「くすぐりの塔2」 -勇者降臨編-
     




 -第五章 半身遊戯-

『うおぅりゃぁー!』
『ぬわりゃぁー!』
『ぬえぇぇぇぇぇぇぇーーーっい!!』
 塔内3階の通路にキーンの叫び声がこだまする。そのかけ声が一つ響く度に、最低でも一匹のモンスターが切り捨てられている。
 今、彼は最高に気合いが入っている。先程の軽い『お遊び』で、ある程度の欲求不満が解消された上、この先にも『楽しみ』がある事で、彼のバイオリズムが必要以上に上昇していたのである。
 いわゆる絶好調状態であり、今の彼の進行を止めるのは、未知とは言え、並のモンスターでは不可能であった。それに加えて、このフロアのモンスターの大半は水生型であったため、先ほど彼の策により、戦闘フィールドである『水』を失った今となっては、勝てる要素は皆無であった。
「せりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 一方のキーンも、当初の水中戦を考慮して、主武器であった槍を置いてきているため、リーチが短いショートソードとナイフによる近接戦闘がメインとなっていたが、そんなハンデなど、全く意に介している様子は無い。今、この瞬間も、迎撃のつもりで現れたのだろう、リザードマン(蜥蜴男)の群を両断しまくっていた。

 そうこうして闘うこと更に十数分。
 キーンは一つの扉の前に立っていた。待ちに待った目的地である。
「さて、行くか・・・・」
 彼は、このフロア特有の『扉』に手を触れ、その中に身体を押し込んで行った。
 何の抵抗もなく入室できたキーンは、早速周囲に気を配る。中は他の部屋にはない小綺麗な雰囲気が漂っていた。何かしらの意味合いのある部屋か、高位な身分の者が使用する部屋か、ともかくも色々な意味で、手のこんでいた作りである事に違いはなかった。
 部屋自体もかなり広めになっており、見回すと数匹のモンスターが何やら集まっているのが確認された。
(アレだな・・・・・)
 キーンは、モンスターが自分の侵入にも気づかず何かに気を取られている様子から、自分の目指す目的地が、あの集団の注目している一点であることをなんとなく察した。
 目標そのものはモンスターの身体がたむろして作る壁によって、まだ見えなかったが、キーンにすら気づかず熱中している事から、お楽しみ・・・と、言うより、どちらかと言うと、淫靡な悪戯の最中である事は間違いなかった。
 キーンはそのまま気配を殺したまま、ゆっくりとモンスター達に近づいて行った。
 相手は全てワーウルフ(狼男)系のモンスターらしく、皆揃って毛むくじゃらで、犬・狼以外に見えない頭を持っている。唯一違いが判るとすれば、身体の大きさと体毛の様子が全体的に異なっている点だけだった。
 ゆっくりと、気づかれぬまま集団まで近づいたキーンは、今だ前の方で行われている行為に熱中している最後尾のモンスターの真後にまで近づくと、素速く左腕で首を締め上げ息を吐かせる間も与えず、右手に持ったナイフで脇腹を一突きした。
「・・・・・・・っ!」
 か細く呻いて、そのワーウルフは絶命した。その瞬間僅かに漏れた声も、他の者には気に止める材料となり得なかった。
 キーンは、締め上げているワーウルフを少し離れた所で横たわせると、再び同じ作業に入った。
 事は順調に進み、四匹目の暗殺に取りかかろうとした時、少し場の空気が変化した。
「ちぇっ、もう少し楽しみたかったな」
「何言ってやがる、長けりゃ、待つ方を考慮しろとか言って喚いていたくせによ!」
 一匹の順番が終わり、交代の順番となったのだ。
(やばっ!)
 キーンは咄嗟に最後尾でしゃがみ込んで、事が済み、先頭から最後尾に移動してきたワーウルフをやり過ごす。
 ワーウルフも、ある程度楽しみ、御満悦の表情で最後尾に周り、次の順番を待とうとした所で、キーンの存在に気づいた。
「お、おまっ」
 ワーウルフの言葉より早くキーンが動き、相手の喉を左手が押さえつけ、声を奪う。
 後は今までと同じ手順であった。

 それから数分、順番的に最も待ち時間が長く感じるであろう、『次が自分の順番』であるワーウルフは、自分の背後の妙な息使いに気づき、思わず振り向いた。そこには、見慣れた同族ではなく、何の変哲もない人間の男のにやけた表情が眼前にあった。
「お、お前一体・・・・・」
 ワーウルフの問いかけよりも早く、彼、キーンは右手の人差し指を口にあて、静かにとささやいた後、いやらしげな笑みを浮かべて、ワーウルフの後方、今、楽しんでいる同族の方を指さした。
「お前、そっちの姿で楽しむつもりか・・・・」
 人間形態で次の順番を楽しもうとしている同族・・・・・だと、このワーウルフは誤認した。
 『群』を成しても、知能がある故に、それぞれが『個』である彼は、皆と違う楽しみ方をしたがるその気持ちも理解できなくは無かった。だが、それでも、次は自分が楽しめる番だと言う事実は、彼の集中力を乱し、結果として見抜けるはずのキーンの存在を見過ごす結果となった。
 己の持つスピードと牙と爪で闘うのが常のワーウルフ一族しかこの場にいないのにも関わらず、男は『武装』をしていたのを見過ごしていたのである。
 キーンの視線が気になったワーウルフは早々に振り返り、今行われている行為を凝視した。
 そこでは、天井から生えた様な艶めかしい下半身に対し、仲間の一人が、鳥の羽を数本束ねた物で撫で回し、いたぶっていた。
 それはもちろん、痛めつける行為ではない。微妙なソフトタッチによって性感帯を責め、更にその範囲を徐々に広げる事で、敏感な部分を広げ、開発していこうとする意図が主体である。
