リリカルなのは、双子の静 第十九話



「やっぱり、実戦形式にした方が、色々と分かると思うんだけど…」
 戸惑う静に、フェイトはおずおずと言葉を続けた。
「ああ、そう言うことなのね」
 ようやくフェイトの言いたい事を理解した静は、そう言って安堵する。
「それなら話は早いし、まだ時間があるから艦長の許可があれば、すぐにでも出来るけど?」
「明日に差し支えると問題があるわね。伊勢、どうかしら?」
「それでしたら、出力を抑えれば、三戦くらいは問題ないと思います。元々今回の模擬戦闘訓練の趣旨は、即席で疎かにした基礎の訓練なのですから、その趣旨にさえ添っていれば問題は少ないと思います」
 伊勢の言葉に静は納得すると、フェイトへと向き直り、
「ではフェイト。許可が得られたら、おつきあい願えるかしら?」
 まるでダンスにでも誘うかのように、手を差し伸べるのだった。
「うん!」
 喜んで静の手を取るフェイト。
「…こう言う所、静ちゃんって変わってるよね」
「案外こっちが本当の静なのかもしれないねぇ」
 エイミィとアルフは静のまだ知らぬ一面を見て、そう呟くのだった。


 十数分後、静達はアースラの訓練室にいた。
「それにしても、みんな暇なのね」
 いつの間にかやってきたギャラリーの面々を見ながらに静は零し、フェイトはその様子にただ苦笑するしかなかった。
「そろそろいいかな。主なルールは攻撃出力50%、制限時間は10分いいね!?」
 教官役を買って出たクロノは、向き合った二人に確認を取り、二人はそれぞれに返事を返した。
「伊勢、バリアジャケット和装、展開」
『了解、バリアジャケット和装Ver.4.1.2展開』
 伊勢が念話で返事を返すと共に、静の姿は一瞬で私服からバリアジャケット姿へと変わった。
 バイザーで目を隠し、弓術防具を身につけた小さな巫女。という以前と変わらない静のバリアジャケット姿だ。
 改めて見る事になったバリアジャケット姿の静、その様相が可愛いと、クロノに咳払いをされ自身もバリアジャケットを展開するまで、フェイトは静の姿を見つめ続けていた。
 そのフェイトのバリアジャケット姿は、静にとっては「恥ずかしくないのかな」との言葉をいつも飲んでいたりする代物だった。
「さて、いいね?」
 言外にクロノの呆れが混じるが、フェイトと静は気を取り直して、真面目に向かい合ったところで、始まりの合図が告げられた。

