「翔子の借金生活」 第2話
     


-シチュエーション:体操着-

 翔子が144万と言う大金を変則的ながら『体』で返済することにして4日。初日から今まで、彼女は1日も休む事なく以前と変わりなく-水晶-に訪れていた。
 いや、むしろその視線にはいっそうの熱意がこもっているかも知れない。
 たしかに連日のくすぐりは辛いものであった。だが、憧れのマスターの手に触れてもらえる事実は、ある種の快感を覚え、それに何よりも他人には言えない行為を彼と共有している事が、結果として彼女を必要以上に舞い上がらせてもいた。
 そう、徐々にではあるが、彼女はくすぐられるのを楽しみに感じるようになってきていたのである。


「マスターこんにちは~」
 今日も元気一杯の翔子がやって来る。だが今日はかなり来る時間が早かった。普段であれば、まだ授業中であるはずの時間帯だった。
「あれ?今日は早い・・ん・・・だ・・・・ね・・・」
 至極当然の疑問を口にしたマスターだったが、語尾になるにつれ、その口調は小さくなっていった。彼女の姿がいつもの制服でも私服でもなく、空色のジャージ姿だった為である。左胸に学校名と校章の刺繍が入っているため、学校指定のそれと分かる。
「どうしたの、その格好?」
「実は今日、マラソン大会だったんですよ。隣町の河原で走って、ゴールした人から帰宅していいって事になってたんです」
「それで、ここに直帰したの?」
「はい!」
 力強く答える翔子。
「それで、結果は何位だったのかな?」
「へっへ~」
 待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべてVサインを突きつける翔子。
「なんと!昨年155位だった私が29位!大快挙!!」
「確かに凄いね、特訓でもしてたの?」
「いいえ、でも、去年よりはしんどくなかったんです・・・・・いつものアレで、肺活量が増えたのかなって・・・・」
 行った後で顔を赤らめる翔子だった。確かに肺活量だけに関して言えば、いつもの行為に原因が多少なりともあるかも知れない。しかし、4日程度の事でそこまで劇的に成長するとも思えず、他に要因があるのは確実だった。
 もっとも、それを知る方法がマスターには無かったが・・・・・・
「それだけじゃ無いとも思うけど・・・それにしても、こんなに早く来れるんなら、一度、家に帰って来ればよかったのに」
「いいんです、これで」
「どうして?」
「丁度いいじゃないですか」
「?」
「だって、男の人って“ブルマ”が好きなんでしょ」
 マスターが、思いっ切り突っ伏した。
「ど、どうして、そんな発想が?」
 目の前にいる、最も親しいと思っていた少女が分からなくなった気がするマスターだった。
「友達と一緒に見てた本に書いてありました。特に年輩になるにつれてその傾向も大きくなるって・・・・」
 一体どんな本を読んだのだろう?そう思いはしたが、それを口にする事はなかった。
「あ、あのね、いいかい翔子ちゃん。確かに男は女の子の体操着姿に興味を持つ事もあるけど、ブルマそのものが好きなのでも、又、全ての男がそうでもないんだよ」
 きっと、異性心理に疎いだけだと自分を納得させつつも、額に大粒の汗を浮かべてマスターは説明に入った。
「体操着と言うテーマで男が興味を示すのは、それに包まれた女の子の躍動美なんだよ。輝く汗、健康的な肉体・・・」
「揺れる胸に露わなヒップライン・・・・」
 翔子の引き継ぎに、再び突っ伏すマスターの姿がそこにあった。
「そ、それも本の知識かい?」
「はい。間違いではないでしょ?」
 悪戯っぽく翔子は笑った。どうやら半分はマスターをからかっている様だった。
「・・・・うん・・・・・・間違いじゃないよ。間違いじゃ・・・・・」
 どよ~んと落ち込むマスター。同じ男として、その評価を少しでも上げたいと思った彼の思惑は簡単に崩れ去ったのだ。そして何よりも、それを認めてしまいすぐに反論できなかった自分に悲しい男の性を認めざるを得なかった。