 主に責めの中心となっている尻・股間は、その羽が、太股・内股・尻の表面を移動する度にピクピク反応し、脚を震わせ、クネクネと尻を振り回した。
 正体不明の、悪意に満ちた快楽責めから少しでも逃れようとしての行為か、あるいは更なる快楽責めを求めての誘いのダンスかは容易には判断できなかったが、間違いなくこの反応は男の被虐心を煽る物であった。
 もうすぐあの下半身を自由に出来る権利が自分に来る。そう思うとワーウルフは興奮による動悸を抑えられなかった。
 と、その時、ワーウルフの背中を鈍い衝撃が駆け抜けた。
「・・・・・っ!」
 瞬時に身体が硬直し、痙攣する。その現象の正体を確認すべく、振り向こうとするが、身体は意志に反してスムーズな反応を見せない。それでもようやくにして、振り向くと自分の背中の脇腹近くから、大型のナイフが突き立てられていた。
「・・・・・・なっ・・・・」
 それを行ったのが、先程の男と知り、問いただそうとしたが、キーンはそれすら許さないかの様に腕に力を込め、更にナイフをワーウルフの体内に押し込んだ。
「かっっはっ」
 背中に感じていた不快感が急速に激痛となって体内を駆けめぐり、ワーウルフは息を詰まらせた。そしてナイフが差し込まれたまま捻られ、体組織の破壊と空気の体内侵入が成された時、彼もほとんど声を上げる事無く絶命した。
「さて、残るはあいつか・・・・」
 崩れ落ちるワーウルフの身体からナイフを引き抜き、キーンは呟く。
「おい、もう交代の時間だぞ!」
 最後に一匹に対し、おもむろにキーンは言った。
「何だと!?嘘つきやがれ!」
 お楽しみの最中に水をさされ、最後のワーウルフは不満そうな声を上げてキーンを睨んだ。そして相手が同胞で無い事を知ると、露骨に戸惑いの表情を浮かべた。
「何だ貴様は!?」
 言って、相手の足下に仲間の死体が無数に転がっているのを確認して、再び彼は驚いたが、これで確認の必要は無くなった。
「貴様・・・・・」
 ワーウルフは喉の奥で唸り声をもらす。
「あんた達は十分に堪能しただろ。今度は俺の番・・・いや、独占させてもらう」
 きっぱりと自分の本音を語るキーン。救助すべき相手がすぐそこにいる以上、建前としての言葉を優先すべきであったが、今回はその言葉を聞ける『耳』が、一枚壁を隔てた所にあるが為に語られた事実であった。それでも内容は、相手にとって満足できるものでは無かったが・・・
「何だと!人間風情がほざくなっ!」
 このワーウルフは己に自信を持っていた。彼等は世間で知られるワーウルフとは異なり、かなり戦闘能力が秀でているだけでなく、必要に応じ人間・獣人(狼男)の変身が自分の意志で行えるといった、他に類を見ない種族だったのだ。
『純血種』と、彼等の主は呼んで召し抱えており、過去何度か他のワーウルフと闘ったこともあり、実際の実力差を実感もしている。そんな自分が人間に負けるというイメージがどうしても持てなかったのだ。
「その人間に仲間は皆、やられているんだ。その後を追いたくなければ今すぐ消えろ」
 事実、順番を待っていた仲間は誰一人立ってはいない。だが彼は、戦闘の騒ぎを感じなかった事もあり、決して仲間達が正攻法で争って敗北したとも思えなかった。
 その行きつく先、この男がはったりをかけている可能性を感じたのであった。
「断る!」
 ワーウルフはきっぱりと言い放った。
「なら、死ぬぞ。群で動くのが主体である狼が、単体で闘ってどうなる」
 両腰から二本のナイフを抜いて構えるキーン。
「お前が俺を殺せるのか?」
 本気で闘うつもりの相手に、少し意外な思いを感じたワーウルフであったが、先の台詞から、相手は自分を侮っている事がはっきりと理解できた。世間の常識を凌駕した戦闘能力を秘めた自分の実力を垣間見た時、この男はどの様な反応を見せるであろうか、意地の悪い興味すら覚えた。
「試せばいい事だろ」
「その通りだ、どちらか一方にとっては命を代償にした高い確認になるがな・・・」
「知った事じゃない」
 その瞬間、双方が動いた。
 キーンはいつものように、二刀流ナイフによる近接攻撃を仕掛けに出た。そして一方のワーウルフは脚力にものを言わせ、一気に相手との間合いを詰めた。
「!」
 それは、キーンの過去の経験と予想を大きく上回る早さであった。
 急速に縮まる間合いから繰り出されるワーウルフの爪を、キーンは身を捩ってやり過ごす。
「良くかわしたな!」
 すれ違いざまにワーウルフは言った。余裕があるように見えたが、この時点で彼はキーンを倒すか致命傷を与えるべきであったのだ。キーンが相手の実力を過小評価していたのと同様に、ワーウルフも対峙する相手の実力を『人間』と言う枠内の限界でしか見ていなかったのである。
 キーンは回避行動をした勢いそのままに身を半回転させ、進行方向に背を向けた状態を作り出すと、すれ違って遠ざかるワーウルフの背に、両手に持っていたナイフを投げ放った。
 かなり無理のある投げ方ではあったが、勢い・狙い共に申し分なく、ナイフは一直線に目標めがけて突き進む。
 ワーウルフがそれに気づいたのは、再攻撃のため勢いに制動をかけ、振り向いた直後のことであり、とても反応できる間合いでは無かった。二本のナイフはほぼ同時にワーウルフの両肩を貫き、その勢いで相手を押し倒すまでに至る。
「がはぁッ!」
 自分の反応を凌駕した攻撃。そしてそれがキーンによるものであると理解するよりも先に、追い打ちとして放たれていた気孔弾がワーウルフの頭部を粉砕していた。
 頭を失った肉体はあっさりと活動を停止し、糸の切れた人形の様に倒れていった。
「・・・・・・・・・」
