令和四年
天窓に天が在るなり去年今年
大根引く神楽のやうな仕種して
肩が凝ると大根引きに出掛けたり
ロボットが剥きしよな柿吾が剥いて
お社をいつ抜け来しや稲雀
色鳥や探鳥会員脚長に
御国替えして建ちし宮椋鳥ら
2月号
庭の荒れやう慨嘆し諦観し冬至
大根引く高偏差値で力持ち
捜し物暖房入れてべったりと
置火燵インコは女ことばして
咳けばあはれインコが真似をする
北窓塞ぎその他その他とアンケート
むかしむかしそれこそ昔玉子酒
3月号
トローチの薄荷すずしや雪こんこん
スキー宿ドラマ所縁の名の煎餅
雪飛ぶや二足歩行に前方視
煤払ふに冷蔵庫内カラフルな
チンするに泰然たりや鏡餅
屠蘇酌むや床暖房に起立礼
干れ川の彼方の峰の初明かり
4月号
橋は風強くて野火見物に良し
野火語る手真似や宅地分譲中
マンションが建ちて谷間にぶらんこら
五輪のテレビよりシャボン玉大会へ
べた座りしてシャボン玉今たけなわ
5月号
華麗なるすかんぽ一族雨のち晴
戦争が遠くに土筆が頭だけ
たんぽぽの宙への視線に靴の裏
揚げ雲雀僕は小溝を跳び越えた
風船しぼむおまつりのあとのあと
6月号
春雨や小さな路地に老いて婆
春風へ頬へこませて呼気返す
春風は海を渡って強くなる
屋上の空調音響養花天
落花いま入日と山がハイタッチ
松山を拓き桜の学園が
如何にも山城址の平らで花の瀑
花を撮る手の震へ風速を超え
7月号
青葉より青葉を下りて底に瀑
カメラやや傾けて藤純化せむ
山藤のスカートめくり止めぬ風
総掛かりで筍茹でる核家族
一家咀嚼大筍を微塵とす
燕ひとしきりして新幹線初発
記念碑や最近燕乏しかり
鶯や大正琴がつまづけば
ほーほけきょバスの他には通らぬに
8月号
ごきぶりにガラス器整理する韻き
否定するや蚤の存在きっぱりと
蚊の羽音聞こゆと猶も言ひ張るや
集団旅行蝿捕りリボン懐かしみ
若葉風地上の涸れしもの浮かべ
若竹や高音階の城ガール
更衣やをら電動マッサージ
半ズボンをのこもすなるくりやごと
又も撫すや半袖シャツの肘の膚
9月号
大の字の筆順通りにて午睡
がぶがぶの語感を冷ます氷浮く
合併廃校門前やたら斑猫が
斑猫や岬の無人灯台へ
蛍狩下駄で土橋をそうろそろ
暫くの海月に橋の人だかり
屯してケラケラ笑ひ短い梅雨
梅雨明けの足慣らしゐる靴が為
10月号
銀河もう忘却したるとせむ我が目
手花火を覗いて映画館戻り
蓮の実を売る傍らの花火売り
揚げ花火の洗礼享けて又シャワー
朝顔のあっち向き七こち向き三
半世紀前のアロハで又水飲む
まだ泳げなかったが桜貝見っけ
また遠泳の話で祖父の腕まくり
川くねくね深み深みに泳ぎ子ら
11月号
秋風や塀八割の窓枠に
缶の音色と瓶の音色と秋風裏
里は縁側があり秋風も濃く
月仰ぎゐるや円形脱毛症
飛んで来て生えたるものへ秋の蝶
値上げ相次ぐに朝顔はや小粒
韮の花鉢植えにしてツンとせり
もふもふといふオノマトペこの秋花
コスモス園で洗脳されて茅屋へ
ステッキやコスモスの揺れ見上げんず
12月号
秋雨のあと鉄銹の育ちけり
底冷えの居間に昔の流行り歌
好みやや未完成なる吊るし柿
熟柿啜る爺だけが思ひ出に満ち
男手やダイヤカットに柿を剥く
一日のソックスを鈴虫に脱ぎ
その中にチンチロリンや全托す