「それじゃあ、今日はこれで良いって事ですよね。滅多に出来ない事なんだから、むしろ喜ばないと・・・・」
 翔子の発言は正しくもあり、またある意味、挑発的でもあった。確かに風俗関係には足を運ばないマスターにとって、この機会は、体操着少女と接触できる唯一の機会と言っても良かった。だが、その手の趣味ではないはず・・・・と考える彼の心がブレーキをかけてもいたのだ。
 だが彼も年頃の男性。普段無い服装と、基本的にこの少女を自由に出来るという権利の存在が、抑止力をいとも簡単に砕いてしまった。
(本人が良いって言うんならいいか・・・・・)
 ・・・・・・・と。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えていいかな?」
 ほんの少し服が違うだけでこうも緊張するのか?内心、動揺しながらマスターは言った。
「はい、それじゃ、ついでにシチュエーションも変えませんか?」
「何?シチュエーション?」
「こうして服装も違うことですし、“役”を設定してなりきるんです。そう言うのがあるって・・・・・」
「・・・・・・本に載ってたの?」
 コクリと頷く翔子。友達に見せてもらったのか、今後のために自分で研究したのか、それは定かではなかったが、とにかく今日の彼女は独特の情報で満たされていた。
「そ、それじゃあ、今日は君に任せるよ」
 今日は勝てない。何に対してかは分からなかったが、とにかくそう思うマスターだった。
「それじゃあ・・・・・・・私は生徒で、マスターがコーチして下さい」
「コーチ?何の?」
「何でもいいんですよ。その辺は臨機応変で、その場その場で話を作っていくのが面白いんですから」
 本当にそうなのか?と思いつつも頷くマスターだった。
「それじゃあ・・・・」
「ちょっと待った」
 表情を作り、早速“役”となって何やら言おうとした翔子をマスターの手が遮った。
「?何です?」
「どう進むにしても、こんな真っ昼間に店内でするような事じゃないからね、上に行こう」
 それはマスターの『自室』である事を意味する。
「は、はいぃ!?」
 つい先程までマスターを圧倒していた翔子だったが、この一言を聞いた途端、いつもの彼女へと戻った。収集した情報量がどうであれ、やはり彼女は純情少女であった。
「それじゃ、玄関に『準備中』の札をかけて鍵締めといてくれる」
「は、はい。鍵と『本日閉店』ですね」
 口では思いっ切り誤認しながらも、しっかりと作業は済ませる翔子を見て、やっぱりこの子は初々しいと再認識するマスターだった。


 初めて入るマスターの寝室は翔子の予想に反してさっぱりとしていた。寝るとき意外に使用しないだけに散らかる理由も要素も無かったためである。
 モデルルーム並に生活感が乏しいとはいえ、憧れの人物の寝室と言う事実は翔子の心拍数をいやでも上昇させていた。
「さ、おいで」
 部屋の中で手招きするマスターを見て、翔子の顔が更に赤くなった。彼の一挙一動が彼女に過激な方面の妄想をかき立てていたのである。そう言う意味ではないと分かってはいても、つい想像力が先行し体が反応してしまう。彼女のテンションは、マスター当人が目の前にいなければ、一人芝居に突入してもおかしくはない状態であった。
 が、当然、何時までも一人で悶えている状況で無いことを自覚している翔子は、取り敢えずは理性を保ち、マスターの待つ部屋へ入って言った。
「あ・・・あの、あの・・」
 自分で言い出しただけに、これから行われようとする“イメージプレイ”には興味があった翔子だったが、考えてしかるべきだった現状を前に、当初考えていた台詞は全て吹っ飛んでいた。さわりだけでも思いだそうと努力するが、頭に血が昇りすぎたのか、それすらもかなわなかった。
 そんな様子は、マスターの知る所となる。
