「翔子の借金生活」
     


-借金は唐突に-

 帰宅部所属の女子高生、翔子は、今日も授業が終了すると、手早く教科書をまとめ教室を、学校を後にした。
 だが、多感な年頃の彼女がそのまま帰宅するはずもなく、必ず寄り道をして時間を潰していくのが日課となっていた。
 最近彼女は決まって同じ場所に行く。
 帰宅コースからは若干外れた住宅街の外れに位置する小さな店、『インテリアハウス-水晶-』ガラス細工を売っているありきたりな店だったが、彼女はそこが気に入っていた。
 彼女だけではない、そこを知る者、知った者の全員が、店に展示されている品の芸術とも言える素晴らしい完成度を賞賛していた。
 実際-水晶-は、その筋では有名であり、地方からの客や依頼も少なくはなかった、それでもこの小さな店だけで商売を行っているのは、店の主であり唯一の店員でもあるマスターが、「品質が維持できるのはこの規模まで」と言って、支店を出さないからであった。
 技術を伝受しようにも、彼の神業とも思われる精巧な技法はとても模倣できるものではなく、かつては大勢押し掛けていた弟子入り希望者達も、技を得ることなく去って行き、今では客以外の者が-水晶-を訪れる事はなかった。
 それ故、彼の存在・技術は一代限りの技とさえ言われていたのである。
 そんな彼が一つ一つ手作りで作った、大小さまざまのガラス細工が並ぶショーウィンドを眺めるのが翔子の最大の楽しみとなっていた。
「こんにちは~」
 ほとんど日課となった笑顔で翔子が来店すると、これまたほぼ同じパターンでカウンターで作業をしているマスターが笑顔で向かえた。
「やぁ、いらっしゃ。毎日毎日良く来てくれるね。こっちが言うのも何だけど、飽きないかい?」
「そ、そんな事・・・・・」
 言われて軽く頬を染める翔子。彼女は、このガラスの芸術品を眺めると同時に目の前の無名の芸術家と話すのも楽しみにしていた。世間に知れ渡れば、三十代にも満たない若さで人間国宝にもなり得ただろう人物と、たわいない会話をかわす。それが彼女に優越感に近い感覚を与えていたのである。
「全然飽きたりしませんよ。品物は全部デザインが違いますし、細工は細やかですし、時々飾っているレイアウトも変わってますし、何よりただのガラスが光加減で色付きに見えるのが凄いです」
 翔子の言う通り、彼の細工には着色硝子を使用していない。その精巧な加工によって光が屈折し、あたかも着色されたかの様な色鮮やかさを見せつけていた。しかも、その色合いもマスターは自分の意志で出せるのである。
 彼女はライトと日光を両手で遮り、その中の細工が透明なガラスになり、手をどけては色が蘇る瞬間を見ては、その様子を楽しんだ。
「そう言ってもらえれば、作ったかいがあったってものだよ。ま、いつも通り、ゆっくりしてくれていいよ」
 そう言うとマスターは視線を自分の手元に戻すと、真剣な眼差しで作業を再開した。
 その様子を敏感に察知して、翔子は制作中の彼の邪魔をしてはいけない。と、いつも思っている言葉を心の中で呟いた。
 それは、本人に言われたものではなく、彼女がそう決めていた事だった。彼は稀代の芸術家。その作業は神聖な物。したがってそれを邪魔するがごとき真似は行わない・・・・と。

