笑う体
「由香子、昨日もダメだったのね」
彼女が制服に着替えていると、真美が更衣室に入ってきて言った。
「いつも、何がダメなの?」
由香子は、いっそう暗い顔になった。何人もの男と付き合いなが
ら、彼女は誰ともセックスできないでいた。雑誌の「性の相談室」
にあるようなQ&Aを読んでみても、同じ原因で悩んでいる人はい
ないようだった。
「私、人に体を触られるの…」
由香子が、ボソッと言った。
「とっても苦手なの」
「ああ、潔癖症ってやつね」
「違うわ。ぜんぜん」
彼女はベストのボタンを留め、ロッカーの扉を閉めた。
「何が違うのよ、ねえ」
由香子を呼び止めようと、真美が後ろから肩を叩いた。
一瞬、彼女は体をビクッとさせた。
「触られるの、本当に苦手なんだから」
由香子の表情は、怒っているというより、つらそうだった。
「何が苦手なの? 言ってごらん」
笑いながら真美は、ベストの上から彼女の背中やわきを、両手で
ペタペタと触っていった。
「キャ、やめて、やめて、お願い」
彼女が乱れた息を整えるには、真美の手が離れてから、しばらく
かかった。
「人に体触られると、もう、おかしくて」
「おかしいって、くすぐったいの?」
「裸で抱き合ったりしたら…」
由香子は、肩をすくめて顔をしかめた。
「思い出しただけで、鳥肌が立ってくるわ」
真美は、彼女のスカートとベストの間から手を入れ、ブラウスの
上から脇腹をつまんだ。すると、彼女は「ヒャーッ」と、悲鳴とも
いえない声を発して、そのまま床に座り込んでしまったのだ。
「あなた、すごい感じやすい」
由香子は、自分の体を抱きしめるようにして、うずくまったまま
だった。
「怒ることないでしょ。くすぐられるの嫌いなの?」
「そんなの、嫌いに決まってるでしょ」
「私、結構好きだけどな。後ろから抱かれて、コチョコチョってし
てもらうの」
「絶対許せない。昨日なんか、私が苦しがってるのに、押えつけて
くすぐるのよ」
「それが良いんじゃない。耐えきれなくなるギリギリのところが、
たまらないわ」
彼女は少し不機嫌になって、真美のわきからおなかのあたりに、
両手を這わせるようにくすぐった。
「ハハハハ、アハハハ」
真美は大声で笑ったが、くすぐるのをやめてみると、その顔はう
っとりしているように見えた。
髪の乱れを直しながら、真美はロッカーを開けた。
「今日仕事終ったら、一緒に来なよ。そんな悩みぐらい、すぐに解
決してあげるから」
「くすぐったがりって、直るものなの?」
由香子は、脇腹に残る感触をまだ気にしていた。
夕方、彼女たちはあるビルの一室に入っていった。性感マッサー
ジの店らしいと、由香子は思った。彼女を待合室に待たせ、真美は
奥の部屋に入っていった。
彼女はふと嫌なことを思い出した。エステに行った時、オイルマ
ッサージがくすぐったくて笑い転げていたら、「我慢しなさい」と、
3人がかりで体を押えつけられたことがあった。最後までむりやり
マッサージされた後、腰が抜けてしばらく歩けなくなってしまい、
恥ずかしい思いをしたものだった。
オイルのヌルヌルは、エステシシャンの手の感触を和らげてくれ
た。肌と肌とが直接触れ合う時、体中に走る悪寒。それを追うよう
に、体の内側から込み上げてくる笑い。肌と肌の間に、厚いオイル
のクッションが敷かれ、彼女はそんな耐えがたい苦痛から救われた。
エステシシャンの指を、彼女は愛撫されるように楽しんでいたが、
体のあちこちをモミほぐされる感覚からは、逃れられなかった。脇
腹をもまれたのを思い出して、彼女はとうとう、笑いだしてしまっ
た。
由香子の幼い丸顔と透き通った声から、彼女自身にはおぞましい