 二人は同時に飛び上がる。
 その加速度はほぼ同等だったが、静は先にそのベクトルを変え、訓練室の比較的低い空間へと向かう。
 反対に高度を取ったフェイトが、静がこちらに背を向けて離れつつある事を確認した。
 背を向けているという無防備さに戸惑いつつも、バルディッシュをサイズモードへと移行、振りかぶってArc Saberを放とうとしたその矢先、一瞬静との間に光の線が見え、バリアジャケットに直接純粋魔力攻撃を受けた負荷がかかる。
「今のが!?」
 お昼の訓練の様子の一部を見せて貰ったときに、静がそういった攻撃魔法を使うのを目にした。実際に受けてみて、そのありえないほどの弾速と事前動作の無さに驚愕する。
「あれは、避けられない…」
 フェイトは防御魔法に回す魔力を上げる、自身の機動性と引き替えにして。そして距離を取ることを止め、静へと迫る。
「…ディバインシューター、一番二番、シュート」
 静がDivine Shooterを二つ展開、それをやや両側から挟み込むようにフェイトへと放つ。
 フェイトは自身から見て、先行してくる左側からのDivine Shooterを、バルティッシュで飛び込みながらに切り伏せ、やや遅れて右側から迫るDivine Shooterを、返す刃で切り払おうとバルディッシュを振るったが、ギリギリで逃げられてしまった。
「…レーザーバインド」
 バルディッシュによる直接攻撃の間合いの外とはいえ、かなり近くまで接近していたので、静が立て続けに魔法を展開するのを、直接耳にしたフェイトは咄嗟に防御を固める。
「シールド!」
「Round Shield.」
 展開した直後の防御魔法に、光の線が突き付けられた。
 静のLaser Bindだ。それは補助に分類される束縛系魔法であり、出力を押さえている現在、威力がそうあるわけではないが、タイミングがギリギリだった事に、フェイトは焦りを覚える。
 本来フェイトは防御して受け止めるよりも、運動性能をもって回避する事に長け、戦闘スタイルもその方向に確立している。バリアジャケットのデザインも、その方向に最適化されているのだが、それは静は知らない事だ。
 とは言えそんなバリアジャケットを含めても、防御力自体は魔力ランクに比例してかなりのものなのだが、静の放つコヒーレントな光の特性を持つ魔法に対して、回避を主体に戦闘を組み立てる事の困難さをフェイトは実感した。
 フェイトの表情が険しい物になるのを、幾つか展開しているサーチャーで確認しつつ、静は先程回避させたDivine Shooterをフェイトの死角に回して、フェイトの背中へと向かわせる。
「Defensor.」
 唐突にバルディッシュが防御魔法を展開した直後、フェイトは背後で魔力攻撃を防いだ事を感じた。
 フェイトが焦りの表情を見せ、静は戸惑いの表情を見せる。
 数秒停滞の後、再び動き出した二人を見やりながら、クロノは二人の内心を推測していた。
 フェイトは静の光の速度を持つ魔法に戸惑っていたのだろうと。そして静はフェイトの動きが鈍い事を理解できなかったのだろうと。
 フェイトが攻勢に出ようとする度に、静がその弾速で出鼻をくじき、フェイトが近接攻撃に移れば、周囲にバインド系の魔法を展開し、その行動を阻む。そして静が複数のDivine Shooterをメインに攻勢に出ると、鮮やかにフェイトがDivine Shooterを捌いて行く。
 そんな攻防が続けられる。
「相性が悪いみたいだね」
「出力を押さえているから、余計に相性が顕著に出てくるんだろう」
 ユーノの言葉にそう返しながら、クロノは緩やかに位置関係を変え続ける二人を見上げ続ける。
 クロノやリンディ、またユーノの目から見ても、フェイトはしっかりと訓練されている魔導師だ。そのフェイトと出力を制限し、相性の問題を感じるとは言え、お互いに手詰まりの状態に持って行けている静の上達の早さに驚かされる。
「明日午前の診断で問題なければ、通常の模擬戦と同じ所までリミットを上げる事になるから、その時また考えればいい。なのははともかく、静は基礎についてあまり教えることがない」
 これも、静の実戦経験がほぼ無い事が幸いしているのか、戦闘の基礎を理解した上で自分なりに組み立て始めている。少なくともクロノはそう結論を下していた。
「それは、補助魔法の適正が高いから?」
「それもあるが、性格的な面もあるんだろうな」
 なのはと静、二人の戦闘傾向は、なのはは力任せな、静は技任せな傾向に分かれる。これは、クロノとユーノの共通見解だ。
 戦闘の基礎という物は、技術的な部分が大きいので、早々と自身の戦闘様式に組み込んでしまった静には、今回の模擬戦の目標はほぼクリアしたと言い切れる。
 反面、なのはの方はどうしても力押しの側面があり、その部分を矯正するように指導している最中にあった。
「そろそろ時間だな」
 決着が付くような模擬戦ではない為、時間いっぱいまで二人の攻防は続けられた。
 休憩中にそれぞれ今までとは異なる方法で攻撃するようにクロノから指示を受け、残り二ラウンドはそれぞれに試行錯誤しながらの模擬戦となった。
 模擬戦後、なのはが自分もやりたいと申し出たのだが、クロノにお昼の訓練で魔力を使いすぎたと指摘されて却下された。