 翔子はいつものように、店内に飾られている大小様々の品を眺め、その見事さにうっとりとした表情を見せる。
 だが、今回は少し感じが違った。
 マスターの今までにない真剣な表情と、気迫のようなものがひしひしと感じられ、どうにも鑑賞に集中できなかったのである。だがこれも、毎日通い詰めた事により得られた変化の察知力であった。
 結局、どうしてもそれが気になった翔子はそっと、カウンターの中を覗き込んだ。するとそこには、完成した品を見ながら球状のガラスの塊に加工を行っているマスターの姿があった。
 翔子は見本としているのだろう、完成品の方を見て、今までにない完成度に驚いた。
 そこには『天使』を連想させる翼を持つ女性のガラス像がそこにあった。
「今度の作品ですか?」
 それに心奪われた翔子は自らの戒律を破り、マスターに声をかけていた。
「うん、以前から作りたいと思っていた物なんだ」
 球体の方を見てマスターは言った。
「そっちの、天使と同じものをですか?」
「これは、飾ってもいなければ売り物でもない・・・・・練習作ってところなんだ」
「こんなに、良い出来なのにですか?」
 翔子は驚いた。店に並んでいる作品は単なるコップから動物・キャラクターと多々あったものの、そのどれもが「完成」されたものであった。その中でもこの『天使』は人と動物(鳥)のラインの見事な調和を持った「傑作」に思えた。それが練習だと言うのだ。
「あ、いや、これはこれでいいんだけど、僕が作りたいのは、これをこの水晶で作りたいんだ」
「水晶?そのガラスの球みたいなのって、水晶玉だったんですか?」
 サイズはハンドボール大、結構大型の部類に入る。それを見て改めて驚きの声を上げる翔子。
「そうだよ。水晶の髑髏って知ってる?」
「え?ええ、写真か何かで見ました。昔の人がどうやってか作った、髑髏型の水晶ですね」
「そう。水晶加工品では史上最高って言われているんだ。仮説では職人が何代にも渡って加工し続けて、ようやく完成させた物だって言われている。それに匹敵する物を作りたいと思ってるんだよ」
 そのモデルがこの『天使』なのである。
「マスター一人でですか?」
「うん、今は昔と違って、加工道具も格段に進歩しているからね。多分僕の生きてるうちに完成できるとは思うけど・・・・・・それでも、この硬度と繊細さはガラスの比じゃないけどね」
 まだほとんど球状のそれを見てマスターは苦笑する。一生とは言わないまでも、何年もの時間を費やし、人生最高の作品にしようとしている。そんな決意を感じられずにはいられない翔子だった。
 彼女はそれの完成に思いを寄せる。芸術的価値もさることながら、歴史的な面にも足跡を残すだろう物を目の当たりにしようとしているのである。
「『天使』が気に入ったみたいだね」
 そんな様子を見ていたマスターが笑顔で言った。
「え、あ、はいっ」
 簡単に心情を見抜かれ、しどろもどろになる翔子。
「何時とは保証できないけど、水晶が完成したらこっちは君にあげるよ」
 この店の熱心な客が聞いたら発狂寸前に羨ましがるだろう発言を、マスターが自ら口走った。
「え、ええっ?」
 本心的には大喜びの翔子ではあったが、付加価値の重大性に激しく動揺した。
 おそらく、この店の作品に関する重要性に一番疎いのは、制作者であるマスター本人かもしれない。
「そ、そんなっ、い、いいんですか?こんな貴重な作品を・・・・・」
「うん、完成すればね・・・・・それに、どの作品も大切にしてくれる人のもとにあればいいんだよ。その点、翔子ちゃんは文句無しだし」
「あ、ありがとうございます」
 翔子はこれ以上ないくらいに興奮していた。当人に自覚が欠けているとはいえ、ここまで精巧に出来た品なら、その筋で売れば家の一つも買えるであろう。もちろん、彼女は金で手放すつもりもなかった。それに、ここまでの作品をプレゼントされる程の「仲」になっているんだという事実が、多感な彼女を妄想方向に陶酔させていた。
「あ、あの、それ、見せてもらって良いですか?」
 翔子はカウンター奥の『天使』を指さす。精巧な物とはわかるものの、位置的に細部は見えなかったため、一度全身を見てみたいと思ったのだ。
「ああ、かまわないよ。こっちにまわっておいで」
「やったぁ!」
 翔子は嬉しそうに言うと、カウンターを回り込んだ。
 その時、彼女にして最大の不幸は起こった。
 『天使』の姿に見とれるあまり、彼女は些細なことを忘れていた。カウンターの奥は床が階段一段分低くなっているのである。
「きゃっ」
 あると思っていた足場が無く、思わずつんのめる翔子。マスターが支えようと動いたが、それも間に合わず、彼女はテーブルに体をぶつけてしまう。そして・・・・・・
 ゴトッ・・・・
 カチャン・・・
 最悪の結果をもたらす物音がした。
「・・・・・・・え?」
 本能的に何が起こったかを悟る翔子。そして、自分の目によってそれを確認すると、彼女は真っ青になった。
「・・・・・ご・・・・・ごめんなさいぃ!!!!!!!」
 翔子はこれ以上ないくらい深々と、そして何度も頭を下げた。彼女がぶつかった結果、テーブルの上の『天使』が支え台から倒れ、その背の翼の右側を根こそぎ折ってしまったのだ。