(これでいつものペースだな)
 そう思い、本能的に安堵してマスターは助け船を出した。
「どうした翔子君。相談があると聞いたが?」
「あっ、はい・・・・・」
 いつもと違う呼び方に、その意図を理解した彼女は、ともかく思いつくままに行こうと決心した。
「コーチ・・・・実は私、悩んでるんです」
「何をだ?」
「最近、全く記録も伸びないし練習が辛く感じるんです・・・・・もう、私は・・・・限界なんです・・・・」
 それっぽく表情を作って言った後、翔子はベットに腰掛けるマスターの足にすがった。
 彼女には密かな思惑があった。例え用意していた台詞を忘れても、その基本方針は残っていた。それは、状況を利用してマスターとより一層良い仲となる・・・・事だった。
 現在が“借金”と言う理由の下での関係であるため、遠からず返済が終了した時、また以前の状態に戻ってしまうのだろうと思い、それが彼女には寂しく感じられたのだ。
 たてまえである援助交際に、この手の感情は厳禁なのだが、彼女の本音は援助でない方が良かったのだ。
 ならば、今のうちに誘惑ないし、一歩進んだ事をして、今後もこういった特別な関係を維持しておきたいと考えたのである。そして、あわよくば・・・・・・・・・・・・とも。
 そう言った打算を持って今日、やって来た彼女だったが、現実を前に結局、躓いてしまったのである。
 それでも今、状況は彼女の思惑に近い方向に流れていた。
「翔子君・・・・・」
 お決まりのように彼女の肩に両手を添えるマスター。翔子はここぞとばかりに勢いに身を任せ、演技で潤ませた瞳でマスターを見上げた。
(ドラマならここでキス!ちょっとアダルトで行くなら・・・・)
 翔子は期待に胸弾ませ、彼の次なる行動を待った。
 が、結果は彼女の予想外であり、彼の望む方向であった。
「な~に、甘ったれた事を言ってる!」
 マスターは翔子を抱え、強引にベッドの方へ引き起こすと、左手で彼女の両手を掴み、頭上で押さえつけるようにしてベットに押し倒した。
「マス・・コーチ、な、何を」
 予想外の成り行きに狼狽する翔子。一方のマスターはその様子も楽しむかのように言葉を続けた。
「その腐った根性を叩き直してやる」
 そう言って、残った右手を彼女の目の前でわきわきさせる。
「きゃぁぁぁ~ん、やっぱりそうなるのぉ~」
 身を軽く捩り、演技抜きで悲鳴を上げる翔子。その表情は妙に複雑だった。
「問答無用!」
 すかさず、くすぐりだすマスター。だが、口調の強さに反して、そのタッチは実にソフトだった。彼は指先だけを彼女の腹に添え、その周辺を撫で回すように動かしてくすぐったのである。
「く、くく、くふっ・・・・・・・は・・・あ・・・はん・・・あふっ・・・・・あ・・ひゃん・・・・だ、だめ、ちょっと待って、くふふ、待って下さい・・・・」
 くすぐったくても大笑いするほどでもない刺激に、翔子は敏感に反応しピクピクと体を弾ませる。
「さて、そろそろペースアップするぞ」
「あ、ちょっ、あん、あふふ、ちょっと待って下さぁい」
 そんな懇願むなしく、マスターの指は第2段階へと移る。とは言っても、触れるのが指先だけだったのが、指の腹全体になり、移動範囲も腹部のみだったのが、右脇の下から右腰へ、そこから腹部・左腰を経由して左脇の下へと動き、それが体操着の上で往復運動として繰り返されるだけだった。だが、翔子にとっては格段のくすぐったさとなって、全身の神経に襲いかかった。
「ふあ・・・きゃははははははははははははは、あ、あ、あ、あははははははははは、コ、コーチ、あはははははははははは、く、くすぐったいです、きゃあははははははははは、やめ、やめて下さいぃ!あはあはあはっ、い、息が、あふふふふ、息が詰まっちゃいます~」
 悩ましげに体を左右にくねらせ笑いながらも翔子は“役”だけは続ける。
「この程度で何を言ってる。もっともっと激しくなるのを堪えてみせるろ」
