織姫神社へ行こう! (1)





2000年7月20日。海の日。天気は快晴。降水確率0%。


織姫「どこかに行くでーす!!」


 いつもながら、姫さまは唐突だった。
 クーラーの効いた部屋でシェスタ(朝寝坊ともいう)していた私の頭を殴りつける。
 痛い。
 Mなら喜んで涙するだろうが、私には苦痛でしかない。姫さまだから我慢しているが、男だったら殴り返すところだ。(女性はかまわない)

團長「……ちょっと姫さま。休みの日くらいゆっくりさせてくださいよぉ」
織姫「なーに言ってるですか。もう午前10時でーす。ふつーの人はとっとと起きてるでーす!」
團長「……自分だっていつもは寝てるくせに」
織姫「うだうだ言ってないで、早く起きるでーす。そしてどこかに行くでーす!」

 言い出したら聞かないのはいつものこと。
 私はしぶしぶながら起き上がった。あまりぐずぐずしていると、問答無用の織姫ビームが飛んでくる。
 のたくさと着替えて階下に降りると、すでに姫さまはご出立の準備を整えていた。

織姫「遅いでーす、騎士團長! さあ、出発でーす!」
團長「その前に、昼飯昼飯♪」
織姫「……」

 痛い。視線が痛い。織姫ビームも飛んでくる。
 だが、こればかりはゆずれない。腹が減っては戦はできないというのは、騎士團の心得である(嘘)
 それでも、あまり姫さまの機嫌を損ねるのもまずい。必殺攻撃が出る前に急いで食べ終わった。

團長「お待たせしました。姫さま」
織姫「……レディを待たせるなんて、非常識でーす o)-_-#(o」
團長「まあまあ。で、どこに行きます?」

 内心、海だったらいいなあ、とか思う。姫さまの水着姿が拝めるなら、これ以上の名誉はない。
 でも、姫さまはしっかりと姫さまだった。

織姫「山へ行くでーす♪」
團長「……や、ま?」

 サクラ2の第5話でもそうだったが、なぜか姫さまは山がお好きだ。おとなしやかな姫君ならば都会の喧騒から離れた静かな場所を好むのもわかるが、姫さまはおとなしいという言葉とは対局の存在だ。
 まあ、おとなしい姫さまなど想像できないし、したくもないが。

團長「いいですけど。……じゃあ、どこの山に行きましょうか?」
織姫「箱根がいいでーす♪」
團長「却下」

 冗談じゃない。こんな天気のいい日に箱根に行ったら、ついたころには明日になってる。

團長「暑い日差しの中、ぴくりとも動かない車の中で過ごすなんて、姫さまも嫌でしょう?」
織姫「それもそうですねー。騎士團長の車、狭いですからねー」

 大きなお世話です、姫さま。

織姫「しかたないですねー。……あ、じゃあ、こうするでーす! 前に騎士團長が行った、織姫神社に行くでーす♪」
團長「ああ、織姫神社ですか」

 去年、姫さまのお名前を奉った(姫さま談)神社を見つけ、行ったことがある。なかなかに美麗な社で、結構気に入った場所だった。

織姫「そういえば、織姫神社レポート書く、とか、言ってたですねー?」

 ぎくり。

織姫「ちょうどいいでーす。レポートも兼ねて、行くでーす!!」
團長「……そうですね。行きましょうか」

 ま、いいか。ひとりで行った感想を書くのもなんだし、姫さまがいればそれなりに楽しいレポートにもなるだろう。
 ようやく機嫌がよくなった姫さまを見ながら、私は車を出しに車庫に向かった。



 外環から東北道に入り、ひたすら北を目指す。
 祝日、それも飛び石連休の最初の日にしては、東北道はがらがらだった。

織姫「もっと飛ばすでーす♪ 100キロじゃ遅すぎでーす!」
團長「アウトバーンじゃないんですから、日本じゃ飛ばせないんですよ」

 300キロ以上出しても文句も言われない欧州とは違い、日本の高速道路は制限速度が設けられている。下手に飛ばすと、私の懐がさびしくなり、逆に国家公務員の一部の懐が潤うことになる。
 給料日前だし、ゴールド免許が青くなるのもイヤなので、のんびりと行くことにした。

 そんなこんなで、佐野藤岡インターに到着。
 料金所を出て左側、「佐野」と書かれているほうから国道50号に入る。

織姫「なんで速度を下げるですか?」
團長「高速道路よりも速度が制限されているからですよ」
織姫「でも、みんなすっ飛ばしてるでーす」

 国道50号は、高速道路と見まがうほどにがらがらで、車がすっ飛ばしていた。
 環状道路であるうえに、主要な都市の市街地を避けて作られているため、土日でも渋滞とは程遠い。おまけに交差する主要な道路とは立体交差になっており、信号と信号の間も離れているため、高速道路並みに車を飛ばせる。
 しかし。