 相手に対し、特に何の感想も述べぬまま、いつものようにナイフを回収すると、キーンの意識はあっという間に念願の『目標』へと集中した。

 当初の目的地であったファーラの下半身は、キーンの予想・・・・・否、期待したとおり、実に艶めかしい状況となっていた。上半身の状況からでは判断がつかなかったものの、彼女は王宮戦士とはいうものの、戦闘は格闘を含めた近接戦闘もしくはそれに類する闘いをするらしく、下半身は腰までスリットの入ったチャイナ服らしき闘衣を纏っていた。
 もっとももそれは、ワーウルフ達の余興によって切り取られたのだろう、超ミニスカートサイズに変貌している。
 周囲の状況を確認すると、彼女は三段になっている何かしらの台座の上におり、それを足場代わりにして天井の穴から四階へ抜けようとしてものの見事につっかえてしまったと言う訳である。
 脚は膝立ちの状態で安定しているため、つっかえた腰や上半身に負担がかかることはなかったが、身動きできない状態である事に違いはなく、見ようによっては台座に女の下半身だけが祭られている様にも見える。位置的にも最も目立つため、周囲から悪戯される結果にもなっていた。
 キーンはゆっくりとファーラの形の良い下半身に近づく。彼女は身体は天井と同位置にあるため、誰であってもその視点は見上げる形となり、それが覗きをしているような錯覚さえ覚えさせる。その上彼女の腰は、同じ位置に立っていても、少し屈めば下着が見えてしまう程のミニスカート状態であるため、望まなくても見える状態になっていた。
 そんな光景に、思わず手を合わせ、拝んでしまうキーン。そして普段あり得ないシチュエーションにどきどきしながら台座に近づき、そして登り、彼女の下半身を目の当たりにする所まで近づいた。
 そして間近で見る事により、更なる興奮を見つけるに至った。
 それは彼女の下半身に、彼女が感じていた証拠を発見したのである。
 キーンがファーラの事態を知り、ここへ至るまでにはそこそこの時間を要した。彼が寄り道をしてしまった事もあるが、その間、彼女はワーウルフ達にいいように悪戯され続けていたのだろう。
 先程、僅かに見た行為だけでも、その責めは淫靡な物であった。逃げられず、どこをどの様に責められるかも分からない状況で、ファーラはいいように刺激に放浪され、耐えきれず悶え、その股間を濡らしてしまっていたのである。
 しかも、ずっと焦らされていたのであろう。その濡れ方は尋常ではなく、股間を覆う布は溢れるそれを抑えきれずぐっしょりと濡れ、太股を伝って台座にも幾つかの染みを作るまでに至っていた。
「すげっ、彼女、悶え狂ってないだろうな・・・・・・」
 などと心配するキーンではあったが、すぐに助けようと言う気はおきず、やはり便乗しての悪戯を行うのであった。
 キーンは辺りを見回し、台座の上に転がっていた羽根箒を二本手に取ると、一本で両太股を撫で回し始めた。
 ファーラの反応は顕著で、羽根箒が蠢く都度、羽根から遠ざかろうと脚を開いたり腰を振って払いのけようとしたりと、はかない抵抗を試みる。本人は抗っているつもりでも、責め側から見ればそそる行為以外の何者でもなく、更なる責めを誘う呼び水にしかならなかった。
 キーンは藻掻く太股の一方を空いた手で捕まえると、内股を伝っている愛液を掬い上げるようにして撫で上げた。
 その効果は絶大であった様で、太股がぷるぷると震える感触が、抑える手に伝わった。おそらく上半身は身体を捩りまくっているのであろう、彼女の腰がつっかえている石床部分と激しく擦り合っている。
 その様な反応をされると男は燃えてしまうもので、キーンは彼女の内股を撫で上げる行為を幾度となく両脚で繰り返す。それでいて、ファーラが最も求めているであろう部分に対しては決して触れようとはせず、その手前である下着のラインをなぞるだけに止めていた。
 そんな意地悪極まりない責めに、彼女の尻は恥じらいもなく悩ましくくねり続け、キーンを誘惑する。とことん焦らそうと思っていたキーンにしてみても、この光景を目の当たりにしては、高ぶる感情を堪えるのに一苦労であった。
 ここに来る前にミアとの接触がなければ既に欲望の赴くままにファーラの下半身を貪っていたであろう。
 ここに来て、彼がこうも欲望を抑えて彼女を焦らしているのにも当然ながら理由がある。こうして彼女を性的欲求という、女性の抗い難い責め苦で精神的に追い込むことによって、陥落させ、自分の味方に引き込もうと考えていたのである。
 現時点でキーンの味方といえる者はルシア唯一人であり、それも立場から考えて公に意見する事は出来ない。他の王宮戦士も同様であろうが、囚われの身であった者の現場の意見であれば多少なりとも説得力が得られると考えたのである。
 もっとも、言葉や実力を見せつけて説得を得る方法も当然あるが、己が最も得をする方法として、この手段を選んだのは明白であった。幸いに、ファーラ側からは今、誰が責めているのかの状況は把握できない。その状況が、キーンにその手を使わせるきっかけとなったのであった。
 キーンの責めもねちっこい物であったが、そもそもかなりの時間、ワーウルフに責められていたのである、何度か絶頂に達していたかどうかは定かでは無かったが、少なくとも現時点ではそれを許してはいない。
 ファーラのそそる尻が、キーンの目の前でぷるぷると震える。ようやくにして得られる絶頂を求めてか、尽きることを知らない肉体の欲望を満足させるためか、彼女の心からの欲求はキーンにもひしひしと伝わっていた。
(そろそろいいかな?)
 正直、自分自身もこの状況に我慢するのが辛くなっていたキーンは、しっとりと濡れた羽根箒の柄をそっと彼女の股間にあてがった。
 ヒクッ!