 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、食堂。艦内時間、朝。
「いつも朝ご飯前に体を動かしていたから、何か調子が今一つな気がするわ」
「ラジオ体操くらいなら、データがありますが…」
「明日はやってみましょうか」
 昨日のフェイトとの模擬戦のデータを、時間つぶしに目を通して行く。
「今のところRapid Laserぐらいしか、フェイトの速度に十分に対応できる兵装はないわね」
「現時点で使用可能としている他の攻撃兵装は、Hyper Laser, Divine Shooterの二つですから、仕方ないのでは?」
 伊勢の言葉に静は頷き、自身の使用可能及び使用した攻撃魔法をリストしてみる。
 Rapid Laser, Hyper Laser, Divine Shooter, Starlight Penetration. の四つ。
「今にして思えば、基準となる威力のレーザー系攻撃魔法が無いのよね」
「それに関しては、これから基準を作っていけばいいのでは?」
「それもそうね、名前は… うーん…」
 静は以前エイミィに指摘された事を思い出しながら、普通の威力のレーザー系攻撃魔法の名前に思い悩む。
「…standard. 位しか思いつかないわね」
「ではStandard Laser. で仮登録しておきます」
「お願い。それと、仮登録で良いから、魔法を対光学防御にも回して、レーザー攻撃魔法を併用した最大攻撃を、そうね… Vanishing Basterの名で登録しておいて」
「了解。なのはさんではありませんが、全力の一撃という趣旨の攻撃ですね?」
「そんな感じね。細かい所は追々作ってゆくとしましょう、非殺傷設定には全く出来ないものになりそうだけどね…」


 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、ブリッジ。艦内時間、お昼前。
「んー、単純スペックだけならなのはちゃんの方が優位ですね。変換資質とレアスキルが入れば静ちゃんが優位になりますが…」
 エイミィは、なのは達が午前中に受けた診断で得られたデータを、リンディへの提出用に纏め上げた物を見つめる。
「二人とも、本当にすごい資質の持ち主ね」
「過去に静ちゃんと同じような変換資質を持つ魔導師はいたのですが、ここまでの魔力ランクではありませんでしたし、変換効率も静ちゃん程ではないですからね」
 エイミィの声に、戸惑いのような物が混じることに気付いたリンディは、その事について今は触れずに続きを促す。
「診断の結果だけ言えば、これからの訓練では、普通に非殺傷設定だけで訓練しても問題はないです」
「そう、分かったわ。 ところでエイミィは静ちゃんと親しいようだけど、何か聞いてないかしら?」
 リンディの質問に、エイミィは一呼吸置いて答える事にした。
「それですが、管理局にとっては、結構厳しい事を言われました」
「どんな事かしら?」
「それはですね、管理局の歴史を話す機会があって、それで魔導師の人材不足の事も話したんです。その時に静ちゃんはこう言ったんですよ『自縄自縛に陥っているのね、仮に私が百人いても、焼け石に水よ。それにトップの顔が見えない組織なんてろくな物じゃないわって』」
「…相変わらずね」
 エイミィの前でリンディは絞り出すように言葉を紡いだ。
 現在の膨張した管理世界全体では、実戦に耐えうる程の魔力資質保持者は割合としてはそうまで多くはなく、その殆どを管理局が抱えている。現状でも治安が悪い地域というのは多いし、テロ等は後を絶たない。
 仮になのはや静のような資質の管理局員が100人、いや1000人程増えた所で、管理世界全体に対しては現状より少しマシになる、かもしれない程度だろうと思うのだ。
 正面戦力だけが、管理局の力ではないと言う事を、身を以て体験してきたからこその意見だ。
 更に気付かされたのは、トップの顔を知らない事だった。リンディの知る限りでは、管理局の創設者がそのまま150年近く君臨し続けている事になる。そういう魔法でも使っているのだろうという話ではあるが、彼らが物理的に動く人物として表に出てきた事は、リンディの知る限り一度もないのだ。
「本当に、是非欲しいわね…」
 管理局の抱える問題の一端を見抜く静に対してリンディはそう呟いた。
 出会った当時の静は、管理局に対して非常に慎重になっていたという点もあり、リンディの記憶にやや強く残っていた。おそらく、現時点でも子供なりとは言え、組織としての管理局にはかなりの注意を払っているだろう。
「艦長?」
「独り言よ。これから訓練室で、明日の最終模擬戦の為の模擬戦の訓練ね」
「はい、国際救助隊の皆さんは既に訓練室におられます」
「じゃあここはよろしく。訓練室に行ってくるわ」
「了解」
 リンディの姿がブリッジから消え、エイミィが一人ブリッジに残されて数秒後。
「なのはちゃんは、多分管理局に入ると思うけど。静ちゃんは無理だと思いますよ、艦長。友人としては心強いかもしれませんが…」
 そう呟くエイミィがいるのだった。