 そして、マスターが手を離した隙に水晶球も工具ごと落下し、その一部を欠けさせてしまっていた。もしこれが厳格な芸術家の物であれば激怒では済まないだろう。
「翔子ちゃん、ガラスで切ってないか?」
 そう言う意味では芸術家らしくないマスターは真っ先に彼女の体の方を心配した。だが、この時の彼の気づかいは、彼女にとっては辛かった。彼女にしてみれば、国宝級の作品を壊したに等しいショックなのである。まして、憧れの人物の作品となればなおされであろう。こればかりは、制作者がどう気づかってくれても、簡単に癒えるような事ではない。少なくても当事者がそう思っている限りは・・・・・・
 とても償いきれないと言う思いがこみ上げ、彼女は混乱した。神聖だった物を汚したと言う思い込みであれば、宗教者のそれにも匹敵したであろう。
「済みません済みません!弁償しますから許して下さい」
 これ以上ない位に深々と頭を下げる翔子。
「いや、いいよ、もともと売り物でもなかったんだし」
 あくまでも穏和な態度を崩さないマスター。その光景は実に対照的だった。
「でも、価値のあるものではありました」
「ん、でも、これは君にあげる予定だったんだ。修復もするから気にする事はないよ」
「そ、そんな、それじゃあ、水晶玉の破損の弁償はします。これだけは絶対します」
 翔子はとにかくも、何らかの形で謝罪したがっていた。マスターの恩赦を受けることより、犯した事態の罪悪感と責任の方が遙かに大きかったのだ。
「別にいいから、水晶の欠損も今後の加工で調整できるんだから・・・・」
「でも、本来描いていたイメージは崩してしまったはずです。その責任だけは取らせてもらいます。144万円、ちゃんとお支払いします」
「・・・・・・・って、何で、その金額を知ってるんだい?」
「前にお手伝いで帳簿整理を手伝った時に、物品購入単価の異様に高いのがあって、値段を覚えてたんです。やっぱり、そうだったんですね」
 しまった!と、マスターは思った。いきなり値を言い当てられ、ついそれを肯定してしまったのだ。これでは、妥当な値段で誤魔化すことも出来ない。
「おいおい、そんなにムキにならないで・・・・・だいたい、どうやって144万も工面するんだい?」
 マスターの指摘は翔子から言葉を奪う。たしかに、自分の不注意から生じたトラブルに両親をあてにする事は出来ない。かといって、貯金も目標額にはほど遠い。
「そ、それは・・・・・・何だってします。え、援助交際だって、ば、売春行為だって・・・・」
 顔を俯かせて翔子は一大決心を口にした。後半はほとんど小声だった。彼女自身、それを不本意と感じてはいたのである。
「そんな事、むやみにするものじゃないよ」
 マスターは肩を震わす翔子を後ろからゆっくり抱きしめた。さすがの彼も、彼女が妙に責任を感じていることを悟ったのだ。
「でも、でも・・・・・・」
「とにかく落ち着きなさい。そしていつもの明るい笑顔を見せて・・・・」
「私は・・・・ひゃぁぁぁぁん!」
 何かを言おうとした翔子が、突如悩ましげな悲鳴を上げ、マスターの腕の中でのけ反った。彼が抱きしめ、密着させていた指を蠢かし、左右の脇腹辺りをくすぐったのである。
「やん、やはははははは、だめぇ、だめ、あははははは、止めて下さぁい!」
 翔子は必至に体を振って、マスターの腕から逃れた。そして大きく喘いで呼吸を整える。
 そんな彼女の反応を見て、マスターは僅かながら興奮した。その心の中では、悪戯心と被虐心が微妙に交わり急速に別の思考を形成し、とある事を思いつかせる。
「もう、くすぐるなんて酷いです。私は真剣なんですよ」
 覗きから身を隠すような仕草で翔子は言った。
「ごめん。悪かったよ。でもね、今考えたんだけど、援助交際みたいなのをしようと考えるんなら、その対象を僕にしてくれないかい?」
「え?」
 翔子にはその意味がすぐには理解できなかった。
「悲しいかな、僕はこの作業に没頭するあまり、恋人もいない。だから、翔子ちゃんが援助交際するなら赤の他人ではなくて、僕としてくれないかい?そしてその分のお金を水晶の返済にまわすから」
「え?え??」
 翔子は動揺し硬直した。今度は言っている意味が分かったのだが、まさかマスターからそんな申し出が来るとは思っても見なかったのである。実際には、彼とのおつき合いは彼女の願う所だったのだが、その思いを今まで自分から伝えられずにいたのである。
「もちろん、将来の恋人の為に、その・・・・SEXまではしないけど、さっきみたいに抱いたり、くすぐったりって・・・事まででどうかな?」
 マスターは翔子の為に有利な状況を薦めている・・・・・・・様な表情をして見せた。だが、彼の本当の目的は全てを許すのではなく、もう一度彼女をくすぐって、可愛らしく悶える様を見てみたいと言う邪な事だったのだ。
「ま、マスターがそれで良いのなら・・・・・・・」
 真の思惑を知る由もなく恥ずかしげに俯き答える翔子。彼女は、申し出の結果が、“マスターとの親密な関係”と言う自分の願望に近い為、主となるであろう事態を見逃してしまっていた。
 かくして、翔子は自ら犯した事態を『体』を使って返すことに同意したのだった。



