「くすぐりエンジェル」
今、7時半です。鳥のさえずりが聞こえます。
ベッドからおりてカーテンを開けると、そこは本物の夏でした。
今日から夏休み。あたしは二人の家庭教師といっしょに別荘にきています。
廊下を歩いてくる足音が近づいてきます。
あたしを起こしに来たのでしょう。
あたしはもう一度ベッドに戻り、眠っているふりをします。
毛布のすそから左足を出して。
恵理子ちゃん、起きて。
この声は香織さんです。大きな目、アイドルのようにキュートな顔。
やさしくて、ほんとのお姉さんみたい。
あたしは返事をせず、香織さんが入ってくるのを待ちます。
鍵はかけてないから、すぐにでも入ってくるでしょう。
恵理子ちゃん、朝ご飯よ。香織さんが入ってきました。
あたしは毛布から左足を出したまま。
期待の不安が入り交じる、とても妖しい気持ち。
次に香織さんがすることがわかるから。
香織さんの手があたしの左足に触れてきました。
そしてその細い指で、足の裏をくすぐり始めたのです。
予期していたのに、あたしはもう少しで笑うところでした。
くすぐったさを我慢していると、なにか体にぞくぞくするものが走ります。
あたしが起きないので、香織さんはもう一つの手もつかいます。
二つの手が同時に足の裏と足の甲をくすぐります。
文字を書くように指先でなぞったり、全部の指をこちょこちょと動かしたりして。
あたしは笑い声をたてないように口をしっかりと閉じ、
足に力を入れてくすぐったさに抵抗します。
くすぐられるときの、気持ちいいような耐えられないような、変な感覚。
あたしは子供のころからこの感覚が好きでした。
なにしているの?今度は智美さん。女優のようにエレガントな顔立ち。
あたしの憧れのお姉様です。智美さんも近づいてきて、毛布をめくりました。
右足からもくすぐったさが沸き上がってきます。
あたしは目を閉じて、くすぐったさに身を委ねようとしました。
くすぐられたいという気持ちと、逃げたいという気持ちのシーソーゲーム。
はじめはくすぐられたいと思うのですが、
だんだん我慢できなくなって逃げたいと思う。あたしは足に力を入れて、
たまらないくすぐったさに耐えようとしました。
でもたくさんの指先から送られてくるくすぐったさで体中がいっぱいになり、
それが笑い声となって口から溢れはじめます。
体も勝手にもじもじと動きはじめるのでした。
それでもあたしは、足だけは動かしません。
逃げたら罰ゲームが待っています。腋の下をおもいきりくすぐられるのです。
あたしは足の裏をくすぐられるほうが好きなのです。
腋の下はくすぐったすぎて我慢できないの。
二人の手はやさしく、そして絶え間なく、あたしの足をくすぐりつづけます。
足の甲、土踏まず、かかと、足の指や指の付け根のふくらみ。
あたしはくすぐったさを紛らわそうと、くすくすと笑ったり身を捩ったり。
でももう限界でした。足の筋肉が笑い出し、抵抗する力を失っていたのです。
あたしはとうとう我慢できなくなって、足を引っ込めて笑い転げました。
ご飯のあと、罰ゲーム。あたしはベッドの上に横になると、
香織さんが腋の下に手を潜り込ませてきました。
智美さんの手はあたしの脇腹。四つの手のひらに触られただけですが、
これだけでもう、くすぐったくてたまりません。
まるで電流を流したように体がぴくぴくと反応します。あたしはそれでも、
もじもじと身をくねらせて必死に我慢しました。
ふたりはしきりに話し掛けてくるのですが、あたしは笑いをこらえるのが精一杯。
いまにも破裂しそうな笑いが口の中で泡立っています。もし口を開けば、
いっきに笑いはじけてしまうでしょう。
ふたりのしなやかな指が動きはじめました。はじめはゆっくりと、