 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、食堂。艦内時間、お昼時。
「中華料理ね…」
「本当だ、中華だねー」
 クロノに案内されて、用意されていた料理に、静となのははそれぞれに驚く。
「ああ、聞いてなかったか?また敬吾さんが作ってくれたんだよ」
「旅行中、食べ物に困ったら、中華料理を食べろと言う話を思い出したわ」
「静ちゃん、それは酷いんじゃない?」
 丁度静の背後にやってきた敬吾が、げんなりとして答えた。
「何を言っているのよ。どんな文化の中に入って行っても、交わらず我を貫くが如く存在する中華料理は、海外旅行での最終手段なのよ?」
「話に聞いた事はあるけど、そういう物なのかい?」
「少なくとも、私はそう聞いているわ」
「それって、フィアッセさんからだっけ?」
「フィアッセさんの友人の、アイリーンさんが言っていたのよ」
「アイリーン… ああ、あの」
 敬吾には二人の会話に合点がいったのか、納得する。
「そういえば。日本食は、殆どの国で材料を問わずに内包してしまう恐怖の料理文化だ。と言う事を聞いた事があるんだが」
「醤油で、世界の食材を侵すのね。怖いわ…」
「…あんまり怖そうじゃないよね?静」
「そう? 中華料理だと思って食べたら、実は日本食だったとか、怖いと思わない?」
「怖いな、それは…」
 真剣になのはに問いかける静に、しみじみ返す敬吾。
「美味しかったら、何でも良いんじゃないかな?」
「姉さん、それは、言ってはいけない言葉よ?」
「ふえ?」
 なのははキョトンとするが、静の横に立って神妙に頷いている敬吾を見て「そうなんだ」と納得するのだった。
 その後レニーや知佳も同席して、昼食となるのだった。


 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、訓練室。艦内時間お昼過ぎ。
 開始されたなのはと静の模擬戦を皆が見上げている。当然、隔離されているフェイトとアルフはこの場にはおらず、別室で中継を見ている。
 訓練室の空間が広いと言っても、ひらひらと飛ぶ静には、狭そうに見える。
 なのははDivine Shooterでそれを狙うが、静はDivine Shooterを自分の周囲に展開させて、防御魔法と併用する事で完璧に防いでいた。
「守ってばかりなら!」
 そう言って攻勢に出ようとしたなのはがDivine Busterの射撃に移ろうとした瞬間、静は待ってましたとばかりにRapid Laserで狙い撃つ。
「効かないよ!」
 なのはの言葉の通り、静のRapid Laserはなのはの防御を通り抜けることなく、光を散らせ防御魔法に負荷だけを与えてゆく。
 そして、なのはは防ぎながら一度中断したDivine Busterの術式を組み立てて行く。
 静もそれに併せるようにRound Shieldを展開した。
「行くよ! ディバインッ、バスタァー!」
 撃ち出された桜色の魔力の奔流が静に向かう。
 地球的な一般概念での空戦なら接触距離にある二人の位置関係の近さから、Divine Busterの奔流は一瞬で静の展開しているRound Shieldに到達し、静をはね飛ばした。
 弾き飛ばされた静の悲鳴に重なるように、なのはの戸惑った声が訓練室に響く。
 静はRound Shieldにさらに反発力を付加したのだが、思いっきり吹き飛ばされる事になって驚いていたのだった。
 大出力の魔力流を正確に目標に注ぐ為に、その方向を固定して打ち出すのが、現在のなのはのDivine Busterだ。それ故に、相手に有効打を与えられなかった場合は、中断処理に割く数秒の間、バリアジャケットのみという防御の低い状態を曝す事になる。
 とは言え、静が何とか体勢を立て直した頃には、なのはも中断処理を終えていた。