 ファーラの下半身が震え、小刻みに動き始める。その動きから察するに、うずく股間を鎮めるために例え僅かであっても挿入物を求めての行為であろう。
 だがキーンは羽根箒の柄を押し込もうとはせず、その位置を維持したまま動かす事すらせずに意地悪い笑みを浮かべたままでいた。
 ファーラは最終的な快楽を求めて、出来うる限り股間を下げ、自ら挿入を試みたが、固定された腰はそれを許さず、結局腰を振る程度の事しか出来ず、その行為が羽根箒の柄の先で股間を軽く弄られると言った結果をもたらし、結局彼女は自分で自分を焦らす行為を行う羽目となった。
 自ら求めるといった行為を確認し、キーンは満足げに頷く。ここまで出来上がったからには、大抵の女性は欲求をかなえてくれる人物の要求を承諾する事だろう。
 彼は、少し後ろ髪引かれながら彼女の下半身から離れると、再び上半身へ交渉を行うべく、一端戻ろうとした所で、彼はふと違和感に気づいた。
 振り向いた際に偶然目にとまったのであるが、今、キーンの向かい合った壁から光りらしき物が見えていたのである。
 この、らしき物と言うのは、それが『光』としては妙に弱々しく揺らめいており、穴からもれた物でない事が確かであったからである。どちらかと言うと、ゴーストの様な中途半端な輝きにも見えたが、それ特有の不快感は感じず、むしろ自然の光が何らかの遮蔽物と言ったような、あたかも太陽光が薄雲によって弱められているような印象があった。
「?」
 気になると確かめたくなるのが人間の習性かも知れない。
 キーンは光のある壁の方にゆっくりと近づいていった。そして近づく事によって分かった事だが、光は壁から放たれているのではなく、壁の向こうからもれていたのだった。
「ん・・・?ひょっとして・・・・・・」
 キーンは手に持ったショートソードで壁を突いてみた。するとその切っ先は、何の抵抗を示さず壁の中に入り込んだ。無論、ショートソードの切れ味が良すぎたと言う訳ではない。正面の壁そのものが、実体では無かったのである。
「幻影魔法か・・・・・」
 魔法による、虚偽の姿を映し出す技術。物を隠したり、威嚇に使用したりと基本的には相手を騙す目的で使用される事がほとんどである。
 こういった場合であれば、大抵は隠し通路か隠し部屋の隠蔽と相場が決まっている。少なくとも『何か』が存在しなければ、この様な手段は使われない。
 キーンはほんの一時ファーラの事を忘れ、目の前の虚像の壁に身を投じた。
 彼の身体は易々と通り抜け、その向こうの空間に出る。期待に胸ふくらませ辺りを見回すキーンであったが、その視界に彼の望む光景は無かった。あるのは壁と松明の炎のみ。この炎の光が幻影を通して届いていたのであった。
 それ以外には、宝も無ければ部屋の扉もない。ただ一つの物体を省けば・・・・
「階段・・・・だな・・・」
 キーンは揺らめく松明の炎に照らされるそれを見やった。それは何の変哲もない階段であったが、それが『上』へ続いていたのである。
 その行く先を目で追ってみると、階段は天井まで続いて行き止まりとなっている。
「成る程・・・・」
 キーンは階段に近づき、それを脚で軽く蹴り、幻影でないことを確認すると、ゆっくりと昇り始め、天井付近まで辿り着いた時点で先程と同じ様に、天井を剣先で突いてみた。
 案の定、剣先は天井に触れることはなく、その中へと入っていった。天井も幻影なのである。
「隠し階段・・・・って事だな。要は上の階との非常通路って事だ」
 はっきり言って、得る物は何も無い発見であったが、状況は好ましい物であった。わざわざ回り道をしてファーラの所に戻る時間が短縮されたのである。位置的にもここかから上に上がれば彼女はすぐそこにいることになる。有意義な発見といって良いだろう。
「世の中都合良くなってる!」
 そう思いたくなるキーンであった。
 そして彼は早速階段を登り切り、待望の四階に辿り着いた。
「・・・・・・・・・・・・部屋まで一緒な訳ないか・・・」
 到着一番、周囲を見回し、ファーラの姿がない事態に、キーンはそう評価する。
 この部屋にもめぼしい物は無かったが、とりあえず外に出る扉があったので、そこから外に出ると、見覚えのある廊下に躍り出た。位置関係からして当然の事ではあるが、彼はファーラのいる部屋の隣の部屋から出てきたのである。
 この部屋の秘密さえ知っていれば、回りくどい遠回りをせずとも良かったのであるが、流石に彼も万能ではない。現時点で何の収穫もなく(ファーラの一件含む)、ここに至っていたら、発狂したキーンによってこのフロアは壊滅していたかも知れない。
 だが、今回は彼の労力は報われている。この結果を全く気にせず、彼はファーラの待つ部屋へと飛び込んで行った。


「いよっ!ファーラ、生きてるか?」
 わざとらしいかけ声と共に入室するキーン。
 その視界の奥で、問題のファーラはぐったりと俯せに近い状態でいた。よく見ると、その周囲は手で引っ掻いたような後が無数に残っていた。焦らし責めによる、苦悶の結果である事は明白だった。
「な、何で貴方がここにいるのよ・・・・」
 顔を上げたファーラの顔は見事に上気しており、瞳は潤み、口周りには涎の痕らしき物も残っていた。かなりきていた事を予想させるのに十分な表情だった。
「何、下で悪戯していた連中を片づけたんでな、様子を見に戻ってきたんだよ」
「そ、そんな事しなくても、早く下から引き抜いてくれればいいじゃない」
「でも、下は凄い状態だったから、悶え狂って正気じゃなくなっているんじゃないかと心配になってな・・・・」
 意地悪くキーンは言う。その一方で、自分の肉体の状況がどの様なものかを悟られ、ただでさえ上気していた顔を更に染め上げた。