そして次第に激しくなってきます。
あたしは堅く腋の下を閉じました。
でもくすぐったさからのがれることはできません。
笑いの泡がはじけ、
あたしはけたたましい笑い声をあげてしまいました。
ふたりがかりでおさえつけられているので、
動けないあたしはただ身を捩って笑うしかありません。
お願い、もう許して。
苦しい笑い声の下で、あたしはふたりに頼みます。
それじゃ、降参しますって、バンザイして。
腋の下をくすぐられてバンザイできるはずがない。
両腋はしっかりと閉じて、香織さんの手を離すまいとしているようです。
できないよぉ。あたしは笑いながらいいました。
じゃあ、許してあげない。
高校生でしょ。子供じゃないんだから、我慢しなさい。
口から激しく笑い声が噴き出しているので、
あたしはこたえることができないのです。
笑っているのは、きっとくすぐられたいからなのね。
そう、こんなに喜んでいるんだもの。いやだったら笑わないはずだし。
やめてほしかったら、笑わないで。
智美さんが無理な注文をしてきました。あたしは笑わないように口を閉じ、
体を堅くしました。我慢すると、よけいくすぐったくなるみたい。
それにいくらこらえようとしても、笑い声は勝手に口から溢れてきます。
くすぐられても笑わないでいることは、あたしにはできません。
それに何時間バンザイしていても、笑いをこらえていても、
ふたりはあたしをくすぐりつづけるでしょう。あたしが我慢できなくなるまで。
ふたりともあたしをくすぐっていじめるのが好きなのです。
あたしは自然の欲求に身を任せ、ふたたびとめどない笑い声をあげるのでした。
恵理子ちゃん、やっぱりくすぐられたいんだ。
あたしはもう、何もしゃべることができなくなっていました。
ただ体をくねらせ、足をばたばたさせて、
いつ終わるとも知れないくすぐり責めを受けるしかありませんでした。
香織さんの指が、腋の下でムニュムニュと動いています。
智美さんは細い指を器用に動かして、
あたしの脇腹をくすぐりつづけるのでした。
四つの手のひらが動くたびに、あたしの体は激しく震えました。
苦しいような、それでいてなぜか幸せな気分。体中の肉が笑い出しています。
でももう限界でした。
何分くすぐられたか、あたしは笑い疲れて気が遠くなりました。…………
あたしがふたりと初めて会ったのは、高校に入ってまもなくのことです。
家庭教師がくると聞いていやだなぁと思っていたら、
なんて素敵なお姉さま!あたしはひとめでふたりが好きになりました。
そして毎週、二人がくるのを楽しみにしていたのです。
成績が上がったらご褒美くれるって。これからはちゃんと勉強しよう。
ある暑い日のことです。あたしたちは素足になって、
庭の芝生に腰を下ろしていました。あたしはふたりの足に目を落としました。
白くて、とてもきれいです。あたしはイタズラ心を起こし、
手を伸ばしてふたりの足の裏をくすぐってみました。柔らかい足の裏!
すべすべしてて、とても素敵。
ふたりともびっくりして、足を引っ込めました。あたしが楽しそうに笑うと、
ふたりも笑ってあたしにとびかかってきたのです。
あたしたちは芝生の上で追いかけっこしました。
あたしはわざと捕まって芝生の上に倒れると、
ふたりはあたしをくすぐりはじめました。逃げることはできません。
ただ体をくねらせて笑い、苦しがるだけでした。
長い間くすぐられると、ぐったりとしてしまいます。
目には涙が浮かんでいました。
恵理子ちゃん、ごめんね。やりすぎちゃった。
智美さんの言葉に、あたしはにっこりと笑いました。
ううん、あたしからくすぐりっこ始めたんだもの。楽しかったわ。
それじゃ、もっとしてほしいの?