 演技がかった口調でそう言うと、マスターはさらに指のわきわき運動を追加した。
「ひゃはははははははははは!あ~っはははははははははははは!!ほ、ほんとに駄目ですってば、きゃあははははははははははははは!!」
 翔子は激しく左右に体を振ってマスターの指を振り払ったが、そうすると今度は体の振りが右から左、左から右へと変わる一瞬の間隙をついて脇腹を5本の指でつつかれ、彼女は一層激しく悶えまわった。
「あはははははははははははは、やはははははははははははは!ちょ、コーチぃ、いひひひひひひひひ、お、お願いですら、あはははははははは、すこ、少し休ませてくださぁい!きゃはははははははははは」
 涙目になり、息も絶え絶えに訴える翔子。その祈りが通じたのか、上半身を蠢く指の動きが止まった。
「はふぅ、あ?・・・きゃふはははは!」
 一種安堵したのもつかの間。新たな刺激に襲われ、翔子は再び笑い声を出した。
 マスターの指が彼女の体を滑り降り、太股を経由して右膝の上で踊り始めたのである。
 先程とは異質のくすぐったさに、今度は足を震わせて笑う翔子。両腕と違い、拘束されていないだけその動きも激しかったが、マスターの指はその動きに合わせ的確に膝を責めていた。
「やんやん、やはははははははははは!」
 くすぐったさから解放されたい一心の膝は逃げ道を求めて移動し、やがてベッドからはみ出してしまった。
「逃げていては何時までたっても成長せんぞ!」
 これ又、わざとらしく言うと、マスターは翔子の両足を捕らえ、再びベッドの中央に引き戻すと、今度は逃がすまいと彼女の太股にまたがって押さえつけた。
「さぁ、もうこれで逃げられんぞ」
「あ・・・そんな・・・やん」」
 わきわきと蠢くマスターの右手が腹に近づくにつれ、翔子は体にむずかゆさを感じ、身を震わせた。自由を求め精一杯抵抗を試みても、押さえつけられた身では僅かに上半身が左右に捩れる程度で、それに合わせて体操着に包まれた彼女の胸が小刻みに揺れるだけだった。しかも先程、激しく逃げ回ったため、体操着は捲れ上がり健康的に引き締まった彼女の腹を惜しみなくさらけ出していた。
 マスターは自分の下で、はかなく悶える翔子をしばらく眺めると、彼女が抵抗を断念した頃合いを見計らって、不意に腹へのくすぐりを始めた。
「くひゃ、きゃはははは・・・コ、コーチ、ひど、酷いです。きゃははははははははは!」
 臍の周りを直接撫で回される感覚に、一瞬も耐えることが出来ず笑い悶える翔子。
 マスターは弄ぶかのように、右回り、左回り、突っつきと、触り方を変え、その度に変化する彼女の悶えを堪能すると、今度はいきなり臍の窪みに人差し指を突っ込み、その中をぐりぐりと掻き回した。
「あっあ~!!!いやっははははははははははは!きゃ~っはははははははははははははは!!やめてやめて!あ~っははははははははははは!!」
 今までと全く違った刺激に翔子の反応も変化し、上半身を上下に激しくしならせた。
「どうだ翔子君、少しは頑張ろうという気になったか?」
 小刻みに指を震わせ続けながら、マスターは問いかけた。
「あっあっ、あはははははははは、はは、はい~!あははははははは、きゃはははは、な、なりました、やははははは!なりましたから、いやっははははははは!止めて下さいぃ~あ~はははははははははははっ!」
 この状況では本意でなくてもそう言うしかない。それを知りながらの質問だった。
 翔子は一刻も早く、この妖しくも苦しい責めから開放されたい一心で何度も頷いたが、彼女を襲うくすぐったさは未だ衰える事が無かった。
「やぁはははははははははぁん!ど、どうしてっ、ははははははははははははぁん、どうして止めてくれないんですか~!あっあっあはははははははははははははははははは!」