姿でも、はた目には少女が無邪気に笑っているようにしか映らなか
った。
彼女は、回想をやめた。真美が部屋の奥から戻ってきたのだ。
「じゃあ、これからすぐやってもらうから」
「ちょっと私、マッサージとかダメだから」
「大丈夫よ。怖くないから」
真美に連れられて、彼女もしぶしぶと奥の部屋に入った。
「それじゃあ、これに着替えて」と、中の女性は言った。
「素肌じゃない方が、いいでしょ」
「博子先生に任せておけば、いいから」
真美は、そう言って部屋を出ていった。
由香子は、博子から白い服を受け取った。半袖のチビTシャツを
広げてみると、裾のほうが股下ホックどめのショーツになっていた。
「あら、ボディスーツって着たことない?」
彼女が不思議そうな顔をしているので、博子は説明し始めた。
「全部脱いじゃって、それシャツみたいにかぶりで着て、股下のホ
ックとめて」
「分ってます。ただ、なんでこういうの着るのかなって」
「上下続いてないとダメなの。生地の具合いも良いし。そうだわ、
サイズは良いかしら? ちょうどピッタリだと思うんだけど」
由香子は服を脱ぎ、ブラジャーを外すとボディスーツに袖を通し
た。彼女は、こういう服は始めてだったので、妙な感じがした。
チビTシャツを着る感覚だったが、ホックの金具があちこちに触
るのが、ヒヤッとして不快だった。ショーツを脱いで、ボディース
ーツの裾をひっぱり下ろすと、彼女は股下のホックに手を伸ばした。
ひざを曲げて股を広げた姿が少し恥ずかしかった。
3つ並んだホックは、補整下着のボディスーツと同じものだった
が、生地の柔らかいぶん、その部分のゴワゴワが気になるのだ。
フィットするというより、窮屈なほど体にピッタリして、体を動
かしているとショーツ部分が食い込んでしまう。けれど、密着する
感覚はむしろ心地好く、レオタードよりシャツのような着心地だっ
た。
「さあ、イスに座って」
由香子は、ボディスーツのお尻を引っ張って直しながら、美容院
風の大きなイスに腰をおろした。
博子はすかさず、彼女の両手をイスの後ろに回して縛った。ほと
んど上を向くような背もたれに寝転がっていたので、彼女には起き
上がって抵抗する間がなかった。
「ちょっと、何する気ですか」
彼女を無視するように、博子はその両足もイスに縛りつけた。
「ホントに、何するんですか」
「コチョコチョに決まってるでしょ。あなた、知らないで来たの?」
「くすぐられるの、大っ嫌いなんだから。私、帰ります。ほどいて
ください」
「そんな怖がらなくて、大丈夫だから」
博子は、彼女のイスの後ろの回って、肩の上の方から両手を出し
てきた。
「ちょっと、ホントにダメなんです」
「じゃあ、わきの下だけね」
チビTシャツにピッタリ包まれたわきの下に、博子はそっと指を
おとした。
「あっ、待って、待って。心の準備があるの」
博子は彼女が言い終らぬうちに、指先をフワフワと動かし始めた。
「ヒャハハハハ、ヒャー、アハハハハ」
小さな女の子が、キャッキャとはしゃいでいるように、由香子は
可愛らしく笑った。
博子の指先の感触は、オイルのような膜が張った感じとは違い、
柔らかいコットンが肌にこすれる気持ち良さとなって、彼女に届い
ていた。
肌の敏感な彼女は、下着をつけないで服を着るのが苦手だった。
ゴワゴワやチクチクだけでなく、サラっとしたブラウスやワンピー
スさえ不快なのだった。
責められているのは、わきの下だけなのに、彼女は肩から腰、そ
してつま先までがしびれはじめていた。
博子は、ようやく指の動きを止めた。
「感じやすい子ね。もう、ぐったりしちゃって」
由香子は、ハァ、ハァと息を荒くしたまま言った。