香織さんがいい、あたしははにかんでうなずきました。
ふたりともくすぐるのが好きみたい。あたしはまた、
けたたましい笑い声をあげはじめます。これが何度も続くと、
さすがに体力がつきてしまいました。
これ以上くすぐられたら、笑い死にしちゃう。
長い間くすぐられるのはまるで拷問。でもあれだけ苦しいのに、
終わった後でまたくすぐられたくなるのは不思議。
くすぐったさは持続性のない感覚だからなのでしょう。
痛いのや痒いのとは違って。
昔、女の人に対する拷問としてくすぐりが行われたといいます。
その女性たちは癖にならなかったのかな?
あたしはもう、癖になりそう。いいえ、もうなっています。
これから好きなときに好きなだけくすぐってもいい?
長いくすぐりっこのあと、智美さんがいいました。
あたしはうれしさのあまり、ふたりに笑顔を向けました。
テストの成績は目立ってよくなっていました。
智美さんと香織さんは、あたしをきつく抱擁してくれた。そしてあたしからは、
ママに頼んで特別のボーナス。ふたりを夏の間利用している別荘にご招待です。
ママには勉強のためといってあるけど、心はうわの空。
今朝のくすぐり責めが体に残っている感じ。
今夜もお姉さまたちにくすぐられるかと思うと、なんか幸せになっちゃう。
あたしって、変かしら?
幼稚園のころ、足形を取るために絵の具を足の裏に塗られました。
友達や先生の筆に足の裏を撫で回されたとき、
あたしはものすごく興奮したのです。
それ以来くすぐられるのが好きになりました。
パパやママはあたしをくすぐってくれません。仕返しを期待して、
あたしはママを何度もくすぐったことがあります。
でもママは笑って逃げただけ。あたしが智美さん香織さんをくすぐったのは、
もちろん仕返しを期待してのことでした。
あんなにくすぐられたのは生まれてはじめて。うれしくて涙が出ちゃった。
夜になりました。あたしたちはダブルベッドに入って、くすぐりっこします。
あたしはバンザイの格好をして、手首と足首をベッドの端に縛られました。
動けないあたしを、ふたりが両側からくすぐるのです。
あたしはおなかや腋の下をくすぐられて笑いました。
縛られてくすぐられるのは、予想以上にくすぐったいのです。
腋の下を閉じようとしても、それもできないのでした。
何分もくすぐられたあとでひと休み。
香織さんがあたしをからかうようにいいます。
恵理子ちゃんって、ほんとにくすぐったがりなのね。面白いわ。
香織さんだって、くすぐったがりのくせに。あたしは言い返しました。
恵理子ちゃんほどじゃ、ないわ。
うそよ。
それなら。智美さんが提案します。3人でくすぐりっこしてみる?
最初に逃げた人を一晩中くすぐるの。
こうしてくすぐりっこが始まったのですが、あたしの手は縛られたまま。
ふたりの手はあたしの腋の下に集中しています。あたしはそこが一番の苦手。
でも逃げることも、くすぐりかえすこともできません。
あたしは体をくねらせて笑いながら、手を自由にするよう頼みます。
これじゃ勝てないよ。
でも、逃げないんだから、負けもないわよ。
ひどいルールです。これなら負けたほうがいい。
あたしが降参しても、ふたりの手は止まりません。
逃げるまで負けはないの。
お願い、許して。
でも言葉になりませんでした。
笑い声が噴き出すのをとめることはできないのです。そしてふたりは、
あたしが動けないのをいいことに好きなだけくすぐるのでした。
何分たったでしょうか。あたしは気を失っていたのです。
そして気がついたとき、ふたりの手が体中を愛撫していました。
あたしの口から、思わず熱い息がもれました。
あたしは真っ赤になって、身を捩ります。
でもすっかり抵抗力をなくしていました。燃えるような刺激が、
あたしを支配していました。生まれて始めて味わう、激しい歓喜でした。