「翔子君・・・・・・その言葉・・・・・・ほんっと~~~に・・・・本当だろうね?・・・・・・訓練に・・・本当に弱音をはかないんだね?・・・・・私はその言葉を・・・・・信じて・・・・いいんだね?」
 マスターは翔子を巧みにくすぐりながら再度問いかけてきた。しかもその言葉はじれったくなるほど遅い。無論、彼女を焦らすための意図的な行為である。
「やはははははははははははは、本当です、本当ですってば、あ~っはははははははははははは!どんな訓練も受けますから、あはっあはっ、止めてくださ~~い!!!!」
 翔子の懇親の絶叫と共にくすぐりは止まった。彼女の両手両脚も開放されたが、すぐには動く事は出来なかった。笑いすぎで不足した酸素を呼吸するので精一杯のため、捲れ上がり露わになっている腹を隠すことも忘れていた。
 そんな情事の終わりのような様子の翔子をマスターは色々な思いのこもった視線で眺めるのだった。


 “イメージプレイ”はなおも続く。
 小一時間ほどかけて回復・休息・体操着の乱れの直しを行った翔子は、今度はベットにうつぶせにされていた。
 彼女の両膝のちょい上の位置にマスターがまたがり、状況は先程の体勢が裏返った様になっていた。が、この時点ではまだ彼女の両腕は自由だった。
「あ、あの、マスター・・・・今度は何を?」
 両腕を支えに自由になる上半身を捻らせてマスターの方を見ながら、少し怯えた口調で翔子は問うた。
「まだコーチだよ。さっきの続き」
「な、何をなさるんですか?」
 演技とも本心とも取れる口調で翔子が言った。
「決まっているだろ。頑張ると言ったからには“特訓”を受けてもらう。た~っぷりとしごいてやるから覚悟するように」
「覚悟って・・・・・・・まさか、きゃはぁん!」
 突如、悲鳴を上げる翔子。
 マスターが無防備になっていた彼女の脇の下から脇腹までを指で撫で下ろしたのである。そう、またも“くすぐり”が迫っていたのだ。
「あ、あ、ちょと待って、待って下さい」
 何時まで経ってもくすぐりに対する馴れが出来ない彼女は、ばたばたともがくが、結局、マスターから逃れることはかなわなかった。それを身をもって知った彼女は両腕を力一杯閉じ、脇の下と言う弱点のガードに入った。
「無駄無駄・・・・」
 翔子は、マスター手が近づいてくるのを肌で感じ取り、さらにガードする腕の力を入れた。
 だが、肘から下の部分にそれ程力が入れられる訳もなく、マスターの手はゆっくりと腕の隙間から彼女の両腰に潜り込んであった。
「ああっ!あはっ、あはっ!きゃはははははははははは!ひゃはははははははははははは!!」
 潜り込んだ両手がぐにぐにと腰を揉み始めた途端、翔子は悲鳴ともつかない笑い声を上げた。ガードしようとする努力も全く効を得ず、彼女は枕に顔を埋めて笑い続けた。
「う~ふふふふふふふふふふふぅ!くふふふふふふふふふふふふ、くひゃははははははははははは!!」
 先程までほとんど撫でられる程度のくすぐりに大笑いしていた翔子にとって、くすぐりに弱い腰を揉み回されるのは、とてつもない刺激であった。
 堪えようとする意志は一瞬で粉砕され、本能のみが自由を求めて体を震わし、抵抗するさせるが、無駄な抵抗にしかならなかった。
「ほら、腕を開けろ。でないと“特訓”の次のステップに行けないだろ」
 意地悪コーチとなりきったマスターが満身の笑みを浮かべて言った。
「あははははは、そ、そんな、きゃはははははははははは」
 笑い悶えながらて翔子は言った。腕を上げればくすぐりが更に弱い部分である脇腹・脇の下へと上がってくることは確実だった。それを知って腕を開けられるはずもない。それに今なお続く腰のくすぐりのせいで、反射的に腕が閉じ、容易に開けられる状態でも無かった。
「でないと、いつまでもこのままだぞ。最終ステップをクリアーした方が楽になれるのだぞ」
 本心としてはこのままでも良いと思うマスターだったが、翔子にとっては正に死活問題だった。