「…お願い。はやく、ほどいて」
「くすぐったくてエッチできないなんて、嫌でしょ」
「ホントに、直るんですか」
彼女は、不安そうに博子の顔を見上げた。
「くすぐったいの直るんなら、頑張ります」
「くすぐったがり屋さんの方が、後で快感になるのよ」
博子は薄笑いを浮かべて、イスの前へ回った。
「あそこはどう? オナニーの時は感じるんでしょ?」
「そういうの、したことないから」
「ちょっと、試してみましょうか」
博子が股下の部分に手をかけてきたので、彼女はビクッとなった。
そして、笑い声の中、ホックが一つずつ外された。細い人指し指が、
彼女の局部に入った。
「キャッハハ、我慢できない、アハハハ」
彼女がお尻を跳ねさせて苦しがるので、博子は仕方なくホックを
とめ直すことにした。ひとつホックをとめるたび、彼女は体をよじ
って笑うのだった。
「しかたないわね」
呆れながら、博子はイスの後ろに立った。
「じゃあ、ちょっとだけ、我慢して」
由香子の肩から胸、おなかから足の付け根へと、しなやかな指が、
踊るように愛撫を始めた。
「ヒャ、ハハハ、キャー」
イスの上を、小さな体がピチピチ跳ね回った。拒絶しているとい
うより、刺激で胸やおなかが勝手にピクピク動いてしまうようだっ
た。
それでも、素肌をくすぐられるほどの悪寒はなく、ふんわりとし
た肌着が苦痛を和らげていた。
由香子は、いつまでも笑いが止まらないのが不思議で、耐えがた
い苦痛の正体は笑う時の息苦しさではないかと、思えてきた。
少女のような可愛らしさが、博子のサド的な面を刺激した。エッ
チの時の愛撫で、こんなに笑い転げられたら、相手はかえって興奮
してしまう。
「キャッ、キャーッ、アッハッハハ」
急に、由香子の声が高くなり、イスが揺れるほど、激しく腰を振
り出した。
「あなたの弱点、おなかね」
博子は両手でおなかを包み込むように押え、指先を動かし始めた。
「そこはダメー、お願い、ハハハハ」
薄らいでいく意識の中で、彼女は小さい頃のことを思い出してい
た。
よく遊んでもらった近所のお姉さんがいた。彼女はいつもお姉さ
んのひざの上に座っていた。ひざから落ちないように、お姉さんは
彼女のおなかに両手をそえてくれた。
由香子はおなかが気になりはじめ、その感触が肩から腰へ、内も
もからふくらはぎ、そしてつま先までおりてきて、気がつくと、ク
スクスと笑っているのだった。体がとけてしまうような、とても幸
せな気分で、彼女はいつまでもそうしているのだ。お姉さんに気づ
かれて、おなかを手でピクピクされて笑い転げるのも、大好きだっ
た。
「ちっちゃい子のほうが、肌がデリケートで、くすぐったいのよ」
お姉さんが、友達にそう話していた。
いつしか由香子は、とろけるような感触に包まれていた。
「お姉ちゃんのウソつき。おっきくなっても、くすぐったいよぅ」
彼女の言葉は、笑いながらだったので聞き取れなかった。
博子が身を乗り出して、彼女のホックのところに手を当てた。じ
っとりとした感覚は彼女自身の方がよく分っていた。
「一度、感じるとやみつきになるわ」
「真美も?」
息苦しそうに、由香子が口を開いた。
「真美もそうなの?」
「中学の時、みんなに押えつけられて、くすぐりの刑にかけられた
んだって。すごい興奮したって言ってたわ」
「そんな、ウソ」
彼女は、息に合せておなかにまとわりつくボディスーツの感触を
楽しんでいた。暴れてズリあがって、わきの下にすきまなく張りつ
いた袖や、お尻に入り込んできたショーツ部分の布地も、不快では
あるがそのままにしておきたい気分だった。
「もう、大丈夫ね」
その言葉を聞くと、由香子は手首でイスの背を叩いてほどくよう