「馬鹿!そんな心配するくらいなら、さっさと助けてくれればいいじゃない!」
「それはどっちの意味でかな?身動き出来ない事か?火照る体を静める事か?」
「そ、そんなの決まってるじゃない・・・・・」
 強く言い放って断言するものの、彼女の語尾はか細いもので止まった。人前では否定したい事でも、肉体がそれを断言する事を許してくれなかったのである。今尚、疼く身体はキーンに助けを求めようとするが、ファーラの意志はそれを辛うじて抑えていたのである。
「どっちも・・・・・だろ」
 ファーラの耳元で妖しく囁くキーン。微かな息づかいが耳に触れただけで、彼女はピクリと身震いした。羞恥心が彼の言い分を否定しようとするが、その瞬間、首筋を指先で撫でられ、駆け抜けた快感に言うべき言葉を失い、逆に求める声がもれそうになった。
「ち・・・ちがっ・・・・」
「無理しないで・・・・・今は誰も見ていないし、下の階ではミアとか言う仲間も悶えまくっていたんだ。誰も君を非難しないって」
 仲間も墜ちていた。誰も見ていない。そんな囁きは危険な誘惑であり、誰もが堕落の一歩を踏み出す好条件とも言える。最終的な精神的抵抗を試みていた者も、この些細な一言で陥落する事があり得る。それが人間の精神的な弱点なのである。
「逆に今だからこそ、恥も外聞もなく、乱れられるんじゃないかな?」
 これが決定打だった。今でしか得られない快楽、彼女はそう解釈したのだが、それを得たいという欲求が理性を上回ったのである。
「あ・・・お・・」
 羞恥に顔を染めながらも懇願しようとした矢先、ファーラは不意に身を震わせ、仰け反った。
「どうした?」
「何かっ・・・何かが脚を這い上がってくる・・・・あっダメッ・・・やはぁ!」
 ファーラは身悶えした。階下にまだモンスターが残っていたのである。それが今、彼女に再び悪戯を仕掛けているのであろう。
「だめ・・・あっ・・・・はあぁ・・・やぁん・・・」
 先程とは違い、今は目の前にキーンがいるため、ファーラは乱れた自分をみられたくないと思い、快楽に流されないように必死に堪えた。
 だが、そんな抵抗を排除すべく、キーンにさんざん焦らされていた彼女の身体は易々とそれを受け入れてしまう。
「あぁん・・・・いやっ・・・そ、そこ・・・・もっとぉ・・・・」
 はかない抵抗の末、欲望に負けた彼女は、あっという間に快楽に翻弄され、恍惚の表情となって悶える。
「くそっ!おいしい所を・・・・どこのモンスターだ畜生っ!!」
 結局、獲物を横取りされた形となったキーンは、歯噛みして唸ると、指先をピタリとファーラの方に向けると、そこから細い気孔弾を数発放った。貫通性を優先させた気孔弾は次々にファーラの周囲に着弾し、その床石の先にいるであろうモンスターに襲いかかった・・・・はずである。現時点で確認の術がない彼は、先程の隠し階段の方へ駆けだして行った。
 部屋を飛び出し、隣の部屋の扉を蹴破り、幻影魔法でカモフラージュされている階段の方へと駆け寄り、目測を誤って階段を踏み外し、駆け降りるよりも遙かに早く転げ墜ちながら三階に着くと、痛みも忘れて立ち直り、再び幻影の壁を通り抜けて、ファーラの下半身のもとに辿り着いた。
キーンは当初、攻撃対象を確認次第、妬みの感情に任せて切り刻むつもりであったが、それを見た直後、踏み止まって、その感情を抑制した。
 間男と言うか、キーンの獲物を横取りしようとする輩は確かにそこに存在した。だが、彼が当初予想していた様なモンスターではなく、その正体は一匹の『蛸』であった。それがファーラの尻にまとわりつき、その何本もの触手状の足を太股や尻や股間に這わせていたのである。
 先刻放った気孔弾も、ここまで密着されては命中しようがない。だからと言って、ここまで密着した相手を感情に任せて斬る事は、キーンには出来なかった。やればおそらく彼女諸共になってしまうであろう。
「こいつ・・・さっきの・・・」
 『蛸』がわざわざここまで来て、女性に欲情するとは思えなかったキーンは、それが先の闘いで切断したタコヘッドの頭部分だと悟った。
 その直感は当たっており、タコヘッドは絞り出すようにして掠れた笑い声を漏らしながら、その触手を遠慮なく彼女の下着に中に潜り込ませ、蠢かせる。その度に、ファーラの下半身が震え、それに抗うかのような振りを見せるが、その実体は快楽を求めての懇願の動きであった。
 そうこうしているうちに彼女の身体が、今までにない反応を見せた。股間の敏感な小さい突起を、タコヘッドの触手の吸盤に吸われ、一気に絶頂に達してしまったのである。
「てめっ!それは俺のモノだ!」
 思わずキーンは本音をもらして、タコヘッドの頭(既に頭のみであるが)を鷲掴みにした。
 それでようやくキーンの存在に気づいたのか、タコヘッドの目がぎょろりと動き、彼を睨んだ。
『早い・・・者・・・勝ちだ』
 弱々しかったが、確かにタコヘッドはそう言って・・・・笑った。そしてその直後、その身体(頭)がぐにゃりと脱力し、複雑に絡んでいた触手もその力を失った。事切れたのである。
「死んだ・・・・?」
 そう、モンスターとは言えタコヘッドも生物であった。流石に首を切り落とされては生きてはいけないものだった。それでもある程度の時間生きていた事実は驚異的と言える。結局彼(タコヘッド)は、死ぬ直前にやりたい事をやったと言う訳である。
「何がお前をそこまでさせたんだろうな・・・・」
 本能・・・ではないだろうが、その執念に、ある意味感心をしてしまうキーンであった。
「・・・・っと、それよりも」