「…正面からまともに受ける必要はないんだよね」
 あてがわれた部屋の中、エイミィからの中継で模擬戦をフェイトと見ているアルフは、静が自らを弾く事によってDivine Busterのダメージを最小限に止めたのだろうと考えた。
「それにしても、弾かれ過ぎじゃないかい」
「たしかに…」
 アルフの指摘にフェイトは頷く。
 再び動き始めたなのはと静だが、少ししてからクロノの制止により模擬戦は止められた。
「何があったんだろう」
『なのはちゃんのあの魔法が強すぎて、フィールドに異常が出そうだからこれ以上は出来ないのよ』
 フェイトの言葉に、エイミィから返事が返る。
「ならしょうがないかぁ」
『ちなみに、静ちゃんの魔法だと、もっと小さな力でフィールドをすり抜けちゃうんだよね』
「すり抜けるって、なんだいそりゃあ?」
『それは…、おっと、移動するみたいだね。ちょっと仕事に戻るね』
 エイミィはそう言って、職務へと戻った。
 訓練室から皆が出て行く様子を最後に、映像を流していた通信パネルが閉じられた。


 第324無人世界。
 第97管理外世界から、比較的近い位置にあり。少々の条件で人が生活できる環境にある世界だと、敬語達は説明を受けていた。
 実際は少しばかり距離があるのだが、少々の条件で人が生活できる環境にある世界である事には間違いはない。
「緑豊かな所だなぁ」
「本当ですね」
 実際に来てみて、国際救助隊の面々はその様子に見とれている。
「この辺りは、地球でも良く似た景色があるので選んでみたんですけど、どうでしょうか」
「本当に異世界に来たのね」
 空気の匂いが違うんだなと、静はそう思いながらに、緑あふれる草原を見下ろしていた。
「さて、そろそろ始めようか。一応明日が本番だったんだが、本番だと思ってやってくれて構わない」
 クロノの言葉になのはは「はい」と、静は頷いて答えた。


