! タケオ!」
 やっと発したその言葉に彼は振り向く 彼精一杯の笑顔と 未だ重力に引かれ頬を伝い落ちて行く 涙
「大丈夫 大丈夫だよジェノア 耐えられない哀しみはあっても こえられない哀しみはないんだ だから 大丈夫だよ」
 その言葉は とても優しく でも その姿はとても悲しくて…
 だからワタシは
「タケオ 辛かったら 泣いても良いんですよ?」
「… そんな事 言わないでよ」
 今までの タケオのフラットな声に哀しみが宿り
「そんな事 言われたら 僕は」
 それは次第に 涙声へと
「感情が止められない 助けて ねぇ ジェノアぁ 僕っ … どうにか なる」
 涙声のまま 未だワタシに微笑みを向けたまま自身を抱きしめ震え始めたタケオを 私は抱きしめる
 そうしないとタケオが壊れてしまいそうだったから
 強く 強く抱きしめる
「うあああああああああああーーーーーーーーー」
 タケオはワタシの胸の中で泣きじゃくりました ワタシは服が汚れるのも構わずにただ ただ彼を抱きしめていることしかできませんでした
 無力でした
 ワタシはただ 彼の側にいることしか できませんでした…

 彼は 産まれて初めて 感情にまかせて泣いていました
 闇夜から雨が降り始めても 彼は彼女の腕の中で泣いていました…
 

同刻 同公園の外れ
「行ったか さて これで良かったのか? お前は…」
 傘を差したままにそう言った彼の視線は 空の高みよりも遙か彼方を見つめていた…
「マスター」
「行こうか 考えることは後でも出来る 全ては あいつ自身の問題だからな」
「はい」
(しかし あれは浅葱の力なのか? それとも神無月の…)
 

同刻 出石の山の中
「お疲れさま」
 涙声の彼女のセンサーが収納される
 彼女の腕の中では ついさっき息絶えたシャム猫が ゆっくりと冷たくなっていく
 涙で視界を曇らせたまま 彼女は空を見上げる 銀のかけらを敷き詰めたようなまばゆいばかりの空を
 
 
 

後日談
 芦ノ湖湖畔の例のベンチにて
「なあ朝霧 この前廊下でジェノアと誰かと話していたようだけど 誰と話していたんだよ?」
「大和 世の中には知らない方が良いこともあるんだ」
 さらりと返した朝霧だったが これでは彼の好奇心をかき立てているようなもので…
「なんだよそれ 話しても減る物じゃないだろ」
 一度視線を大和から外し 何かを見つめるようにした後 再び視線を戻した朝霧は口を開き
「最後まで聞くというのなら 話さないでもないが」
「どうせ暇だしな」
「分かった 逃げるなよ」
 遠い眼差しで朝霧は語り出す お盆の出来事を

 半分まで話したところで ふと視線を大和の方に向けたつもりだったが
 朝霧の視界には何者も存在していなかった
「奇跡を一つ下さい か…」
 ふと脳裏をよぎった歌の歌詞を呟いて 視線を波打ち際に向け 頬杖をつき 物思いに耽る朝霧
(私が関わったことで ひーちゃんが死んだのなら 私は…
 だがひーちゃんは幸せだったと言ってくれた それがたとえ嘘だったとしても 私はあの言葉に救われたのだな
 忘れないよ この命のある限り
 そして 時の尽きぬうちは)

 少しの間 波の音に耳を傾けていた彼だが
 立ち上がるとこのベンチから離れて行った

 あとには波の音だけが 誰もいなくなったベンチを賑わせていた
 

おわり


 

おあとに…
 しかし なんかこう 私は主人公をいじめるのが好きなのかなぁ…
 と 思わずそんなことを考えないでもないわけで…

 実はこの死んだ人が帰ってくるお盆のパターンともう一つ 候補があったんです
 それは 産まれるはずの無かった朝霧と裕美の子供が神無月の創り出した因果律への干渉によって発生してしまい 朝霧を訪ねてくるが最後まで会えないと言うものでした ただ こちらの方はnervのセキュリティーにバリバリに引っかかってしまうので その辺りの問題が解決できなかったために諦めました
 その場合の子供の名は"神無月 香苗" 左目だけが朝霧と同じ碧眼のポニーテールの女の子 朝霧姉より神有月を譲り受けている
 しかし この裕美再びのパターンの場合"メリークリスマスと言わないで"とだかなり内容がぶってきます その辺りが一番心配なのですが…
 
 