そして苦しい吐息の合間を縫って恥ずかしい声をたてていたのです。
ふたりともあたしの体に触っているうちに変な気分になったのでしょうか。
いつのまにか無言になり、荒い息遣いとともに女らしい声をあげるのでした。
智美さんにふたつの胸の膨らみをくすぐられるたびに、
あたしは悲鳴にも似たため息を吐き出しています。
あたしはおなかに香織さんの手を感じながら、智美さんを見つめました。
智美さんもあたしを見つめ、
両手であたしの頬を挟むと美しい顔を近づけてきました。
あたしは目を閉じてキスを待つ。
あたしはこの時、だれよりも智美さんを愛していると思いました。
でもあと数センチでキスするというところで、
香織さんが腋の下をくすぐったのです。
たくさんの触手に撫でまわされていたあたしの体は敏感になっています。
あたしはたまらず笑いました。
せっかくの妖しいムードが、あたしの笑い声で台無しです。
恵理子ちゃん、笑ったらキスできないでしょ。
ごめんなさい、今度は笑わないから。
その前に、今度は私がキスする番。
香織さんがサクランボのような唇を近づけてきます。
あたしはもう一度目を閉じました。
でも今度は智美さんが腋の下をくすぐるのです。
あたしはまた口を大きく開けて笑いました。
いじわる。こちょこちょしたら、キスさせてあげない。
あたしがいうと、ふたりは怒ったふりをしてあたしをくすぐりの刑にします。
あたしは笑いながら謝りました。
そして智美さんに、キスをさせる約束をしてしまいました。
あたしはまた目を閉じました。でも智美さんはなかなかキスしてくれません。
かわりに腋の下をかるくくすぐるのです。
もちろん香織さんも反対側からあたしの腋の下に指を這わせていました。
あたしはしっかりと口を閉じてキスを待ちました。
でも、限界。すぐに吹き出してしまいました。
恵理子ちゃん、あたしの顔にツバかけたぁ。
おしおきに、こちょこちょの刑。
あたしは笑いながら、ふたりにキスしてくれるよう頼みます。
でもふたりともいじわるです。体中をくすぐるので、
あたしはキスする前に笑い出してしまうのでした。あたしが笑うと、
ふたりも自分たちがくすぐられたときのように笑い声をあげました。
くすぐりっこに夢中になって、あたしたちは夜が明けるのも気づきませんでした。
今日も真夏の太陽が照りつける暑い日。
あたしは珍しく、真剣に問題集に取り組む。
80点以上だったら、ご褒美あげる。80点以下はおしおき。
問題を解いている間、ふたりはキスしてくる、抱きしめる、体中を愛撫する。
ほんとに勉強を教える気、あるのかしら。
こんな変な家庭教師がいるのは、あたしだけだろうな。
でもおかげで成績があがってるもの。
下がったらママは、きっと別の先生を頼むっていうだろう。
ふたりと別れるのは死ぬよりもいや。あたしはふたりを愛しているのです。
ふたりはたまにあたしをのけ者にして愛し合っています。
抱き合い、キスを交わす。愛撫し合うと、
かならずどちらかがくすぐったがって笑い出すのでした。
あたしの目の前でするのはやめてほしい。あたし、嫉妬しちゃうから。
問題を解き終わりました。あたしは愛し合っているふたりの邪魔をする。
採点していた香織さんが顔を上げた。
80点。それじゃ、今からたっぷりとくすぐってあげるね。
あれ?これって、ご褒美かしら。それともおしおき?
あたしはまた、ベッドの上で縛られました。
両手は1時と11時を指しています。
両足が5時と7時。智美さんが3時で香織さんが9時のところにいる。
そしてあたしの腋の下を、やさしくくすぐるのでした。
あたしは痙攣した笑い声をあげつづけ、ふたりもまた楽しそうに笑いました。
けたたましい嬌声の中であたしたちは愛し合いました。
そして今でも愛し合っているのです。
完
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