令和三年
日常を含む病院が含む師走
短日や大きく赤く売家札
柚子捥ぐやこんもりのその浅層の
日漸く眉に当たりぬ秋刀魚焼く
流れ一筋にとびとび紅葉宿
登り詰めここから降る紅葉谷
酔へる態に子たち走るや紅葉坂
今更の紅葉塗れに駐車場
紅葉狩を圧縮せしめバイキング
黒もどこか潜めり紅葉山熟視
2月号
身振り手振りで造形の初日の出
炬燵から足抜き屠蘇の座に参ず
右肩の反りをそのまま鏡餅
初夢を思ひ浮かべんこれ懸命
裏庭を若菜野として踏みにけり
大根を引いて疲れたとの仕種
大根畑の首にいらいら夕間暮
板間の大根跨ぐや耳遠き人に
取らげ置く冬至南瓜に蹴躓き
短日の箸を三べん洗ひたる
3月号
底冷えの掃き終へてなほ雲の下
白息を浮かせてハイヒールの身軽
吹き出しがつかぬ場面に息白し
日向ぼこしている皆の腹の虫
竹馬のまま戻り来て縁将棋
掘り炬燵噂をすれば影が来し
霜焼の拳インコが乗りたがる
寒日向城跡公園なるひとり
水盤に浮草が粒寒の内
寒の水を滴の単位や部屋の鉢
4月号
風強くしゃがんで話す沈丁花
恋猫の界隈の婆強靭に
褒められしほっぺを東風が撫でにけり
ガンバローの腕を伸ばせば梅開き
春を待つコーンスープに舌を焼き
冬芽して挨拶長き老いばかり
ストレッチ済み雪嶺へ首座る
介護さるるや山眠る懐に
霜柱歯の根合はさず踏み終り
魚店の暇な前垂れ春隣
5月号
ルームシェアしたベランダに蝶とゐる
蝶一頭のまま一冊読了しても
紙片蝶に似る日と蝶が似る日とが
三世代の祖父の裁定摘み草に
花遊びあれこれピクニックの祖母で
無色無柄のコップに四葉のクローバー
すぐ脇のテレビに古雛身じろがず
ディズニーの空き菓子函の雛あられ
賞に入った図画飾る部屋雛祭る
椿山よりポケットに火山礫
6月号
草餅や電波交はして知恵貰ひ
草芳し高望みして部屋籠り
カーナビを罵り居れば遅桜
水割りの酎でも落花浮かべよう
何も持たず何も負はずや花盛
芽柳に身體のフォルム続きけり
蒲公英の綿毛と帰路や山をとこ
ぶらんこや数は二十で繰り返し
パンジーは親衛隊よばらの苗
チューリップ微熱があるといふ容
7月号
葉桜やただ荷の重く立ち止まり
柿若葉喉の渇きがひそみ居し
若楓観てゐて赤を抽出す
黄金週間初日を除草剤散布
令和今日耳語となりたる暮れにけり
憲法記念日の俳書を取捨整理
一刻千金をその色調にてスマホ
無人島にて真っ先に霞みけり
居住階への外階段や初つばめ
遠足を苔にルーペで腹這へる
8月号
夫唱婦随の白あぢさゐも亦よろし
顎で指す紫陽花切りに裾捲り
降り際はてんでばらばら紫陽花に
あぢさゐを突き刺し突き刺し雨始む
児童から生徒の歩調梅雨の傘
窓が目で庇が眉で永い梅雨
牛丼や凝ったハンカチこの漢
螺旋階段で短パン発光す
ステテコや人工芝の早緑に
戯れにチョキの指遣るばらの頤
9月号
ペン咥へ裸にしたるマスカット
メロン掬ふ座布団はふかふかにして
地球儀のやうに白桃ひと回し
乾杯の仕種でバナナ剥き垂らし
枇杷の種べろもくちびるも不老
パイナップルの蔕植ゑしより新暖に
アイス棒抜いたる口がヤだといふ
空き瓶のラムネ積まれて青い腕
萎んだるおしろい花に同期して
古い薔薇咲きじくじくの反対語
いちじくの種子噛み砕く事をする
相同のマンション点灯揚げ花火
陸海空一体の措辞である花火
いわし雲前後へ車上スピーカー
山の日の居間でインコと日暮らしす
投げ出して冷房はいや足の裏
クマゼミが加はるや打楽器として
削り氷の征服ルートへのスプーン
焼酎や夕日塗れのキッチンで
盆栽のそよりともせで冷し酒
赤咲けば赤青なら青朝顔が好き
竜胆の酸素飽和度百をキープ
朝シャンのドライの景に彼岸花
花蓼やピンク多量に幼などき
かくも咲けば野菊の如きとも云へず
シネマでポプコーン食ひ茄子買ひ戻る
小人数の夏野菜にてカラフルに
高く澄む牧に羊の糞ぱらぱら
チーズ作りの見学コース出て澄めり
桐一葉本断捨離の幾萬語
常盤木の判然たりや小望月
宵待の籠の小鳥に消灯し
年寄の早寝に月の陰り無し
月仰ぐ角度に非ずぬいぐるみ
さびしさを貼る壁も無し居待月