 短い黙祷の後、綺麗さっぱりタコヘッドの事を忘れ、キーンはファーラの下半身へと向かった。
「お~い、大丈夫か?」
 そう言って、ファーラの尻を突っつくキーン。
『あ・・・ふぁぁ』
 その刺激にファーラは甘ったるい声で応え、目の前の尻を振った。先程と違い、彼女の声が聞こえるのは、キーンが先制攻撃のつもりで放った数発の気孔弾が空けた穴のおかげである。
 その結果を狙った訳では無かったが、これによって彼女の反応が直接知る事ができた。
「今、君にちょっかいを出していた奴は倒したから安心しな」
 放っておいても死んでいたが、それには触れないキーン。
『そ、そんな事より、もっと触って・・・いじってよぉ』
 悩ましい声と共にファーラの尻が懇願のダンスを踊った。
「・・・・・さっきイッたんじゃないのか?まだ足りないってのか?」
『イッた・・・イッたわよ・・・でも、でも、まだ疼くのよ・・・・もっと・・・もっと・・・あぁ、どうにかしてよぉ』
 一度絶頂に達した直後とは思えない様子に、これが彼女の本性のかと勘ぐるキーンであったが、ふと、タコヘッドの触手が分泌する体液の事を思い出し、一人納得した。
(そう言えば淫催効果みたいなのがあるって話だったな)
 先を越されたとは言え、結果的には状況はキーンの思惑に近い状態であった。これ幸いと、彼はファーラの内股に指を這わせた。
『あはぁっ・・・・もっと、上よぉ・・・』
 言われるまま、キーンの指はゆっくりと這い上がり、湿りきった布越しに、彼女の股間を軽いタッチでさすっていく。
『あっ・・・あっ・・・もっと、もっと強く・・・』
 自分ではどうにもならない為、彼女の懇願は切実さを帯びていた。
「してやってもいいけど、条件があるって言ったらどうする?」
『どうしたのぉ・・・もっと強く、激しくしてよぉ・・・・』
 意地悪く言って、相手を焦らせようとしたキーンの言葉はどうやら先方には届いていなかった様である。
「お~い、聞こえてるか~い?」
 少し虚しくなるキーン。気を取り直して尋ねると同時に、今度は彼女の股間を指先でつんつんと突っつく。
『あっっはっ、ムズムズする・・・でも、それもいい・・・・』
「聞こえちゃいねぇ・・・」
 あまりに焦らしてもいけないと言う例を知るキーンであった。
『何してるの、やめないで・・・・・・』
 ファーラは貪欲に快楽を求めた。キーンの当初の思惑とは大幅に異なりはしているものの、『役得』と言う意味では決して失敗とは言えない。相手が求めてきている以上、無理矢理とか、苦しい言い訳など必要ではなく、思うがままにして問題がないのが利点であった。
「こうか?」
 異性を性的に責めて悶えさせ、その悦びの反応を楽しむ事でよしと判断したキーンは、ファーラの望む場所を人差し指でさすり、下着の横から中へと潜り込ませた。
『はあぁぁぁぁぁぁ!』
 キーンの指先が熱い物で包まれた途端、ファーラも愉悦の悲鳴を上げる。彼の指は彼女の中で蠢き、震え、時には鍵状に折り曲げて柔らかい肉壁を掻き回す。その度に彼女は狂ったような悲鳴を上げ、身体を痙攣させた。
 やがて、タコヘッドの体液の効果もあって、程なくしてファーラは絶頂に達した。否、キーンの指が入った時点で彼女は絶頂に達していたのかも知れない。それが今まで続き、この瞬間、彼女の限界に至ったのかも知れない。
 そんな様子を悲鳴の度合いで感じたキーンは、彼女に包まれていた指を引き抜く。
「もういいだろ?」
 女体が得る快楽の凄さを実感できないキーンであったが、体力の限界近くまで悶えていて満足していないとは思えなかったた。
『え・・ええ・・・・楽になったわ。あんなの初めてよ・・・・今も余韻が凄くて・・・』
 満足しきった感情がその口調に含まれていた。彼女をよく見ると、その身体は今だ小刻みに震え、心身に残った快楽を味わっている様でもあった。
「なら、身体を引き抜くぞ」
 とりあえず、この状況での会話もある意味、疲れる部分があるため、状況を正常化するため、キーンは彼女の身体に手を回した。
『ちょっと、そんなに急かさなくても・・・・・』
「そんな体勢より、ちゃんと穴から出た状態の方が、余韻とやらの楽しみやすいだろ。それに、壁を隔てての会話もうっとおしいしな」
『それはそうだけど・・・』
 半ば強引に彼女を言いくるめて、キーンは引き出しにかかる。
 やりやすいように、一番手を触れやすい腰に両手を回した途端、ファーラがケタケタと笑い出して腰を振り、キーンの手を振り払おうとする。
『ちょっ・・・やはぁ・・・やははははははは、くすぐったいわよ』
 キーンにはそんなつもりは無かった。絶頂に達した直後のため、過敏になっているのか、それとももとからこの手の刺激に弱いのか、どちらとも言えなかったものの、この反応は彼の悪戯心に小さな灯火を再点灯させる結果となる。
「こんな程度でくすぐったいなんて言うなって。本当にくすぐったいってのは、こんな感じだ」
 と、言うが早いか、キーンは彼女の両脇腹に回していた両手の指をぐにぐにと蠢かせた。
『きょわっ!きゃあっっははははははははははははは!やめっ・・きゃっははははははははははは!あははははは!くっくくっくすぐったぁい!!!!あははははははははは』
「ほら、これがくすぐりってものだ。さっきみたいに触れた程度のものは本当のくすぐりには程遠いだろ?」
『あはははははははははは!わ、わかった、わかっきゃっはははははははははは!わかったから止めてよ~・・・・いひひひひっひひひひひひ』
「分かればいい」
 キーンはにんまりと笑って指の動きを止めると、再び彼女の身体を引き抜きにかかった。
『くっ・・・・くひっくひひひひっ』