に促した。
「まだよ、素肌でも大丈夫になったはずだから」
博子はイスの前に回り、手慣れた感じで彼女の股下のホックを外
した。そして、ボディスーツをスルスルと胸元までたくし上げてい
った。
体の表と背中がべっとりとして、由香子はウッという顔をした。
胸の上にかたまった白い生地の下から、博子の指が入ってきた。
「ハハハハ、やめて、絶対ダメ」
小さな乳房が包み込むように握られ、10本の指先がゆっくりと
動きだした。
性感帯をくすぐり責めにすると、みんな気絶しそうなほど苦しが
る。
体中に鳥肌が広がって、大きく体を反らしながら、由香子は声を
からして笑い続けた。
博子はもう感じ取っていた。彼女が、真美のような苦痛に欲情す
るタイプではなく、甘い愛撫の感触を求めていることを。
下の方へ指がおりてきた。乳房のすぐ下から、おなかのあたりが
ゆっくりとなでられ、彼女のお尻はまた何度も跳ねてしまった。
博子は、両手をおなかのふくらんだところにペタンと置いて、し
ばらく彼女にクスクス笑いをさせた。ときおり指先を動かすと、体
がピクンとなって、キャッと声を出す。
「目がとろ~んとしちゃって、そんなに気持ちいいの?」
そう言われて、由香子は急に恥ずかしくなった。
チリチリする感覚が体を駆け抜け、足の指先まで反っている。冷
や汗が出るほどの悪寒と、止まらない笑いの息苦しさで、彼女の体
はもう耐えきれそうになかった。
「あ~ん、おなかがぁ…」
由香子は肩をすくめながら、苦痛に似合わぬ甘えた声を出した。
「おなかが、くっ。くしゅっ、くしゅぐった~い」
この子、もうイキそうになってる。博子は思った。おヘソの周り
をあと少し撫でてあげれば、今にも昇天してしまう。だけど、敏感
すぎる彼女の体への嫉妬が、違う行動を取らせたのだった。両手の
指を全部使って、博子は柔らかなおなかをくすぐりはじめた。
「アッ、アッ」
肩を背もたれに打ちつけ、腰と内ももをけいれんしたように細か
くふるわせ、由香子はイスの上で跳ね回った。お尻を左右に振って、
おなかをもてあそぶ指から逃れようとしたが、無防備な体はすっか
り博子のものになっていた。
由香子は、手足を自由にされてからも、イスから降りられなくな
っていた。ただ、ぶらんとなった両手をやっと自分のおなかにあて
ただけであった。
「くすぐったがりを直すより、この方がずっと幸せになれるわ」
彼女は聞こえないふうで、体を起こした。
べっとりとしたものを拭いながら、彼女はおなかまで下がってき
たボディスーツの裾を引っ張り、股下のホックをとめはじめた。
「私、この上からのほうが、いいの」
由香子はイスから降りて、服のフィット具合いを直すと、もう一
度座った。丸い目が、博子を見上げた。あどけない表情は、小さい
頃にくすぐられた記憶が甦ったせいだった。いつの間にか、苦しく
て恥ずかしい気持ちが先に立って、拒絶してしまうようになったけ
れど、とろけるような甘い感触を、体が忘れるはずもなかった。
服の中に手を入れられて、柔らかいシャツの上から、わきやおな
かをくすぐられ、幼い少女が初めて知った快感。それがそのまま、
今の彼女の体へと戻っていた。
「お姉ちゃん、もっとおなか、くしゅぐって」
少女の上にのしかかり、博子はやわらかい肌着にすっぽり包まれ
た、おなかに手をあてた。
「いい子ね。コチョコチョコチョ」
「キャー、アハハハ、やっぱり私、くすぐられるのイヤー!」
「ごねたりしないの。たっぷり、くしゅぐりましょうね」
「アハハハハ、キャッハハハ」
由香子は手足をバタバタさせて笑ったが、彼女の体は博子のしな
やかな指を受け入れていた。
戻る