-初体験-

「まず、何をしましょう・・・・・・・・」
 初心者そのものの様子で翔子は尋ねる。
「う~ん、やっぱり、さっきみたいに・・・・くすぐらせてくれる?」
 少し考える素振りを見せつつ、内心は待ってましたとばかりにマスターは言った。
「くすぐり・・・・・ですか・・・・・」
 先程、くすぐられた感覚を思い出し、翔子は僅かに身を窄めた。彼女も一般女子の例に外れず、くすぐりには弱かった。もっとも、実感したのはつい先程の事ではあったが。
「あんまり激しくしないで下さいね」
 自分で拒否権が無いと思いこんでいる翔子は小さく頷いた。
「じゃ、ここに座って」
 マスターはそう言って、膝の上を叩いた。
 翔子はそれに従い、子供のように彼の太股を椅子代わりにして、ちょこんと座った。やはり、恥ずかしいのであろう、流行の制服のミニスカートからのぞく可愛らしい脚はしっかりと閉じられていた。
 彼女が太股の上で落ち着くのを確認すると、マスターは腕を彼女の腰に回し、シートベルトのようにがっしりと支え込んだ。その指はしっかりと彼女の下脇腹に位置している。
「くぅ・・・・ふん・・・・」
 その指が動くことを想像しただけで翔子は軽く身悶えし、体を震わす。
「ちょっと、これからだよ」
 少し意地悪くマスターが言った。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい、心の準備が・・・・・・」
「だ~め、こんなのは準備なんて出来ないよ」
 そう言うと、マスターはわきわきと指を蠢かせ始める。途端に翔子の脇腹にとうてい堪えきれないむずむずした感覚が襲いかかった。
「きゃうん!あ、あ、あはははははっははははははははは!!」
 思わず体を前倒しにし、両膝を激しく上下にばたつかせて笑い悶える翔子。激しく体も振るが、それでも脇腹に絡みついた腕は離れることが無く、彼女の脇腹をぐにぐにと揉み続けた。
「あはははははははは!きゃ~っはははははははははは!あはっ!あはっ!あはははは、ちょ、ちょっと、くふふふふふふぅっ、ちょっと待って下さぁい!!っはははははははっ!」
 目に涙を浮かべ必死に懇願するが、脇腹を襲うくすぐったさは激しさを増す一方だった。「きゃはははははは!あはははははは!!あ~っははははははははは!!!」
 翔子はとにかく必死で体を捩り、スカートが捲れるのも忘れて脚をばたつかせ、自分を苦しめる戒めから逃れようとした。
 だがそれは、マスターの体からずり落ちるだけの結果となり、それに伴い脇腹にあてがわれていた指が上へとずれ、脇の下近くにまで移動する事となる。
 これ幸いにと、くすぐりを続けるマスター。
「ああっ、そこっ!あははははは、だ、だめぇ!いや~っははははははははっ!」
 今までと全く違った感覚に新たな悲鳴を上げる翔子。体勢を立て直そうと立ち上がろうにも姿勢も悪く、くすぐられているので体の自由が利かず、ただ、のたうち回るような事しか出来なかった。
「ちょっと待って~!ははははは、きゃはははははははは!もう、もう、我慢できない~!!ひゃははははははははっはははははぁ!」
「まだまだ始まったばかりだよ。くすぐりってのは、ここからが本番なんだから」
 普段のマスターからはとても想像できない意地悪な言葉だったが、今の翔子にそれを悟る余裕など無かった。
 実際、マスターは思った以上に興奮していた。くすぐられ過敏に笑い悶えた彼女に色っぽさを感じた彼は、ちょっとした興味でくすぐりを申し出た。そして実際に彼女を責めてみると、予想以上の反応に夢中になった。
 それが女性を責める悦びと従えさせる快感に変貌するのにさして時間はかからなかった。彼もまた、『くすぐり』と言う行為の独特の空気に呑まれていったのである。
「いや~っははははははははははは!あ~っはははははははははは!!」
 そんなマスターの心情の変化を翔子が知りようもなく、又、そんな余裕もなく、とにかく現状から逃れようと、翔子は必死に体を捩り続ける。
 今なお自分を苦しめる腕を剥がそうとも試みるが、根本的に体力差がある上に、くすぐりによって、力が入らなかったため全く無意味な行動となってしまう。
「もうだめ、もうだめっ!、くふふふふふふふふ、きゃはははははははははは!!」
 脚をばたばたと暴れさせ、体を激しく前後にくねらせながら笑い狂う翔子。
 マスターも大きなマグロでも抱えた気分になりながらも、その責め手を休めることは無かった。
「うんっ!くははははははははあは、はぁん!ひゃははははははははははは!あっあっあははははっはははははは・・・・・・・・・」