 その状況下で彼女が解放される道を選んだのは当然と言えた。だが道のりは決して容易ではない。意を決して腕を上げようにも絶え間なく襲いかかる強弱に富んだ腰のくすぐったさは反射的に腕を閉じさせ、彼女の意志を妨害した。
 それでも笑い悶えながら苦闘すること数分、シーツを力一杯握り締め、ようやくにして翔子は腕のガードを上げる事に成功した。
 が、彼女にとっては苦闘であっても、マスターにとっては何の感慨もなく、待ってましたと言わんばかりにその手を腰から脇腹へ移すのだった。
「きゃああっはははははははははははは!だめ、そこだめ、あははははははははははははははは!!あ~っはははははははははははっ!!やっぱり我慢出来ないっ!!!!」
 襲いかかった新たなくすぐったに、翔子は更なる悲鳴を上げて腕を閉じてしまう。だが、くすぐりの魔の手は既に彼女のガードの下にあった。
「きゃははははははは!あははははははははは!や、やっぱり耐えられない!いひゃはははははははは!!も、もう止めて下さい!!」
「何?ここまで来て諦めるのか?そんな奴は思いっきりしごいてやる!」
 そう言うとマスターは一時くすぐりを中断しすると、翔子の左腕を取り、それを引っ張り上げ自分の右腕と脇でしっかりと押さえつけた。
 結果、翔子は左腕を後ろ手に上げられた形となる。その無防備となった彼女の左側にマスターの左手が容赦なく襲いかかった。
「きゃあ~~っはっははっははははははははははははは!!いやっはははははははははははははは!!だ、だめ、あはははははははははははははは!そ、それだめ、きゃははははははははははは!やめ、やめ、やはははははははははははははは!た、たす、きゃはははははははははは!!」
 今までにない激しいくすぐったさに翔子はぶんぶんと首を振って笑い悶えた。体も激しく痙攣していたが、腕を逆手に取られベットに横たわっていてはまともに動けるはずもない。右腕でガードするのもかなわず、その手は空しくベットを叩き続けるだけだった。
「あははははははははは!あ~っはははははははは!!やはははははははははははは」
 もはや言葉すらもまともに発せず笑い狂う翔子。そんな彼女をさらに狂わそうと、マスターは一層くすぐりの手を強める。
 人差し指と中指を揃え脇の下から腰を何度も突っついたかと思うと、今度はそのまま“の”の字を書くように、あちこちで指をぐりぐりと動かす。そして一番反応の良かった部分を徹底して責め続けるのである。とても笑いの収まる隙は無い。
 そしてさんざん左側を責めた後、ほんの少しの休息を与え、今度は押さえる腕を交換し、右側を責める体勢に入った。
「さて、ラストスパートだな」
「は・・・・あ、も、もう少し待って・・・・・」
 激しく喘いで、か細く訴える翔子。
「だ~め、苦しい中でやるからこその特訓だ」
「やっ・・・くぅ・・・・・ふぅ・・・・」
 ゆっくりと迫るマスターの右手を見ただけで翔子は身震いし、前進にくすぐったさを感じた。そして脇腹に指が添えられただけで我慢できず吹き出してしまった。
「く・・・・・くふっ・・・くふふふふふふふふふふ」
「今からそれじゃあ、大変だぞ。こっちは利き手だからさっきよりも良く動くぞ」
「そんな・・・あふ・・・くふふふぅ」
 翔子の訴えかけるような視線も無視して、マスターは指を動かし始める。
 指先を滑らすようにして、ほんの少しだけ揉み上げる。そんな調子で彼女の右脇一帯をくまなくくすぐる。
「んあっははははははははは、ひゃあっははははははははははは!!」
 マスターの指が妖しく這いずる度に弾けたように笑い声を漏らす翔子。だが彼女は今、別の衝動とも戦っていた。
 それは、左手とは比べ物にならない右手の巧みさから来たものなのか、彼女の感覚が麻痺してきたものかは分からなかったが、マスターの指が踊るつど、彼女の体にくすぐったさに紛れて快感が駆けめぐっていたのである。しかもその感覚は徐々に大きくなっていくようでもあった。