  高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、居室。
『お待たせー、中継を再開するね』
 エイミィからの連絡と共に、なのはと静の模擬戦の様子が映し出される。
「ようやく再開かぁ」
 フェイトとアルフの視線の先、映し出された3つの映像。それぞれなのはを追い続けるものと、静を追い続けるもの、そして両者を画面に納め続けるものだ。
「それにしても、静は器用だね。全部の方向を一辺に見ているみたいだよ」
『そうだよね。静ちゃんは常時サーチャーを複数起動してて、死角を減らしているんだって』
 ようやく、手が空いたのかエイミィの解説がつくようになった。
「それなのに、なのはと互角に渡り合ってるのはすごいね」
『静ちゃんの場合、飛ぶのには魔法は使っていないんだよ』
 映像を通して攻防を続ける静となのは。
『さすがにさっきと違って、使用される魔力が大きいね。特に静ちゃん』
 エイミィの解説に、訓練室の壁を貫いてしまう事を恐れて手加減していたんじゃないかと、フェイトは思った。
「それにしても、なんか単調だね」
 暫く二人を見ていたアルフはそう告げる。
 浮遊砲台のように浮かんで、防御と攻撃をするなのは、対してひらひらと飛びながら攻撃と回避と防御をこなす静。
『まだ攻撃手段が少ないからしょうがないんじゃないかなぁ』
 エイミィはフェイト達の前に別ウインドウを開いて、二人が今回の模擬戦で使用している魔法をリストアップした。
「少ないよね? フェイト…」
「う、うん」
『なのはちゃんが全部で五つ、その内攻撃魔法は二つ。静ちゃんが全部で七つ、こちらも攻撃魔法は二つ』
「そういえば、どっちも接近戦はしていないよね?」
『それは、しょうがないんじゃないかなぁ。二人とも近接攻撃魔法無いしね』
 なのはがDivine Busterを撃ち、静がひらひらとそれを避ける。
 勿論二人とも真剣な表情で、お互いの動向を見ているはずなのだが、サーチャーも使っている静の視線は、常になのはの方へ向いている訳ではないので、傍目からは静の方が余裕があるのではないかとも思えるのだ。
 Divine Shooterの使い方一つにしても二人の方向性は違う、なのははとても攻撃的に扱うが、静は防御的に扱っている。
 誘導方法一つとっても、誘導重視のなのはと、加速重視の静と言う具合に違いがはっきりと現れていた。


 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、居室。艦内時間、夕刻。
 夕食を国際救助隊のメンバーと共に過ごし、彼らの下艦を見送って、静達はそれぞれの部屋に戻り。
 今日の模擬戦のデブリーフィングを伊勢と共に終わらせ、新しい魔法のアイディアを羅列していっている所だった。
「まぁ、そんなに簡単に有効な物が出てくる訳じゃないんだけどね」
「とりあえずは、Divine Shooter系の近接ジェット弾頭型と、同型の近接散弾型の二種類なら、使用する魔力は増えますが、あまりいじらずに出来ると思います」
「了解、出来ればStandard Laserも考えたいけど、明確なイメージが湧かないわね」
「視界を遮らないという意味では、射撃用スフィアからの発振が一番良いと思いますが」
「どのくらいの周波数で、どの程度の太さのコヒーレント光にするのかがね。明確にはイメージできないのよ」
「幾つかサンプルを出しますね」
 静の前にゲームやアニメで使用された光学系兵装のデータが出てくる。
「さすがに光学兵器を実用化したものは、私の世界では無かったわね」
「はい、それでゲームやアニメで使用された物を参考にして、サイズを変換して対比しています。ただ、本来静が発振する周波数は、可視光線内には無いので見えません」
「やっぱり、そうなのね。見えないのは、利点も欠点もあるわ、ともかく基本的にスフィアから発振するとして… どうしようかしら」
 どこから手を着けようかと考え始めたその時に、来訪者を告げるホーンが鳴らされた。
『やっほー静ちゃん。エイミィさんでーす』
「今開けます。伊勢、一度閉じておいて」
「了解」
 席を立ち、出入り口へと向かう静は、エイミィの意見も聞こうと思いながら、ロックを解きエイミィを出迎える。
「いらっしゃい。クロノも一緒なのね」
「構わないかな?」
「丁度良かったわ、実戦経験もそこそこあるだろうから」
「何の話だ?」
「まあ、立ち話もなんでしょ? 入って」
 二人を招き入れた静は、自身の魔力特性であるレーザーを使用する、基本的な魔法を攻撃手段として提案した。
「手数を増やすという意味では悪くないが、中途半端な攻撃にならないかが心配だな」
「いっそのこと、なのはちゃんのDivine Buster位の威力にしてみたら?」
「エイミィ、なのはのあれは、かなりの威力があるんだが。分かって言っているのか? 仮に静の魔法にあの威力を適応すれば、大抵の物は貫通してしまって非常に危険だ」
「圧縮したらアースラの装甲すら貫通だからねー」
「正しくは、圧縮行程で波長まで圧縮されて、その短すぎる波長のせいですり抜けるんだがな」
「そうね…」
 静はRapid Laserが、殆ど自身に負担がかからない程度の攻撃を連射する魔法として威力を定めている事を二人に話した上で、なのはのDivine Busterの負荷を参考に出力を考えてみる事を告げた。
「とりあえずは、それで良いんじゃないか? 細かい改良は伊勢もいるから苦労はしないだろう?」
「ええ、とても助かっているわ」
「さて、難しい話はここまでにして。温泉の話を聞かせてよ」
「そうね」と、気分を変えて海鳴近辺の温泉の話を、伊勢のデータも交えて話して行く。
 エイミィは興味津々で話し加わっていたが、クロノは全国の温泉の話題に変わると、その豊富さに驚きと、戸惑いを隠せないでいた。
 その理由が、火山国であり、地震が非常に多いと言う事だ。
 とは言え静とエイミィの二人は、時折クロノを交えながら温泉談義で盛り上がるのだった。