 ファーラは、キーンが腰を引っ張り、体勢を立て直すため手の位置をずらす度に、その刺激に身悶えし、笑い声をかみ殺して堪えた。下手に抗議して、先程のように更なるくすぐりを受けたくはないと言う思いがあっての事だった。
 一方でキーンは、彼女を助けると言う行為の中で、抵抗できない相手をくすぐって苛めるといった悪戯心を抱き、意図的に腰に触れている指を滑らせ、立て直すふりをして指先を脇腹などに突き立てていた。
 ファーラ自身は必死に堪えているつもりでも、時折見せるピクピクとした反応は、キーンを大いに楽しませている。
 ファーラの身体を傷つけないよう慎重に・・・・・と見せかけ、ゆっくりと時間をかけながら引っ張りつつ、脇腹や腰や背中をそれとなくぐりぐりと責めながら、作業を続ける最中、ふと彼女の身体が今までにない抵抗を起こした。
「?」
 彼女の腰周囲に意識を集中していたキーンは、何事かと穴の方を見る。そして納得した。
 引っ張り続けた結果、彼女の身体は徐々に下に下がり、その結果、最初にして最大の障害にさしかかったのである。
 即ち、彼女の『胸』である。引き抜く上半身中、最大の直径を持つそのポイントが穴の通過の抵抗となっているのである。
 だがキーンに焦りの色は見受けられなかった。根拠ではないが、少なくても彼女は下から上に通過しようとした際、胸を通しているのである。したがってその逆もできて当然であると思っている。
 その判断は正しかった。彼女がそれを実施できなかったのは、自力では不可能であっただけであり、助力さえあれば下から抜け出せたのである。
 キーンは、今度は本当にファーラの身体の事を考慮して、慎重に引っ張り始める。彼女のバランスの取れた豊満な胸が抵抗をみせるものの、その身体は徐々にではあるが下に下がっていった。
 一目見て柔らかい物と分かる両乳房が、窮屈そうに変形しながら穴を通り、通過終了と共にぷるんと揺れ、もとの状態に戻った時、キーンの、彼女の身体に対する心配はほとんど消え失せ、再び悪戯心が甦る。
『?・・・・どうしたの?』
 ファーラからしてみれば、かなり不自然な状態で引っ張られるのが止まったため、不安感を抱かずにはいられなかった。
「ああ、すまん。無理に引っ張ったせいで、ちょっと擦り傷になってるみたいだなと思ってな、痛くないか?」
 そんな気遣いの言葉と同時に、彼女はむず痒い刺激を胸に感じた。
『あっ・・・やん』
 キーンがわざとらしく彼女の胸を撫でさすったのである。思わず手を下げ、胸をガードしようとするものの、彼女の両腕は床石に半分挟まれた状態で上に上がった状態で下げる事すら困難な上に、肝心の胸は、石床を隔てて下にあるため、やはり抵抗する事ができなかった。
「う~ん、ちょっと擦れただけで、傷はなかったか・・・でも、触り心地抜群だ・・・」
『ちょっ・・・何してるのよ』
 ファーラは抗議のつもりで身体を揺すった。だが、顔が見えないキーンの位置からでは、身体だけが艶めかしく揺れ、両乳房が程良く揺れるだけであった。
「おいおい、そんなHに胸を揺らされたら、ちょっかい出したくなるじゃないか」
 そう言って、震える胸を人差し指で軽く突く。
『ひゃっ・・・あん・・・変なところつつかないでよ』
「ほう・・・・やっぱりと言うか何と言うか、結構感じやすいんだな。そんな声を聞いてしまうと余計にちょっかい出したくなるよ」
『な、何よそれ。ちょっと、冗談でしょ。やめなさいよ・・・あっ・・・きゃふっ!』
 キーンの言葉から、身の危険を悟って儚く藻掻くファーラの身体に、悪意に満ちたキーンの指が襲いかかった。
 両手の指を巧みに使い、彼女の両乳房を軽く撫で上げると、指先をあちこちに這わせては、いきなり両手の人差し指を突き出し、あちこを無秩序につんつんと突っつき回した。
「あっあっあっあっああっやはぁっあっ・・・あははははははははははは!!ちょっ、やめっやっっっっははははははははははははは!!」
 その刺激が彼女にとって、かなり効いたのか、その身体は今までにない程の激しい反応を見せて跳ねた。    
「お、良い反応。攻撃続行!」
 ファーラの過敏な反応に気をよくしたキーンは、更に激しく彼女の身体を突いた。その責めは全身から始まり、徐々に脇腹・腹・胸の付け根・下腹部と、通常でもかなりくすぐったく感じるポイントに集中していく。
「やはっやはっやははははははっはははははははははは!やめてぇー!!」
 ファーラは笑い悶えながら絶叫し、懇願したが、そんな悲鳴も責め側には興奮の度合いを高める物でしかなく、緩和させる結果には至ろうはずがなかった。
 彼女は身体を突かれる度に身を捩り、触れた時の数倍になる時間、笑い声を上げる。肩口から下が全く見えない上に、腕によるガードも出来ない状況が、彼女の感覚をより敏感にさせていたのである。
 キーンは柔らかなファーラの身体を思う存分突っつき回し、相手の反応を楽しんだ。その中で、より敏感に反応したポイントを見つけると、その周辺を集中的に責めまくって、彼女を狂わせた。
「あひっ!あはっ!あひゃははははははははははは!そこダメ~っはははははははっはあははっははっははあっはは・・・・」
 ある程度飽きれば止めようと思っていたキーンだったが、ファーラの反応は、実に責め側を、それ以前に男を悦ばせる物であった。
 彼の指先が一突き触れる度に彼女の体は激しく弾け、仰け反り、僅かでもその指から逃れようと大きくくねる。逃れたい一心の彼女の行為も結局は更なる責めの呼び水でしかない事を彼女は理解してはいない。
『あははっあ~っはははははははははは!!もう・・・きゃははははは!!死ぬ、死んじゃう!ひゃーっははははははは!!や、やめて!ははははははははは!!お願いだからやめてぇ~!!!!』