 翔子はその感覚に耐えていた。快感に飲み込まれ、淫らな声を出さないように、笑い悶えながらも必死に耐えていた。
 そう言った、本来の行為とは別の衝動と戦っているのは彼女だけでは無かった。マスターもまた、笑い悶える彼女の姿に興奮を覚え、それが暴走するのを理性を総動員して止めていたのである。
 何しろ彼女は今、彼の下に取り押さえられているのである。襲うことは簡単であった。だが、それによって今後彼女が来なくなるのは惜しいと思うため、今はまだだと、自分を抑えていた。
 だが、やはり彼も男。苦しげに笑い悶え、蠢く指に反応する度に小刻みに震える翔子の右胸につい目が行ってしまう。半ば体が反っている為、体操着に覆い隠されているとはいえ、彼女の胸はそれなりの自己主張を見せ、なかなかの発達を想像させていた。
 そんな光景に、ついむらむらときたマスターは緊張しつつも、くすぐる仕草で彼女の無防備な右乳房の下をすっと撫で回した。
 その途端、翔子が小さく今までと違う声を上げたため、マスターの指はそそくさと本来のポイントへと逃げて行くた。
 翔子は笑いながらも枕に顔を埋めた。自分の顔を隠すためである。つい先程、マスターの指が自分の胸をくすぐった時、くすぐったさよりも快感がこみ上げ、堪えきれず小声ながら喘ぎ声を漏らしてしまったのである。
 この声をマスターが聞いたかは確認する術のない翔子だったが、何よりもまず恥ずかしさがこみ上げ、今も真っ赤だった顔を更に赤く染め上げていた。そして、くすぐられるだけでHな声を上げた自分を見られたくないとして、顔を伏せたのである。
 だが、一度生まれた感覚はなかなか消えることはなかった。それどころか快感は急速に高まっていく。あの声が呼び水となったのか、マスターから送り込まれるくすぐったさのほとんどが快感へと変貌しつつあった。
「あはっ!あはっ!い、いやぁ!!」
 必死になって身を捩る翔子。それはくすぐったさから逃げるためではなく、この場でこれ以上の高みに登りつめることの恐怖と羞恥によるものだった。
 それを限界寸前の様子と勘違いしたマスターはフィニッシュとばかりにくすぐりの手を強めた。
 それは彼女にとって快楽と言う名の誘惑が激しさを増した事になる。
「くっ!ふうっ!んん・・・・!」
 必死になって抵抗する翔子だったが、結局、高鳴る体を抑え切る事が出来ず、ついには小さいながらも絶頂に達してしまい体をピクピクと痙攣させてしまった。
 と、同時に彼女を責めていたくすぐりが終わり、右腕と両脚が開放された。彼女の反応を気絶状態と解釈したのである。
 両肩を激しく上下させる翔子。今尚、彼女の体を駆けめぐる快感を必死に抑え耐えているのである。
「ちょ、ちょっと今日はハードだったかな・・・・大丈夫?」
 彼女の様子がかなり辛そうに見えたマスターは罪悪感を感じていた。
「は・・・・・・・は・・・・い」
 翔子は頷いてみせるが、これだけ言うので精一杯の様子で大丈夫と答えられても説得力は無い。
「とにかく冷たい物でも持ってくるよ。そこで待ってて」
 そう言うとマスターは介抱のつもりで軽く背中を撫でると、部屋を後にした。
「・・・・・・・・・!!!」
 その時、彼は気づかなかったが翔子は再び軽い絶頂感に襲われていた。背に触れられただけでそうなったのである。
「ど、どうして?体に触れられただけで・・・・・こんな・・・・これじゃ、私・・・・いけない娘になっちゃう・・・・」
 彼女も予想しなかった異種の性への目覚めは彼女を大いに戸惑わせる。これが行為と好意の結合した結果であることを彼女はまだ自覚していない。

翔子の本日の借金返済
基本料金+お触り代+コスプレ代+延長料金(?)  計8万
残りあと、110万円



  つづく



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