 高次空間内、次元空間航行艦船アースラ、食堂。艦内時間、朝。
「起きてから体を動かす事に慣れすぎているのかしらね」
 伊勢にラジオ体操の音楽を流して貰い、居室で軽い運動を終えた静は、やや早い時間に食堂に着いていた。
 ここに来るまで歩いてきたのだが、昨日より体の調子が良い事を実感したのだ。
「全身がちゃんとほぐれているからではないでしょうか」
「そうね」
「可能なら、今日は試射をしてみたい所ね」
「Divine Shooterの近接ジェット弾頭型と、近接散弾型、それとStandard Laserですね?」
「用途としては近接ジェット弾頭型は防御魔法への貫通力に特化した物で、近接散弾型は爆発させるよりかはましな攻撃力を求めた物。使いどころを間違えると、Divine Shooter通常型より威力は劣るわね」
 伊勢と相談しながら、飲み物を一つ用意して、やや端の方の席に座り、Divine Shooterの術式をウインドウに展開する。
「…そう言えば、Divine Shooterでシールドを展開できないかしら」
「出来ない事はないと思いますが、有効時間や強度の制御はかなり難しくなると思います」
「シールドとリフレクター、後は遅延フィールドとか出来れば良いけど、その辺は追々狙うとしましょうか」
「分かりました。開発計画案で保持しておきます」
「出来るかどうかは別としてね」
「はい」
 それから暫く、二つの試作魔法の調整をしていると、フェイトがアルフを伴ってやって来た。
 挨拶を交わして席に着いた所で、フェイトが質問してきた。
「それは、何をしているの?」
「Divine Shooterの派生型が出来ないか試している所なのよ。今仮組してあるのは、より強固な防御を突破するための近接ジェット弾頭型と、当てることを最優先にした近接散弾型の二つね」
「近接ジェット? 散弾?」
「近接ジェットは、ほぼ接触距離での指向性を持った魔力ジェットを発生させて、防御魔法貫通性能に特化した物。散弾はDivine Shooterを目標付近で爆発させるのではなく、1秒程度で消える小型Divine Shooterをばらまく感じの物ね」
 静の説明を聞いて、フェイトはふと疑問に思ったことをぶつけてみることにした。
「何となく分かるけど、なんで作ろうと思ったの?」
「そうね… 前者はお姉ちゃんの防御を突破するため、後者は貴方により当てる為よ」
「そ、そうなんだ」
「本当は、今思いついたの」
「なんだいそりゃあ」
 煙に巻くような静の言葉に、アルフは呆れ、フェイトはいったい何が本当の静の考えなのか分からなくなっていた。
 静は二人のその様子に、ただ「冗談よ」と言って、ごく自然な笑みを浮かべるのだった。