「う~ん、そう言われても、やめるの惜しいなぁ」
『そ、そんな、あっははははははははは、ひゃひひひひひひ!あ、あなた、た、助けにあ~っははははははは、助けに来たんでしょう!』
「そうなんだが、指が勝手に動いてしまって・・・・・この心理・・・・どうか解って許して欲しいな・・・」
『わ、わかった、わかったから。きゃはははははははは、わかったからやめてってば!!』
「やめる事は出来るけど、その希望をかなえてあげたら、君は何をしてくれる?」
 手を休める事なく、キーンは言った。理不尽きわまりない言い分であったが、それに対する講義を行う余裕が、ファーラには無い。
『何でも、あっはっははははははははは!何でもしてあげるから、きゃひひひひひひひひひひ・・・・だから・・・だからぁ~!!!!』
 限界まで来ていた彼女は、なりふり構わず絶叫した。そんな魂の叫びが通じてか、キーンの責めはようやくにして止まった。
「その言葉、本当に誓って貰うぞ。もし嘘だったら、逃げられないように縛って、極限焦らし責めと、悶絶くすぐり責めのダブル拷問だからな・・・・」
 当然の帰結かまぐれか、キーンは大きくずれた目的を本来の方向に修正する事がかなった。
『わ、分かったわ・・・・・だ、だから今はやめて・・・これ以上やられたら狂っちゃうわよ・・・・』
 激しく喘いでいるのだろう。キーンの視界にあるファーラの腹は、激しく上下していた。
「それじゃぁ、引っ張り出してやるよ」
 そう言ってキーンはしがみつくようにしてファーラの体を抱え、穴の方向に対して垂直に引っ張り出す。
 ずるずると、重々しい擦り音と共に彼女の体が下に下がり、ようやくにして彼女の全身が一つになって見える。
「・・・・・・・・・」
 抱えた彼女を床におろす直前、キーンはつい茶目っ気を出して、彼女の両脇腹に位置していた自分の両手をわきわきと蠢かせた。
「ひゃひぃっ!」
 もう無いと思い込んでいたくすぐりが、再び弱点の一つである脇腹で行われ、ファーラは反射的に仰け反った。
「あひゃははははははははははははは!!ちょっ・・・話がちがっああああっっっははははははははっははははは!きゃっはははははっはははははは!!あ~っはははは!!!」
 状況を簡単に説明すれば、くすぐられながらベアハッグをされている様なものである。余程の筋力差がない限り、責められる側が自力で脱出する事は出来ない。
 結局ファーラは、キーンの腕の中で釣り上げられた魚の様に跳ね回ったあげく、力尽きてぐったりとなるまで、くすぐられた。




「・・・・・と、言う事で、俺の味方側に着いてもらう・・・・って、よりも、正当な実力評価をしてもらう。依存無いな?」
 ある程度ファーラが回復してから、キーンは自分の要望を端的に説明した。
「それは分かったけど、かなり不利よ・・・・それ・・・」
 ファーラは課せられた件をよく吟味して、予想される結果をはじき出した。
「俺は当事者だぞ。その位は分かるさ。だから頼んでいるんだ。現場当事者の評価の声が有るか無いかでは、かなり印象が違うからな。あの御方の偏見は覆せなくても、評価さえ正当であれば文句は無い。命を懸けての仕事に見合うものがあればな・・・・」
「見合うものね・・・・それって、個人差が多いわよ。あなたは自分の命を代償にする仕事にどの位の価値を見出すのかしら?」
 皮肉っぽくも聞こえたが、ファーラにはそんなつもりはない。キーンの戦闘を見た事はなかったが、単身、ここまで辿り着いている事実だけでも実力の断片は想像できた。パーティで挑み、捕らわれた自分達の実力は上回っていて当然である。
 そのような人物が、どの程度の自己評価ををしているのかが興味の対象だったのである。言い換えれば、相手の自信の程を知る一種のテストみたいなものだった。
「俺の評価は、その人の主観に任せるさ」
 その言葉は、ファーラの予想の範疇に無かったものだった。それはキーンが意外にも自分の存在に自信を持っていない事の現れだと、彼女は思った。
「だが、一つ求めさせてもらうなら・・・・・」
 おもむろにキーンは言葉を続けた。
「美女の一言、『ありがとう』って言葉だな。これに勝るものは無いな」
 ファーラは判断に迷った。キーンの口調は冗談とも本気とも思えたからである。
 本気であれば、彼は金品よりも、精神的な満足感を求めて闘っている事になり、冗談であれば雇い主に対する皮肉でしかない。
 一瞬、真意を問いかけようと思ったファーラであったが、彼女はその言葉を飲み込んだ。問うて素直に答えるとは思えない。何故かそう思えたからである。
「さて、それじゃぁ、根回しの為に君達を王宮に送るとするか」
 会話に区切りが着いたと見て、キーンはファーラを促した。
「『ありがとう』、キーンさん」
 それに従い、わざとらしくファーラが微笑む。
「言うだけはただだからな。それより君は、俺の『援護』で評価してくれなきゃな・・・・もし、約束を守ってくれなかったら・・・・・」
 そう言ってキーンは、ファーラに向けてわきわきと両手を突き出して見せる。
「あっ・・・・やはぁ!わ、わかってるから、その手つきはやめて!」
 すっかりくすぐりに対して弱くなった彼女は、その手つきを見るだけで身を縮め、両脇をきつく閉じて、体をガードするのであった。

 彼が自称する『根回し』なる行為が成功するのかどうか・・・・それ以前に持続するのか否か、当の本人ですら予測しえていなかった。


つづく



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