明治大正時代の月斗句 13
月斗 大正時代の句抄
青木月斗の大正時代の句をカバーすべく、遡って採録してみた。資料不足で、主宰する『同人』『カラタチ』誌上より自ら集めてきたものではないことは申し訳ないが、一つにはその抽出水準を均しくする考えによる。
従って、同じく、大正十四年一月より昭和二年七月までの、ホトトギス、同人、枯野、雲母、鹿笛、鹿火屋、芭蕉、京鹿子、うづら、早春、寒菊、その他の俳句雑誌、新聞俳句欄より数万句を抜き、これよりさらに今井柏浦が選び収録したものから抄出した。(島春)
今井柏浦・編『昭和一萬句』(昭二、修省堂)より抄出。
春暁や練香匂ふ枕上 春暁の水に影置く柳かな 熊野行(田辺) 濤音を聞き寐の宿や春一夜 をしへられし星座仰ぎつ春の闇 三月七日夕、稀有の地震(三句) 人も我も冴え返りたる地震かな なゐ長し燈火消えて冴え返る 三日月が朧にかくる地震かな 三月八日未明、余震 語り合ふよべの地震や雨暖き 園中の松に鴉の鳴く麗 百船逝く 我が耳を疑ふばかり冴え返る 八重椿咲きつぎ春を深めけり 惜春の懐ひ切々香を聞く 悩ましき春の行方の風雨かな 三井寺に見る春陰の湖上かな 花曇羽織脱ぎ持つ山歩き 三月二日、多摩御陵参拝 土産物を売るも民草春の風 梅苔に玉聯ねたり春の露 那智 一番の札所の鐘の霞みけり 滝の響と補陀落山の鐘霞む 雪汁や丹波境の村十戸 末黒野に戯れ遊ぶ子馬かな 楼脚の貝を没しぬ春の潮 春水に西湖の蘆の戦ぎかな 春眠の小家を包む柳かな 春の夢はかなき歌の心かな 膠煮る仏師が家の炉の名残 木地炉縁隅田の寮に酔其角 北陽浪花踊を見る 行春をとどむる浪花をどり哉 |
歌姫の花見扇を借りにけり 護花鈴の紐にとまれる胡蝶哉 草焼く火谷へのびけり山颪 秋成の涼炉出でたる利茶哉 僧と医と親しき中の利茶哉 夕霧忌唄祭文の瓦版 夕霧忌九軒の桜冬木なる 祭らばや金槐和歌集七百首 梅寒し祭る鎌倉右大臣 歌書くは知恵の文殊よ実朝忌 涅槃会や松に雪降る清涼寺 自画像のいかれる肩よ鳴雪忌 雲雀野に大きな虹がかかりけり 蛙子のここにも群れつ日南水 雨近き思ひに寝し夜遠蛙 松永の羊居男児を挙ぐるに 魚島の鯛の中より男の子 春霖に肥えたる水や柳鮠 温泉の宿や桜うぐひに昼の酒 宿かりの喜び潮の和らぎに 俎板に下手が破りぬ烏賊の墨 なゐ崩れせし地も草の芳はしく 蕗の薹よしとむしりつ豆腐汁 桑を食む蚕のやうに我れに萵苣 伊勢講により合ふ酒や葱の花 百鳴結婚に松の句を求むるままに 藤波をかかげて松や日晴れたり 月麿大祥に 梅髣髴汝は知らず眠りゐる 風吹いて燭のまたたき夜の花 けしからぬ花の冷なり昨日今日 山代山中 山蟻が這へる落花の乾き哉 庭桜つづく寒さに咲きこぢけ |