 第324無人世界。
 昨日と同じ風景の中、緑溢れる丘の上に一行は転送された。
「さっき言ったとおりに準備運動をしておいてくれ、こちらも準備があるから」
 クロノの説明に、なのはと静はそれぞれに返事を返し、準備運動を始める。
 既に二人ともバリアジャケット姿であり、静は和装のバリアジャケットを展開し、バイザーを上げている。
 敬吾達は機器のセッティングをしている局員から、少し離れた場所でバーベキュー用のグリルをセッティングしている。
 どうやら本気でバーベキューをするつもりらしい。
 静は一通り体をほぐした後、作業監督をしているクロノの元へと近づき、なのはの物も合わせて周囲十キロ圏内の飛行許可と、準備運動としての魔法の試射を申し出た。
「ああ、構わない。こっちはもう暫くかかる。なのはにはやり過ぎないように言っておいてくれ」
 そんなクロノの許可を得て、静はなのはの元へと戻る。
「クロノから、周囲10キロ内で飛行許可と、事前の準備運動としての魔法使用許可をもらってきたわ」
「うん、ありがとう」
「後、クロノから伝言『やりすぎないように』って」
 なのはは苦笑してFlier Finを展開すると、
「先に飛んでるね」
 そう言って飛び上がって行った。
「伊勢、現在位置をマーク。惑星の… 惑星よね?ここ…」
「はい。地球とほぼ同サイズの惑星です」
「方位を表示できるかしら?」
「誤差1度程になりますが、暫定で固定します」
「十分よ。此処を基点として、高度と距離表示をよろしく」
「了解。現在位置をマーク、方位距離高度、及び基点方向を表示します」
「じゃあ、行きましょう」
 そう言って、静はバイザーを下ろし、吸い込まれるように空へと飛び込んで行った。


「もうほとんど見えないな」
 一面の青空の中に、静であろう白い点が空へと消えたのを最後に、敬吾は見上げるのを止めた。
「あっという間に見えなくなったわね」
 知佳はいまだに空を見上げ続けている。
 知佳が知る静は、管理世界の魔法という物を知ってから、HGSの物も含めて、その力を伸ばす事にかなりの時間を費やしている。
 双子揃って持った頭の良さは、管理世界の魔法を習得する上でも有利に働き、フォレスとリアーナからも、その能力を賞賛されてはいる。
 それは、なのはのように新しい玩具に執着するような物ではなく、どちらかと言えば見えない敵と必死に戦っているような、そんな風に思える物だった。
 やがて空の中でごく小さな白い点が二つ、不格好なダンスでも踊るかのように、くっついたり離れたりしながら降りてくる。
 力任せにぶっ飛ぶような動きを見せる方と、ふらふらと不規則に動いている方。クロノをはじめ、よく知っている者達はすぐにどちらかの判別が着いた。
「ウォーミングアップはこれで十分だな」
 降りてきたばかりのなのはと静に、クロノはそう言ってユーノとスケジュールを確認する。
「先になのはとクロノの模擬戦だったね」
「ああ、その間に静の結界魔法の方を頼むよ」
「任せて」
 二人はスケジュールを確認し終える、それぞれの相手へと向かう。
「じゃあ静、ほとんどお復習いだけど、結界魔法の試験をするよ。場所は丘の下にしようか」
「分かったわ」
 静はなのはに軽く手を振り、ユーノと一緒にこの丘を下って行く。
 時折そよぐ風に吹かれながら、二人は無言で緩やかな坂を下って行く。
「そろそろいいかな」
 そう言って幾分か丘を下ったところでユーノがその足を止め、静も立ち止まる。
「良いところね、文明の気配のない」
「自然、好きなの?」
 静のペースに慣れていないユーノは、戸惑いながらに聞き返す。
「そうね。こういった様相の場所は、住んでみたいところではないけれど、会ってみたいところではあるわね」
「会ってみたい所?」
「あるがままに移り行く、知能の手が入らない風景という物も、良い物だと思うわよ?」
「なるほど」
 静の回りくどい言い回しを、碑文解析の経験から納得したユーノは気持ちを切り替えて、試験を始めるのだった。





Ende