設定/出し惜しみは無いはず…

 朝霧 健夫
 砕けた心が集まって現在の人格をなす 感情に伴う表情があまりない
 好奇心などはともかく 通常は感情のままに行動するのをどちらかと言えば嫌っている
 事件後の精神的なリハビリを成した家族愛を通して愛される事の意味を知り ジェノア・ニルヴァーノに対しては不器用ながらも全力を以て愛しようとしており 例え彼女が許さなくとも彼女の為ならば命を投げ出すことを厭わない
 幼なじみにして初恋の人だった宗谷 裕美と 共に在ろうとする存在ジェノア・ニルヴァーノは 本人にとってはまったく別の存在事象であり 比較こそすれ同一視することはない
 ジェノアとは違い彼女を失っても 自ら瓦解するようなことはない だがおそらくその時は彼の心にもう一つ二度と埋まることのない虚無が産まれるのだろうな…

 クラスの中ではそれぞれに強烈な個性を持っているためにあまり特異な存在ではないが 社会生活を営む上ではクラスの中でも敵にしたくないランクの上位に入る あとあまり知られていないが実は彼 結構情が深い…
 容姿自体はかわいい部類に入るが 全ての物を観察対象としている眼差しの為に普段はそうは見えない 実は非常に女装が似合う「性別を超えた素材の差って大きいよな」とは大和の言葉だったか…
 
 

 宗谷 裕美(今回の場合)
 本人は「朝霧が好き」と強く願う意識と朝霧自身の深層での願いが神無月を通し クラムの想いを力にして形となった物
 目的は朝霧に「さよなら」を言う事と ジェノアに直接朝霧のことを頼むこと
 仏教だったと思うが 成仏するのに強い執着があるとその妨げになる… と言う辺りから今回の話を書き始めた ようするに朝霧が思っているよりもはるかに彼女は朝霧のことを気にかけていたのだ
 作中では語っていないが、歌っていたのはアクセス(To Heart OVA ED)
 
 

 ジェノア・ニルヴァーノ
 教会時代に一緒に生活していた孤児達の世話を通じて家族的に愛することを知る 朝霧と知り合ってからは朝霧に自身の存在の全てを受け入れてくれることを一心に望んでいる 朝霧に対して積極的で情熱的な態度や行動に出る事があるが それは形容できない漠然とした不安の裏返しであり 質的には恋人にと言うよりも自らを包み込んでくれる親にと言う意味合いの方が大きい
 同時にかわいい物好きであり 何故か朝霧も彼女のかわいい物の範疇に入っている 端から見るとあつあつなカップルに見えるのはその点もある
 ジェノアに一人の人間として自立した精神を持って欲しいという朝霧の想いとは逆に 朝霧を失ったら彼女は自ら瓦解するくらいに精神そのものは朝霧に依存している
 
 

 芦ノ湖湖畔の公園 例のベンチ
 "メリークリスマスと言わないで"にて朝霧が裕美に向かって忘れないよと誓ったあのベンチである 前々から朝霧お気に入りの場所で 地上にて良く考え事をするときに座っていることが多い 近くに某コンビニがある 事件の後は裕美を思い出すために座っていることが多かった…

 神無月
 鎌倉時代後期のユウロス制作 逆反りの刀の姿をした祭器 扱う物の魔力にもよるが邪を払い清める効果は絶大で ユウロスの制作という事項も頷ける ただ神無月家の血族でなければ祭器としては扱えないようになっており 現在の主である朝霧健夫は34代目の主である
 また 副次的な機能として主の気にかける者の精神状態が音のように聞こえると言う 人間のみならず意識体の意識まで感じることが出来るテレパス的能力を持つ ただ朝霧自身もその能力を僅かながら持っている
 因みにこの祭器自身は既につくも神になっており ユウロス製造のため因果律に若干の揺らぎを生じさせることがある

 OA機器用の縁なしの大きな丸眼鏡
 父親から送られた物で かなり古いデザインの物
 朝霧自身は気付いていないが 実はこれをかけているとテレパス機能をOFFに出来る

 クラム
 裕美が飼っていたシャム猫 裕美にとてもなついていた 因みにメス

 ジオフロントに広がる森 奥地
 戦略上さほど重要でない上にまったく手入れがされていない 生えている木はどれも樹齢30年未満だが密度は原生林を思わせる程である
 奥地まで行かない辺りでよくサバゲーをしている
 

 しまぷ(う)
 一連の話を書くのにずっとTo Heartの曲を聴き続けていた ある意味諸悪の根元
 


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