・・・・・・

 もう、何も考えられず、意識が朦朧となった時、ようやくにして翔子は開放された。
「はぁはぁはぁ・・・・・・・・」
 力も入らず床に突っ伏し、ただただ呼吸をする事だけを考えていた翔子は、たっぷり3分かけ、ようやく息を落ち着けた。彼女はこの時になってようやく、自分の制服が乱れ、スカートも遠慮なく捲り上がり下着が見えているのに気づき、顔を赤らめた。
「あ・・・・やだ・・・」
「大丈夫?」
 紅茶の入ったカップを差しだしてマスターは言った。
「は、はい。ちょっと変な感じが残ってますけど・・・・・・」
 制服を正し、少しひきつった笑みでかップを受け取る翔子。
「じゃあ、もう少しやってみようか?」
「きゃあぁん!!」
 マスターが両手を孫の手の様な形にして近づけると、翔子は悲鳴を上げ思わず身を捩った。
「冗談だよ。今日は終わりにするよ」
(今日はね・・・・・・・)
 心の中で、そう強調するマスターだった。
「はい」
 心底、安堵した表情になる翔子だった。
「で、今回でいくらになるのかな?」
 自分も紅茶を入れ、ふと尋ねるマスター。
「さ、さぁ、私も相場は知りませんし・・・・・・・・・」
「普通は、女の子の方から自分の値段を決めて売り込むんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・私の場合、値段を決められません。マスターにお任せします」
 マスターはふと考え込んだ。彼も彼女同様、そんな相場を知っている人物では無かった。せいぜい、TVや雑誌の特集で言われたのを聞いた程度なのだ。
 それでも、しばし考えた後、彼は結論を出した。
「それじゃあ、基本料金が3万、お触り代が2万、初物って事で特別料金4万、下着を見せてもらった料金1万の計10万って所でどう?」
「そ、そんなにですか?」
 もちろん、借金返済のため、貰える訳ではなかったが、1回分の料金としては結構破格である事は何となく分かる。
「翔子ちゃん可愛いから・・・それに、僕にとってはそれだけの価値が・・・・・翔子ちゃんにはあるよ」
 特に意識しての言葉では無かったのだが、その台詞は一瞬にして彼女を酔わせた。
「そ、そんな、あ、あ、あの、わ、私、今日はもう帰ります。明日また来ますから。おっ、お金、とても一括では返せませんけど、まい、毎日返しに来ますから・・・・・」
 慌ただしくそう言って、翔子は飛び出していった。
 明日以降続く、くすぐりと言う苦しみも、純情な今の彼女には見えていなかった。
 そして現実が彼女の目の前に訪れても、憧れのマスターとの一時はその感覚を麻痺させる。それが彼女にとって幸か不幸か・・・・・・

 翔子の借金返済まであと、134万円。



  つづく



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