團長「ここはねずみ取りが多いんですよ」

 立体交差や大型店舗が多いため、白と黒のツートンカラーの車がそっと物陰にひそんでいても見つかりにくい。しかも道路が広々しているため、ちょっと遅れてスタートしても、楽楽と追いつく。
 直線が多く見晴らしもいいため、ついつい速度が上がりがちになるが、この誘惑を振り切らないと、懐がさびしくなるのだ。
 はたして、対向車線に何台か捕まっているのがうかがえた。
 注意しましょう。

 なんとか誘惑を振り切って車を進める。そのうち「足利市方面」の指示看板があらわれた。

織姫「こっちから行くですか?」
團長「いえ、もうちょっと先です」

 看板に従って曲がっていってもいいのだが、信号や曲がり角が多く、迷いやすい上に遅くなる。50号をこのまま行ったほうがはるかに早いのだ。
 いくつかの指示看板を無視し、50号を桐生方面へひた走るうちに、ついに目的の立体交差が見えてきた。
 木々に覆われて見えない東武伊勢崎線の上をまたぎ越し、次の立体交差で50号と別れる。
 わかりづらい立体交差なので、「太田」方面への矢印と、「国道293号」という標識が出ているのを目印にしてほしい。

織姫「『足利学校』って書いてあるでーす」
團長「そうですね。足利といえば、一番有名なのは足利学校ですから」

 足利学校について知りたい人は、足利市のホームページでもご覧ください。
 とにかく、ここからは「足利学校」を目印に車を進める。
 まずは50号から降りたところで、右折レーンに入る。

織姫「なんか賑やかですねー」
團長「ここにはディスカウントショップが多いですから」

 右折して国道293号にのるとすぐに、道の両側に大型の倉庫のような店舗が広がる。ディスカウントショップが軒を連ねているのだ。
 売り出しの日には、この近辺は非常に混雑する。この前織姫神社に行ったときには、帰りに混雑に巻き込まれ、非常につらい思いをしたものだ。

織姫「ああ、混雑避けようとして、迷いに迷って1時間近くうろうろして、結局足利市に戻ってしまったっていうアレですねー♪」
團長「楽しそうに言わないで下さい、姫さま」

 結局大回りして帰ったときには日が暮れていたものだ。
 まあ、それはそれとして、とにかく293号を北へ進む。
 しばらくすると、橋が見えてきた。渡良瀬川にかかる田中橋である。
 橋を渡ったらすぐに左側に曲がる。

織姫「まっすぐ行くとどこに行くですか?」
團長「JR足利駅の南口です。市街地は線路の向こう側で、南口から北に行くことはできませんので、ここで曲がるんです」

 左に曲がったあとは、すぐに右に曲がる。
 JRの線路をまたぎこせば、すぐそこは足利市の市街である。
 陸橋を渡った直後の信号で、左へと曲がり、国道293号と別れて県道67号に入る。標識には前橋、桐生方面と書かれてあるので、それを目印に。

織姫「……なんか、右曲がったり左曲がったりでーす」
團長「でも、これが一番わかりやすいんですよ。とにかく、国道293号にそってずっと行って、橋を渡ったら『すぐに曲がる、曲がる、曲がる』と覚えておけばいいんですから」

 市街地を通り、西へと車を進める。車通りが少ないが、閑散とはしていない。おだやかな雰囲気が漂う商店街である。
 市街地を通っていくうちに、右手にラドン温泉「おりひめ」があった。今は改装中らしいが、はやっているのだろうか?

織姫「外壁をイタリアンローズに塗れば、はやるでーす♪」
團長「ぜったいはやらないって…… -_-;;」

 しばらく市街地を進むと、右に小さな山が見えてくる。織姫山である。
 その中腹に、目指す織姫神社があるのだが、木々に囲まれていて市街からは見えない。

團長「もうすぐですよ、姫さま」
織姫「たっのしっみでーす♪」

 しばらくすると、目的の曲がり角がやってきた。右に向かって田沼、飛駒と書かれている標識である。
 右折レーンが設けられているのはここだけなので、それを目印にするといいと思う。
 ここで右折。車通りは少ないので、けっこう楽々と右折できる。
 すると正面に、石造りの鳥居があらわれた。

團長「お待たせしました。ここが織姫神社です」




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