青木月斗
播州平福の光明寺。梵鐘新鑄。四月廿一日の御影供に鐘供養あり。光明寺十八世の院家樂丈遷化、新院家水聲。句を求む。一宵を徹して鐘百八句をものす。
極樂の鐘鳴る花の光明寺
光明寺春光なれや新鐘に
□
虚空より舞ひ降る花や鐘供養
鐘供養紫雲棚引く花の晝
鐘供養花の童男童女かな
御影供の花降る空や鐘供養
御影供の祖師みそなはせ鐘供養
月斗原稿
南山の響を花の鐘供養
鐘供養咲きの盛りの山の花
鐘供養花の蕾の稚兒姿
初鐘は花の少女や鐘供養
故院家も花の陰より鐘供養
子安山花に埋めぬ鐘供養
鐘供養舞臺は花の釣枝に
花と人に埋めたりけり鐘供養
大空の華籠散華や鐘供養
念佛に花が降るなり鐘供養
花盛り一山人に鐘供養
鐘供養花の百里を杖曳かん
□
殷々の鐘鶯を誘ひけり
鐘釣りし堂喜びつ乙鳥
蜂蝶も鐘撞堂に親しみつ
鐘樓に旦暮親しき春邊哉
平安に福禧に鐘の霞むなり
鐘霞む山川鮠の嬉々と浮く
山里の春賑はしや鐘の聲
人を淨らに長間にするや鐘の聲
朝夕の鐘頼母しき霞かな
溪水に春傳へけり鐘の聲
花滿開晩鐘山に響く也
播州路に善き鐘成りぬ花盛
先住の喜び鐘の霞むなり
春暄をつたへて鐘の霞みけり
天地をよなげて鐘の霞みけり
鐘樓の鐘春月に明るけれ
晝の鐘地蟲も穴を出づる也
花に風鐘鐸韻傳へけり
里安けし晩夏に鐘を撞き鳴らす
治聾酒の耳に響くや鐘の聲
治聾酒を酌むより鐘の殷々と
曉鐘に山禽醒めて囀りぬ
晨鐘につづく囀り百千鳥
永き日も夕の鐘に人安けし
春遲々と深まる鐘の音色哉
梵鐘に旦暮の春の深まりぬ
新鐘の響殷々春溶々
鐘樓も鼓樓も花に埋まりぬ
曙の花鐘聲に震ひけり
春眠を慰め顏や明の鐘
晨鐘や錬氣一番花の冷
曉鐘や慈母の聲とも花の冷
晨鐘や長嘯錬氣花に起つ
春曉の鐘にすはぶく翁哉
春曉の鐘老幼に思なき
愁人に暮春の鐘や傷ましき
春盡の鐘に名殘や詩に痩する
花を誘ひし鐘に花散る夕哉
行春を停めんものと鐘や撞く
暮の鐘樂しき春の夜と成りぬ
春曙烏雀と鐘の音と
花ちってしまへば安し鐘の聲
そこばくの花散らしけり明の鐘
花時の鐘撞僧を處望かな
ちる花を憂ひて鐘や長嘯す
愁人は花ちらす鐘と思ほへる
鐘に恨みを殘して花のちりにけり
安心を傳ふる鐘や落花地に
鐘許せたださへ花のちる事に
花ちらす鐘と思ひそ俳門
花を散らすは風也鐘に罪ぞなき
花の雨精舍の鐘の潤みかな
縹渺と遠寺の鐘や春暮るる
鳥雲に縹茫鐘のひびき哉
天樂とばかりに鐘の霞みけり
鐘つけば月も朧となりにけり
春雲に山寺の鐘の屆きけり
百千鳥百囀りに鐘に和す
後夜の鐘春月雲を離れたり
水鳥も彼岸の鐘にさへづりぬ
彼岸會の鐘太平の徴かな
極樂へ彼岸の鐘の導べ哉
?々と鐘鼓の聲や春暮るる
鐘の聲花を度って來りけり
□
濱寺の鐘にちるなり松の花
濱寺の鐘霞み淡路島霞む
湖に朧つくや三井の鐘
磯寺の鐘にゆらゆら蜃氣樓
磯寺の鐘に見る見る汐干潟
汐干狩夕の鐘にうながされ
入相の鐘も聞えず汐干人
かかり船に起きてゐる燈や鐘朧
をちこちの鐘もおぼろに東山
下寺町中寺町の鐘朧
雁風呂に雁の供養と鐘ひびく
大佛の鐘絶え間なき彼岸哉
蕨狩こちの在所の鐘が鳴る
道成寺鐘の縁起も長間なり
鐘供養御僧花にしたり顏
鎌倉や五山の鐘に梅發く
(昭和二十二?年春)